日本には30万のお祭りがあると言われています。全国各地の多種多様なお祭りの魅力を知っていただき、ぜひ旅行を通じて全国の町に行っていただきたい、そんな思いから「祭りで日本を盛り上げる」をテーマに活動をする株式会社オマツリジャパンとクラブツーリズムが連携し、全国のお祭り情報を発信していくこととなりました。
今回取り上げるのは8月3日より開催される秋田の「竿燈まつり」。秋田を代表するお祭りともいわれるこの祭りの歴史から現在に至るまでの発展過程について、全3回の記事で紹介していきたいと思います。ナビゲーターは株式会社オマツリジャパンの大山 勝廣(おおやま かつひろ)、そしてゲストは秋田市竿燈会の加賀屋 政人(かがや まさと)さんです。
また、この記事の模様は動画でも視聴することができますので、ぜひこちらもチェックしてみてください! 第2回目以降の動画は、クラブツーリズムPASS会員限定コンテンツとなっておりますので、これを機にぜひ入会をしてみてはいかがでしょうか!?
※第1回目の動画はどなたでも無料で視聴可能です。無料公開期間が過ぎますと視聴にはクラブツーリズムPASSへの入会が必要となりますので、あらかじめご了承ください。
38の町内ごとに異なる「町紋」にも注目!
大山:竿燈まつりの中で、やっぱり一番重要なのがこの「竿燈」だと思うんですね。竿燈ってそもそもどうやって作られているか、そもそも同じものをずっと使うのか、毎年新しく作っているのか、教えていただけますか。
加賀屋:竿燈の素材は竹竿ですから経年劣化します。ひびも入ってくるだろうし、竹もしなります。もしくは虫食いで穴があいて、そこからひび割れすることもあります。あとは野外で使うので、雨に当たるとふやけてきます。直射日光に当たると、あの乾燥しすぎて割れる場合もありますので、毎年同じものを使うというわけではないんです。
大山:なるほど。
加賀屋:竿燈づくりは、毎年竹林から切り取ってくる作業から始めています。東北地方では、冬の気温はマイナスになりますので、山に生えている竹も自分の身を守るために水分を全部土に戻すんです、そうすると竹がいくらか軽くなるわけです。そんな時期に刈り取ります。
大山:真冬の山に入っていって、いい竹を見つけて切り出すと。
加賀屋:できるだけ節が曲がってないやつを切り出してきて、そこから何年か寝かせます。そしていい塩梅に枯らした状態で加工に入ります。
まず長さ8メートルの「親竹」(提灯を吊るす軸となる竹)。切っている時は真っ直ぐなつもりでも、地面に置いてみると結構曲がっていることがあるんですよ。その曲がりの矯正するために火であぶって、または水をかけます。それから一皮むくためにカナダワシでこすって、表面の緑色を綺麗にしてやると、綺麗にその後黄色に変色していきます。また、竹の節に虫も入ってるかもしれないので、ガスバーナーでひと節ずつ焼いていきます。そして虫がない状態で2、3年寝かせます、
それから「継ぎ竹」作り。竿燈の本体の下に1メートル20センチほどの継ぎ竹を足していくんですけど、そこには「タンパク」というステンレスでできた輪っかを取り付けます。うまい具合に(継ぎ竹同士が)刺さっていくようにですね、根本を削ったりしながら調整をしていきます。
一本の親竹に対して、大体7~8本の継ぎ竹を作ります。それから今度は「横竹」。長さが3メートルほどの細い竹を親竹に結んでいくんですけれども、これには「本結び」という結び方があるのですが、親竹に対して横竹を結んでいきます。
今度は上から糸でしなりをつけていきます。真ん中の張り糸、外側の大外、それから中糸といった形で。糸で結んでいく。これは昔は麻縄でしたが、最近は紡績の糸を使っております。
大山:そうなんですね。
加賀屋:それを結んでいって一つの竿燈に仕上げます。
大山:できているものを使うんじゃなくて、自分たちでいちから作り上げるというのがすごいですね。一方でこの、竿燈に飾られてる提灯はどうなっているんでしょう。
加賀屋:提灯はですね、なかなか素人さんが作るということはできませんので、提灯屋さんに作ってもらいます。秋田市でいうと五、六件の提灯屋さんがあって、町内や学校、企業から注文をもらって、1年間かけて何十個も作ってもらいます。
大山:すごいですね。
加賀屋:型にですね、竹ひごをつけてそこに和紙を一枚ずつ貼っていくんです。一個の提灯に仕上げて、上下に輪っかをつけて、そして今度は絵柄をつけていきます。
大山:どのような絵柄ですか。
加賀屋:「町紋」といわれる、38の町内ごとに異なる紋章です。江戸時代に佐竹の殿様からいただいた町紋というふうにも聞いております。その1個1個違う町紋を提灯に書いていく。そして最後に油を塗って仕上げる。
大山:提灯の裏側はどうなっているんですか。
加賀屋:裏側はですね、若者が上げるお祭りなので大抵は「若」という字を入れています。あとは表面と同じマークを、裏にもつけている町内もあります。
衣装の特徴で、職人の町か商人の町かがわかる
大山:竿燈で披露する技の練習は、皆さんどうやってやってるんでしょう。
加賀屋:昔はお祭の1週間ぐらい前、もしくは10日ぐらい前から練習をやってたんですよ。ところが最近はですね、時期的にも雨が多かったりしますので、6月とかもっと前から始める町内が多いですね。
大山:やはり2カ月ぐらい前からみんなで集まって、組み立てた竿燈で練習をされていると。
加賀屋:昔はですね、自分のところの町内の通りで、本当に玄関先で練習をやってたんです。ところが交通量も増えてきたり、警察からのお達しもあり、なかなか道路使用許可も下りず、そのためどこか広い場所を借りながらやってみたり、練習の仕方も変わりました。
以前は7月7日ぐらいになると、祭りのお囃子が聞こえてきて、夏の情緒を味わえていいな、なんて思ってましたけど、他所から引っ越してきた人からのクレームで、(住宅地から)ちょっと離れたところに練習場所を借りてやっている町内もあります。
大山:加賀屋さんもかつては若者として祭りに参加をされたと思うんですけれども、どの技が一番難しいですか。
加賀屋:地球の重力に反して上に持ち上げる筋肉を使います。重いものを抱えて、よっこらしょっと持ち上げる筋肉じゃなくて、頭より上に差し上げたものを平手で押さえてるので、腕の裏側の筋肉を一番使いますね。
大山:そこなんですね。なるほど。
加賀屋:はい。ですからそこの筋肉を鍛えるために寝る前にですね、枕元の上に鉄アレイでも置いて、いよっと、こういうふうに持ち上げる、そういう筋トレをしたりもします。あとは日中力仕事をしている職人さんであれば、重いものを持ち上げてみたり。
大山:鉄パイプとかを持ち上げて。
加賀屋:セメントですとか、職人さんによって違いますけど。そんな形でトレーニングしてる人もいます。
大山:やっぱり、普段使わない筋肉を使って持ち上げるので、そこが大変だということですね。逆に言うと、軽々持ち上げているように見せられる方がいたら、それはもうプロとしてすごくかっこいいということなんですね。
加賀屋:そうですね。無表情でね、重いっていう顔をしないで清々しい表情で。
大山:なるほど、私映像で見たことがあるんですが、実際に何かセンスをひらひらさせている人もいますね。
加賀屋:あれはですね、竿燈は風の影響を受けたりしますので、結構ゆらめいて動くんですけども、自分の技で竿燈をある一定の場所で固定させることができるんですね。ベテランになると、そういったときに、技に余裕があることを示すために、扇子を広げて仰いでみせるんですね。
大山:なるほど。
加賀屋:あとは高下駄といって、歯が1本だけの下駄を履いて演技してみたり。あとは、継ぎ竹に花笠という仕掛けをして、花笠を広げて、竿燈に継ぎ足すとか、最近ですと纏(まとい)とか、吹き流しをつけて演技する町内もあります。私の町内は昔はですね、継ぎ竹に伝書鳩を借りてきて仕込んで、演技中に放すということもやっておりました。
大山:そういう、基本の5つの技ができるようになった先に、芸達者としていろいろ工夫を凝らして披露するというのも楽しみなんですね。
加賀屋:江戸時代からやってる町内は結構芸達者な人が多いですね。
大山:なるほど、なるほど。そのほか、衣装に関してもいろいろなこだわりだったり、ルールがあるということをお伺いしたんですが、それについても教えていただけますでしょうか。
加賀屋:昔ながらの竿燈の正装といわれているのが、まず上には半纏を着ます。色の基本は「茄子紺」です。茄子の色で「茄子紺」。それと下にはさらしを巻きます。馬喰だったり、鍛治屋だったり、職人さんの多かった町内は、腹掛けといって、肌を傷めないように腹巻をします、ところがお魚屋さんだったり、米屋さんだったり商人が多い町内は、さらし一丁です。
大山:なるほど。
加賀屋:時代劇に出てくる一心太助みたいなやつですね。下は「半たこ」。半ズボンみたいな、お祭りの時につける衣装です。さらに足元は白タビと草履を履きます。あと、おでこには豆絞りのハチマキ。これはもうどの町内であろうと、豆絞りというのが決まりとしてあります。他の柄物は許さない。
大山:そうなんですね。
加賀屋:それから帯。帯は角帯とそろばん柄のそろばん帯、この2種類だけです。派手な帯は禁止してます。
大山:なるほど。例えば、「よさこい」だったり「阿波踊り」とかですと、団体ごとに格好が違ったりするんですけど、竿燈まつりでは全員がほぼほぼ同じ格好をするんですね。
加賀屋:ほぼほぼ、はい。
大山:そして、腹掛けをしていると、あの町内は職人さんがいた町だったんだなということがわかるということですね。
加賀屋:その違いがあります。
大山:なるほど、ありがとうございます。
海外の方々にも驚かれる秋田竿燈の職人技
大山:秋田市竿燈会として今年91年目ということで、時代に合わせていろいろなことをされてきたと思うんですけど、例えば海外とかでも披露されることがあると、お伺いしたんですけど、
加賀屋:結構国外に呼ばれて行ってます。ヨーロッパで行われてきたジャパンウィークですとか、ハワイですとか、いろんなところに行ってます
大山:やっぱり世界の人が見ても喜んでくれますか?
加賀屋:そうですね。海外の方もびっくりします。曲芸に見えるらしいですね。もうみなさん、びっくりして拍手喝采です
大山:日本には30万のお祭りがあると言われていますが、秋田竿燈まつりというのは、すごく特徴的な祭りですよね。
加賀屋 :そうですね、日本全国いろんなお祭りありますけど、ほとんどが神社のお祭りですよね。でも竿燈まつりは庶民が始めた民族芸能です。神社のお祭りではないというところ。そこが違いかなと思います、
大山:なるほど、庶民が楽しむためにはじめたお祭りということですね。実際、竿燈まつりというのは、ずっと絶やすことなく続いてきた伝統なんですか。それとも歴史の中では変革期だったり、中止に追い込まれた時期もあったんですか。
加賀屋:あったと思います。戦争の時期とかですね。また、ここ数年はコロナのために2年間、中止になりました。私が一番危惧してるのは、子どもたちに(竿燈まつりの伝統が)受け継いでいけなくなってしまうことですね。
大山:そんな中で、今年2022年は無事、今のところはお祭りが開催されるという見込みだと思いますけど、あらためて最後に、竿燈まつりのどこを楽しんでもらいたいか伺えますか。
加賀屋:そうですね、やっぱり秋田の職人気質なところ、こだわりをもってお祭りをやってるという、町内ごとに違う技があったり、お囃子があったり、そこをぜひ見てもらいたいですね。あと夜に提灯が一斉についたところ、光の稲穂っていいますけど。夜空を照らす光の稲穂ですね。そこを楽しんでもらいたいと思います。
大山:今年の4日間のスタートの合図は、まさに加賀屋さんの笛の合図でワーッと立ち上がってくるということですよね。加賀屋さんの笛でこのお祭りが3年ぶりに再開されると、そこに注目していただきたいですね。
加賀屋:私も泣くかもしれません。
加賀屋:いや本当に楽しみです。ぜひこんな面白いお祭りをですね、私も見に行きたいと思いますし、この記事を読んでいただいた方々にも、現地に足を運んで楽しんでいただければなと思います。今回は3回に分けて、秋田竿燈まつりの由来だったり特徴、こだわりについてじっくり秋田市竿燈会の会長の加賀屋さんにお話をお伺いすることができました。加賀屋さん、本当にありがとうございました。
加賀屋:ありがとうございました。