2019年からスタートした、観光経済新聞のオマツリジャパンコラム記事連載!2020年も「お祭り」をフックに、旅に出たくなる記事の連載をして参ります!奇祭好き、ケンカ祭り好き、お神輿好き…等、様々なライターさんに記事を執筆いただく予定ですので、ぜひご覧ください♪(オマツリジャパン編集部)
日常に溶け込んだ温かな集い
2018年9月。最大震度7を記録した北海道胆振東部地震の9日後、私は北海道にいた。以前から計画中だった旅行を諦めきれなかったのだ。ギリギリまで余震の状況や目的地である函館の様子を調べ、旅は決行された。新千歳空港からレンタカーを予約しており、事務所へ向かうと広い敷地にぽつんと建ったプレハブに到着。「ここも仮設ですか?」と地震の被害を思い、眉をひそめて尋ねると「いえ、これはもともとです」とスタッフの皆さまは大笑い。大変失礼なことを言ってしまった。
話を聞いていると、地震の影響は揺れの大きかった場所の物理的な被害に加え、北海道全体で相次ぐ観光客のキャンセルも顕著だという。こちらのレンタカーもこの日は予約の7割がキャンセルだそうだ。個々の判断の是非を問うつもりはないが、今回来て良かったと思った。
函館では食べて食べて、楽しく観光をした後この日の宿へ。夕方、飲み物を買いがてら宿の近くを歩いていると、提灯の明かりと楽しげな人々の声。お祭りをやっている! この日行われていたのは「天祐寺大根祭」。象の頭を持った神様(ガネーシャというとイメージしやすいだろうか)をお祭りしているらしい。その象牙に見立てて大根を奉納していたことから始まった祭りとのことだ。
境内に足を踏み入れると、直径1メートルはあろうかという大きな鍋が目に入った。のぞき込むと大量の大根がゴロゴロと煮込まれている。大根祭では訪れた人に、無料で大根鍋が振る舞われる。私も早速いただいたが、シンプルな昆布の優しい出汁(だし)が大根によく染みていておいしかった。
お祭りでは地域の人たちが、大根鍋やビールを手に、提灯の明かりの下、ゆったりとした雰囲気で立ち話をしたり、ステージでの出し物を楽しんでいる。この時は大根祭にちなんだ「大根役者」たちがおかしな動きで客席を沸かせていた。祭りを介して地域の温かな空気感に触れ、改めて北海道の活気が早く戻ればいいなと願った。