地域で大切にされている伝統芸能を軸に、観光によるまちづくりを目指している島根県浜田市。行政と芸能の担い手が一体となって取り組むこの試みを、国の補助事業を活用してオマツリジャパンがお手伝いしました。
＜この記事のポイント＞
・2件の国補助金事業に採択された
・神楽と関連文化をストーリーとして高付加価値のツアーを造成
・水族館での神楽公演、天然記念物とのコラボなど神楽の新たな魅力を創出！
石見神楽の本場・浜田市の観光振興を支援
©︎mitsuru isokawa
島根県西部・石見地方で受け継がれている伝統芸能「石見神楽」。 軽快かつ重厚な囃子、躍動的な舞。豪華絢爛な衣裳、火花を吐く大蛇など、圧倒的なエンターテインメント性で知られる石見神楽は、日本のみならず海外でも人気を博しています。
石見地域の中でも浜田市は、現在の石見神楽の形を生み出したまさに本場。市内では50を超える社中（神楽団）が切磋琢磨し、衣裳店や神楽面工房など神楽産業も多く、子どもからお年寄りまで神楽を愛する日本一、神楽が根付いたまちです。
浜田市ではかねて石見神楽の振興を図ってきましたが、さらに国内外での認知・人気を高め、石見神楽を軸とした観光まちづくりを目指しています。
オマツリジャパンでは、2023年度の①観光庁「観光再始動事業（国・地方公共団体等所管事業）、」事業、②観光庁「インバウンドの地方誘客や消費拡大に向けた観光コンテンツ造成支援事業」の２つの国補助金の申請に係るコンサルティングから精算業務まで関わり、浜田市と一緒に石見神楽の振興を支援させていただきました。
収益向上に向けたプレミアム観覧ツアーを造成
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浜田市では、観光客などに向けて市内各所で毎週のように石見神楽の定期公演が行われています。中でも、石見国三宮として由緒ある三宮（さんくう）神社で毎週土曜の夜に行われている「浜田の夜神楽」は、歴史ある社殿の雰囲気の中で、舞い手の息遣いが伝わるほど近くで神楽が楽しめます。
この公演は、来場者から一人1000円の観覧料を集めています。そのお金は熱演によって否応なく傷む衣裳・神楽道具の修理などを含めた出演団体（社中）への謝金に充てられていますが、それだけで十分賄うことはできず、多くは市の支援や、何より演者の皆さんのボランティア精神によって支えられているものです。
そこで今回の取り組みでは、自走・自立を目指した収益性の向上のために、この夜神楽を中心に、浜田市の魅力を余すところなく味わえるツアーの新規造成が行われました。
このツアーは神楽産業ツアーとプレミアム夜神楽公演をセットにしたもの。夜神楽公演では、石見神楽の代表的演目の一つ、スサノオノミコトによる八岐大蛇退治を演じる「大蛇（おろち）」をテーマに、地元ホテルと連携した特製弁当を提供。終演後の演者との記念撮影や交流の時間も設けられています。
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神楽産業ツアーでは、ガイド同行で工房を訪れ、衣裳の縫子体験、着付け体験など特別な体験ができます。2023年度に行われたトライアル実施は好評のうちに終わり、2024年度からプレミアムツアーの定期開催が本格的に行われるよう準備が進められています。
さらに、コロナ禍以前から観光振興の要となっていた、インバウンド誘客を見据えた観光コンテンツ開発への挑戦も行われました。浜田市内で最も集客力を持つ施設である水族館「島根県立しまね海洋館（アクアス）」、そして国の天然記念物にも指定されている景勝地「石見畳ヶ浦」と石見神楽の共演です。
アクアスでは、閉館後の館内に３つの会場を設置し、夜神楽を公演。入館者は館内を周遊しながら神楽を観覧することができます。閉館後の水族館という非日常空間で演じられる石見神楽は、まさに新感覚の鑑賞体験でした。
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また、畳ヶ浦では、「シアトリカルツアー」と呼ばれる、俳優らによる演劇的パフォーマンスによって石見神楽の世界観に没入していただく試みも。会場へ向かうトンネルに響く鈴の音や、海岸が夕闇に染まる中、焚き火の灯りの元で行われる神迎えに始まる神楽公演は、この地に育まれた文化と石見神楽の歴史を、外国人を含む多くのツアー参加者の心に刻み、神楽鑑賞の新たな可能性を拓くものとなりました。
＜担当者の視点＞
石見神楽は国内では知名度がありますが、インバウンドにはまだ広く知られていません。しかし何度も海外公演に招かれるなど、実際に観覧していただければ必ずその魅力は伝わると思います。
課題は、どう認知していただき、浜田市に足を運んでいただくかです。浜田市の皆さん、社中の皆さんと一緒に考え、今回のイベントを成功させることができました。天然記念物に舞台を設けるアイデアは、地元の方にも驚きを持って受け入れていただきました。アクアス公演では、シロイルカをはじめとした生き物たちにストレスを与えないよう、前もって衣裳を見せたり、お囃子を聴かせたり……。そうした草の根の努力もあって、特別な空間が演出できたと思います。
また、オマツリジャパンが浜田市の取り組みに貢献できたのは、青森ねぶた祭りや京都・祇園祭をはじめ、長年にわたって日本全国で祭り・観光支援の実績を積んでいたことが大きいと思います。当社自体のアイデア、ノウハウなどの蓄積に加え、ウェブ制作、イベント運営、映像制作などで文化的知見を持った協力会社とエキスパートチームを組める体制を持っていること、これが当社の力になっていると思います。