2020、2021年とコロナ対策で中止された神明の花火。2022年に再開されたが今年はさらに盛況になることが期待されたので、観覧に訪れた。直近数年のトレンドを踏まえて、花火の見方はもちろん、アクセスやチケットの情報整理とともにお伝えする。
神明の花火とは
もし、1つしか花火大会に行けないとしたら、どこに行くだろう?
打ち上げ数の多さで選ぶ?
玉の大きさで選ぶ?
バチバチに決まるミュージックスターマインで選ぶ?
花火玉の芸術性で選ぶ?
会場の雰囲気で選ぶ?
観覧条件の良さで選ぶ?
よかろう、全部入りだッ!!それが『神明の花火』なのだ!
コホン。神明の花火とは、毎年8月7日に山梨県市川三郷町で開催される県内最大の花火大会で、近年情報番組や情報サイトでその名が上がることも多いすごい花火大会である。公称20,000発、最大20号玉(二尺玉)、アートとしても見ごたえのあるテーマファイヤー、視界に収まらないほどワイドなグランドフィナーレが人気だ。
メインで担当するのは以前インタビューをお届けした花火師・長廽さんも所属するマルゴーと、同じ町内に拠点を構える齊木煙火本店の2社。
市川三郷町ってどうやって行くの?
前述の選択基準に書いていないのが、行き帰りが楽という条件。さすがに人口1.5万人たらずの町の交通インフラや宿泊施設はそれなりだ。舞台となる「市川三郷町(いちかわみさとちょう)」は甲府盆地の南の端に位置する。電車で行くならJR市川大門駅を目指し新宿から甲府まで特急で90分、身延線に乗り換えて特急ふじかわで50分といったところ。一応、帰りの電車を乗り継いで東京圏の八王子・三鷹・中野あたりまで帰ってくることも可能だが、それはあくまで乗り換え検索アプリでの話。時間が読みにくい花火大会後においてはおすすめしない。電車利用なら甲府付近に宿を確保すべきだ。
車であれば、中部横断自動車道の増穂ICが至近だが、中央自動車道の甲府南ICから下道利用というのも悪くない。道中に名物を食するもよいし、「みたまの湯(神明の花火の大スポンサー)」でひと風呂浴びるのもよい。
神明の花火公式サイトでは交通に関して充実した情報公開を行っている。臨時列車や駐車場は毎年の最新情報を入手るするのが重要。必ずチェックしよう。
ホテル1泊も車も難しいとなれば、あとはバスツアーに期待だ。これも年によって大きく変わることが想定されるので情報収集を頑張ろう。
神明の花火ここがすごい
二尺玉がすごい
とりあえず見ていただこう。まずはオープニングに続くプログラム2番の二尺玉(この日の1発目)。
メイン会場から見るなら、ここの二尺玉は風向き・距離感がちょうどよく迫力がある。今年はこの二尺玉が4発上がった。風が絶妙に追い風で安定してくれているのも良い。打ち上げ中、煙がどんどん後ろに追いやられて花火がクリアに見えるのだ。10回くらい通っている体感では80%の確率で良風。ありがたい。
競技花火がすごい
競技花火というと、大曲の花火や土浦全国花火競技大会が有名どころだが、神明の花火でも競技コーナーがある。といっても、結果発表で観客の拍手がもらえるというだけで、競技レギュレーションで行われる競演会のようなもの。しかしながら、複数の花火会社の得意玉が上がるため花火大会の構成がグッと引き締まる。今年はマルゴー・齊木煙火本店のほかに長野県の小口煙火、東京都の丸玉屋小勝煙火店の計4社で競われた。
内容は大曲や土浦の練習らしきもの、はたまた実験的な取り組みなど各社個性がドドンと出ていて面白い。審査に関してはよほどの失敗をしない限りはまあまあ空気を読んで地元2社のどちらかに花を持たせるのが常であったが、今年はまさかの小口煙火優勝のアナウンスがあり会場がどよめいたのには笑ってしまった。
ふつうのスターマインがすごい
例えばある花火大会でプログラムが40番とか50番まであったとしても、どうも同じようなものばかりで皆同じに見える事、事例としては珍しくない。しかし神明の花火は全国的に見ても名が知れた2社が地元に本社・工場を構えるというアドバンテージがある。よって演出のバリエーションも多種多彩。「今年は特に○○が良かったねえ」「定番の○○はもう音楽も覚えちゃったよ」という声が挙がるのだ。
上の写真は齊木煙火本店で、調和のとれたパステルカラーの花火と虹色の花火が特徴だ。一方、下の写真はマルゴーのパートで、こちらはとにかくべらぼうな明るさと色の濃さでLED花火と例えられることもある。
テーマファイヤーとグランドフィナーレがすごい
神明の花火では終盤の2大プログラムとして、テーマファイヤー、グランドフィナーレがある。2社が年ごとに交互に担当するので、これも多彩な演出を感じさせる理由のひとつになっている。そしてこれがまあどちらもすごい。
今年のテーマファイヤーはマルゴー担当。ジブリの楽曲に合わせた青を基調としたミュージックスターマイン。冒頭に書いたバチバチに決まった花火というのは、実のところこれが念頭にあった。ジブリに青色花火というとどこか平和そうなイメージだがとんでもない。視覚と聴覚に強烈なのをお見舞いされた。単プログラム・オブザイヤーがあったら間違いなくノミネート。
グランドフィナーレは齊木煙火本店担当。ワイド幅は500mくらいだろうか?ただし打ち上げ場所からの距離が250mくらいしかないので迫力がヤバい。さらにこの間合いで尺玉まで上がるのがもっとヤバい。左右も上下も視界からはみ出してどこを見たらいいのか分からない。
終わればいいもの見れたニコニコと、終わってしまう寂しさと、来年へのやる気(笑)で満ち足りた空気が流れる。それが神明の花火だ。
2023年の神明の花火と次への期待
さて、今年も大満足させてくれた神明の花火でも昨今の花火大会を取り巻く環境から無縁ではいられない。私個人の感想で恐縮だが「コロナ前はもっとすごかった」のだ。コロナ禍は我々の想像以上にいろいろなところに傷跡を残している。
原材料価格は高騰し、複数年のブランクで技術の積み上げがままならず、なかなか以前どおりとはいかないであろう事は素人でもわかる。私の感想だが玉のバリエーションは以前より少ないと感じたし、何より過去にあった芸術玉をじっくり見せるコーナーがなくなってしまったのが(すごい玉を作る2社だからこそ)残念だ。またオープニングからグランドフィナーレまでを通して打ち上げミス(玉の入れ替わりや抜け、開花のタイミング違い)が多く、本調子ではないのだろうと感じた。こればっかりはもう花火師さんを応援するのみだ。
ますますの発展が期待できる取り組みも行われている。その最たるものは官民連携しての会場整備だろう。国土交通省が推進する「かわまちづくり」に、市川三郷町は「花火で観光まちづくり」を掲げて登録している。新しい階段席やスロープ整備事業はその一環。これにより簡単に言えば川の堤防の階段席がコロナ前から倍増した。
なおこの写真にうつっているあたりはすべて有料席。端の方に無料席もうつっているが、よい場所は数日前に来ないと押さえられないし、花火を100%楽しむならやっぱり有料席から見たい。このスタジアムのような階段席にいると、まるで贔屓の花火を全員で応援しているような一体感を感じられ、それもとても良い。
ひとつ欠点を挙げるとするなら、コンクリート製の階段はずっと座っているとお尻が痛くなる。座布団を持って行くとよいだろう。忘れても後述のショッピングモールが近くにあるので大丈夫。
他にタイアップという試みもある。今年は映画「プリキュアオールスターズF」とのコラボイベントが催された。
ちなみに、コラボで上がった花火が想像以上にすごい火力でびっくりした(笑)。
現地で快適に過ごすコツ
先に述べたように、市川三郷町は小さな町。急に何十万人が押し寄せても収容できる施設には限りがある。今年は昼間に大雨が降ったため、暑さはしのげたものの代わりに自由に動けなくて大変だった。
私は地方の花火大会に訪れるとき、しばしば道の駅でお土産を買う。この土地この季節はやっぱりフルーツがおすすめ。カンカン照りの日は熱中症予防に涼むこともできる場所にもなる。ただし、何千人も入れる施設ではないのでそこは注意したい。冒頭のほうとう屋さんのようにいくつかの候補を事前に調べておくのが良いだろう。
また、気分を盛り上げるには少し早めに会場入りするのもおすすめだ。会場の周辺には水田が広がり、用水路の水音が気持ち良い。併設されているグラウンドにはフードコートがあり、お祭りの屋台を楽しみたい人のニーズにも対応している。
花火終了後もフードコートはしばらく賑わいを見せていて、この雰囲気の中を帰路につくのも心地よい。絵に描いたような日本の花火大会がそこにはある。(その先の市川大門駅はカオスになるらしい。単線だし仕方がないね。)
これからも、守るところは守り、発展するところは発展させて、いつまでもみんな大好き神明の花火でいてほしい。