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【盆踊りレポ】白鳥おどり、でも白鳥町じゃなくて北千住

2022/1/7
2022/1/7
【盆踊りレポ】白鳥おどり、でも白鳥町じゃなくて北千住

普段は現代美術家として活動しており、日本人性や盆踊り等の祭りのような民俗、またそれらに起因する、人の持つ原風景について関心を持ち作品を発表、一方で盆踊り愛好家でもある筆者の視点から、日本全国の盆踊りやお祭りの様子を報告・考察していきます。

今回取り上げるのは、東京都足立区北千住で開催された「白鳥おどりin北千住」です。

ずっと行きたかった「白鳥おどり」

私が日本三大盆踊りの一つにも数えられる「郡上おどり (岐阜県郡上市八幡町)」に初めて参加したのは2019年の8月のことだ。

その後、郡上おどりは2年続けてコロナ禍で中止。初めてが「最初で最後」となり、それからもう2年経ってしまった。2020年と2021年にはオンライン配信があり、わたしは指を咥えてパソコンの画面を眺めていた。郡上おどりに限らず、あらゆる盆踊りがオンライン配信されたため、画面越しに見る盆踊りにも少し慣れてきた。小さなノートパソコンのモニターを凝視しながら、あの時の、本場の高揚感に思いを馳せつつちょいちょいっと手を動かしたりし、どんな形であれ「途切れさせない」ということへの心意気と重要性を噛みしめたりした。

やっと本題だが、わたしが今年こそ行きたいと思っていた盆踊りのひとつが、郡上おどりと同じ郡上市内で開催されている「白鳥おどり」(岐阜県郡上市白鳥町)だ。

写真:渡辺 葉

以前、岐阜を訪れた際は郡上おどりに参加しその魅力に圧倒され、郡上おどりを堪能するのに精一杯で、同時期に隣町で開催される白鳥おどりには足を運べなかった。白鳥おどりは一部からは別名「白鳥マンボ」とも呼ばれているそうだ。動画を見ていたので、白鳥おどりが郡上おどりのようなループ性の高さとテンポの速さ、そして人工密度を兼ね備えていることはなんとなくわかっていた。わかっていたからこそ、実際に体験しないと感じ得ないものがあることも想像がついた。マンボなんていう陽気なワードは、テンポの速さと、速い故になんだか異国の踊りのようにも見える小刻みな振り付けからきたのだろうと想像する。

そんな状況の中、2021年11月3日に「ドッコイサ白鳥」という団体による「白鳥おどり」の企画が東京の北千住で開催されるということで、足を運んだ。今回はその模様をレポートしたいと思う。ちなみに「ドッコイサ白鳥」は「白鳥おどりを東京に呼ぶ会」と銘打った有志のグループで、白鳥おどりの情報発信から実際の演奏の稽古まで、内へも外へも白鳥おどりにコミットしている。

下駄持って、いざ北千住の地下室へ

イベントの会場は、東京都足立区千住仲町の「BUOY」(ブイ)。

2017年にオープンしたスペースで、2階は美術の展示、地下は演劇の公演を行う等、多様なジャンルで利用されている。幅広い目的で利用されているとは言え、この場所が盆踊りに使用されるのは初めてだそうだ。会場となる地下室はコンクリート打ちっぱなしで薄暗い。

天井からは「キリコ灯篭」が吊るされている。星の様な形の美しい幾何学形の大型の提灯で、白鳥おどりのシンボルだ。13時半にはそこに、予約した約100名が集った。11月に入り肌寒さが増していた時期だが、半数程の人が浴衣、また一部の人は白鳥おどりに必須な下駄を履いている。各々の意思で夏を延長させることが可能であるかのような気概を感じる。

東京という白鳥おどりのホーム外での企画なこともあり、まずはお手本の方を前に皆で輪になる練習会が始まった。わたしも持ってきた下駄に履き替えた。白鳥おどりは下駄を踏み鳴らすのが一つの特徴だ。わたしは家で動画を見て少し練習していたものの、実際外の広い場所(と言っても地下室だが)で体を動かすと自由度が高く感じて、心なしか振りも大きくなり気持ちがいい。

盆踊りのひとつの特徴として、「誰でもウェルカムな輪」が挙げられる。ひょいっと飛び込んでお手本になりそうな人を見つけて真似していれば、一曲終わる頃には振り付けが体に馴染んで踊っている。さらにその行先に、トランス状態のような感覚が待っている。郡上おどりや河内音頭のような一曲が20分とかある長い曲の場合、最早振り付けをなぞるのではなく、身体が振りこのように自動的に動くようになってくる。

白鳥も同じく、永遠を感じるような節回しだ。

写真:渡辺 葉

なかでも「源助さん」は盆踊りのいちばん初めに踊られる代表曲で、シンプルな振り付けで体を慣らすのにぴったりだ。慣れて来たら「源助さーん」と合いの手を入れるのも楽しい。練習では白鳥おどりのメインテーマと言ってもいいであろう「源助さん」と、「シッチョイ」「神代」を踊った。白鳥おどりでは他にも「猫の子」「八ッ坂」「老坂」「世栄」という曲が踊られる。

司会の方が白鳥おどりは初めて、という人に挙手を求めると4割くらいの人が手を挙げただろうか。

しかし実際に踊り始めると、そうは思えないほど皆さん上手で、あっという間に気持ちいいテンポの輪が出来上がった。

練習が終わり本番、の前にトークショーだ。登壇は白鳥おどり保存会会長の正者英雄さん(オンライン)、ドッコイサ白鳥のメンバーでありライターの小野和哉さん。進行は英語落語パフォーマーの琉水亭はなびさん。小野さんの心を動かした白鳥おどりの体験談や、このイベントを開催するに至った経緯、白鳥おどりの歴史などを伺うことができた。

写真:渡辺 葉

今日に至る背景を知った上での踊りは私たちの気持ちを高める。会長と小野さんからは、次こそ現地で盆踊りを開催して欲しい、楽しみだ、と言う気持ちがありながらも、来年の白鳥おどりに向けての切実な、焦がれるような思いが感じられた。過疎地域や担い手の高齢化による祭りの存続危機にコロナは拍車をかけた。かなりの賑わいを見せる白鳥おどりだって、その多くは地域外からの参加者だ。1年休みになることで上がる保存の難易度は想像に難くない。

息も下駄の音も揃い、会場は熟していく

そしてイベントの後半、待ちに待った盆踊りタイムだ。

まずは先程、練習した白鳥おどりの始まりの歌「源助さん」。振り付けと合いの手、規則的に鳴る下駄の音と生演奏の響く空間が心地よい。室内だが地面は打ちっぱなしのコンクリートなので、現代の屋外で下駄を踏み鳴らした時と似た音がする。

地下室なので初めは閉塞感があるようにも感じるが、人の輪に入り、音に覆われた時、自分が今いる場所なんて最早「意識外」となり、ただただ輪の中にいる自分自身、ということだけの開放的なパーソナルスペースのようなものに包まれる。ふと客観的に俯瞰してみると、外では直ぐ側にビルや車道がある北千住の地下でこのようなことが行われているのは異様で、より自分たちの熱気が浮き上がるようだった。

写真:渡辺 葉

白鳥おどりは曲によりずいぶん難易度が異なる。また手練れの方たちは自分流にアレンジした見事な踊りを披露する。どれも夜通し踊る中で熟していくものだ。東京の夜は短い。限られた時間で白鳥おどりの魅力を噛みしめる。

写真:渡辺 葉

「猫の子」や「神代」、アップテンポな「世栄」(この曲こそ「白鳥マンボ」と呼ばれる所以だ )で音の応酬は最高潮となった。「さのさ」でずっしりと締めくくられた。そして最後の踊りの時間。

この世間から浮いたような地下室の異様さというのは、ここBUOYや各地のスペースで演劇が行われている時にも、また展覧会の会場や演奏会のステージでも、それぞれが世間から一歩離れた形で存在を顕(あらわ)にし、精一杯の生き様を発揮する。

コロナ禍では動くことを制限され、それは意思表示を制限されているかのような、本当に生きづらい時間だった。(まだ過去形にできるものではないが)

だが今、個々がなんとかして動く場を手繰り寄せ、こうして異様な現場が出来上がっているというのは希望のように感じる。

東京の地下室は3時間半、一時的な共同体となり同じ熱気を纏った。
この熱気は来年の白鳥おどりへの期待となって東京の夜へと離散した。
わたしたちのこの思いがどうか来年は白鳥にて、報われたらいいなと思う。

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