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20年に1度、世紀の大祭!伊勢神宮に奉納される御神木を盛大に祝う「御神木祭」。そこに関わる人々の想いとは?<長野県上松町>

2023/7/25
2023/7/25
20年に1度、世紀の大祭!伊勢神宮に奉納される御神木を盛大に祝う「御神木祭」。そこに関わる人々の想いとは?<長野県上松町>

20年に一度行われる、1300年以上の歴史をもつ伊勢神宮の式年遷宮行事 「御杣始祭(みそまはじめさい)」。そこで伐りだされた木曽檜(きそひのき)の御神木を伊勢神宮へお送りすることは誉とされ、地域をあげてお祝いする「御神木祭」は人生で見られても数回という貴重な機会です。

次回の「御神木祭」の開催は、2025年。この世紀の大祭に向けて上松町の人々はどのような想いで森と向き合い、暮らしているのでしょうか。インタビューを交えながら、祭りとともにある暮らしを考えます。

御神木が伐り出される赤沢自然休養林

御神木祭、歴史の重みを背負う

伊勢神宮の御正殿を建て直す「式年遷宮」の祭事のひとつに「御杣始祭(みそまはじめさい)」があります。「御杣始祭」で伐採された2本の檜は、内宮(ないくう)と外宮(げくう)にそれぞれ一本ずつ送られ、ご神体を納める器「御樋代(みひしろ)」の御用材として使われます。

「式年遷宮」は、持統天皇の時代である690年に第1回が行われ、その用材である檜は神路山(かみじやま)等、伊勢周辺の山で伐採されてきました。しかし、室町時代以降、良質な木材が不足してきたことから、江戸時代以降からは上松の檜も用いられるようになり、今に至ります。この御神木が伊勢神宮に向かう前に「奉曳車(ほうえいしゃ)」に積み、上松町民によって町を練り歩く「お木曳き行事」や地域の芸能が行われる「奉納行事」、御神木を送り出す「奉送行事」などが実施されます。これらの行事を総称して「御神木祭」と呼びます。

「木曽式伐木運材図絵」中部森林管理局所蔵

20年に一度、御杣始祭~御神木祭の行事の流れとは?

6月3日の「御杣始祭」が、伊勢神宮の神事で、6月4日~6日の「御神木祭」が上松町のお祭りです。後半の「御神木祭」のみ一般参加者でもお楽しみいただけます。

2005年に開催された「御杣始祭 御神木祭」のパンフレット

まずは6月3日、御神木を伐り出す「御杣始祭」から一連の行事が始まります。これは伊勢神宮側の神事のため、一般公開されておらず、招待された関係者のみが参列できます。実際に地元から携わるのは、「三ツ紐伐り(みつひもぎり)保存会」です。厳かな神事の後、杣夫(そまふ・山に入り木を伐採する人)が幹の3方向から斧を入れて倒す三ツ紐伐りという古式ゆかしい伝統的な手法で、御神木が伐り出されます。

純白の作業着に身を包み、伝統的な技法「三ツ紐伐り」で伐採を行う杣夫たち(2005年撮影)

運び出された2本の御神木は、両先端を菊の紋章の形に削る「化粧がけ」が施されます。そこにはとても緻密な杣(そま)の技術が詰まっています。

木の先端を、菊の紋章と同じように16面の波目模様にカットする(2005年撮影)

化粧がけが施され、奉安される御神木(2005年撮影)

御神木に化粧がけが施されたら一晩奉安され、いよいよ翌日から、「御神木祭」のはじまりです。御神木を奉曳車に乗せ、何百人もの人数で木遣り歌を歌いながら、上松駅前の奉安所へ運びます。これがお木曳き行事です。

「御神木祭」お木曳き行事の様子(2005年撮影)

その後は獅子狂言や木曽踊りなど、さまざまな芸能が披露されたり(奉納行事)、露店が並んだりと、大盛況の雰囲気に包まれます。

数々の芸能の披露が完了したのち、御神木は伊勢神宮に向けて出発します(奉送行事)(2005年撮影)。

人生に数回、貴重な御神木の伐採に立ち会う人

今ではチェーンソーなど手軽に木を伐採する機械がありますが、三ツ紐伐り保存会では、斧を使う古式ゆかしい三ツ紐伐りという方法で伐採する伝統を受け継いでいます。

三ツ紐伐り保存会の杣夫であり、1985年と2005年と伐採に実際に携わった橋本光男様に、現場視点で木を伐り出すことに関するお話を伺いました。

ーー1300年の技は次の世代にどのように受け継がれているんですか?

前回(2005年)の御杣始祭の時に保存会ができました。それまでは組織がなくても木を切る人がたくさんいたんですが、今では山の仕事をしている人が少なくなっており、そうでない人でもこの保存会に所属しています。

ーー保存会には何名いますか?

25人くらいいます。ただ、実際に木の伐採に関わるのは10人くらいです。ワイヤーをかけたり引っ張ったりする人も含まれます。山仕事に関わる人が多いですが、その友人や建設業など体を使う仕事の人が多いです。若手は20代が2人で、30代が1人。40〜50代がとても多いですね。生まれてから見た人が80歳まで生きれば、単純計算で見られるのは4回だけ。とても貴重な場に立ち会うことになります。

最も難しい伐採の技術、「木を寝かせる」とは

「御杣始祭」で切り出す2本は、非常に神経を使って選び出されると言います。その基準としては、南斜面に生育しており近くを小川が流れていること、材の中心に空洞がなく枝下高18尺(約5.5m)、胸高直径60cm、末口径46cmが確保できる大きさであることなど、さまざまです。選ばれるのは、樹齢300〜400年の檜の天然木。どのように木を伐り出すのか、という点も注目すべきところです。

1985年6月3日の三ツ紐伐りの現場跡

ーー良い木材はどのように選ぶんですか?

天然木はとにかく斧を入れた時の感じが人工林の木と違います。また、天然木は材質がよく、とても貴重なものです。御神木が伐り出される赤沢自然休養林は国有林のため、伐り出す場所を選ぶときに、伊勢神宮と森林管理署が共同しながら、その場所を慎重に選んでいくそうです。また、伐採する際、2本の木の先端を交差させて倒すため、お互いが届く距離に生えている木を選ぶこともポイントです。

2本の御神木を交差して切り倒すのは、子孫繁栄の意味があるともいわれる(1985年撮影)

ーー斧を見せていただいても良いですか?

非常に重いですが、遠心力によって切る仕組みのため、先の方が重くなっています。持つところも人によって長さが変わっています。刃は自分で研ぎます。

伐採時に実際にした使用した斧。杣夫は、斧を「ヨキ」とも呼ぶ。

ーー最も難しい場面はどこでしょうか?

それは木を伐るところではなく、木を寝かすところですね。狙った方向に木を倒すことを神聖な木なので「寝かせる」と言い、そこに神経を使います。三箇所に斧を入れて残された部分である「弦(ツル)」を払う(伐る)と木が倒れていくのです。

「大山の神~左ヨキ~横山一本寝るぞー!」という掛け声とともに、左右の杣夫が木の状況をみながら弦に斧を入れます。自然に木が寝てくれますが、確実なところで寝てくれるようにする。これが安全にできるかが最も重要です。

寝かせたあと、一番若い杣夫が伐木の梢(樹木の先の部分)をとり、杣頭(そまがしら)に渡します。

伐株の中心にその梢を挿し、杣夫全員で一礼します。

祭りを継承することは、地域の誉れ

ーー20年が準備期間だと思うのですが、練習の頻度やどういう風に準備を進めていくかが気になります。

開催の4〜5年前くらいから準備を進めます。練習は1年に1回だったのが、3年前になると3〜4回に増え、という具合に徐々に増えていきます。

ーーどのような想いでお祭りを継承されていますか?

御神木を伐らせていただくという気持ちが大事です。そうすれば技術も自然と覚えていくし、上達すると思います。保存会に入っているのもそういう気持ちを持った人です。また、技術の上達も大切ですが、何よりも作業を安全に無事終えることが私たちの一番の願いです。

20年に一度、伊勢神宮に出せる良質な木があるということが地域の誉れです。20年に一度、1万人の人口になる「御神木祭」。3年後に向けて、町を盛り上げていきたいです。ぜひ一度、上松町にお越しください。

現地を訪れてみて

上松町には森をはじめとした自然の景観がとても魅力的に感じられました。秋は紅葉、夏はホタル、年間を通して夜は星も美しいと聞いています。御神木が切り出される赤沢自然休養林や、寝覚の床(ねざめのとこ)など、見所満載なので、ぜひ御神木祭以外の時期にも訪れてみると良いでしょう。

紅葉の中、赤沢自然休養林を走る森林鉄道の様子

▼上松町の見どころ記事はこちら

御神木祭の開催 2025 スケジュール

20年に一度の御神木祭、次の開催は2025年です。
ここで大まかな予想スケジュールについて確認しておきます。

6月3日(火)御杣始祭
赤沢自然休養林周辺にて
6月4日 (水)御神木祭「お木曳行事」:神事や獅子舞など
6月5日 (木)御神木祭「奉納行事」:10以上の芸能団体の演舞や木工体験など
6月6日 (金)御神木祭「奉送行事」:御神木が伊勢神宮に向けて出発

■お問い合わせ先 一般社団法人 上松町観光協会
TEL:0264-52-1133

一般参加者がご覧いただけるのは、4〜6日の日程のみです。
次回は平日開催ですが、ぜひお越しください!

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