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海で裸の男たちが神輿をわっしょい胴上げ! 「大原はだか祭」は“勇壮豪快”の権化だった

黒木 貴啓 黒木 貴啓

荒波が何度も押し寄せる浅瀬で、金ピカのお神輿が上裸の男たちにわっしょいわっしょい胴上げされている……! 野太い掛け声とともに4、5基と数百人がしぶきをあげて右往左往。豪快であると同時に、海でお神輿が揺れる様子はどこか神秘的。

「大原はだか祭り」のハイライト“汐ふみ”の一幕です。

毎年9月23日・24日に千葉の外房・いすみ市大原で開催される、“勇壮関東随一”を掲げたこの例大祭。町内各神社から18基ものお神輿が裸の若衆に担がれ町、港、海を駆け巡り、五穀豊穣、大漁祈願を願います。

海へお神輿や山車が入る祭、裸祭は全国各地にありますが、「海×お神輿×裸」というあわせ技に関東圏というアクセスの良さまで備えた、ここまで欲張りなお祭りも珍しいでしょう。

祭自体は江戸時代から行われ、170年前の天保年間にはすでに祭礼のしきたりや組織ができあがっていたとされるなど歴史は古いです。なんでも当時の大原あたりではこれといった娯楽もなかったため、祭を年1回最大の楽しみとして受け継いできたのだとか。

その思い入れは「何を質に入れても祭の支度は整えた」と言われが残っているほどです。1年でため込んだ気をたった2日(昔は3日間)でぶっ放す、恐るべし大原のお祭り力。

2017年、メインとなる1日目に参加してきたのですが、未明から降り続けていた雨が昼前には止み、うっぷんを晴らすかのような活気が町を包み始めました。祭の日は都合よく天候が動く、これが神通力というもの。

午後1時30分頃、大漁祈願のために18社のお神輿が大原漁港に集結します。

 

普段は獲れたての魚が並んでいるであろう漁港センター内は、裸の男どもによって肌色一面に。1基に40、50人の担ぎ手となると、最低でも800人ほどいるはず。たくましさの一方、サラシを巻いた女性もいてなんとも艶やかです。

 

神主さんがお祓い、祝詞をあげると、最後に「二矢放流の儀」。いすみ市長が五穀豊穣と大漁満足を祈って、波止場から海に向かって2回矢を放ちます。潮風のなか何もない海へと弓を引く姿には、そこに「海の神様」がいること、昔から続く大原の漁の暮らしを感じずにはいられません。

その後、18基は威勢のいい掛け声とともに、大原海水浴場へ走り始めます。いよいよ“汐ふみ”だ!

18社のお神輿が海辺にずらりと並ぶ光景はまさに壮観……!

 

もう、とにかく猛々しい。

低気圧が通ったばかりで激しい白波が何度も打ち寄せるのですが、裸の担ぎ手どもは物怖じせずに次々と海へ突っ込んでいきます。波打ち際を走って水しぶきを足元でパシャパシャあげるお神輿もありますが、2、3基はより深くまで進んで腰辺りまで浸かっています。もう汐“ふみ”じゃない、汐“浸し”!

 

裸衆のテンションはそれだけには留まりません。数基ほど寄せ合って、担ぐ腕をバンザイのポーズにしてお神輿を高々と掲げたり、お神輿に手で海水をすくってばっしゃばっしゃかけはじめたり、無礼講の嵐。

特に豪快だったのは冒頭でも記したお神輿の胴上げです。

海の上を金に光るお神輿が何度も宙を舞う様子は、非日常で、反骨的で、アクロバティック。その下には笑顔で雄叫びをあげまくる上裸の若者たち。私も撮影しながらテンション上がりっぱなしで、気づいたらより間近で撮ろうと腰までずっぽり海に入っていました。観るもの狂わす汐ふみの熱。

一方でこの様子を引いて眺めると、背筋がゾクッとする瞬間が何度もあったのです。

お神輿という造形が凝られた人工物、裸の人間たちが、曇り空のもと荒れ狂う波の中を漂う。異界の領域に人間が少しだけ足を踏み入れるのを許されたような、“畏れ”をそこに感じました。

あまりにも担ぐ様子が楽しげで「どうして自分は大原出身じゃないんだ……!」とうらやましく思ってしまうのですが、海でお神輿が舞う豪快さと、つい見とれてしまう神妙さ、2つ兼ねそろえた汐ふみは、見物だけでも十二分な価値があるといえるでしょう。

その後は少し休憩をはさみ、4時頃から商店街通りをお神輿が2基ずつ並んでゆっくり進みます。目的地は、クライマックス「大別れ式」を行う大原小学校の校庭。集まったお神輿たちが解散する前に、残った気合を爆発させるのです。

裸の渦、とでもいうのでしょうか。

校庭に入るやお神輿は互いに競い合うようにしてぐるぐる駆け巡ります。8基、10基とその数が増えるたびに担ぎ手たちの渦は大きくなり、18基そろうと校庭を埋め尽くす裸が溶け合うように回り続けます。

まるで肌色のバターができてしまうんじゃないかという渾然一体感。各神輿の掛け声も幾重に重なり合って、全体から1つの激しいうなり声が発せられているかのよう。これがカオスというやつか……!

夕暮れの空に花火が打ち上がると、大別れの合図。全体でお神輿を掲げた後は、2、3社が寄り添っては別れを惜しみます。掛け声や裸衆の威勢はそのままなのに哀愁を帯びていていて、「ああ、終わってしまうんだなぁ」と観る者を寂しくさせるのでした。

とはいえまだ5時半頃、大原民の祭は終わらない。お神輿たちは各社へ帰っていくのですが、それを拒むかのように商店街一帯をわっしょいわっしょい巡り続け、揺れ動く提灯が夜の町を彩り続けます。

海と裸とお神輿が生み出す熱狂、からのチルアウトぶりがなんとも心に染み入る、大原はだか祭りでした。

(文/撮影:黒木貴啓

■大原はだか祭り
日時:毎年9月23日・24日(雨天決行)
会場:千葉県いすみ市・大原 五穀豊穣祈願祭は大原漁港、汐ふみは大原海水浴場、大別れ式は大原小学校
交通:JR外房線・大原駅より徒歩15分ほど
大原はだか祭り|オマツリジャパン
http://www.city.isumi.lg.jp/miryoku/bunka/matsuri/post_192.html