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コロナで不安定な今、見直したい「お祭りの意義」。買い占め対策にも有効?

2020/3/29
2020/6/5
コロナで不安定な今、見直したい「お祭りの意義」。買い占め対策にも有効?

2020年1月18日、東京都渋谷区にて「第五回 笑顔あふれる地域イベントアワードが開催されました!このイベントは、NPO法人 子ども文化地域コーディネーター協会が、日本全国の地域イベントに光をあて、社会的価値や地域コミュニティ活性化を目的として開催する表彰制度です。この記事では、同イベントにて行われたパネルディスカッション「地域イベントの可能性に迫る」より、パネラーとして登壇した中川幾郎さん、小林真理さんのお話を紹介させていただきます。

災害時に助けになる地域社会。そして地域との関係を作るのはお祭り。

住宅地

まず最初にご紹介するのは、「まちづくり」や「地域コミュニティ」を専門とする中川幾郎さんのお話。イベントづくりに必要なことをテーマにディスカッションした中から、災害時に役立つ地域コミュニティのあり方と、その形成に祭りやイベントがどのように寄与できるのかをご紹介します。

中川幾郎さんが例として教えてくれたのは、ある地方の茅葺集落のお話です。移住者希望が増え、ドイツ人のピアニストなども移住してくるこの地区は、移住希望者に『半透明のプライバシー』でも大丈夫かを確認するのだそうです。家族構成や仕事内容はだいたいみんなが知り合っていて、個人情報やプライバシーなんかはないと思った方がいいレベル。ここはいわゆる、「プライバシーに守られた社会」ではない。けれど、お互いにこの半透明さを思いやる。知ってるけど、干渉しない、見守っている、向こうからメッセージが来たら助けに行くことができる「寛容化社会」なのです。

 

この「寛容化社会」の概念がこれからは大事で、過剰なまでに個人情報漏洩とかでバリケード張ってコミュニティが崩れている今、上記のような社会の再生のきっかけになり得るのが、お祭りやイベントなんだそうです。

災害時にとくに支援の必要性が高い要援護者を「災害時要援護者台帳」で管理することを全国民生委員児童委員連合会が推奨しています。しかし、実際の民生委員の年齢を考えると救助に行くのは難しいと言われていて、今の民生委員は50代以上がほとんど、下手したら80代のところも。望ましいのは、この「災害時要援護者台帳」を使って地域の動ける若い人たちが救助に行くことです。普段から地域社会のネットワークが整っていれば、災害時にうまく連動できる。この地域社会を立て直すのが、祭りやイベントでのコミュニティ形成。面識的関係は世代が変わるたびに消えていってしまうので、顔と名前が分かっている関係を祭りやイベントで作り直すことができるのです。人とのつながりなら職場にもあると思われる方もいるかもしれません。もちろんそれも繋がりですが、利害関係なく、文化やアートを介すと、年齢性別国籍を超えて幅広い繋がりが出来る、とのことでした。

これからは人間関係の本数が資産に。そして増やすきっかけになるのはお祭り。

引き続き、中川幾郎さんのお話しの中からご紹介します。人口が多い少ないではなく、外部と内部の人間関係の総合計が町の活力になる「人的資本形成」についてお話しがありました。東京とその近郊は1人が持っている人間関係数が全国平均より相対的に少なく、地方をはじめとする富山や福井などの方が多いそうです。仲間や友達を増やせるのがお祭りやイベント。中の人のネットワークが多いことが町の活力になる、そして外への発信が、その地域に外の人を呼び込む力になる。

社会的関係資本という概念で「ソーシャルリレーションズキャピタル」と言われる。今までの社会資本というのは、建物とか公共土木に出せる予算あたりが言われていたが、人間関係の本数が資本だという考えに現代社会の経済学は移っているそう。人口の多い国が強いという概念が変わろうとしてる。むしろ多すぎることで社会コストがかかって足もととられる国も出ている。2050年に経済大国になるのはインドネシア。人口ではインド中国に勝るわけではないが、人間関係の本数が多く、社会的な関係も豊かで、信用関係も増殖して、現金のやり取りが盛んになるとみられているようです。過疎地域も町の活力を取り戻すチャンスは大いにありますとのことでした。

自然とみんなが寄ってくる、だからコミュニティができる

コミュニティEyefortheworld / Shutterstock.com

「強制されたものではコミュニティってできないんですよね、例えば、自分の老後の福祉の心配をしてコミュニティを作るとかってちょっといやらしい感じがある。文化的なイベントのいいところって楽しいからなんですよね、それがあるからみんな寄ってくるし、手伝いたくなる。スポーツのイベントもそうだけど、ずっとなくならないものなんじゃないかな、文化的なイベントの良さだなって思います。」(小林 真理)

私が和太鼓演奏の活動をしている中で、お客さんが遠方からわざわざ演奏を見に来てくれたり、元気をもらえた!と感謝の手紙を書いてくれたことがあります。こんなに嬉しいことないなと感動しました。他にも、3歳児に太鼓を教えていたら自分も出産してみたくなったり、85歳のおばあちゃんと恋愛相談をしながらレッスンをしたり。太鼓を通して得た経験や人脈が、どんどん私を変化させていく…。

今までプロが公演できるホール作りなど、プロフェッショナルな芸術家を育てる政策が多かったものの、国の文化政策において、本当に文化を欲しているのは誰なのかという見方が最近おきている、と小林真理さんが対談の中で話していました。パラリンピックを日本で開催することになって、それを見た人が、スポーツを通して障がいを克服したり、受容し活躍している人たちがいるんだ、こういうのもあるんだ、と気づくきっかけになる。このように、何かを気づかせてくれるのがイベントだったりする。文化芸術が人間のいろんな可能性をひらくことがある、そういう面でもイベントの必要性を考えていくことは大事ではないでしょうか。

パネラーの紹介

 

今回登壇されたパネリストの方々を改めてご紹介します。

  • 中川 幾郎

帝塚山大学名誉教授

同志社大学経済学部卒業。大阪大学大学院国際公共政策 研究科博士後期課程修了。69年豊中市役所に勤務、市長 公室広報課長を最後に退職。帝塚山大学法政策学部助教 授を経て教授。現在、自治体学会顧問、日本文化 政策学会顧問、日本コミュニティ政策学会副会長などの役 職のほか、自治体の各種委員等も多数兼務。 「まちづくり」「地方分権」「地域文化」「人権」「国際交流」 等が幅広いテーマ。

 

  • 小林 真理

東京大学大学院 人文社会系研究科 文化資源学研究専攻教授

専門は文化政策学。芸術・文化を支える制度や、制度の枠を超えた活動について研究している。文化政策の歴史や思想、昨今変わりゆく文化政策や文化環境の現状について、よりよい政策を立案、執行していくという観点から、文化政策を執行していく機関及びアクターとしての行政そのもの、劇場及び美術館等の芸術機関、「市民」 の研究を行っている。

 

最後に

イベント中止に続き、トイレットペーパーなどの買占めや転売が問題になっていますね。地域社会やコミュニティが生きていて、お隣さんから気軽に分けてもらえるような世の中だったら、こんな不安も少なくなるのではと思います。そして、相談できる相手というのは、このあいだのお祭りで仲良くなってLINE交換したあの人!なのかもしれませんね。お祭り、コミュニティ、そして地域社会の価値を今一度確認してみたいです。

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