広島県南東部、尾道水道に面し古くから栄えてきた尾道市。尾道市の日本遺産の数は3つにもなり、歴史、文化的な価値、資源が豊富な街である。なかでも旧市街地周辺は”箱庭”的都市と呼ばれ、様々な魅力が徒歩圏内に凝縮している。この街の歴史、人々の歩みを存分に感じられる箱庭的都市尾道のディープで"通"な楽しみ方を紹介していく。
尾道観光の定番のひとつは商店街巡り。レトロな建物とおしゃれなカフェが並んでいて魅力的なのだけど、それは表の顔。夕暮れ時に尾道駅に到着したらまっすぐ商店街を通り抜け、その先にある夜のディープな”尾道”を訪ねて欲しい。
商店街を抜けた先に広がる尾道の原点。夜にしか見られないディープな顔
本通り商店街から海側に向かうと尾道市役所が見えてくる。ここの屋上展望デッキからは尾道の旧市街地が一望できる。目の前には尾道の原点である尾道水道。行き交う船の音、山に反響する街の音、昔から変わらないだろう風を感じながら、日が暮れるまで過ごすのが心地いいのだ。※休日含む、夜21時まで一般開放
尾道三山のひとつ西國寺。奈良時代に建立されて以来尾道の街とともに歴史を刻んできた。市役所の展望デッキからもライトアップされた姿を見ることができるし、西國寺からは尾道の夜景を臨める。桜の季節は特にオススメ。石段と夜桜が灯りに照らされ絶景なのだ。
市役所からも近い尾道”新開(しんがい)”エリアは昭和の歓楽街。入り組んだ路地にスナックや居酒屋など一癖も二癖もあるDeepな建物が点在。夜になるとレトロで妖艶な灯りが点される。観光客も多くなく異世界に迷い込んだ気がする。
尾道を訪ねるなら朝を堪能したい。観光客で賑わうオモテの”尾道”が始まる少し前の時間には気取らない一面が垣間見える。
尾道駅から少し離れた海沿いの複合施設「ONOMICHI U2」。戦時中の海運倉庫をリノベーションし、宿泊施設やカフェ、店舗等で構成されている。外観は倉庫そのもので港町に溶け込んで自然だ。朝日を反射する水面を見ながら深呼吸するのもいいかもしれない。なお、宿泊客は朝7時30分からモーニングを頂ける。
朝のうちに寺巡りに出かけるのがオススメ。細い路地、坂を散策し千光寺を目指すのだ。まだ人通りが少なくて、箱庭のような尾道の街に自分だけが迷い込んだのかと錯覚してしまう。凛とした空気の寺で深呼吸すると力が湧いてくるようだ。
千光寺を目指して散歩していると、猫と出会えるかもしれない。人通りが少ない朝のほうが出会えるような気がする。坂や入り組んだ路地を探検していると、何だか自分まで猫になったようにも思えてくる。歩き疲れたら喫茶店でひとやすみするのもよし。
締めくくりは、尾道の新しいスポットに訪れてみたい。建物や写真が好きな方にはオススメ。
千光寺を訪れたらそのまま千光寺公園まで足を延ばそう。香川県 直島の地中美術館で有名な建築家、安藤忠雄氏によりリニューアルされた尾道市立美術館へ。コンクリートの素材感や開放的な造りはモダンだが、不思議とお寺の多い尾道の雰囲気ともマッチしている。ここから眺める尾道水道も格別にキレイだ。
千光寺山頂に新しく建てられた展望台PEAKは、京都市京セラ美術館やルイ・ヴィトンの店舗などを手掛けた建築設計事務所により設計。螺旋階段と細長い”橋”のような構造からなる展望台からは瀬戸内海の島々も望める。春には桜に包まれる公園や尾道市立美術館も楽しめる。
眺望のよい山手に建てられた当時の「新道アパート」。60年もの歳月を刻んだ昭和の建物は、2018年にリノベーションされカフェ併設の宿泊施設に。和と洋が織り交ざった内装や小物、壁の色合いにまでこわだって作られた空間に身を置けば、新しさと懐かしさに心が揺さぶられてしまう。
尾道三山と尾道水道の間の限られた空間に造られた多くの寺社や住宅、それらを結ぶように入り組む路地や坂道、そしてその土地で紡がれてきた街の歴史と人々の暮らし。中世から近代の趣を凝縮された尾道は”箱庭的都市”と称され、日本遺産に登録されている。ひとたび箱庭に迷い込めば、きっと思いがけない素敵な出会いが待っている。日本遺産を足掛かりに、”私だけの尾道”を探してみるのはどうだろう。