4月29日から5月5日のGW期間中、#花火駅伝として日本全国200カ所以上で花火が打ち上がりました。もしかしたら自宅周辺で打ち上がり運よく観覧できた人もいたのではないでしょうか。また、テレビのニュースやSNSなどで写真や動画を見た人も多かったと思います。
オマツリジャパンでも当日の様子やまとめ記事などを出させて頂きましたが、今回は駅伝らしくアンカーとして各種メディアでは伝えきれなかった内容を記事にしてみました。本企画の広報担当である株式会社若松屋 竹内 直紀氏に御協力いただきオンライン取材で伺った内容を元にしています。
#花火駅伝 とは
愛知県西尾市に本社を置く株式会社若松屋で営業職を行っている御自身、竹内氏が以前より計画していた企画になります。昨年から続く新型コロナウイルスの影響で花火業界は壊滅状態。煙火店によっては前年比の売り上げ90%減になっており、花火製造工場は休止、従業員は休業手当や別業種のアルバイトなどをして何とか食いつないでいる状態です。
そんな中、「花火のチカラで日本中を笑顔に」をテーマに主催者である若松屋から日本全国の煙火店に声を掛け、それぞれが顧客である花火大会の実行委員や自治体などにGW期間中に花火を打ち上げられないかと提案し、協力を得られた事で少しずつ開催地が増えていきました。
そして、もう一つ若松屋が協力を得られたこの企画に欠かせない企業、Twitter Japanです。Twitter社は主催者ではなくメディアパートナーと言う位置付けで情報の拡散を担当します。本企画に参加した花火大会などのアカウントをTwitter運営がピックアップする事でフォロワーが少ないアカウントでも、ライブ中継や写真などで花火の様子を沢山の人に見てもらう事ができ、日本だけではなく、コロナ禍により元気がない世界中の人々に花火を届ける事ができます。
また、開催の2週間ほど前にはTwitter上で笑顔にまつわるメッセージを募集しました。応募方法はツイートする際に「#花火駅伝」のハッシュタグをつけるだけ。当選した方は、自分のメッセージが当日打ち上がる花火玉に貼り付けられます。その特別な花火が打ち上がるのは、北海道、福島、新潟、茨城、愛知、大阪、岡山、徳島、福岡、鹿児島の計10カ所、それぞれ3号玉(開花直径約90m)を10発と日本各地をリレーしながら打ち上げられました。
特殊花火の製作は全て煙火店が行い、主催者から用意された紙を自社で製造した花火玉に貼っていきます。10玉とは言え、普段と違う紙を直径約9cmの花火玉に貼っていくのは、なかなか手間の掛かる作業です。花火駅伝はそんな小さな力が少しずつ集まり盛り上がっていきました。
花火駅伝の参加条件
花火駅伝に参加する条件は大きく分けて2つになります。1つ目はGW期間中に花火打ち上げる事。#花火駅伝 と銘打って一つのイベントを行うには期間の取り決めは必須です。しかし、それ以外は全て主催者の裁量にゆだねています。花火を打ち上げる日にち(GW期間中であれば)、打ち上げの時間、花火の号数(大きさ)、打ち上げの長さ(何分間)、周辺住民に告知するorしないなど、参加するにはかなり自由な取り決めでした。きっとこの参加しやすさが好評で200カ所もの会場になったのだと思います。
もう1つは煙火店が資金を出さない事。昨年行った「CHEER UP!」花火プロジェクトは、もちろん小規模でも花火を打ち上げられる切っ掛けを作った素晴らしい企画ではありましたが、あれは1回限りの特別なイベントになります。煙火店が実費で花火を上げる事が定例化してしまうのは業界的にあってはいけない事です。
煙火店はコロナ禍において大変な側にいる人達です。元々、人を喜ばせる為の仕事であり、このコロナ禍で頑張っている医療従事者などを元気付けたい気持ちもあると思います。しかし、彼らも霞を食べて生きている訳ではないし、プロとして仕事としてやる以上、スポンサー獲得を条件としました。
なぜ若松屋なのか
花火に馴染みがない人は勿論の事、馴染みがある人でも「なぜ一企業の煙火店である若松屋が?」と思った人もいるかと思います。玩具花火メーカーのイメージが強い会社で競技大会でもそれほど名前を聞かないし、担当する花火大会も多い訳ではありません。
煙火店で有名な所だと、東京都の丸玉屋、茨城県の野村花火工業、長野県の紅屋青木煙火店、山梨県のマルゴーなど、花火大会を手掛ける数だったり、技術が優れていたり、また日本煙火芸術協会や花火推進協力会などの花火師の団体でもありません。しかし煙火店からの視点で言えば、若松屋はなくてはならない企業であり、今回のコロナ禍で最もダメージを受けた企業の一つと言っても過言ではありません。
花火大会では、日本の花火師が作ったいわゆる国産の花火だけで開催されている花火大会は滅多にありません。勿論、予算の関係もありますが、ミュージックスターマインなど超高速で花火が消費されるプログラムまで国産の花火を使う為にはどう頑張っても職人の数が足りません。また主催者側から多くの打ち上げ数量を求められる傾向にある以上、どうしても海外の輸入玉に頼らざるを得ません。
若松屋ではそういった小型の花火を海外の工場で生産して、全国各地にいる煙火店に小ロットで販売する卸業者の役割を担っています。その為、通常の煙火店だと数棟ほどの火薬庫が150棟以上と言うとんでもない数を持っており、毎年3月には顧客である煙火店を集め、その年に一押しである輸入玉での新作花火のお披露目会を行ったりしています。現在は花火大会がなくなり、膨大な花火の在庫を抱え、大変な思いをしています。しかし、そんな理由で全国の煙火店にネットワークを持っており、今回の企画が行えたのです。
若松屋による花火のチカラPROJECT
若松屋では昨年、2020年には医療を支援する『花火のチカラ』と日本の伝統の花火を守る『花火の力』と言うプロジェクトを行いました。
現在も医療従事者の方々は日々、一人でも多くの命を救う為に、そして医療崩壊をさせない為に必死で頑張っています。そんな想いに応えるためにも主力商品でもある玩具花火を使って『花火のチカラ』と言うおもちゃ花火セットの商品を販売し、売り上げの10%を国立国際医療研究センターに寄付する活動を行いました。その合計は2,200,980円にもなったそうです。
そしてもう一つは、国産の手持ち花火セットと実際の花火に使われている玉皮に飴を詰めた『花火の力』。こちらも同じく売り上げの10%が地元の未来に行われる花火大会の資金として協賛されました。このコロナ禍において花火業界は先行きが分かりません。日本の伝統文化である花火大会を、次世代に残す為には資金が必要になってきます。
若松屋では今年の夏にも『花火のチカラ』
#花火駅伝 当日の様子(福島県須賀川市)
私は福島県在住のため、初日である4月29日に県内の須賀川市で行われた花火駅伝を取材してきました。担当は地元須賀川市の煙火店、有限会社糸井火工になります。スポンサーには糸井社長の先輩がいる同じく須賀川市の福陽ガス株式会社がなってくれたそうです。19時から5分間で最大号数は尺玉(開花直径約330m)が打ち上がりました。最後はちょっとしたトラブルもありましたが、久し振りに心地よい大輪の花を見られて良かったです!
須賀川市で花火見てきた🎆
糸井さんの花火で見れてよかった😊
かなり近かった😆#花火駅伝#糸井火工#花火 pic.twitter.com/dGqIodDLA0— cha (@charon0328) April 29, 2021
打ち上げ場所は須賀川駅からも見える位置にあり、きっと多くの人が見てくれたと思います。しかし、テレビ局や新聞記者など、自分達の様な報道関係者だけが事前に情報を得られ、絶好の位置で見られる花火でちょっと寂しい気持ちにもなりました。早くみんなが集まる花火大会になって欲しいものです。
#花火駅伝 を終えて
日本全国を花火で埋め尽くした2021年のGW。大きな事故もなく無事に終わり、スポンサーや花火師など関係者の皆様、お疲れ様でした。「楽しいことがやりたい!」「みんなで笑顔になれる時間が作りたい!」という想いで始まったこの企画。全国のみんなが繋がって何かを行う際に使える言葉は何だろうと考えた時に思いついたのが「駅伝」だったそうです。
そもそも花火は人に見て貰ってナンボの物だし、人を集めない、短時間、少量しか打ち上げられない。そんな本来あるべき姿の花火とは真逆な事をせざるを得ない時代が来るとは夢にも思いませんでした。花火師の皆さんはもっと複雑な心境だと思います。大観客の中で喜んで貰うために何か月も掛けて作ったのに限られた人しか見る事ができない現状は非常に残念です。
少しずつワクチンの普及も始まって明るい兆しもありますが、変異株もあってまだまだ予断を許さない状況です。一刻も早くコロナが終息し、以前の様に当たり前に花火大会ができる日が来るのを心から願っています!