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9月9日の「重陽の節句」とは?何をする?何を食べる?あの有名祭りの語源にもなった!?

2022/9/9
2024/3/8
9月9日の「重陽の節句」とは?何をする?何を食べる?あの有名祭りの語源にもなった!?

旧暦の9月9日は「重陽(ちょうよう)の節句」、別名「菊の節句」とも呼ばれることをご存じですか?
この日には、かつては桃の節句のひな祭りや、端午の節句の子どもの日のように、お祝いや菊を使った風習などが盛んに行われていたのだそうです。

今回はそんな重陽の節句について、どんな日なのか?何をして、何を食べるのか?などをご紹介します。

季節の節目「五節句」のひとつ

重陽の節句とは、平たく言うと「季節の節目に、邪気を払って無病息災を願う日」のひとつです。もともと節句は「節供」とも書き、その季節の旬の物を神様にお供えして息災を祈願していました。

節句は古くに中国から伝わり、江戸時代には1年のうち5つが式日(しきじつ。儀式を行う日であり今でいう祝日)と定められていました。下記がその5つで「五節句」と呼ばれます。

・1月7日・・・人日(じんじつ)の節句/七草の節句
・3月3日・・・上巳(じょうみ)の節句/桃の節句
・5月5日・・・端午の節句/菖蒲の節句
・7月7日・・・七夕の節句/笹竹の節句
・9月9日・・・重陽の節句/菊の節句

五節句は、暦が旧暦から新暦に切り替わってすぐの明治6年(1873年)1月4日に、公には制度が廃止されています。しかし季節の節目であり、民間にも広く行事が定着していたため、その風習は残り続けました。

現在は重陽の節句だけ影が薄れた感がありますが、他の4つは風習や催しが生活に根づいて定番化しているといえるでしょう。

日付の理由と「重陽」の名の由来は?

五節句の日付を見ると、すべて奇数月と機数日の組合せです。古来中国では、奇数は縁起が良い「陽」の数、偶数は縁起が悪い「陰」の数とされていました。そのため、1年のうち奇数の重なる日を祝いの宴を行う日と考え、そのことが五節句にも表れています(1月1日は元日なので「別格」とされ、1月7日の人日の節句が五節句に入れられています)。

中でも、1けたで一番大きな陽数の「9」が重なる9月9日は、陽が重なると書いて「重陽」の節句と定められました。縁起が良い一方で、数が大きいと負担も大きく、よくないことや災いがおきないよう邪気を払う行事も行われたといわれます。

重陽の節句には何をする?

旧暦の9月9日といえば、現在の新暦だと10月中旬にあたり、ちょうど「菊」が美しく咲く時期です。
中国では菊は薬草としても使われ、邪気を払い長寿の効能があると信じられていました。菊のおかげで少年のまま700年も生きたという「菊慈童(きくじどう)」伝説や、菊が群生する谷を下ってきた水を飲んだ村人たちが長寿になったという「菊水伝説」もあります。

これら菊の薬効と伝説は、平安時代初期に海を渡って日本にもたらされました。当時の貴族たちは、伝来した珍しい菊を眺めながら宴を催したり、菊を用いて厄払いや長寿祈願をしていたそうです。そのため別名の「菊の節句」の呼び名が生まれました。

そうして宮中行事として定着したのち、民間にも季節の行事として広がり、江戸時代には五節句のひとつとして親しまれるようになっていったのです。では、具体的にどんな催しが行われていたのかみてみましょう。

◎菊の着せ綿

観菊の宴の前日の9月8日の夜、菊の花を真綿で覆います。夜露と菊の香りを綿に移し、翌朝その綿を使って体や顔を拭うと、老いが去り、無病息災と長寿がかなえられるといわれていました。正式には白菊には黄色、黄菊には赤、赤菊には白、と綿の色を変えるなどの細かい決まりもあったそうです。

◎菊湯・菊枕

菊の香りには邪気を払う力があると信じられていたため、菊の香りをまとったり、菊を湯船に浮かべた「菊湯」に入ったり、乾燥した菊の花びらを詰めた「菊枕」で眠ったりします。菊の香りには疲れを癒し、安眠効果もあるのだそうです。現代でも重陽の節句の日には、菊を湯船に浮かべたり、入浴剤などで菊湯を楽しむのもよいかもしれません。

◎菊合わせ(菊の品評会)

 

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平安時代には、貴族が宴のなかで菊の花を愛でながら詩を詠み合うことを「菊合わせ」と呼びました。この内容がだんだんと変化して、大切に育てた菊を持ち寄ってその美しさを競うことをいうように。現代でも、各地で菊の品評会や鑑賞会、菊人形の展示などが行われています。

また華道の世界では、季節の節目に旬の花1種類のみを使って花を生ける習わしがあります。重陽の節句には菊の花だけを使って作品を作るのだとか。華道にとって、重陽の節句はとても大切な日とされているのだそうです。

◎茱萸嚢(しゅゆのう)

呉茱萸(ごしゅゆ)という植物のグミを緋色の袋に納めて、身に着けたり飾ったりして厄除けにする風習も行われていました。これはいにしえの中国で恒景という人が疫病神と対峙した際に、呉茱萸の入った赤い袋を肘にかけて高い所に登り、菊の花の入った酒を飲んだところ、疫病神を退けることができたという故事に由来するといわれています。

◎後の雛(秋の雛・菊雛)

重陽の節句にひな人形を飾る「後の雛(のちのひな)」という風習もあります。桃の節句(ひな祭り)で飾ったひな人形を、半年後の重陽の節句で虫干しを兼ねて再び飾ることです。ひな人形を長持ちさせるとともに、特に大人の女性の長寿、健康、厄除けなどを願う風習で、江戸時代に流行しました。

秋に菊とともに雛人形を飾るので、別名「秋の雛」「菊雛」とも呼ばれています。最近は「大人のひな祭り」として女子会などを楽しむ方もいるそうです。

重陽の節句には何を食べる?

不老長寿や厄除けの効能があると考えられた菊は、もちろん食べ物としても取り入れられました。「菊酒」はその代表といえるでしょう。また、季節の節目のお祝いとしてその秋に収穫した旬の食べ物をお供えし、食べてパワーをいただくことで無病息災を祈願する風習もよく行われてきました。

◎菊酒

重陽の節句では、菊を鑑賞しながら菊酒を飲むと不老長寿、厄除けになるといわれています。菊酒は、蒸した菊の花びらに日本酒を注いで一晩浸し漬け、香りを移して作ります。現代では、蒸して乾燥させた菊の花びらを盃に散らし、冷酒を注いで飲むという、より簡単な方法のほうが主流です。

「高貴」の花言葉を持つ菊の花。気品のある香りと彩りの風情を楽しみながら、大人のお祝いとして家族の健康や長生きを願い、お酒を酌み交わしてみてはいかがでしょう。

◎食用菊

高い抗菌・食中毒防止の作用があり、日本ではお刺身に飾り添えられるのが定番の食用菊。昔から食材として栽培され親しまれてきた、エディブルフラワー(食べられる花)の代表格といえるでしょう。栄養価も高いので、ぜひ料理にも取り入れたいところです。サラダに散らせばそれだけで彩りが豊かになりますし、おひたし、お吸い物にもおすすめです。

 

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ちなみに、食用菊の有名品種に「もってのほか」があります。正式名は延命楽(えんめいらく)なのですが、愛称の由来は「天皇の御紋(菊)を食べるとはもってのほか」「もってのほか(想像以上に)おいしい」からきているそうです。

◎和菓子・スイーツ

重陽の節句が近づくと菊に見立てた和菓子が販売されます。菊の形をした練り切りが広く知られ、先述の「着せ綿」はこの時期の和菓子の題材にもなっていて、季節感を大切にする茶席で今も好まれています。

他にも尾形光琳の図案で丸に点だけの大胆な菊をモチーフにした「光琳菊」や、菊花を模した最中、干菓子など、重陽の節句にふさわしい美しい和菓子がいっぱいです。

菊をモチーフにしたクッキーやケーキなどの洋菓子も登場し、黄色やピンクなどの彩り鮮やかなスイーツを食べるのも、重陽の節句を気軽に楽しむ方法のひとつといえます。

◎栗ごはん

秋に旬を迎える味覚の代表格といえば栗。栗を使った「栗ごはん」を炊いてお祝いする風習は江戸時代から始まったといわれ、庶民の間では重陽の節句を「栗の節句」とも呼んでいたようです。

栗は抗酸化作用のあるタンニンやビタミンCを多く含んでいるので、夏の疲れが溜まった秋に食べるのに、とても理にかなった食材です。

新暦となった現在でも、栗は実は8月中旬から出回り始めていて、9月9日に栗ごはんを楽しむことも可能ではあります。また、この時期になると栗ご飯などが給食に出される保育園や学校もあるようです。

 

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◎秋なす

なすの旬は7~9月の夏ですが、その後に収穫される「秋なす」はより旨味が凝縮して美味とされ、無病息災の願いも込めて秋への節目に食べる代表食材です。

重陽の節句に秋茄子を食べるようになったのは、「九日(くんち)になすを食べると中風にならない」という言い伝えにも由来しています。中風とは脳卒中などの後遺症が引き起こす半身不随のことですが、その主な原因である生活習慣病の予防を示唆したものでしょう。
昔の人の教えにならって、重陽の節句には、なすの煮びたしや焼きなすなどのメニューで秋なすの栄養を丸ごといただいてみてはいかがでしょうか。

ちなみに、この「九日(くんち)」「お九日(おくんち)」という呼び方が、秋の収穫を祝う秋祭りそのものを表す総称の一つになり、九州の「長崎くんち」「唐津くんち」「博多おくんち」などはその名残という説があります。
これらは旧暦の9月9日、重陽の節句の際に行われた祭りであることから「九日(くんち)」の名前が定着したといわれ、特に長崎くんちは現在でも、旧暦9月9日頃にあたる10月7日・8日・9日を祭り開催日としています。

重陽祭や重陽節を行っている寺社は?

重陽の節句に合わせて、祭礼や神事を行っている神社やお寺は各地にあります。
例えば京都の上賀茂神社では、菊を神前に供えての神事や菊酒のお振る舞いが行われ、烏相撲が奉納されます。同じく京都嵐山の法輪寺では、重陽の節会(せちえ)として菊慈童の像を祀っての法要、着せ綿で長寿祈願、茱萸嚢の授与のほか、菊慈童を題材とした謡楽の奉納も行われます。

ほかにも舞楽が奉納される京都の車折神社や、特別御朱印やお守りが授与される大阪の少彦名神社など、過去に行われた重陽祭の現地レポートがありますので、ぜひ詳しい様子をご覧ください。


おわりに

旧暦9月9日の重陽の節句、別名・菊の節句は、五節句のうち唯一すたれてしまいました。新暦に変わって9月9日ではまだ菊は咲かず、栗や秋なすもまだ旬ではないため、季節感が合わなくなってしまったことが最大の原因といわれています。

それでも、健康で長寿を願う大切な日として、そのシンボルである菊を暮らしに取り入れて過ごしてみるのはいかがでしょうか。例えば、菊の中でも丸くてかわいい「ピンポンマム」の花束を部屋に飾ったり、ガラスの食器にビー玉を入れ、菊の花だけを浮かべたフローティングフラワーにすれば、和風の菊でもモダンな印象で洋室にもマッチしそうです。

 

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もちろん菊酒を飲んだり、栗ごはんを食べたりして、不老長寿と厄除けの祈願をするのもよいでしょう。今年の重陽の節句は、ぜひ思い思いに風習を楽しんでみては。

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