こんにちは。どんぐり圭子です。
2021年の丑年にふさわしく、全国的にも珍しいお祭りをご紹介しますね。宮崎県西諸県郡(にしもろかたぐん)えびの市西北川地区にある菅原神社で行われている宮崎県の無形民俗文化財「牛越祭」です。
牛越祭とは?
「牛越祭」は、宮崎県えびの市の西北川地区にある菅原神社で行われている祭りで、400年以上も前から田植えが一段落した頃、牛たちの無病息災と豊作を願って行われています。
えびの市は、霧島山とえびの高原に囲まれ、豊かなおいしい水に恵まれたえびの米を産出する水田地帯が広がる畜産の盛んな町。質の良い温泉も湧き出ています。
町中にこんな看板が設置されるほど、「牛越祭」は地元の人に親しまれています。
笑いと拍手に包まれた神牛のジャンプ
祭りでは、お祓いを終えた神牛が飾りを付けられ、高さ50㎝長さ4mくらいの丸太を次々と飛び越えます。境内には笑い、拍手、応援の声が響きます。
「それ行け、飛べぇ」
「よう飛んだがぁ」
「今んた、上手かったどぉ」
いや、実際は、人牛一体となって飛ぶのですが、「へーい、どんなもんだい」と華麗なジャンプを見せる牛がいる一方、「まあ、慌てるな」とのんびり歩いて丸太の前で一発ジャンプをする牛、引っ張られようが押されようが断固として「あたしゃ動かん」と足を突っ張る牛、「なーにコレ、楽しいよ」とピョンピョンと軽々ジャンプする子牛など、そしてたまには人間の方がジャンプに失敗して転がって牛に心配される場面も!
参加する牛は、主にメスの繁殖牛です。母牛になると体が重いので、母になる前の若い牛が多く参加します。9ケ月~10ケ月の牛たちが一番元気なんだそうです。昔は地区の牛だけでなく、熊本県や鹿児島県からも何百頭という牛がひかれて神社にやって来ていましたが、今では、地区の繁殖農家は十数軒になり、牛も20頭ほどが車に乗ってやって来ます。黒毛和牛や乳牛になるホルスタインもいます。
牛の手綱を引くのは飼い主です。後ろから牛を煽るのは、勢子(せこ)と呼ばれる日頃から飼育に携わる牛になれた若者たちです。いまだ牛が暴れたことや怪我をしたことはありません。
牛越祭の保存会長にインタビュー
牛越祭の保存会長、都留誠さんに牛についてお聞きしました。
「牛は、体が大きくツノがあるので怖いと思うかもしれませんが、基本的におっとりとした性格で、犬に似ています。賢く人や物を覚えます。教えたことに順応し、応用力もあってよく言うことを聞いてくれます。山に連れて行っても家を覚えているから帰ってきますよ。人と通じ合うことができる生き物なんです。それに、牛は、案外器用なんですよ。神様の前で飛ぶといい牛になると言われています。」
牛がかわいくてたまらないといった感じで話してくださいました。でも、会場には念のため、「牛の行動は予測できません。安全は自己責任でお願いします」と張り紙がしてあります。
牛を育てるコツは、その性格を考慮して、「怒らない」「叩かない」「ご苦労さんとねぎらう」のが一番とか。牛は経済動物でもあるので、いい餌を与えブラッシングは欠かせません。そうやって可愛がりながら肉質のいい牛に育て上げているのです。地元に残って子どもを産む牛も売られて行くも、こうして温かい繁殖農家で触れ合いながら穏やかに育てられています。
楽しい祭りの動画はこちらをご覧ください。
会場となる神社
西北川地区には菅原道真公を御祭神とする菅原神社があります。同市には水流(つる)地区にも同名の神社があるので、訪れる際はお間違えなく。
その神社境内に、境内社と呼ばれる氏子などを持たない小さな社がいくつかあって、その一つ「豊受神社」が牛越祭の会場となります。御祭神は神話に登場する「保食神(うけもちのかみ)」、つまり食物の神様です。
高天原(たかまがはら)からお越しになった月読尊(つくよみのみこと)をもてなそうと、口から穀類、魚、肉など食物を出したところ、それが汚いと言って怒った尊に殺されてしまいます。その体からは、牛や馬、蚕や稗、粟、麦、小豆などが生じたと伝えられているのです。牛越祭を行うにふさわしい神社ですね。
祭りの歴史
祭りの歴史は、菅原道真公の時代にまでさかのぼることができます。公が牛を愛し、その繁栄を図るため、菅原神社の南方に保食神社と大日様を安置して以来、この祭りが執り行われています。牛が農耕に使われていた時代、「牛越え」は「牛肥え」も意味していました。
明治初期の廃仏毀釈で保食神社や大日堂も整理され、祭りも同時に途絶えましたが、明治7年に牛馬の伝染病が流行した時に、保食神を豊受神社として再建して祭りが復活されました。
今年の祭りは……
毎年7月28日に開催されています。昨年は、コロナ禍にあって牛は参加せずに神事だけが執り行われました。今年の開催については、今のところ未定です。早くコロナが終息することを願うばかりです。お問合せは、えびの市観光協会0984-35 -3838まで。
宮崎県えびの市は水がおいしく、特にえびの高原はどの季節に訪れても美しいので、ぜひお越しくださいね。