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◆個性的な祭が残る京都 上賀茂
上賀茂神社は正式には賀茂別雷神社(かもわけいかずちじんじゃ)という名前のユネスコ世界文化遺産に登録されている神社です。
この上賀茂神社のある地域では、男の子の15歳の数え年に元服(成人)を祝う「幸在(さんやれ)祭」や、赤熊(しゃぐま)という赤い服を着た鬼が疫病を鎮める「上賀茂やすらい祭」と個性的なお祭りが残っています。
今回は9月9日「重陽の節句」前後の土曜の夜に行われる「上賀茂紅葉音頭大踊り」をレポートいたします。
◆別名は「御所音頭」!御所の庭で踊られていた?!
紅葉音頭は江戸中期ごろにかけて上賀茂と洛北で流行した踊りです。
文献には残ってはいませんが、紅葉音頭の起源は御所にあると言い伝えられています。
霊元天皇の頃に宮中で作られ、作詞作曲は公卿侍の冷泉為村が作詞し、踊りの所作を賀茂大野郷の里の楽人(宮廷や寺社で雅楽を演奏する雅楽演奏者)であった多基忠が雅楽の舞の所作から手足の動きをとり、踊りを作ったとされています。
そして、創作された音頭や所作を洛北地域から宮中に勤めていた女官や公卿侍が郷に持ち帰り、洛北一帯に広まったとされています。それを以って紅葉音頭は別名、御所音頭とも呼ばれています。
上賀茂紅葉音頭の唄には紅葉に関する歌詞も多いため「紅葉音頭」と呼ばれたのではと言われていますが、これも諸説あります。上賀茂紅葉音頭の起源はこの二人とされていますが、紅葉音頭の曲は時代時代で流行った歌や、歌舞伎の一節を元に随時作られてきました。
現在、上賀茂紅葉音頭は京都市の無形民俗文化財に指定されています。
◆踊りの衣装は紺絣に前掛け
現在、踊手は頭に紅葉を飾り、着物は紺絣に三幅前垂れ(みはばまえだれ)をかけ、襷がけをしています。
前垂れの文字は「紅葉のにしき 神のまにまに」と書いてあり、「この度は幣も取りあえず手向山紅葉のにしき神のまにまに」と菅原道真公の詠んだ歌から引用しています。
足下は赤鼻緒の草履を履いて踊ります。
◆上賀茂紅葉音頭大踊りの特徴の由来は雅楽
上賀茂紅葉音頭は雅楽の舞の所作の中から手足の動きを取り入れ、御所の玉砂利の上で踊ったとされるため、ゆったりとしたしなやかな動きになったとも言われています。
楽器はなく、二つのグループで掛合いながら歌だけで音頭をとり、交互に歌います。
歌詞は歌舞伎の台詞や流行り歌を引用し、節をつけています。
写真:上賀茂神社の神主さんによる修祓、祝詞奏上、お祓い
◆1曲は15分に渡る大作!曲解説
令和元年は「草紙洗小町」「滝づくし」「近江八景」の三曲が披露されました。
1曲目は「草紙洗小町(そうしあらいこまち)」。
これは平安時代の御所で小野小町と大伴黒主(おおとものくろぬし)が歌合(うたあわせ)をした場面の唄です。
御所の歌合では天皇の御前で歌の優劣を競っていました。
この時、小野小町の対戦相手であった大伴黒主は勝ち目がないと考え、前日に小野小町の館に忍び込み、小町が詠んだ歌を盗み聞きし、万葉集に書き込みました。そして歌合の当日、小町の歌が万葉集に載っている古い歌だといって恥をかかせます。しかし小町が万葉集の草紙を川の水につけると昨晩入れ筆をしたところがたちまち消え、小町の身の潔白が証明されたそうです。「草紙洗小町」はこの逸話をもとにしたとされています。
踊手たちによる最初の1曲が終わると、令和元年のお祝いにと上賀茂神社の神職による雅楽「越天楽」奉納がはじまりました。
◆語り継がれる上賀茂紅葉音頭
高齢化が進み、後継者不足に困っていたところ、京都産業大学の学生たちが2015年に授業の一環で伝統文化・芸能の普及と伝承活動に取り組みはじめ、卒業後もお仕事をしながら月に二回の練習を続けています。
今回は『上賀茂紅葉音頭盛り上げ隊』の方々にもお話を伺いました!
◎上賀茂紅葉音頭盛り上げ隊結成!
−−大学と上賀茂神社の関係について教えてください
上賀茂紅葉音頭盛り上げ隊:
2014年度の授業『上賀茂神社 神社クラス』で私たちの先輩が上賀茂神社様と「人づくり21世紀委員会(京都はぐくみネットワーク)」様から「上賀茂神社の観月祭と上賀茂紅葉音頭を盛り上げてほしい」という課題を受けました。
翌年の授業では私たち『京都市教育委員会生涯学習部クラス』が「伝統文化・芸能に親しみ、地域コミュニティの活性化に寄与する」という課題と「引き続き、上賀茂紅葉音頭も盛り上げて欲しい」という依頼があり『上賀茂紅葉音頭盛り上げ隊』を結成しました。
残念ながら同じ課題はできないため、現在上賀茂紅葉音頭に関わるクラスは無いようですが盛り上げ隊は現在も活動を続けています。
◎教育委員会や区も応援!
−−区に補助金を申請された経緯などをお聞かせいただけますか?
上賀茂紅葉音頭盛り上げ隊:
京都市立紫野高校で2日間で4限分授業をすることも課題の一環でした。
歴史を持っているものの、地域でも最近では知らない人が多くなったことを知り、少しでも紅葉音頭を広めることができれば…と課題と依頼とを組み合わせた授業を紫野高校ですることを決めました。しかし何かをやろうにも費用は全て自分たちで賄わねばならなかったため、区の補助金を申請することになり、その時に『上賀茂紅葉音頭盛り上げ隊』として活動していくこととなりました。
◎京都の伝統文化「京地張提灯」
−−櫓に飾られる提灯について教えてください。
上賀茂紅葉音頭盛り上げ隊:
1回目の授業では「小嶋商店」様に協力していただき、京都の伝統文化「京・地張提灯」の仕組みや、職人の想いを伝えていただきました。加えて小嶋商店様には無地の京・地張り提灯を作成していただき、紫野高校の生徒さんと京都はぐくみネットワークの皆様と一緒に京・地張り提灯に和紙で飾りつけなどをしました。
2回目の授業では上賀茂紅葉音頭保存会会長より上賀茂紅葉音頭のお話があり、授業の最後には全員で紅葉音頭を踊りました。
四季それぞれの飾り付けをした京地張り提灯は、現在も上賀茂紅葉音頭大踊りの開催時に櫓に飾られています。
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『上賀茂紅葉音頭盛り上げ隊』の皆さん、貴重なお話をありがとうございました!
文化をこの先も繋げるための背景がわかったところで、お祭のレポートに戻ります!
2曲目は「滝づくし」。
親孝行者が年老いた親のために薬の水が湧き出る養老の滝を訪ねる、という話が入った歌とされています。
2曲目が終わったところで参加者に踊り方を丁寧に解説。
「『近江八景』をみんなで踊りましょう。」と、12拍の拍子に合わせた手の動きを観客もみんなで練習。
最後の曲は「近江八景」。令和元年は初めて二人の元学生が歌のメインを務めます。
3曲目「近江八景」の歌詞は近江の歴史や名所が唄われおり、歌中には「好きな人に会いに行ったものの、やはり別れの後は寂しい。」というような恋のうたも織り込まれています。
◆現在に残る曲
昭和47年に発行された「上賀茂音頭集」には全22曲が載っており、紅葉や滝の名所、小野小町や俊寛石動丸の話、謡曲や和歌の一節などの8曲が歌い継がれています。
写真:嵐山や高雄山に稲荷山と京都の山の名前が出てくる「紅葉の錦」の歌詞
①紅葉の錦 ②近江八景 ③里の秋(四条八景) ④滝づくし 5文づくし ⑥俊寛 7川づくし 8虫づくし ⑨石動丸 ⑩帯づくし 11厨子王丸(山椒大夫) ⑫草紙洗小町
※数字の〇印はテープが残っており謡われている
写真:『里の秋』の歌詞には「四条河原の夕涼み」や「団栗横に新道を。上り上りて仲源寺。」と当時の祇園周辺の様子が分かる情景が描かれている
以上、上賀茂紅葉音頭大踊りのレポートでした。
下鴨地域にも下鴨紅葉音頭があったそうで、今後の復活プロジェクトの効果も楽しみです。
来年の修学院題目踊り・紅葉音頭にも興味がわきました!
◆上賀茂紅葉音頭大踊り スケジュール
9月9日「重陽の節句」前後の土曜の夜
開催時間は年によって異なりますので、上賀茂紅葉音頭盛り上げ隊Twitterをご覧ください。
上賀茂神社 一ノ鳥居前 ※雨天は近くの上賀茂会館室内にて開催
上賀茂紅葉音頭盛り上げ隊
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mail [email protected]
《上賀茂紅葉音頭盛り上げ隊 よりコメント》
上賀茂紅葉音頭盛り上げ隊は保存会として月に二回練習に参加しながら、ポスターや、歴史などを綴った瓦版の作成、SNSでの情報の発信を行なっています。
活動を始めて5年になり、少しずつですが毎年、SNSをみて大踊りにきたという方がいらっしゃって本当に嬉しく思っています。
私たちの活動を通じて、少しでも多くの人に紅葉音頭の魅力や上賀茂紅葉音頭を知ってもらうきっかけになれば嬉しいです。
歴史ある上賀茂紅葉音頭の唄と踊りを後世に残していけるようにこれからも活動に取り組んで参ります。
上賀茂紅葉音頭保存会は、保存会の会員(歌い手•踊り手)を募集しております。
年齢問わず初心者の方も大歓迎です。
月2回音頭の練習を京都市北区にて行なっておりますのでご興味のある方は上記のメールアドレスへお気軽にご連絡ください。