岩手県には「郷土芸能祭」というイベントがある。自治体や地域の単位で、郷土芸能の団体が集まり、お互いに芸能を披露し合うのだ。これはどこでも実施できるものではなく、主催したいという芸能団体の熱意と自治体のバックアップなどがあり初めて成立するものだろう。
今回は、郷土芸能祭が始まって5年目となる、岩手県宮古市の「津軽石郷土芸能祭」を取材させていただいた。郷土芸能祭の魅力と会場の様子についてお伝えしたい。
津軽石郷土芸能祭とは?
今回伺った津軽石郷土芸能祭は、岩手県宮古市の津軽石という地域で実施されたイベントだ。津軽石小学校の体育館を貸し切り、2021年12月5日の9:50~12:00の日程で行われた。出場した団体とスケジュールは以下の通りだ。
9:50 開会行事 会長挨拶 中嶋勝司様
9:55~10:10 栄通り太鼓
10:10~10:25 津軽石新町太神楽
10:25~10:40 法の脇獅子舞
<休憩10分>
10:50~11:15 山田境田虎舞(招待団体 山田町)
11:15~11:35 根井沢剣舞
11:35~11:55 津軽石さんさ踊り
太鼓や神楽、獅子舞、虎舞、剣舞、さんさ踊りと本当に多種多様な郷土芸能が集った。コロナ禍でありながら、名簿に名前を書いたり体温を測ったりと、様々な工夫のもとで開催に至ることができたようだ。それでは、一つひとつの団体の様子について振り返っていこう。
個性あふれる演技!6団体を一挙に紹介
◎栄通り太鼓
まず会場に到着して実施されていたのが「栄通り太鼓」。大きな太鼓の音が祭り気分を掻き立てる。そして、子供達の熱心な姿が印象的だった。
この団体は町内会で「子供が参加できる芸能を何か作ろう」という話し合いが行われた結果、平成7年9月に結成。現在は、大人の指導のもとで中高生を中心に活動しているようだ。
◎津軽石新町太神楽
次にお囃子の賑やかな音色と共に登場したのが「津軽石新町太神楽」の皆様。伊勢神宮の御師がお札配りの時に披露した芸能が、寄席芸に変化して今に伝わっている。
神輿と後の先払いという位置付けで行われるようで、観客とのコミュニケーションの中、笑顔が溢れるようなやりとりも魅力的だった。
◎法の脇獅子舞
その後に登場したのが、江戸時代の慶応年間以来の歴史を持つ「法の脇獅子舞」。獅子舞という名前ではあるが、しし踊りのような格好をしている。
2011年の東日本大震災の津波で太鼓や衣装などが流されてしまい、5年間の活動休止ののちに復活を遂げた。幕を大きく振る姿にはとても迫力が感じられた。
◎山田境田虎舞
その次は、虎が5匹も登場する「山田境田虎舞」の演舞!虎の威を借りて海難をもたらす風を鎮め、海上安全、大漁満作、家内安全などを祈願する意味が込められている。
虎が一体ずつ登場し、徐々に激しさを増す演技は圧巻だった。笹を咥えた虎が背伸びをして会場を歩き回る姿にはとても迫力が感じられた。
◎根井沢剣舞
その後は、剣を片手に軽やかに舞う「根井沢剣舞」を実施。1583年に津軽石の払川城主・一戸行重が討たれた際に多くの戦死者が出て、その弔いのために始まったと伝わる。
衣装には可愛らしい羽のようなものを身につけている一方で、身が引き締まるような出で立ちが印象的だった。
◎津軽石さんさ踊り
最後に行われたのが、頭上の大きな花が特徴的な「津軽石さんさ踊り」。盛岡の三ツ石で始まった盆踊りを、馬で陸海を結ぶ「五十集衆(いさばしゅう)」と呼ばれた集団が、交易路を通じて伝えたのが始まりだ。
大人も子供も華やかに、軽やかに楽しく踊っている姿はとても印象的だった。
郷土芸能祭が地域の中で果たす役割とは?
終了後に、郷土芸能祭の狙いについて、津軽石郷土芸能協議会の舘下光利さんにお話を伺うことができた。「核家族化や人口減少によって、民俗芸能の世代間格差が生まれつつある。地域で芸能を伝えていくような機会を設けなくてはいけない」と感じたことをきっかけに5年前、協議会を設立され津軽石郷土芸能祭が立ち上がったようだ。
また、宮古市という単位で郷土芸能祭も実施してきたものの全ての団体が出場できるわけではないという背景もあった。津軽石は、洪水・津波などの災害に幾度となく襲われ、そのたびに住民は立ち上がり、民俗芸能を心の拠り所として、団結と絆のもとに復興してきた。先人たちの想いを繋いで行くということから、地域単位でも実施していく必要を感じたという。
芸能祭を通じて、岩手の郷土芸能を体感!
岩手県内ではこの津軽石郷土芸能祭のような地域単位で郷土芸能を披露する機会が数多く存在する。毎年11月から12月上旬の時期に多く開催されるので、SNSやウェブサイトなどを通じて、開催動向をぜひご確認いただきたい。
郷土芸能祭は開催する側にとっては地域の多世代交流の意味合いが強いが、観る側にとってはその地域の郷土芸能を一気に観ることができ、しかも観客も大勢いるので、気軽な気持ちで観に行けるという良さがある。地域の内側と外側の交流の場にもなり、地域にどんどん活気が生まれていく。そのような役割が郷土芸能祭にはあると言えるだろう。