岐阜県高山、田舎の素朴な風景を車窓から眺める。突如として現れる山で囲まれた文化都市。伝統工芸品にあふれた町並みは、日本内外の観光客で入り乱れる。
今日は春の高山祭!日本中で今、これほど賑やかな場所は他にないんじゃないか?そう思われるくらいの人だかりができる。
見所は「動く陽明門」と呼ばれる屋台が12台。その迫力はまるで動くお城のよう。飛騨牛、お団子、ラーメンなど食べ物が充実していて、ただ歩くだけでも楽しい街に、春が来た!祭りが来た!2023年4月14日、現地を訪れた様子を振り返る。
目次
日本三大美祭の一つ、高山祭とは?
まず高山祭の全体像に触れておこう。
高山祭の始まりは、戦国時代から江戸時代にかけて。織田家、豊臣家、徳川家に支えた武将、金森氏の時代(江戸時代前期)に遡る。祭屋台が作られ始めたのは、享保3年(1718年)頃から。今では京都の祇園祭、埼玉の秩父夜祭とともに、日本三大美祭の一つと言われている。
2023年春の高山祭の主なイベントとスケジュールは、以下のようになっている。
【4月14日】
9:30~16:00 屋台曳き揃え
11:00~11:50 からくり奉納①
13:00~16:00 御巡幸(神輿渡御)
15:00~15:50 からくり奉納②
18:30~21:00 夜祭
【4月15日】
9:30~16:00 屋台曳き揃え
10:00~10:50 からくり奉納①
12:30~16:00 御巡幸(神輿渡御)
14:00~14:50 からくり奉納②
それでは、14日の様子を振り返ろう。
高山駅から御旅所へ、巨大な屋台を目撃!
高山駅のロッカー室で、海外からきた観光客に声をかけられた。
「今日は高山祭いくの?いいカメラ持っているね」
観光客たちは祭りの高揚感に満ちている。
高山駅前に、高山祭の提灯を発見!
さあ、ここから、祭会場である御旅所に向かおう。道のりは徒歩15分ほど。皆、続々と同じ方向を目指して歩いていく。
道端を歩いていると、満開の桜を発見!満面の微笑みを連想させ、僕らを無条件で受け入れてくれるように思える。
御旅所の前に着いた。そこにあったのは巨大な屋台。
大きいものだと8mにもなる、大規模構造物。なぜこれほどまでに大きな躯体が生まれたのだろうか?屋台が辿ってきた長い時間の流れに思いを巡らさずにはいられない。
300年以上の歴史の重みを携えながら佇み、ただそこにあるだけで躯体が持つ異様な重量感があふれ、その圧に飲み込まれそうになる。
屋台の頂上をガッと舐め回すように眺める。
少し離れ、曳き揃えられた屋台を眺めてみよう。
周辺の建築物となんら変わりないような高さ。天高く羽ばたかんとする屋台の先の鳥の尾に、この祭りに託された希望を感じ、熱い想いがこみ上げてくる。
この3つの屋台を舞台にして、これからからくり奉納が行われるのだ。
からくり奉納、艶かしい女が獅子に変貌!?
まずは三番叟(さんばそう)から。
三番叟は、能楽では狂言役者が演ずる。
25の細い綱で操られた童子が、屋台の上で、まるで生きた子どもが踊るかのように、繊細に舞い踊る。
突如、顔に面が被せられた!その早変わり技には、度肝を抜かれる。
ギョッとしたその表情…目が合ってしまったら、魂を見透かされるんじゃないか?そういう異様さを纏っている。
春の高山祭、からくり奉納開始!#高山祭 pic.twitter.com/kbsRFbouky
— 稲村行真 / 獅子舞研究 (@yukimasa3858) April 14, 2023
さあ、次は石橋(しゃっきょう)台。
肌が白く、紺色の衣装が印象的な、艶かしい女が舞い踊る。右手には小さい獅子頭。
優雅な踊りに、奇をてらうような変化が訪れる。突如として、女の着物はめくり上がり、着物の中から獅子が現れた。お尻が獅子に変貌したのだ。
この獅子は女性を乗っ取ったかのように、舞い踊る。過激なこのからくりは一時風紀を乱すとして、中止になった時代もあったらしい。
最後は、龍神台。
子どもの目の前に置かれた、壺。
この中から現れたのは、なんと、龍!怒り舞う姿、おどろおどろしい声…。
終了後、縁起を担ぐためか、からくり奉納により撒き散らされた紙吹雪を拾い集める人々もいた。
屋台を記念撮影する人が後をたたない。からくり奉納の余韻に浸っているようだ。
黄金に輝く御神輿の渡御、数キロの行列
御神輿渡御(御巡幸)が行われた。午後1時、日枝神社から出発!
金色の神輿はお付きのものに大事に抱えられながら、急坂を下ってくる。その煌びやかさはひときわ目立つ。
お供の警護たち
途中の神社(公園)で止まる御神輿
公園に続々と集まる海外からの観光客
神輿行列の登場を待ちわび、腰を下ろして休む人々
獅子舞の大行列も登場
各所での大迫力の一斉演舞
沿道の観客の頭を噛み、記念撮影の要望に応える
鶏闘楽の大行列
鶏闘楽が屋台曳き揃えの横を通過
神輿は街中を進んでいく
ついに御旅所に到着
14日に日枝神社を出発した御神輿は、高山陣屋に近い御旅所に到着。ここで一晩を越すことになる。道中、付いて歩く観光客も多く、この延々と続く御神輿行列の長さに驚いた。
大きな屋台がずらり!曳き揃え
神明町通りを中心に数々の屋台の曳き揃えも行われた。
屋台がずらりと並び、その中からは優雅な笛の調べが流れてくる。
屋台内部はお茶室のようになっており、その入口は狭い。子どもがその扉を開けたり閉めたりして遊んでいる。それを見る外国人観光客から笑みがこぼれる。
そういう微笑ましい出来事があった。
長方形とうねり、金具は金色、可愛らしい房飾り。
鯉や獅子の造形は比較的多用されやすい。それぞれには意味があるだろうが、一見するとわかりにくい。材木と職人技、両方が合わさった、至高の芸術。
飛騨の匠の技が光る、豪華絢爛な装飾をご覧あれ!
金色の美しい鯉(琴高台)
牡丹の花を咥える獅子(大國台)
西陣で仕上げた刺繍幕(五台山)
鶏が籠の中で飼われている(麒麟台)
花の中を駆け回る恐ろしい形相の獅子(鳳凰台)
夜の町を明るく照らす!幻想的な屋台の数々
それから、祭りはいよいよ高揚感が漂い始めた。なにやら、提灯を運ぶ担い手たちの姿が見られる。
目指すは自分たちの誇るべき屋台だ。
提灯は屋台の各所に取り付けられる。
夜祭は、高山祭の奥深い魅力を感じられるとき。暗い町を賑やかな明かりで灯していく。幻想的な風景が心に美しい余韻を残すのだ。
あたりは真っ暗になった。
さあ、賑やかになってきた。眠らない街の始まりだ。
すごすぎる。街に巨大な化け物が…。#高山祭 pic.twitter.com/smvWbPOai6
— 稲村行真 / 獅子舞研究 (@yukimasa3858) April 14, 2023
高山祭の夜は長い。数え切れないほどの提灯。1つの屋台に100個も取り付けられていると言われる。屋台が曲がり角を曲がれば歓声が上がり、からくり人形がくるくると回って紙吹雪が舞い散る時もある。
なぜ関東からも関西からも遠い飛騨高山に、人が集まるのだろうか。四方を山に囲まれた高山は、都市から見ると「遠方の地」と言われることも多い。だから、田舎の素朴な暮らしが残っている。その一方で、豪華絢爛な祭りが行われ、大きな盛り上がりを見せる。
このコントラストに、国内外の観光客は魅了されるのかもしれない。そのような実感を得て、帰路についた。
高山のグルメを堪能しよう!
実は高山は祭りだけでなく、見所がたくさん。その一つが、地域の食!
最後に、今回訪れた高山グルメも紹介させていただこう。ぜひ高山祭訪問の際は参考にしていただきたい。
①飛騨牛のお寿司
高級飛騨牛が手軽に千円以下で食べられる。それが飛騨牛のお寿司の魅力だ。柔らかい肉の甘みが口いっぱいに広がる。1つがそれほど大きくはないため、2口ほどで食べられてしまうが、味わいたい…と噛みしめる瞬間は非常に高揚感に満ちる。高山祭の会場に近いところでは「飛騨こって牛」「重兵衛 宮川朝市店」がある。
②高山ラーメン
伝統的な昔ながらの高山ラーメンが味わいたいとなれば「和楽美」へ。大盛りが無料なので、大盛りでたらふく味わっていただきたい(筆者は知らずに写真のように、普通盛りにしてしまったが)。野菜が少ないと思ったが、細麺と魚介の味わいがなんとも素朴で、スープは味わい深く、ゴクゴク全部飲み干したくなる。
③五平餅
熱々濃厚なタレがかかった五平餅は、小腹が空いた時に、満たしてくれる存在。味噌の香ばしい味が口いっぱいにひろがり、厚みのあるお米は食べ応えありだ!
④飛騨牛コロッケ
お店によって、味もまちまちな飛騨牛コロッケ。お肉は少ししか入っていないが、カリカリの表面とフワフワなジャガイモのサクフワ感が美味しい。とても安価なので、手軽に食べ歩きできるのも良い。多くのコロッケなどと比べて厚みがあり、食べ応えがある。
陣屋前から筏橋西の信号の間にて、「ひだコロッケ本舗」の出店を発見した。
⑤お団子
表面が少しこんがりとしていて、フワッフワなお団子。お値段が100円なので、これも手軽に食べやすい。「陣屋だんご店」は高山陣屋と御旅所の近くにあるので、気軽にふらっと立ち寄りやすいのが魅力的!
⑥飛騨牛まん
ちょっと高級感のある肉まん。肉まんの中に飛騨牛が入っているとなると、満足度もグンと上がる。ジューシーな肉がギュッと詰め込まれたおり、それを頬張る感覚がなんともたまらない。
「飛騨牛まん本舗」や、「貴くら 陣屋店」であれば先ほどの陣屋だんご店の横で食べられるので、ぜひ合わせてお立ち寄りいただきたい。