車窓から夕暮れの素晴らしい鳥海山を眺めながら、山形県北西部の「吹浦駅」に降り立った。鳥海山は古くより「大物忌神」として崇められてきた霊峰だ。吹浦駅から徒歩約5分の場所に、この信仰の中心地の1つで出羽国一宮の「鳥海山大物忌神社吹浦口ノ宮」という神社がある。ここでは毎年7月14日に御浜出神事というものが行われている。各地の獅子舞を取材している私は色彩豊かな獅子舞(お頭様)にとりわけ関心を持ち、先日この神事を訪れた。
山形県遊佐町・鳥海山御浜出神事とは
御浜出神事とは、鳥海山山頂、御浜、吹浦、飛島、宮海の五箇所でかがり火を炊き、その日の見え方により五穀豊穣を占うという意味があるようだ。今回訪れた、鳥海山大物忌神社吹浦口ノ宮はその五箇所のうち一箇所である。この神事の始まりは定かでなく、図書館で文献を探してみたが見当たらなかった。それほどに古くからの神事だったということかもしれない。
神事の流れとしては神輿をはじめとした行列が神社を出発し、町内を歩き西浜という海が見える場所にたどり着く。そこで結界を作り、獅子舞(お頭様)や巫女舞、玉串奉奠(たまぐしほうてん)などを実施する。その後、神社に戻るというのが一連の流れだ。それでは、実際に神事を拝見した様子を振り返っていきたい。
提灯を先頭に、神輿は西浜を目指す
地域の方々が徐々に神社に集まり始めた。神輿が登場したのは、18:30過ぎだった。神輿は2つあり、大物忌神社とその隣の月山神社の神輿のようだ。それから行列ができ、高張提灯、神官、お頭様、太鼓、巫女、神輿などと順々に隊列が組まれて移動が始まった。道中、地域の家々の玄関前に高張提灯が灯され、夕暮れの道を照らしてくれてくれているのが印象的だった。普段であれば神輿は担ぐようだが、今回は新型コロナウイルスの影響を考え、台車により引いて歩く形をとっていた。
そのためそれほど時間もかからず、西浜にたどり着いた。西浜にたどり着くと、かがり火が焚かれ始めた。夕焼けの薄暗い広場にて、周囲を照らしながらも熱気を放ち、辺りを包み込んでいるようだった。
獅子舞と巫女舞、華麗なる伝統の舞
それから、広場では結界が張られ、まずは獅子舞(お頭様)が行われた。山形県遊佐町を始め、庄内地方における獅子舞は「お頭様」と呼ばれることもある。2人立ちの舞いで頭をひねり口をパクパクさせたり、ぐるっと円を描くように回転して祭壇に顎を乗っけたりなどの動作が見られた。また、髪の部分など全体的に色彩豊かな獅子舞(お頭様)だと感じた。
また、巫女舞の衣装もとてもきらびやかで美しかった。扇子で口を隠したり、一周グルリと回ったりするような動作が見られた。獅子舞と巫女舞はそれぞれ演じる時間が数分だったので、それほど長くはなかった。今まで見たこともない芸能の形に触れることができとても新鮮な経験をさせていただいた。
神社へと戻っていく神輿の行列
獅子舞(お頭様)と巫女舞の終了後は、玉串奉奠などが行われた。西浜での神事はこれで一通り終了。すでに辺りは暗く提灯やかがり火の明かりを頼りに、足元を確認しながら西浜を後にした。神輿の行列は行きと同じ順番で進んでいった。地域の中で脈々と受け継がれてきた大事な神事に同行させていただいたことを感謝させていただきたい。