Now Loading...

馬は、神様の乗り物だった。祭りには欠かせない”お馬さん”にインタビューしてみました!

更新日:2020/6/8 どんぐり圭子
馬は、神様の乗り物だった。祭りには欠かせない”お馬さん”にインタビューしてみました!

こんにちは。前世は馬だった(と思っている)どんぐり圭子です。今日は、お祭りの裏方、いやたまにはメインキャラにもなる“お馬さん”の気持ちになってオマツリをお伝えします。

はじめに【絵馬】の意味を解説

絵馬

「絵馬」に願い事を書いたことがありますか?

どこの神社にもある「絵馬」ですが、最近、板に描かれるイラストにその年の干支の動物絵が多くなりましたね。ところが、元々は「馬」でなければならなかったんですって。

それは、古代、馬が神様の乗り物と言われ神聖視されていたから。昔は、馬を神様に奉納していたんだそうです。それが今では本物の馬ではなく、絵で描いた馬を奉納し、同時に願い事も神様に届けてもらうようになったんですね。

このことを伝える古い祭りが福島県南相馬市に残っています。国の重要無形民俗文化財に指定されている「野馬懸(のまがけ)」です。多くの馬の中から神のおぼし召しにかなう馬を捕らえて奉納するという神事です。

相馬野馬追執行委員会HP:野馬懸はこちら
http://soma-nomaoi.jp/tradition/nomagake/

この神事は、もともとは野生馬を敵に見立てて実戦形式で行う軍事訓練でしたが、鎌倉幕府が各地の軍事訓練を禁止しても、神に奉納する馬選びの神事であるという名目で続けられ今日に至りました。

「相馬野馬追」として、超有名で超カッコイイ「甲冑競馬」と「神旗争奪戦」は、今は、本祭りとして神事とは別の日程で行われています。

相馬野馬追のページはこちら

【農家で働く馬】にインタビュー

それでは、色々な行事で活躍するお馬さんにインタビューしてみるね。

古くから人間とかかわりのある馬ですが、ちょっと前まで(と言っても100年ぐらい前かな)馬と人間は、一緒の家に暮らしていたって知っていますか?

同じ一つ屋根の下、または離れに私たちの部屋(納屋)があったのよ。少々向きや造りは異なりますが、だいたい日本中の農村や山村にあった藁葺の家が同じような感じで作られました。

「私たち、農家の馬は、犂(すき)や鍬(くわ)をつけられると田畑を耕すのだなとわかったし、荷車をつけられると遠出だなとわかるのよ。私たちは、人間の労働にはなくてならないパートナーだったの。

父ちゃんと町に米や野菜を売りに行った帰り、その金で飲んだくれて、いや、疲れて荷台で寝ている父ちゃんが手綱を引かなくてもちゃんと家に帰るという光景は、特別珍しいものでもなかったのよ。遠い道のりもちゃんと覚えているからね。すると母ちゃんが餌と水をたっぷり用意して待っているの。『お前は、よう働いたなあ、ありがとう』と言いながら、父ちゃんより先にお世話してくれていたものでした。

農業が機械化されると、私たちはだんだん家で飼われなくなってしまった。乗馬や祭りにでることが増えたので、新しいことを覚えなきゃならなくなったのよ。でも、今、馬の数が減ってどこの祭りでも馬の確保が困難になっているの。だから、あれこれ覚えさせられて、あちこちで使われるようになったの。でもね、私たちはただの道具ではなくて、パートナーよ。お互いの信頼があればこそ、いい仕事をするのよ。」

いわての文化情報大辞典HP:昔の農家の間取り図が見たかったらこちら
http://www.bunka.pref.iwate.jp/seikatsu/jyutaku/data/nouka2.html
http://www.bunka.pref.iwate.jp/seikatsu/jyutaku/data/nouka1.html

川崎市立民家園HP:昔の家について知りたかったらこちら
http://www.nihonminkaen.jp/facility/old_folk_house/

【流鏑馬(やぶさめ)で走る馬】にインタビュー

流鏑馬とは、走る馬の上から矢を放ち、板の的に当てる競技です。

「僕の背中に乗って矢を射る術は、古くは平安時代の宮廷行事にもあって、その後も武士のたしなみとされたんだよ。今では全国の神社で神事や奉納、競技という形で残っているね。

流鏑馬の馬は、みんなにはただ走っているだけに見えるかも知れないけれど、かなり神経使っているんだよ。流鏑馬の前には、神事があって特別な水を飲んだりお払いを受けたりするから、ああ、これから走るんだなってわかるよ。観客はいるし、的が当たったときのどよめきは大きいし、僕たちだって慣れないと緊張する。

流鏑馬は200mくらいを一気に駆け抜けなければならないので、助走なし。それでスタート直後からスピードを出さなきゃいけないから、走る直前に小さな円をくるくる廻って士気を高めることもあるよ。馬上の射手の緊張は、もろに僕たちに伝わるからね。だから始まる前はちょっとピリピリしてるんだよ。射手が僕のやわらかくて敏感な腹に合図を出すと(蹴るんじゃないよ!)後ろ足で強く地面を蹴って飛び出すんだ。しかも、射手は、矢を構えて討つことに集中するから、速度を緩めないように一定スピードで走るんだ。

走る練習は特にしないけど、射手とうまく息を合わせる練習はする。僕たちの足の動かし方によって、振動が少ない『常歩(なみあし)』、上下に揺れる『速足(はやあし)』、そしてブランコのようにゆったりと前後にスイングする『駆歩(かけあし)』とあって、それぞれスピードが違うから、射手には徐々に僕たちの動きに慣れてもらうんだ。本番の流鏑馬は、それより早くて、全力で走る『襲歩(しゅうほ)』で行うんだよ。距離が短いので、競馬みたいなスピードにはならないけど。

近くで流鏑馬が行われるときには、見に来てね。」

日本馬事協会HP:全国の流鏑馬情報はこちら
https://www.bajikyo.or.jp/festival_12.html

【お田植え祭で泥んこになる馬】にインタビュー

宮崎県美郷町観光協会:御田祭(おんださい)はこちら

「ヒャッホー!イエーイ!泥しぶきを上げて、ぬかるんだ田んぼを走り回る。誰が考えたんだ、こんな面白い神事。鞍なしで騎乗すると、汗をかくオレの背中は滑りやすいぞー。落とさないように気をつけてやっているつもりだが、落とすと客が喜ぶ。もっと暴れてやろうか。オレの体に付いた虫を泥で落とすいい機会だ。大好きだ、この神事。と言うと暴れ馬のように聞こえるかもしれないな。

この季節になると、オレたちは水の中とぬかるみを歩く練習をする。そして、オレの背中にいきなり人が乗る。乗った人は、オレの体温を感じるというが、オレだって鞍や荷物にはないオマエの生暖かさを感じているのさ。オレは、犬と違って汗をかくからオマエのパンツには塩が付くぞ。

大きな声じゃ言えないが、実は、オレたちは、転ぶのを恐れている。足にダメージを受けるのを恐れている。だから泥に足を取られないように、前足を高く上げて走る。だから泥しぶきが上がるんだ。もともと草食動物で、肉食獣に襲われた時に逃げる足は最も大切なんだ。オレらが大胆に走り回れるのは、水の入った田に石などが無く、足を取られないと人間を信頼しているからなんだ。

この神事では、目の中に泥が入るんだよ。終わったら必ず目を洗う。泥が入ったままだと病気になるからね。目ン玉をかっと開かれて、まぶたをくるりと返されて徹底的に洗われる。痛いけど大切なことだ。オレらの上げる泥しぶきにかかると一年間、無病息災だって言うから、見るなら近くに来いよ。」

御田植祭は、田植えの時期に行う豊作祈願の神事です。早乙女が田植えをする行事が全国各地にあります。所によっては、晴れ着の牛が田に入ることもあります。上の動画の宮崎県美郷町(みさとちょう)の御田祭(おんださい)は、牛馬や神輿(みこし)を繰り出し、無病息災、五穀豊穣を祈願する農耕行事です。宮崎県の無形民俗文化財にも指定されています。

御田祭のページはこちら

チャグチャグ馬コで【行列に出る馬】にインタビュー

盛岡市HP:チャグチャグ馬コについてはこちら
http://www.odette.or.jp/?p=1351

盛岡市HP:チャグチャグ馬コの動画はこちら
http://www.odette.or.jp/information/media/chag.mp4

京都市観光協会HP:時代祭はこちら
https://www.kyokanko.or.jp/jidai/gyoretsu.html

「ここでは、お行儀よくパカパカと歩かなければいけませんの。スピードは、人間の皆さんと同じくらいでね。大切なことは、決して、お侍さんやお姫様を振り落とさないこと。でもね、私の目は顔の側面にあるので、自分の真後ろ以外はしっかり見えています。動くものは気になるので、横や後ろが見えないようにブリンカー(目隠し)を付けてもったら気が散らないし、驚かないから振り落とすことも無いでしょう。

祭りの前は、人を乗せてゆっくり歩く練習をしています。体を拭かれ、鞍をつけられると人を乗せるんだなとわかります。時々、悪気はないけど、綱をもつ人の足を踏んずけることがあるんです。重いけどそんなに痛くないわよ、大げさな声上げないでほしいわ。

本番の日、人垣は、森の中の木々だと思えば気になりません。耳は、片方ずつ180度動かすことができるので、どっちの方向を向いているかを見れば、私が何を聞こうとしているかがわかるでしょう。私の耳は、高い周波数の音なら人間の皆さんより良く聞こえるの。だから、群衆のざわめき・奇声・車のクラクションなど普通に考えられる騒音には慣れていても、反応してしまうのよね。

あ、それと、私の尻尾がピンと上がったら見ても見なかった振りをしてね。私の糞は、草食だから全然臭くないのよ。肥料としては最高だし、乾燥させれば燃料にだってなるのよ。」

ジャンカン馬踊りで【ダンスをする馬】にインタビュー

鹿児島県観光サイト:「初午祭」(鹿児島県霧島市)はこちら
http://www.kagoshima-kankou.com/event/20052/

広報きりしまチャンネル

たびらい宮崎観光情報:「ジャンカン馬踊り」(宮崎県三股町)はこちら

http://www.tabirai.net/sightseeing/column/0008461.aspx

「太鼓、三味線、鉦(かね)の音を聞けば、踊り出す。あたしゃ、ひょうきん踊り馬、あたしの後ろには一緒に踊る人がたくさんついてくる。あたしは、鈴を付けているので『鈴掛け馬』、鈴の音から『ジャンカン馬』、物もうでの馬という意味で『ものめい馬』、花飾りなどしているので『装束馬』などとも呼ばれているんだよ。

あたしの踊りは、首を上下に振りながら、細かいステップや軽く後ろ足ジャンプするのとか色々混ぜて、少しずつ前進していくよ。長年やっていると音楽が鳴りだしたら、あたしゃすぐに足踏みを始めるね。稽古と称してオヤジが音楽かけると納屋の中でも踊っている。条件反射ってやつかしら。

でもね、馬のあたしにとっては、すごいことなんだとわかっておくれね。進化の過程で、中指だけが発達して蹄(ひづめ)になったのは、大地を蹴って早く走るためなの。横歩きは得意じゃないけど、たまには前足を交差気味に出したりもできるんだよ。左右と後ろに人間がついて、あたしの進む道をガイドしてくれているのさ。あたしがちょっと疲れて動きが悪くなると、この手綱取りが軽快に踊るようにと手綱で合図して来るんだよ。あたしゃ、疲れてんのにさあ。」

馬が踊る祭りは、旧薩摩藩だけに見られるんだけど、ほかの場所でも ありますかー?あったらぜひ教えてね。

★おまけ★【日本在来馬】にインタビュー

みんなの乗馬HP:在来馬についてはこちら
http://www.minnano-jouba.com/mame_chishiki02.html

今、祭りで見かける馬は、明治時代に輸入された馬の血が混ざったものがほとんどです。扱いやすいく力が強いので、農林作業に従事させられた馬たちの子孫です。在来馬は、もともと日本にいました。弥生時代から古墳時代に朝鮮半島経由で来たと言われています。南の島経由の馬もいるという説もあります。在来馬は、外国から来た馬と交配することなく現在まで日本で残ってきた貴重な馬たちです。現在合計8種類、北海道和種・木曽馬・野間馬・御崎馬・対州馬・トカラ馬・宮古馬・与那国馬の仲間がいます。

「ボクたち、体は小さくてポニーくらいだけど力があるんだよ。大きな馬がいなかった昔は、馬と言えばボクたちのことだったんだ。おとなしく人懐っこいから、子供向け乗馬など観光を手伝っているんだ。みんなに好かれていると思ってるけど、どうですか?でも数が少なくて集団を維持していかなければならないから、保護されないと絶滅するかもしれないんだよ。ボクたちのこと、どうかよろしくね。」

みんなの乗馬:馬の種類についてはこちら
http://www.minnano-jouba.com/mame_chishiki05.html

外国では、使用する目的に応じて、扱いやすい馬を作って種類を増やしてきました。品種改良がなされ力のより強いもの、スピードのあるもの、ジャンプに優れたものなど様々な種類がいます。一方、日本では昔からスピードよりも力を求められました。日本では、おもに馬は力仕事に利用され、武士の時代になって、扱いにくい馬を乗りこなす技術が尊敬されました。今、お祭りで見かける馬は、明治時代に輸入され、日本の馬と混血していった馬たちの子孫がほとんどです。

ここには全部出せませんでしたが、馬が活躍する神事や祭りはまだまだたくさんあります。中には、伝統か動物虐待かという賛否両論ある行事三重県多度大社の祭りの中で行われる「上げ馬神事」もあります。この祭りでは、馬が約2mの絶壁を一気に駆け上がらせられます。武士が台頭して人馬ともに生死をかけて戦った時代の名残があり勇壮ですが、かなり危険です。日ごろ戦う必要のない現代の馬には、かなり無理を強いているのかもしれません。

馬は、人間の身近にいました。数が減って、祭りでしか皆さんと出会わなくなりましたが、心通わせて一緒に時代を切り開いてきたのです。祭りファンの皆さん、馬はただの道具ではなくて、パートナーです。お互いの信頼が一番大切なんだって、どうか、馬のことも忘れないでくださいね。

トップ画像:Lerner Vadim / Shutterstock.com

この記事を書いた人
オマツリジャパン オフィシャルライター
伝統芸能の保存に力を注ぐ一方で、今風に楽しもうと思っています。素敵なお祭りをたくさん発信していきたいな。

オマツリジャパン オフィシャルSNS

あわせて読みたい記事