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鋭い歯、ギラギラ!一見かわいらしい虎がド迫力で踊る!横須賀市の虎踊り

2023/6/22
2023/6/22
鋭い歯、ギラギラ!一見かわいらしい虎がド迫力で踊る!横須賀市の虎踊り

着ぐるみのような虎。その登場は可愛らしさの一方で不気味さもあり、子どもが泣き出してしまうほどの迫力があった。国選択無形民俗文化財に指定されているこの虎踊りは、神奈川県横須賀市西浦賀の為朝(ためとも)神社で毎年6月中旬に奉納されている。

ペリーが黒船に乗って、開国を迫った浦賀。海の向こうは海外へと続いており、港町で継承される虎踊りはどこか異国情緒が満載だ。知られざる虎踊りの聖地から、この踊りの魅力についてお伝えしたい。

虎踊りって何?どうして始まったの?

浦賀の虎踊りの起源については、為朝神社の看板に書かれていた。享保5年(1720年)、奉行所が伊豆下田から浦賀に移ったときに伝えられた。これは江戸の人口増大に伴い、近場で商品流通を請け負うためだったとも言われる。

伊豆下田に奉行所があった時代に、虎踊りのようなものが存在していた可能性は高いが、その詳細はよくわかっていない。内容は近松門左衛門の作で歌舞伎の「国姓爺合戦(こくせんやかっせん)」における和藤内(わとうない)の虎退治を取り入れたものとなっている。

虎踊りの流れとしては、小学生の男子が扮する「和藤内」が登場することから始まる。それから、中国風の服に髭を付けた成人男性が扮する「大唐人」が引き連れた、小中学校女子が扮する「唐子」の踊りを実施。それから親子2頭の虎が出現して、大唐人と唐子は退散。虎たちは逆立ちや二足歩行など、数種の技を繰り出しながら自由奔放に振る舞う。その後、和藤内の神符によって、成敗されてしまうという流れだ。

日本全国的には、虎踊りは虎舞とも呼び、岩手県を中心として、南三陸沿岸に分布することが多い。ただ、全国の虎踊りの中で、全身を着ぐるみで覆って踊る例は非常に珍しい。また、この浦賀の虎踊りは岩手県の虎舞の伝来元であるという説もある。

突然、巨大な虎が出現!退治される

さて、この虎踊りを実際に現地で拝見するため、2023年6月10日、神奈川県横須賀市浦賀を訪れた。浦賀駅から会場である為朝神社までは徒歩で20分ほどかかる。途中、海岸に停泊する船を眺めながら、為朝神社へと向かった。

為朝神社に着いたのは19時ごろで、境内では関係者による神事が行われていた。

神社の脇には、お囃子の屋台も控えており、装飾がとても賑やかである。

たこ焼きなどの屋台も出ているようだ。住宅街の中に、煌々とした明かりが映えている。

さあ19時半から、いよいよ虎踊りの時間となった。

令和3年度の文化庁の補助金で和藤内の衣装制作が行われたらしく、まずは浦賀虎踊り保存会からその報告が行われた。「近年の少子化の影響で子どもが少なく、大人用のものも準備することにしました」とのこと。本場の国姓爺合戦でも和藤内は大人の武将のようだ。虎踊りの継承に向けて、懸命に模索されている姿が伝わってきた。

また、その後に郷土史家や大学教授の方々の虎踊りの解説もあり、とても参考になった。

虎踊りはその後、和藤内の静止姿から始まった。扇子を立てて座っている子どもは、非常に立派で堂々としている。

境内前には、お囃子が勢ぞろい。

動かない和藤内を見守りながら、お囃子が淡々と続いていく。

その後に現れたのは、大唐人(成人男性)が引き連れた唐子(女の子)たち。ここでいう「唐」とは、中国、台湾、琉球などを含む呼び方とも言われている。つまり、海外舞踊の組み踊りの様式がここに取り入れられているのだ。

立ち姿で踊りを披露する。「ああ、どっこい!ああ、まだまだ!」などの掛け声がかかりながら、独特な歌詞と、ゆったりとした所作が淡々と続いていく。

そこから、明かりがパッと暗くなりチカチカと点灯しだして…大唐人と唐子はすかさず退場!

巨大な虎が2頭現れたのだ。

胴体を震わせて、会場はどこかおどろおどろしい雰囲気に包まれる。

ここから各種の芸が繰り広げられる。

会場内の子どもたちが泣き出した。

周りのご年配の方々が「大丈夫、怖くないよ」と言って聞かせている。

虎はお客さんに向けて口を大きく開けながら伸びをして、近づいてくる。

どうやら、餌か何かを食べているようだ。

虎の二足立ちなんて、なかなか見られるものではない。

たくさん動いた虎は、和藤内に立ち向かうが、最後は和藤内の神符によって、降参させられる。

虎は舞台の奥の方に退散した。

最後は演者全員が勢ぞろい!自己紹介とともに、拍手喝采で締めくくられる。

さて、20時半となり、夜も更けてきた。集会所前のお囃子は鳴り止むことがなく、終了後も大盛況の中、為朝神社を後にした。

実際の虎踊り、唐子の踊り、お囃子の様子は動画を見るのが一番だろう。ぜひご覧いただきたい。

浦賀は虎踊りの聖地だった

実際に現地に行ってみて、為朝神社というローカルでミニマムな空間に、芝居小屋のような舞台が立てられており、そこでとても貴重な伝統的な踊りが披露されているところにギャップと面白さを感じた。

浦賀といえば海に浮かぶ船を思い浮かべがちだが、実は全国に広がる虎踊りの聖地でもあって、それが地域の暮らしの身近なところで受け継がれているのだ。

虎踊りはぬいぐるみのフォルムがとても可愛らしい半面、鋭い歯を持って目をギラギラさせる不気味な魅力を持っていた。唐の異国情緒あふれる踊りを取り入れながらも、虎踊りは独自の発展を遂げたようだ。浦賀は首都圏からもアクセスしやすい。ぜひ虎踊りを観に、この地を訪れてみるのもよいだろう。

ご当地パン祭りで1位受賞!海軍カレーパン

ちなみに、この横須賀といえば海軍カレーパンが有名!ふっくらした分厚いパン生地に、どろっとした海軍カレーが入っている。その味は冷めても美味しく、自販機でも買えるようになっている。日本全国ご当地パン祭りで1位を受賞したこともあるそうだ。

ぜひ、パン屋でも自販機でも良いので、横須賀市を訪れた際は、海軍カレーパンを食してみるのもよいだろう。今回、為朝神社を訪れる前に食べたところ、とても美味しかったので、ここで紹介させていただいた。虎踊りと一緒にカレーパンもぜひお楽しみいただきたい。

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