太鼓台の新調と売却
新居浜太鼓祭りで使用される巨大な山車「太鼓台」。子供太鼓台を合わせると市内には100台を超える太鼓台があるのですが、皆さんはこれらが定期的に更新されているのをご存知ですか?
実は早いところで10〜20年、長く使用するところで約半世紀という間隔で太鼓台は新調されています。では古くなった太鼓台は一体どうなっているのでしょうか?
先日、愛媛県新居浜市高木町の高木自治会館で先代高木子供太鼓台の抽選販売会が開催されましたので、その様子を取材に行ってきました!
抽選販売会の様子
会場には太鼓台好きの人々が集まり、参加者は展示された飾り幕や房、鳴り物などをじっくりと眺めていました。購入希望が出揃ったのち希望者が重複したものは抽選が行われ、当たりくじを引いた参加者は小さくガッツポーズをして当選の喜びを嚙み締めていました。
このようにして太鼓台は地域の人々の手に渡ったり、別の太鼓台として生まれ変わることで次の時代に引き継がれていきます。
そして一部の太鼓台好きの間では「〇〇太鼓台は先代△△太鼓台」、「あの幕は◯◯さんが買うてお店に飾っとる」、「〇〇太鼓台になったときに△△が変わっとる」など「太鼓台売却」という出来事が「太鼓台のその後を追いかける」という新たなライフワークのネタにもなっているようです。
先代高木子供太鼓台売却についてインタビュー
昭和51年からおよそ半世紀のあいだ運行を続けてきた先代高木子供太鼓台。永きに渡って高木地区の人たちに守られてきた太鼓台には地域で育った子供たちの思い出が詰まっています。今回、高木地区で生まれ育ち、実は先代高木子供太鼓台と同い年という白石 晃一さんからお話を伺うことができました!
先代太鼓台との思い出
白石さんが先代高木子供太鼓台に初めて触れたのは小学1年生の頃。当時、大人の太鼓台のような立体的な飾り幕を付けたものが少ない中、子供太鼓台としては大きく、装飾も豪華な先代高木子供太鼓台に大変感動したそうです。
白石さんは小学校6年間で声の出し方、太鼓の叩き方、指揮旗の振り方、重係の仕事など太鼓台運行のいろはを学んだとのこと。 当時は厳しい大人が多く、思い返せば叱られることもよくあったそうです。しかし太鼓の音を聞くこと、大きな太鼓台に触れることがとにかく楽しくて仕方なかったんだとか。 (筆者も幼少期は地元の子供太鼓台運行に参加していましたが、名前も知らない地元のおじさん達に「○○せないかまいげや!」「よいよトロくさいのぉえー」と、コテコテの新居浜弁で叱られながらも祭りの魅力にドンドン引き込まれていったのを覚えています。)
現在は高木子供太鼓台だけでなく大人の太鼓台運行にも携わる白石さん。新居浜太鼓祭りへの情熱はこの頃から養われていたのかもしれません。
大人になり再び子供太鼓台と
子供が小学生になり、再び先代高木子供太鼓台と触れ合うことになった白石さん。 当時と変わらぬその姿に懐かしさを覚えると同時に、自らが子供の頃から休むことなく運行を続けてきた先代高木子供太鼓台の老朽化に直面し、新調について地域の人たちと本格的に考えるようになっていったそうです。
少し余談ですが、舁き棒と横棒がボルト縫いされていたのには特に驚いたとのこと。(本来はロープやかづらで括り付けられています。)
幅広い世代が携わる大人の太鼓台とは異なり、子供太鼓台は小学生の保護者が主体となって組み立てや運行を行うため、最長でも6年で次の年代へと引き継がれていきます。
移住者比率が高く近年まで校区内に大人の太鼓台が無かった高木地区で、半世紀ものあいだ運行に関わるノウハウをなんとか受け継ぎ、先代高木子供太鼓台を守ってきた苦労が感じられる部分です。
新調、そして売却へ
太鼓台大型化という周囲の環境も後押しし、地域の方々のご賛同・ご協力によって2019年に子供太鼓台を新調した高木自治会。その後は先代高木子供太鼓台の形をなんとか残せないか検討を続けてきました。
新居浜型の太鼓台は県内外を問わず多くの需要があるそうで、子供太鼓台新営を計画している地域への売却や新居浜市と都市間交流のある町への寄贈など様々な話が出た中、奇しくも新型コロナウイルスの感染拡大が進み一式売却を断念。今回の抽選販売に至りました。
今回無事完売できたことについて「太鼓台や新居浜太鼓祭りを愛する人たちの手に無事旅立っていった安堵の気持ちと、息子・娘を送り出すような寂しさを感じた」と、白石さん。
事前にSNS等で行った抽選販売会開催告知への関心も高く、自らの思い出が詰まった先代高木子供太鼓台が最後にまた注目を浴びることとなり、大変うれしく思ったそうです。
抽選販売会を終え、ホッとひと息つくその眼には少しだけ涙が浮かんでいました。
最後に
子供太鼓台を含め2020年、2021年と2年連続で開催を自粛している新居浜太鼓祭り。 「また今年もお祭りできんのんか・・・」という声を筆者の周りでも多く耳にします。 しかし金木犀香る季節を迎え、その嘆きの言葉の端々にはすでに「来年こそは」という気持ちの昂ぶりを感じ始めています。
来年こそは新居浜太鼓祭りの通常開催を!
※2021年の秋祭りに向けて制作したものです。2022年こそは新居浜で会いましょう!