近年若者を中心にブームとなりつつある御朱印集め。比例するように御朱印帳もまた人気を集めています。人気沸騰中の御朱印界隈。コロナもあってあまり話題には出ませんが、コロナ明けにはまた盛り上がっていくことが予想されています。
そんな御朱印界隈に2021年の夏、興味深いニュースが飛び込んできました。それは御朱印帳のデザインをコンペティション方式で募集するというもの。
いったいどんな会社が、どんな想いで行なっているのか、そしてどんな将来を描いているのか?お話を伺ってきました。
目次
老舗文具店から独立 体感した日本文具の強さ
調べてみると、御朱印帳コンペティションを“EggnWorks(エッグンワークス)”という企画の一部で主催しているのは、株式会社 TAG STATIONERY (タグステーショナリー)という会社さん、だとわかりました。
早速連絡をとり話を聞かせていただくことに。お相手いただいたのは、株式会社TAG STATIONERY中井 崇澄代表。
(以下、文中の「 」内は中井さんのコメント)
まずは、株式会社TAG STATIONERY についてお話を伺います。
「TAG STATIONERYはもともと、同じ京都にある文具店・タケダ事務機で、オンラインネットショッピングや企画などを行っていた部署でした。」
タケダ事務機とは、1986年に京都で創業した文房具屋さん。その名の通り事務用品の販売や、高級路線のオリジナル文具ブランドを展開しており、現在は京都を中心に16もの店舗を運営しています。特にオリジナルブランドは、他の商品と一線を画す存在感をはなっており、ファンの方々から熱烈な支持を受けているのだとか。
「ネットショッピングを立ち上げた当初は、オリジナル商品や他メーカーさんの商品を取り扱って国内販売用に運営していました。ところが、しばらくすると海外のお客様からお声がかかるようになったんです。
じつは日本の文具は海外と比べ品質が良く、また、例えば消せるボールペンだったり、スマートフォンと連動するだったりといったアイデアに富んだ商品が多いんです。一方で海外文具はほとんどが、基本の機能だけをもったシンプルなものなんですよね。
個人的には、日本の文具は世界で最高の文具なのではないか?と感じています。」
海外からの注文、卸販売を受け付けるようになり、現在は台湾やオーストラリア、ヨーロッパ、東南アジアなど多くの地域へ、文房具を輸出しているとこのこと。
3年ほど前、貿易関係のやりとりが増えたため子会社として独立。株式会社TAG STATIONERY が誕生したのです。
文具でアートを発信する EggnWorks
タケダ事務機店から子会社として独立した株式会社TAG STATIONERY で始まったのが、“EggnWorks(エッグンワークス)”という企画。
中井さんは次のように話してくれました。
「通常、製品を作る際には、企画・開発チームが集まって、製品開発会議をしますよね。ですがEggnWorksでは、デザインを公募し、投票で企画に沿ったデザインを選び出します。社会みんなで製品の企画・開発ができるようなプロセスをつくってみたんですよ。」
EggnWorksが始まったのは、2020年の1月ごろ。ちょうど新型コロナウイルスが猛威を振るい始めた時期であり、作品を応募に出すアーティストの目線から見ても、WEB上で全てのやりとりが完結するEggnWorksは、重要な意味を持てたのではないか?ともお話してくださいました。
「日本のアート市場は海外ほど大きくはありません。アートといえば、美術館などで鑑賞するものと捉えがちですが、そうではなく、海外では使う価値というのも存在しています。ヨーロッパなどと比較し分析してみると、やはり日本はまだまだアートの文化が浅いんですよね。
私たちはアートの使う価値を、文具という媒体を経ることで日本に浸透させていきたいと考えています。」
また、文具を売り続けてきた一人の人間として思うところもある、とお話を続けてくれました。
「とても個人的な話ですが、『日本の文具は機能が最高級、でもデザインはいまいち』という文具が多いように感じています。
日本には確かに良い文具が存在します。書き味が異常にヌルヌルしたボールペンや、筆箱に入るハサミなど、機能的なアイデア面の進化には驚きを隠せません。一方でデザイン面はシンプルなものが多いんです。
文具でも『デザインが超一級!』といったプロダクトがあってもいいのではないか……?と感じ、EggnWorksの企画を進めていった経緯があります」
サービス開始から調整を繰り返してきたEggnWorksのWEBページ。現在は、作家のプロフィールや作品を掲載できる、まるで作家バイオグラフィーのような使い方のできるページとなっているそうです。「アーティストの方々に発表の場としてつかっていただけたら嬉しい」と中井さんは話してくれました。
「御朱印帳は渋いものが多い」 トレンドとのギャップから生まれたテーマ
EggnWorksで2021年7月〜10月に行われていた御朱印帳企画。テーマは【和食】。どういった経緯でスタートしたものだったのでしょうか?
「御朱印帳コンペティションの企画は2021年の7月にスタートしました。
御朱印帳とは、神社やお寺を巡って御朱印を集める際に使う手帳のことです。若い世代の間で流行っていたため企画が始まったんです」
御朱印帳の応募を募るのは初めての取り組みだったため、どれぐらいの応募が来るのか心配だったそう。さまざまな募集方法を思考錯誤していった結果、Webを用いたプロモーションにくわえ、地元の美大芸大の校内でポスターを掲示してもらったり、チラシの配布などリアルでの施策も行ったりし、課題を解決していったとのことでした。
「若い世代から注目が集まっているのに、渋いデザインのものが多い、というのが御朱印帳界隈に対して抱いた感想でした。縛りのない御朱印帳があってもいいんじゃないか?と感じたんです。」
テーマの【和食】には、「神社、お寺をたくさん巡ってお腹が空くだろうから、おいしそうに見えるデザインだったら楽しいのではないか?」といった、小粋な意図がこめられているとのことでした。
今回選出された3作品はこちら。
・江戸前寿司
EggnWorks審査員からのコメント:寿司を通じて、江戸時代の町人の暮らしが伝わってくる。当時は寿司が流行の最先端だったのだろうと思わせる。寿司のイラストはカラフルではないにも関わらず、それぞれのネタがしっかり認識できるようになっており、ワンポイントの赤が映える作品に仕上がっている。
・左:YKONGR 右:ITWS
EggnWorks審査員からのコメント:装飾はほぼ無くシンプルに焼きおにぎりとお漬物を描いているが、非常に存在感のある画風で、生々しく美味しさが伝わってくる。オモテに焼きおにぎり、ウラにお漬物が描かれ、素朴な組み合わせはまさに日本的。
・GOSHUIN MUSUBI
EggnWorks審査員からのコメント:伝統的な柄や渋いものが多いご朱印帳だが、この作品はポップさ全開。独自のキャラクターを登場させ、絵本の一コマのようになっており、表現の可愛らしさが秀逸。
EggnWorksのプロダクト、将来の在り方とは?
現在はノートブックのデザイン募集を行っているEggnWorks(【第4回】ノートブックの表紙デザイン−NoteBook− 2021/8/2/~2022/2/28)。中井さんは、これまでに行ってきたコンペティションも踏まえて、EggnWorksの想いを話してくれました。
「EggnWorksのプロダクトのメインは作品です。必ずしも、御朱印帳やノートである必要はないと考えています。今後も社会の様子を鑑みつつ、どの文具を媒体とすればより多くの方に使ってもらえるかを考え、いろいろな媒体でコンペティションを展開していきたいと思っています。」
「EggnWorksの原点は、アーティストの発表の場。たくさんのアーティストに利用していただけるよう、これからもっと認知を広げていきたいと考えています。またWebページも少しずつ進化を重ねてきています。いつかは、閲覧するだけでなく、アーティスト同士がコミュニケーションをとり、交流やコラボレーション、共同プロジェクトなどを行っていく場になっていったら嬉しいと思っています。」
おわりに
会社の一部署からスタートした会社が仕掛けた、EggnWorks。集まってきたアーティストたちはきっとそこで切磋琢磨しながら成長し、また新たな世代を育てるための活動を行っていくのでしょう。
アート市場や、文具のデザインなど、文房具屋さんから出発したからこそ気がつけた、日本の未熟な点。「なんとかしたいな」という想いから始まったEggnWorksという風は、いつか大きな旋風となっていく予感を感じさせてくれました、
媒体を増やしていく過程では、他企業や製造工場との連携も視野に入れているといいます。アーティスト同士の交流構想など、今後の展開が楽しみですね。
EggnWorksの文房具は下記のリンクよりチェックできます。今回の御朱印帳も販売されますので、気になった方はぜひ購入されてみてはいかがでしょうか?