Now Loading...

日本屈指の野外歌舞伎の祭典!栃木県那須烏山市「山あげ祭」大迫力の舞台、神棲む山への祈りあり

2023/7/31
2024/3/5
日本屈指の野外歌舞伎の祭典!栃木県那須烏山市「山あげ祭」大迫力の舞台、神棲む山への祈りあり

栃木県の宇都宮から電車で一時間。八溝山系のどこまでも続く山々や、那珂川をはじめ豊富な自然がある那須烏山市。この地で、若者たちの活気ある声が響き渡り、屋台や歌舞伎の上演が盛んに行われていた。山あげ祭だ。

熊野信仰や修験道の山岳信仰の奥深ささえも連想させるこの祭典は、日本屈指の野外歌舞伎の祭典とも言われ、2016年にはユネスコ世界無形文化遺産に登録された。山に囲まれた町で、これほど若いエネルギーが溢れる祭りが受け継がれていることに魅力を感じた。2023年7月22日、現地を訪れ感じたことをここに記す。

山あげ祭とは?

日本屈指の野外歌舞伎の祭典。その始まりは500年近い歴史をさかのぼる。1560(永禄3)年、疫病防除、五穀豊穣、天下泰平を祈願して、烏山城主・那須資胤(なすすけたね)が始めた。もともとは、八雲神社の例大祭として神楽や相撲などを奉納していたが、江戸での歌舞伎の流行から、奉納余興として野外歌舞伎が始まった。

ところで山あげ祭の「山」とは何か。古くから修験道にとって、山は神が棲む場所であり、修行を積む場所とされてきた。一方で人間が作った山にも、福をもたらす神が棲むとも言われており、そのような信仰が広まった。古くは土を盛って本物の山を作っていたそうだが、いつからか烏山の特産品の和紙を使い、竹を用いて移動式の山を作るようになった。これが軽量で持ち運びしやすい「はりか山」であり、野外歌舞伎の舞台に使われている。

現在、山あげ祭は7月の第四土曜日を含む金、土、日の3日間開催されている。2023年は7月21日から23日の日程で行われた。その日程を簡単にここでまとめておきたい。那須烏山駅100周年も相まって、6町の屋台勢ぞろいも行われたので、その様子もお届けする。

7月21日 出御祭 午前6時、奉納余興昼夜全6回
7月22日 渡御祭 午前6時半、奉納余興昼夜全5回、 6町屋台勢ぞろい
7月23日 還御祭 午後5時25分、納余興昼夜全5回

野外歌舞伎の迫力、雷鳴轟き変化する山!

会場となる那須烏山市は、JR宇都宮駅から電車で1時間。のどかな田園風景の中、鉄道はどんどん山深い町へと近づいていく。

夕方の15時半、那須烏山駅に降り立った。駅前では、野外歌舞伎が上演されていた。「戻り橋」という演目のようだ。やはり、舞台装置の大きさには非常に驚く。演者が橋を渡る場面が演じれらていた。

化粧をしている子どもが刀を持っており、非常に凛々しい。

その背後に聳えるのは大きな山!!  那須烏山の風景にマッチしていて、その奥深さと堂々たる様は、心が動かされる。山は3つあって、手前から前山、中山、大山と名付けられている。

お祭りの雰囲気からして、町の人々の気質は非常に素朴に感じられた。街の酒屋、祭りへの奉仕精神も素晴らしい。酒屋さんがしっかり冷えた仕込み水を無料で提供してくれていた。

山あげ会館で基礎知識を身につける

さて、山あげ祭を本格的に見る前に、基礎知識をつけておこうと思い、烏山駅から近い場所にある山あげ会館を訪れた。

山あげの屋台の作りや祭の歴史などについて深く知ることができた。巨大スクリーンで山あげ祭の一年を追う映像が流されており、理解を深めることができた。タイミングが合えば、実際の舞台と街並みを5分の1に縮尺した山あげ祭を再現して、名物ロボット「勘助じいさん」が祭りを説明してくれる語りの劇も見ることができる。

◾️山あげ会館
住所:〒321-0628 栃木県那須烏山市金井2丁目5−26
アクセス:烏山駅より徒歩6分
開館時間:午前9時~午後4時
入館料:一般 250円、小中学生 100円
休館日:毎週火曜日(祝日の場合は翌日)年末年始(12月29日~1月3日)

烏山駅前、6町の屋台が勢ぞろい!

再び、烏山駅に戻ってみると、各町の屋台大パレードが開始したようだ。そう、宇都宮から烏山駅を結ぶJR烏山線の開業100周年を祝うパレードとのこと。10年前の90周年の時に行われて以来、10年ぶりの開催となったようだ。貴重な機会に立ち会うことができた。

駅前には6町の屋台が勢ぞろい!一斉にお囃子が奏でられ、圧巻の光景だった。記念写真を撮る人々でたちまち駅前が賑やかになった。

市長さんなどのご挨拶の後、盛大なパレードが始まった。

烏山駅前を後にした一行は、山あげ会館まで、市内の練り歩きを始めた。

こちらは金棒曳きの小学生の女の子たち。手に持つ金棒が地面に擦れる音が、悪鬼祓いになると信じられている。

ここで、屋台の様子もご紹介しよう。紅くて華やかな模様が映えるのは泉町だ。辻を曲がる際に、ギリギリまで引きつけて見物客の近くまで来て曲がっている姿が非常に印象的だった。

紺色で粋な雰囲気の衣装を身にまとうのは鍛冶町だ。このように、合計6町が次々と屋台を町に繰り出した。

夜はガッツリと野外歌舞伎!

19時半からは石井材木店前で、金井町による野外歌舞伎が上演された。

今回演じられたのは「将門」という演目。その物語のあらすじは平将門滅亡後、ガマの妖術を使う怪しいものが出るという話を聞きつけて、源頼信の命を受けた大宅太郎光圀(おおやたろうみつくに)が派遣される。そこで光圀が現地に向かってみると、「如月(きさらぎ)」という絶世の美女と出会い、警戒しながら将門の乱から討ち死までの話を進めると忍び泣くので、如月は将門の娘・滝夜叉姫(たきやしゃひめ)であると知る。そこで大乱闘となり、滝夜叉姫はガマに乗り登場するという流れだ。

光圀と如月の登場から振り返ってみよう。スポットライトに煌々と照らされた演者の姿は暗い闇の中に怪しげな気配と華やかさを作り出していた。

さあ、山の変化にも着目してみよう。演者の背景には、常に山がどっしりと構えている。この山が演目のストーリーに従ってその姿を変えていくのが、非常に面白い。昔の人々も山や自然の様子に自らの心情を投影して、何かを感じたのだろうか。最初はオレンジ色の山の情景だったのが…。

なんとピンク色に様変わり!その早業には驚かされる。

そうかと思うと、山から花火が勢いよく飛び出してきて、歓声が上がった。

演者の衣装も変わっていく。

これが舞台装置の俯瞰。非常に豪華だ!普段見慣れた風景の中に、野外舞台が現れることで風景が様変わりする。そこも野外歌舞伎の見どころだろう。

スポットライトは真っ赤に変わり、いよいよ物語は急展開を見せる。光國が如月を斬りつけようと、刀を抜く。そして如月は奥の方へと走り出す。

ガマの登場だ!!!如月は目が赤く光るガマの上に乗り現れた。周囲は雷鳴轟き、いよいよクライマックスである。

その後、物語は完結する。とにかく見応えがあった。舞台装飾も照明も演者の所作も、全てが華やかで美しかった。歌舞伎といえば、「昔に流行ったもの」とか「話の展開が読み解きにくい」とか、そういう意見もあるだろう。しかし、それらをはねのけて、何か時代を訴えかけてくるものがあるのも確かである。

担い手が協力して行う片付け

将門の上演後、山の近くまで行くと、こんなに大きかったんだと改めて感激した。何十人もの若い男たちがそれを支え、片付けるために、山を横倒しにしようとしている場面に出会った。

山の裏側には文字が書かれていて、竹の基礎が組まれている。これらがパズルのようにうまくはまっているので、これを解体して片付けるようだ。

足元には大量の重し。これだけ大きな山を支えるには、大量の砂袋が必要なのだ。

和紙が貼られたブロック状の山を、トラックの荷台に積んでいく。祭りの裏側というところまで見て、この祭りへの理解はぐっと深まった。

担い手たちは「宮座」という組織に属している。宮座は徹底的な縦割り組織で、年寄座、中老座、若衆座、子供座が組まれており、かつて若衆は長男しか所属できず、位が低い者が世話人に直接口を聞くことができないなど、厳しい組織が組まれてきた。日本の惣村など、昔の自治組織の様子を伝える存在でもあり、これがユネスコ無形文化遺産登録にも繋がったとも言われている。

出店や特産品にも注目!

さあ、これからも長い長い夜は続いていく。夜21時になっても出店を訪れる人は多い。

個人的に特産物の出店に関心があるのだが、これは烏山特産の「かぼちゃまんじゅう」だそうである。ほくほくの柔らかいかぼちゃが口の中に溶けて広がる感じがとても美味しかった。

さて、今日の最終の野外歌舞伎上演は22時だった。終電がそれより前なので、最後までは見られず、帰路に着いた。日本屈指の野外歌舞伎の祭典の雰囲気を十分に感じることができ、充実した取材となった。

山国に野外歌舞伎の活気あり

さてここまで、山あげ祭の様子をご紹介してきた。知識や背景を知ることで、祭りへの理解が深まる。とりわけ野外歌舞伎に関しては舞台装置が素晴らしく感動した。あとは演目のストーリーや山に関する知識などを知ってから見ることでより理解が深まるとも感じた。宇都宮から距離があり、山に囲まれた町にこれほどまで豪華な祭りが息づき、若者の活気を今にとどめている地域があることを、ぜひ知っていただきたい。

タグ一覧