日本の夏の風物詩といえば、浴衣に花火、そして「盆踊り」ではないでしょうか。毎年、お盆の時期になると日本各地で様々な盆踊りが開催されます。地元のお祭会場で櫓(やぐら)を囲み、曲に合わせて盆踊りを踊ったことのある方も多いと思います。町内の催し物や幼稚園の行事の一貫といったイメージが強いかもしれませんが、実は盆踊りは「お盆で帰ってきた先祖の霊を迎え送り、供養するための踊り」といった深い意味が込められているのです。今回は、盆踊りの成り立ち、ルーツから種類や踊り方、身につけるものまで徹底解説していきます。
盆踊りとは?
盆踊りとは、お盆の時期に大人数で集まり、輪になって歌や音頭に合わせて踊る踊りのことです。元々は三味線や太鼓などの楽器演奏に合わせて踊っていましたが、最近ではCDやMP3などの音源を流して踊るところが多いです。
お寺の境内や幼稚園の園庭に提灯で飾った櫓(やぐら)を建て、集まった人々が櫓の周りを回りながら踊ります。地域によってはお面や覆面を付けたり、鉢巻を巻いたり、うちわや印籠などのアイテムを身に着けて踊ったりするところもあります。
老若男女問わず誰もが参加できて、振り付けを覚えなくても見様見真似ですぐに踊れるのが魅力であり、最近では来日する外国人観光客にも人気のアクティビティとなっています。
盆踊りの由来と歴史
本来、お盆に帰ってきた祖霊を慰める霊鎮め(たましずめ)であった盆踊り。その歴史は古く、500年以上前までさかのぼります。最も古い盆踊りの記録が1400年代、お盆に風流踊りを踊った記録が有識者の日記に残されています。
盆踊りのもとになったと言われている「踊り念仏」も、約700年前に書かれた国宝・「一遍聖絵」(いっぺんひじりえ:仏教の1つである時宗を始めた人物・一遍上人が自身の一生を物語と絵で描いたもの)にて、神奈川県藤沢市の片瀬や長野県の佐久で行われた光景が描かれています。この踊り念仏が様々な変化を経て、現在の盆踊りになったと考えられています。
盆踊りというと、今でこそ老若男女問わず、家族でも楽しめる健全なイベントと言ったイメージがあります。しかし、現代のような娯楽がなかった時代では、風流(人を驚かす華美な趣向)で派手な踊りが風紀を乱すイベントとして、室町~明治時代まで何度も禁止令が出されていたのです。
明治期に文明開化が起こると、新しいものが良しとされ古くからある風習は廃れていき、盆踊りも冬の時代を迎えます。大正デモクラシーで日本の文化が再評価されると、昭和に民謡の保存活動が始まり盆踊りも再び元気を取り戻します。時代の流れとともにその姿を残したり、形を変えたりして現在の盆踊りがあるのです。
盆踊りの種類と代表曲
前述したような経緯を経て、盆踊りは形を変えて様々な種類に派生しました。全国各地に今も数多くの盆踊りが存在しますが、その数は何万人も訪れる大規模なものから、町の小さな集会所などで行われるものまで大小様々であり、正確な数も定かではありません。しかし、その種類を大きく括ると、伝統系と現代系に分けられます。
その中でもさらに細分化され、阿波おどりなどの伝統進化系盆踊りや、炭抗節などの民謡踊り、「東京音頭」など新民謡・流行歌や、「ダンシング・ヒーロー」などJ-POPで踊る盆踊りまで、その他にも様々なものがあります。
また最近では、騒音対策のため音楽をスピーカーで流す代わりにFM電波など飛ばして参加者がイヤホンで聞きながら踊る「無音盆踊り」なるものまで登場し、話題になっているとか。この項目では盆踊りの種類や使われる音頭(歌)、楽曲をご紹介していきます。
風土や歴史を語り継ぐ「民謡」
民謡踊りは、元々あった地域の民謡を昭和期の保存活動で、変遷、洗練し全国区になったものです。「炭坑節」や「相馬盆唄」、「ソーラン節」などが挙げられます。盆踊りで最もポピュラーとも言える曲、「炭坑節」は福岡県の民謡で、曲が短く振付も簡単なので子供からお年寄りまで気軽に踊れる一曲です。元は炭鉱労働者の間の民謡で、スコップで地面を掘る動きが振り付けのモチーフとなっています。
全国的に有名な民謡で学校や体育祭でも踊られる「ソーラン節」も、盆踊りの定番曲です。ニシン漁の歌というのは有名ですが、北海道の日本海沿岸にて、巨大な網でニシンを揚げる時に歌われていた「沖揚げ音頭」が変化したもので、「ソーラン、ソーラン」というフレーズは気持ちを高めるための掛け声と言われています。
時代を色濃く映し出す「流行歌」
流行歌(新民謡)は大正時代の新民謡運動を契機に、地名やその土地の名物を歌詞に織り込んで作曲されたもので、「東京音頭」などがその代表例です。「東京音頭」は関東大震災で壊滅した東京の不況を吹き飛ばす景気づけに、それまでになかった都会の盆踊りを企画しようとこの曲が作られました。
歌詞には数寄屋橋や丸の内などの地名が織り込まれ、当初は「丸の内音頭」という名前で日比谷公園の盆踊り大会で初披露されました。翌年に東京音頭と名前を変え、歌詞にも東京全般を織り込んだものに変更されて「東京音頭」に至ります。現在は盆踊り以外にも、プロ野球チームのヤクルトスワローズの応援歌としても定着しています。
子供からお年寄りまで楽しめる「歌謡曲・J-POP」
盆踊りの定番曲は、民謡や昔の曲だけではありません。一部の地域では盆踊りの新しい定番曲として歌謡曲やJ-POPが使用されています。
愛知県や岐阜県の一部地域では、荻野目洋子の「ダンシング・ヒーロー」が盆踊りの定番曲となっています。若者の盆踊り離れが進み人気も下火になっていた頃、美濃加茂市の「おん祭」において、お祭りをなんとか盛り上げようとこの曲を採用したところ、爆発的な人気を呼びパーティーのような盛り上がりを見せました。
さらには、「踊ってみた動画」が日本各地で発生し話題となったAKB48の「恋するフォーチュンクッキー」も、近年では盆踊りの新しい定番曲となっています。ゆったりとしたテンポに踊りやすい振り付け、この曲でセンターを務めた指原莉乃さんの親しみやすいキャラクターも相まってか、関東圏の盆踊りを中心に定着しています。
昨日、岐阜県の美濃加茂で行われた日本最大規模のダンシングヒーロー盆踊り。 pic.twitter.com/ybOqex8S7B
— よごれん (@yogoren) August 4, 2019
盆踊りの装い
盆踊りというと、浴衣で参加するイメージが強いと思いますが、一般参加者は平服でもOKです。とは言えせっかく踊りに行くなら、浴衣や下駄を揃えておいたほうが気分も上がります。踊りでは、浴衣の着付けをきっちりやりすぎると動きづらくなります。足元がやや末広がりになるよう帯と裾の位置を決めると動きやすくなります。だらしなくならない程度に着崩れるのが粋なのです。
また、扇子やうちわを帯の背中に差し込んだり、男性は頭に鉢巻を巻いて腰に印籠をぶら下げたりすることもあります。履き物は下駄や草履が一般的ですが、なるべく軽い物の方が楽です。鼻緒擦れを防止するために足袋を利用したり、鼻緒の芯を揉んで柔らかくしたりしておくと良いでしょう。
盆踊りは浴衣で参加したほうが雰囲気は出ますが、絶対に着なければならないわけではないので、着付けに自信がない方や浴衣をお持ちではない方も、私服で気軽に参加してみてください。
まとめ
いかがでしたか?500年以上も前から大切に受け継がれてきた日本の伝統である盆踊り。盆踊りを楽しむことは、祖先を敬う意味でも大切なこととわかりました。民謡からJ-POPまで、お好きな曲をマスターして盆踊り大会に参加してみましょう。