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‟御朱印”で地域に目を向けるきっかけ作り。小さな神社の取り組みをご紹介

2020/4/11
2024/2/29
‟御朱印”で地域に目を向けるきっかけ作り。小さな神社の取り組みをご紹介

宮司はおろか、神職も常駐しない。そんな小さな神社に参拝したことはあるだろうか?

都市部ではイメージしにくいかもしれないが、地方では祭事以外は1年の大半が無人である神社が少なくない。宮司はいくつかの神社を兼務している場合がほとんどだ。

今回は長野県の大北地域において、15の小さな神社を兼務する宮司が、その全ての神社において「御朱印」を制作した取り組みを紹介する。

代々神職の家系に生まれ、祖父、そして父から受け継いだ膨大な全国の御朱印を元に、自らがデザインを手掛け、さらには御朱印の授与所を自宅敷地内に建てた…という、宮司の取り組みを取材し、御朱印制作に込めた地域振興への想いを語っていただいた。

1.地方ならでは?複数の神社の宮司を兼務。

宮司を務める15の神社の内の1つ、中綱水神社。

都市部では想像しにくいかも知れないが、地方では宮司・神職が常駐していない神社は多い。一人の宮司が複数の神社の宮司を兼務し、お祭りの時だけ社務所を開ける他は、無人であることがほとんどだ。長野県もその例に漏れず、今回取材をした平林宮司もその一人。

平林宮司は長野県池田町、松川村、大町市、白馬村…と4市町村、計15箇所の神社の宮司を兼務している。
代々、宮司の家系に生まれた平林宮司は、小さな神社だからこそ出来ることに目を向け、新たに御朱印の作成と授与を開始した。そればかりか、御朱印の授与所を自宅敷地内に建設した…というから驚きだ。

2.御朱印製作のきっかけは、地域コミュニティの変化。

御朱印を書く平林宮司。

そもそも、なぜ御朱印を製作しようと思ったのか?その理由について質問した。
“きっかけは地域コミュニティの変化ですね。”と平林宮司。
自治会に所属しない家庭が増えている。当然、自治会に所属しないのだから、神社の氏子にも加わらない。どんどん「地域コミュニティに所属しよう」という意識が薄れていると言う。

“そんな中で自分の子供達もちょうど手を離れる時期になりまして。大学進学を機に地域外へ出て行ってしまうんですね。これから先のことを考えた時に、子供達がまた戻って来てもらう地域にしなくてはならない。それには戻るだけの魅力を持っていないと戻って来ないんじゃないかと。そう考えました。
御朱印についても私の代だけではなく、「後世に引き継ぐ」ことを考えた上での取り組みなんです。”
と、平林宮司。

またここ数年で、参拝者からの御朱印を求める声が多くなって来たことも理由の一つ。

御朱印をきっかけに地域外からも参拝者として足を運んでもらい、地元の方にとっても、もう一度地域の神社に目を向けるきっかけにして欲しい…
そんな想いから、平林宮司が神職をつとめる15の神社全てにおいて御朱印を制作するに至ったという。

3.デザインは宮司自ら考案。その理由とは?

平林家で親子三代に渡って収集された御朱印の数々。古いものでは90年前の御朱印も。全国の有名神社の御朱印が多数あり、時代による変遷を辿ることも可能。

御朱印を新たに製作するにあたり、デザインはなんと全て平林宮司自らが考案されたという。
今回新たに製作されたのは、もともと御朱印があった3つの神社を除き、12の神社。神社の歴史や、祀られている神様にちなみ、家紋や日本の伝統的な文様をモチーフにデザインされたとのこと。

宮司自らがデザインを手掛けた理由を伺ってみた。
‟平林家は代々、神職の家柄なのですが、祖父が日本全国の御朱印を熱心に集めていたんです。父親もそれを受け継いで、御朱印を集めておりまして…御朱印の本を自費出版するほどでした。”と平林宮司。

幼い頃から御朱印を見る目が肥えていた平林宮司だからこそ、自らデザインを手掛けることが出来たのだそう。

4.宮司が作った御朱印をご紹介!お祭り情報も。

御朱印巡りの「ぐるっとマップ」は、NPO法人ぐるったネットワークによる製作。

ここからは実際に平林宮司がデザインを手掛けた御朱印について、その一部をお祭り情報と共に紹介する。

①八方諏訪神社(白馬村)

※画像引用元:八王子神社 (信州.大町)御朱印さんぽHP

基本情報

所在地:白馬村北城5143番地
ご祭神:武御名方命

平林宮司が神職を務める15の神社の中で、一番北に位置するのが、こちらの八方諏訪神社だ。もともとこの地域が「細野」と呼ばれていたことから細野諏訪神社とも呼ばれている。

長野オリンピックの際にアルペンスキーの競技場となった八方尾根スキー場の麓に鎮座し、競技関係者の参拝も多いと言う。

こちらの御朱印はもともと四角い印のみであったが、平林宮司によって「白馬三山」を模った印を組み合わせて授与することになったそうだ。

お祭り情報

毎年9月には秋の例祭が行われる。特徴的な「岩神輿」の他、女神輿、子供神輿が賑々しく練り歩くのが特徴。祭りのクライマックスではこの地域で湧き出る「温泉」の湯のかけあいが行われる。

昨日は細野諏訪神社のお祭りでした。丸北前での岩神輿・女神輿と木遣りの様子です。

ベルクトール丸北さんの投稿 2018年9月25日火曜日

②中綱水神社(大町市)

※画像引用元:八王子神社 (信州.大町)御朱印さんぽHP

基本情報

所在地:大町市平19723番地
ご祭神:水波之売命

こちらの中綱水神社は、大町市にある3つの湖の内、もっとも小さな「中綱湖」の西岸に位置する神社。水の女神を祀っていることから、御朱印も優し気な印象にデザインしたという。

お祭り情報

秋の例祭は9月の秋分の日に行われ、舞台(山車)が飾られる。

③八王子神社(大町市)

※画像引用元:八王子神社 (信州.大町)御朱印さんぽHP

基本情報

所在地:大町市常盤163番地
ご祭神:天忍穗耳命/熊野久須毘命/天穂日命/活津彦根命/天津日子根命/佐依理姫命/多岐理姫命/多岐津姫命/事代主命/建御名方命/天児屋根命/武甕槌命/経津主命

八王子神社はもともと、京都の祇園・八坂神社より「八柱の御子神」を勧請して建立された神社だが、1816年にそれまで別の神社であった「五社神社」が合併され、以来、13のご祭神を祀る神社となった。

お祭り情報

八王子神社の秋の例大祭は毎年9月に2日間に渡って行われ、神楽獅子舞、浦安ノ舞、子供神輿、若キ連余興などが行われる。

④細野神社(松川村)

※画像引用元:八王子神社 (信州.大町)御朱印さんぽHP

基本情報

所在地:松川村5325番地
ご祭神:武御名方命/八坂刀女命/誉田別命

元々は諏訪社と八幡社が別々の場所に祀られていたが、明治時代に合併された。現在の「細野神社」の名称になったのは昭和9年になってからだと言う。本殿は1797年に建造されたもので、松川村の文化財に指定されている。

もともと、この地域は近くを流れる高瀬川の氾濫による水害が多かった地域。御朱印にも安定をあらわす「石」を模り、地域が安定するようにとの願いが込められている。

お祭り情報

この地域では舟型の山車を引くお祭りが各所で行われるが、細野神社でも秋の例祭では舟が曳かれ、地元の方に親しまれている。

細野神社 前夜祭です。
「オフネ」が地域を巡り、獅子舞も賑やかに奉納。
明日(敬老の日)は、例祭が三社。
10時 平・源汲神明社(舞台曳)
13時 松川・細野神社(オフネ、獅子舞、浦安の舞、子供神輿)
15時 西山・八王子神社(獅子舞、浦安の舞、子供神輿)
皆さまのご参拝、お待ちしております☺️

宗教法人 八王子神社 (信州)さんの投稿 2019年9月15日日曜日

5.御朱印制作だけで終わらない!授与所の開設

もともとあった土蔵を改修して建設された授与所。斜めに取った通路と、打ちっぱなしのコンクリートがモダンな印象。設計は長野県塩尻市のスタジオアウラ一級建築士事務所が手掛けた。

ところで、御朱印を制作したとしても、宮司が常駐していない神社では、参拝した際に御朱印を都度授与することは出来ない。この問題を解決するために宮司が採用したのは…なんと自宅の敷地内に授与所を建設してしまうという方法だ。
自宅の脇にある土蔵を改修して新たに御朱印専用の授与所を作ったのだという。

モダンな手水鉢には季節の花木が。授与所の内装はまるでアートギャラリーのよう。

‟新しく建物を建てた方が安く上がったかも知れないのですが…もともとこの土蔵は祖父が建てたものでして。祖父の代から、日本全国の御朱印をするのがライフワークで。その蓄積があったからこそ今回新しく御朱印を作ることが出来た。そんな意味も込めて、今回あえて祖父が建てた土蔵を活かすことにしました。”と平林宮司。

また、‟あまり宗教建築のようにしたくは無かった”との平林宮司の想いから、あえて現代的な雰囲気を採用したのだという。こんな所にも後世に受け継ぐため、これまで神社にあまり興味の無かった方に目を向けて貰いたい…との想いが込められている。

6.これからの取り組み

今回取材に応じて下さった平林宮司。

授与所は2020年3月から開所をスタート。開所時には、地域内外から15組ほどの方が訪れた。
今回の取り組みをきっかけに、はじめて神社に参拝をするきっかけを得た地元の方もいたとのことで、「近くに住んでいたけど、お参りしたことのない神社に行けて面白かった」と話していたという。
また地域外からは、片道2時間ほどかけて参拝した方もいらしたとのこと。

特設のWEBサイトもオープンし、Facebookでの情報発信も積極的に行っている。今後は更に神社のリーフレットや、御朱印帳、ライチョウ型のおみくじも配布をするとのこと。

小さな神社だからこそ柔軟に様々な取り組みが可能。大きな神社には出来ない、小さな神社の画期的な取り組みから今後も目が離せない。

御朱印の授与方法について

宮司宅 土蔵を改修し、授与所(御朱印所)を造っています。
*毎月1日 午前9時~12時 開所することにしました。
(当面は月/1日 朔日のみ)
https://hachiouji-jinja.net/

宗教法人 八王子神社 (信州)さんの投稿 2020年1月8日水曜日

御朱印は原則 毎月1日 午前9時~正午
八王子神社・東隣りの宮司宅の授与所でお授けいたします。

(御朱印さんぽ ルール)
御朱印は、神社参拝の証です。まず、それぞれの神社に参拝。携帯電話やデジカメで、各神社 境内の写真を撮影。
写真画像をお示しいただいた方に参拝された神社の御朱印をお授けいたします。

*小人数で対応しております。誠に申し訳ございませんが、お待たせするときもあります。時間には余裕を持ってお越しください。

八王子神社 (信州.大町)御朱印さんぽ HPより引用

取材協力:宗教法人 八王子神社 (信州)宮司 平林秀文様、奥様
Facebook:https://www.facebook.com/802.jinja/
HP:https://hachiouji-jinja.net/
参考文献:大糸タイムス「小さな神社にも御朱印 大町など9社平林宮司がデザイン」2019年12月13日(8)

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