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「2020の夏は盆踊りでおもてなし!」 加熱と進化を続ける盆踊りの仕掛け人 鳳蝶美成氏・矢島友幸氏インタビュー(前編)

2018/11/27
2024/3/7
「2020の夏は盆踊りでおもてなし!」 加熱と進化を続ける盆踊りの仕掛け人 鳳蝶美成氏・矢島友幸氏インタビュー(前編)

今、日本の夏の風物詩である「盆踊り」に注目が集まっています。地域土着のものや、神社仏閣の祭礼として行われる、いわゆる昔ながらの盆踊りだけでなく、クラブカルチャーを経験した若者たちが、野外フェスの進化系、もしくは新たに集う場として始まったもの、町おこしの一環として有志の声からスタートしたもの、さらには長い間途絶えていた盆踊りを復活しようとする動きもあります。

2020年に向け、年々盛り上がりが過熱する盆踊りは、誰でも気軽に参加でき、夏気分が満喫できるだけでなく、日本の伝統文化を見直すきっかけにもなっています。昨今ではインバウンドの観光客からも熱い視線が注がれ、実際に参加する踊り場が増えています。

中野駅前大盆踊り大会第6回中野駅前大盆踊り大会の様子(※)

2018年の夏、とある盆踊り大会が東京・中野で開催されました。

TRFのDJ KOOさんがプレイする90年代のヒットチューンを盆踊る『EZ BON DANCE』や、DJ Cellyさんがかけるボン・ジョヴィの曲で盛り上がる様子が『盆ジョヴィ』としてSNSで拡散。TVやインターネットニュースなど、メディアでも大きく取り上げられたのが、第6回目の開催となる【中野駅前大盆踊り大会】です。

この中野駅前大盆踊り大会の仕掛け人であり、数多くのTV CMでの振付や出演も行っているのが、日本民踊鳳蝶流(にほんみんようあげはりゅう)の家元師範でもある、鳳蝶美成(あげはびじょう)さん。そして鳳蝶さんとともに盆踊りの新たな文化創出に向け活動する、日本盆踊り協会の代表理事である矢島友幸さん。
盆踊りの魅力と新たな可能性について、この両名に話を伺います。

鳳蝶流稽古場での鳳蝶美成氏鳳蝶流稽古場での鳳蝶美成氏

1. 盆踊りの仕掛け人であるお二人の盆踊りとの出会い

鳳蝶さんといえば、2017年に携帯電話会社のCMでも話題となった『三太郎音頭』をはじめ、TVを含む各メディアへの露出も多いですが、そもそも盆踊りに目覚めたのはどのようなきっかけだったのでしょうか。

鳳蝶さん:「初めて参加したのは、今でも盆踊りが行われている、青山・善光寺でした。幼稚園の頃の話で、民踊を教えていた母親(当時石川流教授だった鳳蝶千桧香さん)の影響が大きかったですね。
あの頃はお祭りの縁日や太鼓目当てでしたが、実際に踊るようになったのは、高校で演劇を始めた頃ですね。昔から民舞を舞台で踊っていたんですが、舞台とは別にふだん踊るのも楽しいかなと思い、踊りの輪に参加するようになりました。ちなみに舞台では、『ソーラン節』や『さんさ時雨(岩手県の民謡)』など、激しい踊りとお座敷系の踊りをセットにして踊っていました(笑)。今でも両方楽しめる盆踊りが好みですね。」

鳳蝶流盆踊り入門クラスのレッスン。ウォーミングアップの様子鳳蝶流盆踊り入門クラスのレッスン。ウォーミングアップの様子

矢島さん:「子どもの頃は実家のある大塚で盆踊りに参加していました。
社会人になった20代の頃、高円寺の阿波おどりに参加したことで完全に目覚めちゃいました(笑)。毎年仕事を休んででも行くようになりましたね。
また、ある時地元の駒込でも盆踊りが開催されているのを見かけ、小さいながらも屋台と提灯、揃い浴衣のご婦人方が踊る雰囲気がよくて、思わず泣きそうになりました。こうしたお祭りの雰囲気が好きで、自分は踊ることよりも場を作ること、盆踊りを未来に残したいという思いが、強くなりました。」

郡上おどり、徹夜おどりの最終日岐阜・郡上八幡での郡上おどり。毎年8月13日から15日に行われる、徹夜おどりの最終日

2. 郡上おどりとの出会いから、盆踊りを継承する使命感を得る

鳳蝶さん:「卒業論文は郡上おどりの『かわさき』に関するものでした(笑)。
初めて郡上八幡に行った時、生のお囃子と何万人も踊る雰囲気に圧倒されましたね。そして郡上おどりが自分の中で一つの大きなターニングポイントになり、青森の黒石よされや、鹿児島おはら祭など、地方へ「遠征」することも増えました。
地方(じかた/演奏を受け持つ人の意。舞踊をする人を立方<たちかた>と称するのに対する語)で踊ることの魅力を一人でも多くの人と共有したい、中野の唄をはじめ、地方(ちほう)の盆踊りを知ってもらいたい、体験してもらいたいという思いが、中野駅前大盆踊り大会を開催するきっかけになりました。」

郡上おどりin青山外苑前・秩父宮ラグビー場駐車場で開催される【郡上おどりin青山】

一方、東京では若い人の中に『東京音頭』を踊れない人がいるという現状に危機感を感じ、自分の使命感を感じ始める鳳蝶さん。「盆オドラー」なら一度は目にしたことがあるYouTubeでの振付画像を、いち早く制作し、盆踊りの継承に向けて動き出します。

盆踊りレッスン風景レッスン風景。盆踊りの基本的な動きを練習する

鳳蝶さん:「このままだと東京の盆踊りが廃れてしまう。この文化を後世に残していくためにできることは何だろうかと考え、動画で振付をUPしていくことを始めました。
2003年、ミクシィでGIF画像を上げたのが最初でしたね。その後YouTubeのサービスが開始され、動画を残すようになったのですが、当時はだいぶニッチなことをしていました(笑)。その頃は呉服屋で働いていたのですが、お客さまから『あなた盆踊りの動画の方よね?』と声をかけられるようになり、少しずつ口コミで浸透していくのを実感しました。
こうした使命感から、鳳蝶流一本で生きていく決心をし、現在日々精進している感じでしょうか(笑)。」

3. 日本盆踊り協会を旗揚げしたきっかけと活動について

どのような経緯で矢島さんが日本盆踊り協会を立ち上げたのでしょうか。また、その活動について教えてください。

矢島さん:「盆踊りを後世に引き継いでいきたい、というお話をしましたが、日本民踊・新舞踊協会さんや、いろいろな方からお話を聞かせていただく中で、民謡・民踊の世界では後継者となる若い方の少ないことが課題となっていました。
また、2020年に向けて、盆踊りの盛り上がる気運が高まっているものの、連携した組織というものはなく、インバウンドで日本に来る方も巻き込みつつ、盆踊りを盛り上げていくには、取り仕切ることのできる団体が必要だと感じました。
そこで2016年、僭越ながら一般社団法人として「日本盆踊り協会」を立ち上げました。

日本各地にある盆踊りをその地域だけではなく全国的に、さらには国際的にも普及させることで、地域活性化と世代間コミュニティの拡大に寄与することを目的としています。
活動はまだまだですが、実際に企業から取り組みに関する問い合わせも増えており、鳳蝶先生にも力をお借りして、いろいろな取り組みを進めています。」

稽古場の風景。三太郎音頭の振付が貼られている稽古場の風景。三太郎音頭の振付が貼られている

4. 多くのメディアに露出し、盆踊りの盛り上がりを実感する

鳳蝶流といえば、2012年12月に放映された「タモリ倶楽部」の『真冬の音頭ナイト』など、メディアへの露出も多く、盆踊り業界を牽引している印象が強いですが、どのようなことがきっかけだったのでしょうか。

鳳蝶さん:「2009年、YouTubeに動画を上げた『ドラえもん音頭』がきっかけでした。
これをご覧になった制作会社の方からお米のCM(農林水産省/めざましごはんキャンペーン)での振付の話があり、『タモリ倶楽部』での鳳蝶流のお弟子さんの出演、『はなまるマーケット』など、いろいろとお話をいただくようになりました。
2017年にCMが放映されたauの『三太郎音頭』では振付と表現を担当し、バックダンサーとして出演もしたのですが、反応が大きかったですね。

ここ何年か、盆踊りの会場で若い方や男性の参加が目立つようになってきましたが、盆踊りの盛り上がりということを肌で実感するようになってきたんですよ。誰でも親しみやすい盆踊りは、メディアとの親和性が高いのかも知れません。
メディアでの露出をきっかけに、盆踊りに興味を持つ方が一人でも増えたら嬉しいですね。」

第6回中野駅前第盆踊り大会の提灯第6回中野駅前第盆踊り大会の提灯(※)

5. 新旧の盆踊りが混在する中野駅前大盆踊り大会

鳳蝶さんは2013年から【中野駅前大盆踊り大会】を開催し、今年で6回目を迎えました。この盆踊りがユニークなのは、地方の生演奏による民踊と、J-POPで踊る曲とDJをフィーチャーしたクラブ的な踊り、伝統的なものとサブカル的なもの、どちらの面から楽しめるところです。
この盆踊りは、鳳蝶さんの地元・中野を愛する気持ちから生まれたものだといいます。

鳳蝶さん:「各地の民踊を経験していく中で、中野で生演奏の盆踊りをやりたい、街を盛り上がることはもちろん、何より自分のように、盆踊りが好きな人も初めて見る人も楽しめる場所を作りたいという思いが強かったんですよ。そこで中野区民謡連盟に話を持っていったところトントンと進み、実現できることになりました。
『東京音頭』や『炭坑節』といった定番曲、ご当地曲の『中野音頭』、郡上おどりの『かわさき』に『河内音頭』、『鹿児島おはら節』や『ドダレバチ(津軽甚句)』、『黒石よされ』など、ウチの地方ならではという幅広いレパートリーが、「盆オドラー」の心を掴んだのでしょうね。
一方、以前からクラブを貸し切っての盆踊りイベントを実施していたのですが、そのサブカル的な要素も取り入れようと思いました。」

盆踊りクラスでは、輪踊りのレッスンも行われる盆踊りクラスでは、輪踊りのレッスンも行われる

6. 盆踊りの懐の深さが成す、誰もが楽しめるイベント性

新旧の盆踊りが混在することで、他では味わえない濃厚な内容となった【中野駅前大盆踊り大会】。
地方の方にとって、J-POPを流すことや、DJを入れることへの反発はなかったのでしょうか。また、初めて参加される方が戸惑うことはなかったのでしょうか。

鳳蝶さん:「民謡連盟の皆さんは『あら休憩できるわね』と、意外にも快諾していただけました(笑)。様々な楽しみ方ができることで幅広い年齢層の方にも支持され、結果として中野らしい盆踊りになったのだと思います。
『サブカルチャーの聖地』である中野ブロードウェイを始め、中野はカルチャーの発信地ですから。ユニークな試みも受け入れやすい土地柄なのかも知れません。」

稽古場に飾られた鳳蝶氏の看板や、トロフィーの数々稽古場に飾られた鳳蝶氏の看板や、トロフィーの数々

矢島さん:「J-POPやDJの選曲で踊る時でも、鳳蝶先生の踊りには、既存の振付で踊るものと独自の振付で踊るもの、両方ありますね。
例えばサザンオールスターズの『希望の轍』は炭坑節で踊り、Perfume『Baby Cruising Love』は相馬盆唄で、黒うさP(feat. 初音ミク)の『千本桜』は中野音頭で踊る。きゃりーぱみゅぱみゅの『PONPONPON』はオリジナルの振付で踊る、といった感じで。」

鳳蝶さん:「J-POPは4/4拍子か2/4拍子が多く、カウント数も4拍子4小節の16カウントや、32カウントが多いので、既存の振付が当てはめやすいんですね。郡上おどりの『かわさき』なら16カウント、『炭坑節』なら『押して、押して』を4回押して、『開いてチョチョンがチョン』を『開いてチョン、チョチョンがチョン』にすれば32カウントになるような感じで。
昔から馴染みのある振付によって、ご高齢の方もポップスで踊ることができ、若い方にとっては『盆踊りって楽しいじゃん』と、親しみやすさを感じてもらえたのではないでしょうか。盆踊りの間口を広げるきっかけになれば嬉しいですね。」

【前編】では、お二人の盆踊りとの出会いや、中野駅前大盆踊り大会を開催する動機などの話を伺いました。引き続き、これからの盆踊りに向けての新たな取り組みや思いなどについて、お話しいただきます。
【後編】に続きます。

鳳蝶美成(あげはびじょう)

鳳蝶美成(あげはびじょう)
本名:瀧田哲成(たきたてつなり)
公益財団法人日本民謡協会教授、日本民踊・新舞踊協会指導員
日本民踊鳳蝶流 家元師範

6歳より母である石川流教授(当時)千桧香に民踊、舞踊を習う。
高校より演劇をはじめ、日本各地の民舞・盆踊りを指導する日本民踊『鳳蝶流』設立。
CM、TV出演・振付・指導と多方面に活躍。日本大学芸術学部卒。

日本民踊 鳳蝶流
http://ageharyu.com

矢島友幸

矢島友幸(やじまともゆき)
一般社団法人日本盆踊り協会代表理事

2003年「東京高円寺阿波おどり」に出会い盆踊りに目覚め、その後「郡上おどり」や「おわら風の盆」等の世界を体験。2016年一般社団法人日本盆踊り協会代表理事就任。
日本の盆踊り文化を盛り上げるべく、公益法人日本民謡協会・鳳蝶美成教授と一緒に活動中。

一般社団法人日本盆踊り協会
http://bon-odori.net

取材・文章・写真:大ちゃん/佐藤智彦
(※印の写真、鳳蝶美成氏のプロフィール写真:鳳蝶美成氏提供)

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