近年、祭りや花火大会の運営資金の課題を解決する手法として、各地のお祭りで、有料観覧席や特別な体験を提供する参加型ツアーの造成がトレンドとなりつつあります。
どのような商品でも「適正価格」を見つけるのは容易ではありませんが、特にこうした「体験」や「経験」に対して適正な価格を設定するのはさらに難しいものです。 価格が低すぎると、参加希望者が殺到し、お祭りをサポートしたいと熱望する多くの方々が参加できなくなってしまいます。一方で、価格が高すぎると、参加希望者を十分に集められず、お祭りの存続に必要な資金すら集められない可能性もあります。
そこで、オマツリジャパンでは、「お祭りへの参加を熱望し、金銭的にもサポートしたいと考えている方に確実にチケットが行き渡り、お祭りの存続に必要な費用を賄うことができる」フェアな販売方式の実証実験を行いました。この実証実験は、株式会社サイバーエージェントAI事業本部AI Labと慶應義塾大学経済学部の河合啓一教授が取り組んでいる、転売問題を解消するためのフェアな価格付けに関するプロジェクト『イイ値決めチャレンジ』の一環として実施されました。
<この記事のポイント>
・フェアな販売方式の実証実験、適正な価格を設定し、お祭りの運営資金の確保と参加者満足度の向上を同時に実現!
・慶應義塾大学経済学部の河合啓一教授および株式会社サイバーエージェントと協力!
・新しい販売方式の導入により、前年比で169%の収益増を達成!
参加型価格決定方式は「購入希望者が金額を決める」仕組み
日本の代表的な性の奇祭である「かなまら祭」は、約4万人も訪れる観客の8割が今や外国人という、インバウンド人気も非常に高いお祭りです。私たちオマツリジャパンでは2023年、本祭前日の宵宮で「大根削り神事」を体験したり、普段は非公開の資料室を見学したり、本祭時の行列に並ばずに境内に入れるファストパスのような「駒札」がもらえる特別プランの企画と参加チケットの販売を行いました。
1枚5,000円で限定30枚の参加チケットは数日のうちに完売となったことを受け、翌2024年も同体験プランの販売が決定。しかし、適正な販売価格については検討が続きました。
そんな折、オマツリジャパンは慶應義塾大学経済学部の河合啓一教授からお問い合わせを受けました。河合教授は、メカニズムデザインと呼ばれる「参加者の行動や意思決定が望ましい結果をもたらすように、制度や市場、オークションなどの仕組みを設計すること」を専門としており、2023年夏に実施された青森ねぶた祭で利用された高額の有料観覧席の販売方式の潜在的な問題点について議論する機会がありました。そうした中で、購入希望者の総意で購入価格が決まる「参加型価格決定方式」に関する提案を受け、若宮八幡宮様のご協力のもと実施することになりました。
この方式は、ノーベル経済学賞の受賞対象ともなった経済理論に基づいており、競り下げ式オークションの仕組みを応用しています。具体的には、販売開始時に一番高い金額が提示され、時間の経過とともに提示金額が徐々に下がっていきます。購入希望者は、自身が「この金額を支払ってもいい」と思う提示金額の時点で購入手続きを行うことで購入を確定できます。ただし、この仕組みの肝は、購入手続き時点での提示金額にかかわらず、売り切れ時点での提示価格が最終的な支払い金額になるという点です。つまり、高い提示金額で購入手続きをしても、低い提示金額で購入手続きをしても、最終的に支払う金額は同じになるフェアな仕組みになっています。
その結果、昨年比で169%の収益増となる金額で売り切れ、当初の想定金額を大幅に上回る成果を上げました。さらに、(最終的に非常に高額な金額を支払う可能性があったとしても)お祭りに参加したいと熱望している方が多数いることも判明し、お祭りの存在意義を再確認する良い機会となりました。
一方で、馴染みのある競り上げ式オークションとは異なり、金額が徐々に下がっていく販売方式で、かつ購入確定時点では最終的な販売価格が判明していないため、仕組みが理解されず不満が出るのではないかという不安もありました。そのため、解説動画や記事で丁寧に説明し、参加希望者には仕組みをご理解いただいたうえで購入に進んでいただくよう工夫しました。その結果もあってか、お祭りに参加された方からも「もっと他のお祭りでも導入してほしい」という声をいただきました。
小規模でも実施可能!フェアな価格を実現する販売方法を
この販売方式は、お祭りの規模に関わらず活用していただける仕組みです。今回の小規模なパイロット版での成果が示すように、実施のためには、今流行りのダイナミックプライシングを行う際に必要な過去の大量のデータや高度なプログラミングを必要としません。その一方で、この販売方式を一度でも利用すれば、通常の販売方式を行う際に活用できる詳細なデータを取得することができます。そのため、将来的に通常の販売方式でフェアな結果を実現するためのデータ取得手段としても有効です。
フェアな結果を実現するこの販売方法にご興味をお持ちの方は、ぜひお気軽にお問い合わせください。