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片貝まつり 「花火の町」の伝統文化が胸を打つ。打ち上げるのは「自分たちの花火」

2020/9/6
2024/3/8
片貝まつり 「花火の町」の伝統文化が胸を打つ。打ち上げるのは「自分たちの花火」

※2020年は新型コロナウイルス蔓延の影響で中止となりました。
2021年には無事に開催されることを願いつつ、コロナウイルスの終息のために感染予防を心がけましょう。
(2020年9月6日 編集部)

新潟県 小千谷市 片貝。毎年9月9~10日 片貝まつりで打ち上げられる花火は「越後三大花火」のひとつとして、また、日本一の大きさの「四尺玉」が上がることで、花火愛好家には有名であろう。花火自体は両日とも2時間半ほどの短い時間に過ぎないのだが、一発一発には打ち上げる人の様々な想いが込められている。その想いの深さは2時間半の時間では計り知れない。片貝まつりで打ち上げられる花火は、ひとつひとつの想いが重なり、形となり、夜空に輝いたもの。打ち上げる人の心そのものなのかもしれないと感じた。

(この記事は2019年に公開されたものを再編集しています。2020年9月6日 編集部更新)

ひとつひとつ想いが込められた「奉納煙火」

片貝まつり。正式名称は「浅原神社秋季例大祭 奉納大煙火」
いわゆる「花火大会」と聞くと、自治体単位、商工会議所単位で開催されたり、企業がスポンサーになって費用を負担し(大規模なものだと有料席が販売されていることも。)打ち上げられるものをイメージする方も多いのではないだろうか。片貝まつりでは、企業がスポンサーについて打ち上げられる花火も少なくはないのだが、大多数は個人による協賛(奉納)された花火である。これら奉納された花火は打ち上げの際、ひとつひとつ奉納した方のメッセージが丁寧に読み上げられる。様々なメッセージとともに打ち上げられる花火。片貝の町の人たちは、どのような想いを込めて花火を打ち上げているのだろうか。

祭りが近付くと中心道路に「花火番附(はなびばんづけ)」が掲示される。毎年、奉納者の名前とともに打ち上げる花火の種類が記されている。

なかでも目を引くのは成人、33歳、42歳、還暦といった人生の節目をお祝いするもの。大スターマインや三尺、四尺玉など花火としてもかなり豪華である。

また、この花火番附は、冊子版としても販売されており、花火を観覧しに来た観光客も買い求めることができる。掲示されている番附よりも詳しく書かれており、引越し新居祝い、厄除け、追善供養、成人のお祝い、商売繁盛まで様々なメッセージが載せられている。番附を見ると、片貝の町や人々の生活のあり様が浮かび上がってくるようだ。片貝まつりの花火を観る前に、じっくり読んでいただき、打ち上げる人の想いに共感してほしい。

「同級会」でつながる数十年続く絆と花火

正三尺玉/花火モニュメントより

片貝まつりにおいて特徴的なのは「同級会」と呼ばれる団体である。番附でも目立っていた、三尺、四尺、大スターマイン、人生の節目を記念するメッセージを込められた花火のほとんどは、この同級会単位で打ち上げられているのだ。
片貝には高校がなく、中学を卒業するとき、同年代で「同級会」と呼ばれる集まりを結成する。それぞれに独自の名前をつけ、あらゆる人生の節目でともに祭りに参加し花火をあげる。今年成人を迎える同級会は「青纏会(せいてんかい)」、還暦を迎えるのは「双葉会」と名付けられている。

暖心会(33歳同級会)の屋台

高校、大学、就職、そして死別することがあったとしても、彼らは節目ごとに集まり、花火を打ち上げ、片貝の空を見上げる。中学を卒業し、20歳の成人を迎え、33歳、42歳、60歳(還暦)、70歳(古稀)と、ともに歳を重ねていく。同じ片貝で暮らした仲間として絆を強くしていく。

輝龍会(42歳同級会)奉納 超特大スターマイン

片貝まつりでは町内に「祭り屋台」、いわゆる山車が練り歩く。町内ごとにも屋台があるのだが、先ほど説明した「同級会」で作られた屋台は特に意味深い。

双葉会(還暦同級会)の屋台

観光客から見ると毎年同じような屋台だと感じるかもしれないが、装飾や、曳き手・囃子手は毎年異なっている。その年、成人する人たち、その年還暦となった人たちの屋台であるから、当然と言えば当然である。毎年、毎年の主役たちは、想いを込めて作った屋台を曳き、ゆっくりと片貝の町を練り歩いていく。

還暦の屋台は特に立派である。目を引くのが、屋台の後部に飾られた追善供養の名。同級会を結成して四十余年。ともに花火をあげてきた仲間の結束を感じさせてくれた。

屋台は片貝の町をひと巡りした後、浅原神社境内で木遣りを奉納し、打ち上げ会場へと入っていく。会場には「お立ち台」と呼ばれるエリアがあり、奉納した団体はそのエリアで花火の打ち上げを見守ることとなる。何十年も続く仲間との絆、そして町との絆を感じながら、大切な節目を迎えることができた想いは如何ほどのものだろうか。なお、還暦の超特大スターマインは、片貝まつり初日の名物にもなっている。

超特大スターマインを見守る双葉会

曳きまわされる屋台は同級会のものだけではなく、町内ごとにも屋台は出されている。(地区ごとに、い組、に組、三組、て組、五部、ま組の6つに分かれている。)それぞれお囃子を奏でながら練り歩き、浅原神社へ奉納される。同級会でのつながりに加え、世代を超えた町内でのつながりも残っており、縦・横の関係で人との絆をもっているのが片貝の町の特徴だと思う。

三組 小若奉納 二尺玉

町に溶け込む花火文化と伝統行事

片貝まつりは2日間をかけて行われる。(前夜祭も入れると3日間!)
9月9日の午前中から夕方にかけて行われるのが「筒引き」と呼ばれる神事。打ち上げに用いられる「花火筒」を運んだことが始まりとされている行事で、木製の花火筒が町中に曳きまわされ、町に祭りの始まりを告げる。

「筒引き」と対になる神事が「玉送り」。各屋台が町内を巡り、木遣りを奉納していく。祭りで打ち上げられる奉納花火は、もともと各戸で自作されており、それらを打ち上げ現場まで運ぶため屋台が1軒ずつ周り花火を集めていたことが起源と言われている。これらの屋台は、町内を巡ったあとは浅原神社に入り、木遣りを奉納する。

三組若による玉送り/花火モニュメントの前で

浅原神社境内で奉納

このような奉納花火という文化は、片貝に限らず周辺の各集落でも見られるとのこと。生活にすっかり花火が溶け込んでいる様子は、外部から見るととても珍しいのだが、彼らにとっては至極当たり前のことなのだ。

花火が生活に溶け込んでいるエピソードを聞いてみると、卒業式、入学式での花火はもちろん、年越しの除夜の鐘のごとく打ち上げられる108発の花火、さらには町内の合同防災訓練の合図も花火なのだという。煙火店の試し打ち(もちろん許可はとったうえで。)もあるようで、片貝の人たちにとっては花火の打ち上げは日常的なものかもしれない。そんな花火の町 片貝にとっても、1年に1度の片貝まつりはさらに特別なものとなっている。

永遠会(古稀同級会) 真昼の正三尺玉

片貝まつりの「成人行事」

9月10日の片貝まつりのハイライトは成人行事。今年成人を迎える同級会が、結成して初めて花火を打ち上げる一大行事である。

青纏会(新成人 同級会)

成人たちは自らの屋台を曳き、すべての町内を巡り浅原神社を目指す。いわゆる「玉送り」の行事なのだが、通称“成人戦”と呼ばれるほど成人の玉送りは特別な“儀式”となっている。

水鉄砲で新成人を出迎える「て組」

「ま組」に日本酒を納める新成人

各町内を取り抜けるには、同級会の威勢の良さを示し、各町に認めてもらわなければいけない。お囃子にあわせ、日本酒を捧げ、“今年の成人ここにあり!”とばかりに懸命に騒ぎ立てる。各町の半纏を身につけた若者を、町内の人々は見守りながら、今年の新成人を知り、そして受け入れる。

各町に認められた成人たちは、町を巡ったあとは浅原神社に入る。神社で木遣りを奉納し、その後お立ち台から花火を見上げることとなる。還暦スターマインに比べればまだまだ小さい規模の花火であるが、仲間たちで打ち上げる最初の花火。成人戦を乗り越え、大人の仲間入りを果たした彼らにとって、打ち上げられた花火は特別な意味をもっているだろう。

浅原神社境内で木遣を奉納する新成人

新成人による「大仕掛」花火「祝成人 青纏会」

「観る花火」ではなく「打ち上げる花火」

片貝まつりは、国内最大の四尺玉が打ち上げられ、その花火のほとんどが尺玉以上で構成されていることもあり、花火通からの人気が高く、毎年多くの観光客が祭りに訪れる。

花火の駅 長岡花火ワールド悠 10周年記念奉納花火

片貝名物の「大柳火」花火

有料の桟敷席の多くは地元の方が購入しているのだそう。花火を打ち上げる奉納者は、自分の家族や友人などを招待し、桟敷席からともに花火を見上げる。花火に込められたメッセージを大切な人と共有しているのである。喜びも悲しみも感謝もすべて花火にのせ、打ち上げとともに昇華し、家族、仲間、大切な人、そして町全体で共有する。これが、片貝の奉納煙火、ただ「観る」だけの花火ではなく、それぞれが当事者として自ら打ち上げる「自分たちの花火」なのである。

町民一同から新成人に送られる「国内最大の四尺玉」

国内最大の四尺玉は、9日と10日それぞれ22時に打ち上げられる。
一日目は地元企業などが中心となり打ち上げられる「コラボレーションチーム」花火、そして最終日の二日目に打ち上げられるのは「町民一同」からの花火。これは、今年の新成人に向けて片貝の町の人々から送られている。町の人が寄付しあい、町として新成人を受け入れ、お祝いするために花火を打ち上げている。町民ひとりひとりの想いが集まって形となったのが、国内最大の花火「正四尺玉」なのである。その直径は850mにもなり、町内いたるところでその花火を観ることができる。日本一の花火で歓迎される成人たち。こんなに温かい成人の行事が他にあるだろうか。

片貝町町民一同 奉納 祝成人 四尺玉 (昇天銀龍黄金千輪二段咲き)

片貝まつりは、いわゆる「花火大会」とは明らかに一線を画す。観る花火ではなく、自ら奉納する花火。この感覚をぜひ現地で体験してもらいたい。
また、片貝の町に住んでいる人でなくても、片貝まつりで奉納花火を打ち上げることはできる。毎年色々なメッセージとともに各地から花火が奉納されている。ただ観るだけではなく、想いが詰まった自分たちの花火を打ち上げることができる片貝の花火。片貝まつりを訪れる際は、このバックグラウンドを想像しながら花火をぜひ見ていただきたい。

番附に載る新成人からのメッセージと正四尺玉

片貝も少子化等の課題により祭りの参加者は減少傾向とのこと。町によっては屋台の曳き手や準備が間に合っていないところもでてきているようだ。花火をきっかけに少しでも片貝に興味を持っていただける方が増えることも期待したい。
最後に今回の取材に協力いただいた 片貝 「に組」の佐藤瑞穂さんに感謝を申し上げる。彼らが運営するサイト「花火のち晴れ」もぜひご覧いただきたい。

取材協力:片貝町 佐藤瑞穂さん
花火写真提供:蛭田眞志さん

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