西馬音内盆踊りの本場として知られる秋田県羽後町。2018年から西馬音内盆踊りと岐阜県の郡上おどりの両方が楽しめるイベントとして始まったのが「にしもないde踊らナイト」です。
しかし、昨年はコロナの影響で中止に。そして今年も当初の日程からの延期を余儀なくされるなど、瀬戸際の状況に追い込まれていました。このような状況下で、どのように12月4日の開催へ漕ぎ着けたのか?2人のキーパーソンへのインタビューから、地元の人々の情熱と、コロナ禍における祭りのあり方を明らかにしていきます!
目次
目指したのは「気軽に参加して体験できるイベント」
そもそもどのような経緯で「にしもないde踊らナイト」は始まったのか?まずは実行委員長である矢野 嘉章氏に話を伺いました。
矢野氏「そもそも始めたのは、2018年度に町での西馬音内盆踊りのイベントが何も計画されていなかったので地域資源である西馬音内盆踊りを活用してなにかやりたいというのと、それによって交流人口を増やし、関係人口増加につなげたい、というのが理由です。
これだけ全国の盆踊りファンから西馬音内盆踊りを『一回は踊ってみたい』とか『憧れなんだよな』ということをSNSで聞くと、町の活性化に絶対結び付けられるんじゃないかと。」
しかし、矢野氏によると、「にしもないde踊らナイト」には踊りに参加することで楽しんでもらいたいという、もう一つの目的があったと言います。というのも、
矢野氏「西馬音内盆踊りは、なにかイベントや公演があってもほとんどの人は見るだけなんですよね。それは踊りが難しいという理由が一番あるのですが、あとは衣装といった決まり事が多いので、気軽に参加しづらいんですね。
そんな中で、『にしもないde踊らナイト』は見るだけじゃなくて、初心者の人でも気軽に参加して体験できるイベントを目指しています。ですので服装も自由ですし、踊りの簡単なレクチャーもしますよ。」
特に8月16~18日に町の本町通りで行われる本番では「踊り方を一通り覚え」、「衣装を揃え」ないと輪の中で踊れないため、踊り手と観客という明らかな境界が生じます。今では「魅せる」盆踊りとして周知されているからこそ、踊りにチャレンジすることの垣根を取り払いたいという思いが伝わって来ました。
ところで、「にしもないde踊らナイト」には西馬音内盆踊りだけでなく、郡上おどりが毎年参加しています。その背景には、長年にわたる信頼関係とイベントとの相性の良さが伺えます。
矢野氏「なぜ西馬音内盆踊りと郡上おどりかというと、町のイベントで何度も共演し、郡上踊保存会の皆さんと仲良くなり気心も通じる様になったからです。最初に企画を相談をした時から快く引き受けてもらいホントに感謝してます。
あと郡上おどりは盆踊りの中では西の大横綱なんですよね。当然首都圏でもファンがいますし、羽後町でも(第1回開催の)2018年の前から5回も西馬音内のイベントに出演いただいています。で、だれでも踊りに参加できて、衣装も自由だし、踊りもわかりやすいので見てれば真似できるんですよね。郡上おどりは西馬音内盆踊りにない部分を持っているんですよ。」
先ほど触れた通り、矢野氏は「盆踊りを見せるだけのイベントではなかなかリピーターとして観光客を呼び込めない」という懸念を抱いていました。その反面、郡上おどりには「踊り助平」と呼ばれるファンが全国に存在し、毎夏の踊りシーズンに郡上八幡へ足を運んでいます。
踊り体験を通じてリピーターになってもらうという考えを取り入れたことで、郡上おどりと西馬音内盆踊りという、日本を代表する2つの盆踊りに参加できるイベントが出来上がったと言えるでしょう。
2021年のゲストは高円寺の阿波踊り。「日本三大盆踊りを、自分たちの手で」
「にしもないde踊らナイト」は実行委員会の尽力もあり、初年度から順調な幕開けとなりました。さらに、翌年には秋田市の竿燈が町内で披露されただけでなく、イベント自体も昼夜の2部構成へと拡大。そして、今年度は高円寺阿波おどりの朱雀連がゲストとして参加することになっています。矢野氏によると、ここでも以前からの交流が今回の共演へと結びついているそうです。
矢野氏「朱雀連さんは以前から羽後町にイベントで何回か来ているのよ。それで西馬音内盆踊保存会の囃子方メンバーと仲が良くて、コロナ前は高円寺阿波おどりの本番に混ぜてもらったりしていました。そういう経緯で、コミュニケーションがすごくできているのね。
で、一昨年は東京ドームのふるさと祭りに参加した後に朱雀連さんと打ち上げをしたんですよ。その時に『2年後に補助金の申請が通ったら来るか』と連長に聞いたら『いいよ』って返事をもらって。で、その2年後が今年なわけだったんだ。」
しかし、ゲストに阿波おどりを選んだ背景はそれだけではありません。
矢野氏「もう一つは、『にしもないde踊らナイト』を始めた18年の時に、やはり日本三大盆踊りを、自分たちの手でやりたいなというのがあったんですね。」
現在のイベント規模では徳島から連を呼ぶことはできない。それでも、羽後町で日本三大盆踊りのイベントを開催するという主催者達の想いが、3年の時を経て開花したと言えるでしょう。
コロナと押し寄せる困難。「それでも、今やることに意義がある」
もちろん、過去2年間の道のりは平坦ではありませんでした。2020年は開催可否の判断を最後まで粘ったものの、コロナの改善が見込めないとして中止を決定。今年も、行政からの要請によって延期を余儀なくされました。現在では県外の往来が可能になるまで改善しているとはいえ、矢野氏は不安を抱えていると言います。
矢野氏「本来の開催日程である10月は秋の行楽シーズンなのに対して、12月は雪が降るなど、外的環境が全然違うんですね。お客様も年末年始で忙しいですし、集客面ではどこまで西馬音内に来てくださるかという不安はありますね。
それでも、今やることに意義があると思うので。夏は仕方がなかったけれど、緊急事態宣言も終わり、新たな感染の波もまだ来ない。町内でも交流やイベントが解禁されつつある中、withコロナでも楽しいことを少しでも創りたい。
基本的な感染対策は当たり前になるのでしょうが、その中でどうやって以前と同じような楽しいことやイベント等を行っていけるかを、『今』試行錯誤しながらやることで次につながっていくのではないかと思っています。中止にするのは簡単ですが次にはつながっていきません。」
主催者HPからも分かる通り、実行委員会はガイドラインを作成することで感染対策を講じ、万が一の際にも対応できる体制を整えています。「コロナ禍だから」と短絡的に中止するのではなく、現状下でも安全に開催できるお祭りのあり方を、主催者・参加者双方が共に模索することが求められているのではないでしょうか。
ワンチームで「一緒に盛り上げていく」
コロナ禍という困難の中で、必死に開催へ漕ぎ着けた実行委員会。羽後町観光物産協会の事務局長である今野隆氏も、「にしもないde踊らナイト」を開催することの重要性をこう語っています。
今野氏「開催が決まった一番の理由は、実行委員会の若手と矢野さんの熱意よ。普通だと中止すると思うんだよな。ところが彼らは粘って、その都度延期したりして、12月の開催に漕ぎ着けたんだ。
やっぱりなにかやらないと、羽後町はどんどん衰退してしまう。盆踊りを開催することは衣食に近いわけだし、収入面でも支えられている。コロナでかなりの経済的損失を被っている現状だからこそ、何かやっていかないとだめという訳だな。」
またイベント自体も、今回は保存会だけでなく、「北の盆」など町内の西馬音内盆踊り団体から応援が来ることになっているそう。町が一丸となって、このイベントを成功させ、活気を取り戻そうとする気概を感じました。
日本三大盆踊りをすべて体験できる随一の機会である、「にしもないde踊らナイト」。盆踊りやお祭りファンにとって我慢の年ではありましたが、最後に一年を最高な形で締めくくりませんか?
参加方法やコロナ対策は?
まずは羽後町へのアクセスから。
鉄道をご利用の場合は、秋田新幹線・奥羽本線で湯沢駅まで乗車し、バス(西馬音内線)をご利用ください。お車の場合は、北上JCTと横手ICを経由し、湯沢ICから国道398号線を使います。詳しくは、羽後町観光物産協会のHPをご確認ください。
注意していただきたいのは、「にしもないde踊らナイト」の会場である「美里音(三輪公民館・文化交流施設)」は西馬音内の隣の三輪地区であること。湯沢駅から直接会場に向かう場合、バスは本数が少ないので、湯沢駅からはタクシーかレンタカーが便利です。
チケットは特設オンラインサイト、または「道の駅うご」で直接購入できます。また、秋田市内に在住の方は、秋田コスモトラベルが販売する限定ツアーがおすすめです。
最後に、「にしもないde踊らナイト」に参加するにあたって、感染対策のための注意事項がございます。必ずイベントHPと感染防止対策ガイドラインをご確認ください。
終わりに ~羽後町から見るwithコロナの祭りのあり方~
今年の西馬音内盆踊りはコロナの影響もあり、8月の本番は一日限定・町民限定で開催し、その様子をオンラインで配信する方法が採られました。また、数々の公演が中止になった反面、東京五輪の閉会式で紹介されたり、ユネスコに「風流踊」の一つとして再提案されるなど、飛躍の年でもありました。最後に、インタビューしたお二人方から一言ずついただきました。
矢野氏「最初から無理だと考えないで、大変なんですけど、いろいろ模索して感染対策を徹底した上で、楽しめるイベントを企画していきたい。」
今野氏「オリンピックのことは忘れていると思うから、みんなにもう一回知らしめたい。西馬音内盆踊りがユネスコに登録されるためにもみなさんの協力が必要です。」
もちろん、コロナ禍でのイベント開催には困難が付きまといます。それでも、今できることを必死に模索する熱意が、日本の伝統芸能や祭り文化が活気を取り戻すためには必要なのではないでしょうか。
*本記事では、より読者の皆様がわかりやすい様に、発言内容に一部加筆・修正を行っています。実際の内容とは異なる場合がありますが、何卒ご了承ください。
*当記事の情報は11月23日現在のものです。今後の感染状況によっては、「にしもないde踊らナイト」の開催状況が変更になる場合がございます。
*本記事で使用されている写真はにしもないde踊らナイト実行委員会をはじめとした方々のご厚意により、使用させていただいています。そのため、写真の一切の権利はそれぞれの団体に所属します。