写真家・南しずかさんが手掛けた写真集『MINAMI Carnival』は、世界中の祭りの躍動と人々の表情を収めた作品です。その制作背景、印象に残るエピソード、そしてユニークな経歴を持つ南さんの原点と展望を聞きました。
はじまりはトリニダード・トバゴのカーニバル
――今回の写真集『MINAMI Carnival』はどんなコンセプトで制作されたものなのでしょう。
南 世界各地のお祭りの躍動感や人々が楽しんでいる瞬間を捉えることをテーマにまとめました。私は「楽しさや瞬間の美」を視覚で伝えることに興味があって、そうした想いが積み重なり、今回の作品が完成しました。
――特に印象に残っているカーニバルはありますか?
南 やはり祭りの撮影を始めるきっかけになったトリニダード・トバゴ共和国のカーニバルですね。アメリカで出会った中米にルーツのあるおじいさんから「次のカーニバルは100周年記念だ」と聞き、訪れてみたのですが、公共の場でこんなに人が騒いでいいのかと思うほどみんな楽しんでいて圧倒されました。
――リオのカーニバルは日本でも有名ですけれども、トリニダードのカーニバルも華やかですね。
南 カーニバルが一番盛り上がるのは4日間。大勢の参加者が音楽に合わせて街を練り歩くというパレードだけはなくて、色のついた粉を投げ合ったり、音楽イベントがあったりと、日替わりで色々行われます。カーニバルはそもそもキリスト教の謝肉祭に合わせて行われる宗教行事ではあるのですが、カリブ地域の歴史背景もあって、アフリカやインド、ヨーロッパの祝祭の要素も入り混じっています。そうした異文化を受け入れて自分たちの祭りにしてきたために、オープンマインドな参加型のカーニバルなんですよね。そして、とことんポジティブになるためにカーニバルをやっている印象を受けました。
海外と日本の祭りの違い
――写真集には、他にもスペインの「トマト祭り」から、米国ワシントン州「トイレ競争」まで世界のお祭り、イベントを撮った35作品が収められています。苦労や達成感を感じた瞬間があれば教えてください。
南 苦労といえば、海外で面白いお祭りを探していると、不便なところでやってたりするんです。バスしか交通手段がなくて、仕事でもないのに何時間もかけて行くと思うと、やっぱり毎回腰は重いんです。ちゃんとお風呂にも入りたいし(笑)。でも、仕事じゃないからこそ感性に正直な撮影ができていて、被写体が躍動している瞬間、私の心が動いた瞬間にシャッターを切ることができているように思います。
――日本では「郡上おどり」や「阿波おどり」も撮影されています。日本のお祭りと海外のお祭りの違いについて感じたことはありますか?
南 日本のお祭りにはあまり行っていないので、詳しく語るのはおこがましいかもしれませんが、阿波おどりや郡上おどりをみると、日本の祭りでは参加者がすごく練習を重ねて臨む印象がありますね。一方で、あくまで肌感覚ですが、スペインのトマト祭りでは文化的や歴史的な背景を重んじるというより、「トマトを投げたら楽しいぞ」というライトな感覚の参加者が多かった印象です。もちろん、リオのカーニバルのように一年中、命をかけて準備している方々もいるので一概には言えませんが。
――確かに、日本のお祭りでは型や伝統を重んじる意識が強いように感じます。
南 そうですね。暫く拠点としていた米国ニューヨークでは、ハロウィンにしても手作りで自由に楽しむイベントが多いと感じます。自分たちで工夫して、時事ネタを取り入れて楽しむ文化があります。それぞれの楽しみ方があって、面白いですね。
写真家としての原点と次なる挑戦
――ところで、南さんはとてもユニークなご経歴です。大学では航空宇宙学を専攻されていたそうですね。
南 高校生の頃、将棋で全国ベスト8位になったんです。その一芸推薦で大学に入ったんですけれども、映画『スター・ウォーズ』が好きだったので、航空宇宙学に進みました。でも、入学後すぐに「アレ?」と気づきました。私が学びたかったのはガチの物理学ではなかったなと。「宇宙」を間違えていましたね。でもああいう科学や理系の世界は好きで、そこに自分のフィーリングやクリエイティブを乗せる方法はないかと考えていましたね。
――写真を撮ろうと思ったのはいつからなのですか?
南 大学3年生の時です。ある大学教授の下で研究アシスタントをしていたんですが、NHKのテレビクルーが1年間その教授を追いかけるドキュメンタリーを制作することがありました。それを見て、「ドキュメンタリーっていいな」と思ったんです。それからカメラ屋に行って、「私、カメラマンになりたいんですけど、どのカメラを買えばいいですか」と尋ねて、カメラマンになることを決めました。本当にいい加減ですよね(笑)。
――ここまでのお話だと、映画や動画カメラマンに進む道もありそうですが、その後は、渡米して国際写真センター(International Center of Photography)へ。フォトジャーナリズムとドキュメンタリーを学ばれます。
南 映画やテレビの現場も見学させていただいたのですが、ずっと動画で対象を追うよりも、一瞬を切り取る表現が自分には合っていると思いました。そして英語もできた方が良いだろうということでアメリカに。行き当たりばったりです(笑)。
――何でもできちゃうのがすごいと思います。次々に冒険があって、スター・ウォーズみたいですね。
南 昨日も「エピソード4」を見ていていいなと思ったんですけど、色々な星に冒険に出かけて行って、色々な宇宙人と出会うわけです。そこにワクワクしています。外国に行ってカーニバルを撮るというのは、少しそれに近い感覚がありますね。
――現在は、カーニバルの撮影のほか、国内外の錚々たるメディアにスポーツ写真を提供していらっしゃいます。次に挑戦してみたいテーマはありますか?
南 「パルクール」を撮影したいと思っています。動いている人たちの写真が好きなので、それと街のランドマークを組み合わせて撮影することで、街の魅力を伝えるプロジェクトにしたいです。
――面白いですね!ご活躍、楽しみにしています。本日はありがとうございました。
『MINAMI Carnival』(葉々社BOOKS&PUBLISHING)
2024年刊行 7,150円(定価6,500円+税)
<販売はこちらにて>
・葉々社(東京都大田区大森西6-14-8-103)
営業時間:10:00〜20:00 定休日:月曜日、火曜日
※WEBショップもあります。
・KAIDO books&coffee(東京都品川区北品川2丁目3−7 丸屋ビル 103)
営業時間:9:00〜18:00営業(月・火曜日定休)
<プロフィール>
南 しずか(みなみ・しずか)
1979年東京生まれ。東海大学航空宇宙学科卒。大学卒業後に渡米し、「International Center of Photography(国際写真センター/The ICP School:フォトジャーナリズム及びドキュメンタリー写真1カ年プログラム)」卒。ニューヨークを拠点にフリーランスフォトグラファーとして活動中。主に「米女子ゴルフ」「変わったスポーツ」「カーニバル」などを撮影。米国スポーツ雑誌「スポーツ・イラストレイテッド」をはじめとして、ゴルフ雑誌「ワッグル」「週刊ゴルフダイジェスト」「GDO」などでも活躍。
HP:https://www.minamishizuka.com/
インスタグラム: https://instagram.com/minamishizuka/