富山県は「獅子舞王国」と言われているように、獅子舞がとても盛んな土地だ。なぜ獅子舞が盛んなのか?を考えることは、祭りのこれからを考える上で重要なテーマでもあると思う。
今回は有志で「獅子魂」というwebサイトを立ち上げ、獅子舞文化を盛り上げる活動を行なっている大島信彦さんにお話を伺うことができた。
大島さんは獅子舞の祭礼日や基本情報をわかりやすくまとめてweb上で公開することで、担い手同士が繋がりお互いの団体から学び合えるような仕組みづくりを進めておられる。その立ち上げ背景や、獅子舞文化の継承についてどのような未来を描いているのか?についてお話を伺ってきた。
団体同士が繋がる!富山県の取り組み
それではまず、獅子魂の取り組みについて紹介する前に、基本情報として獅子舞の団体同士が繋がり合う既存の取り組みに少し触れておきたい。まず富山県には「競演会」という複数の獅子舞団体が集まり演舞を披露し合う機会がある。高岡市、小矢部市、氷見市、射水市、南砺市など県内各所で開催されており、春に行われる場合が多い。
また、行政が主導となって、獅子舞の講演会や交流会を開く場合もある。以前取材をさせていただいた南砺市役所での獅子舞講演会の様子はこちらからご覧いただきたい。
そのような中で、行政ではなく祭りの担い手であり有志の立場から、2013年に作られたのが「獅子魂」というwebサイトだ。
獅子舞情報をわかりやすく発信する「獅子魂」
それでは早速、獅子魂についてその魅力に迫っていこう。獅子魂はこちらのwebサイトである(http://shishi-kon.com)。「一緒に富山の獅子舞を盛り上げよう!」ということで、獅子舞団体の登録を受け付けているという。コンテンツの中身として、各獅子舞団体の基本情報を登録できるようになっている。
富山県の獅子舞団体が地図にプロットされており、場所をクリックすると各団体の情報が見られる。この地図を見ただけでも、富山県は西部~北部地域に多く獅子舞が継承されているなどの気づきが得られる。
そのほかに、獅子舞の日程がカレンダー形式でまとまっていたり、写真や動画が見られるコーナーがあったりする。更新を必要とする情報もあるようだが、実際に富山県の獅子舞はいつ見られるのかということや、ビジュアル的なイメージとともに、獅子舞の生きた情報に触れることができる。
この獅子魂のwebサイトを拝見して思ったのは情報をどのように生かし届けるかということの大事さだ。民俗芸能のアーカイブという意味で言うと、緊急調査報告書として行政が出す資料が多くの都道府県に残されているが、これを実際に読むのは研究者とか論文を書く学生など一部の人たちだけだろう。気軽に見られるwebサイトの形で祭りに多少興味ある程度の人でもアクセスしやすいのが、このサイトの魅力と言えるかもしれない。
獅子魂を立ち上げた背景とは?
それでは、このwebサイトがなぜ立ち上がることになったのか?その背景について、発起人の大島信彦さんに伺うことができた。
−−本日はよろしくお願いします。まず、獅子魂立ち上げの背景について伺いたいです。
大島さん:2013年に獅子魂の活動を始めました。2015年が北陸新幹線開業の年でして、この節目の時に何か自分たちの取り組みの中で地域の貢献ができないかと模索していました。
そのような中、2006年の富山県の教育委員会の調査以来、「富山県が獅子舞日本一らしいよ」という噂を聞いており、ただ、ほとんどの人はそのことを知らない状況でした。行政側ではなかなか日本一ということを公に言うことも出来ない事情もある中で、有志の間で獅子舞を盛り上げていこうということになり、「獅子舞文化伝承数日本一富山」と言い切って獅子魂の活動をスタートさせました。
大島さん:以前は富山県内の青年団の活動や交流が活発な時代もありましたが、現在は獅子舞団体同士、情報を交換する場がなかなかありません。
そういう意味では、私は広告代理業を本業としている一方で地元の獅子舞のOBとしてお手伝いもしているため、それを地域活動で生かし、情報交換のステージ作りをしたいと考えたのです。
まずはwebサイト作りをした一方で、高岡市中心地区の様々な獅子頭を集めて展示するイベント開催協力を行い、それを獅子魂の活動のキックオフとしました。
情報を伝えるという役割
次に獅子魂の活動を展開したことで、実際にどのような変化があったのかを伺った。
−−webサイトの情報がとても充実していると感じるのですが、どのようにして情報を収集されたのでしょうか?
大島さん:はじめは情報が空っぽの状態ですから、まずはシステムと各獅子舞団体のお部屋(ページ)を作っていくことから始めました。そして富山県の教育委員会の資料を参考に、情報を少しずつ埋めていきました。
その後は基本的にエントリーいただいた獅子舞団体の皆様に情報更新していただき、獅子舞情報を届けるようにしています。獅子魂を立ち上げた後に休止してしまった団体もありますので、そういう意味ではどんどん情報を更新していかないといけません。
−−webサイトがきっかけとしてどのようなことがありましたか?
大島さん:獅子舞団体から「話聞いてもらえませんか?」などと、相談のご連絡をいただくことがあります。
祭り道具の新調ができる補助金や助成金があるという情報をwebサイトを通じて発信したところ、これをきっかけに獅子舞の活動を復活してみようという団体もありました。
また、復活した団体の情報を出したところ「あそこの団体ができているなら、私たちの団体もできるのではないか」という機運を作ることにも繋がりました。また、大学生が卒業論文で獅子舞をテーマにしたいということで問い合わせをしてくださることもあります。
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その後、獅子魂の活動は徐々に広がっていったようだ。獅子舞のテレビ番組をケーブルテレビと協力して作り、そこから派生した特別番組が第45回日本ケーブルテレビ大賞番組アワードで、最高賞のグランプリ総務大臣賞を受賞したこともあったのだとか。こちらがその番組の案内動画である。
また、高岡市の方が「獅子舞に小さな子供たちを巻き込んでいきたい」ということで、獅子舞のカードを製作することを企画し、それに協力したこともあったのだとか。カードには獅子舞の基本情報が掲載されていて、祭りを見にいくと各団体からカードが渡される仕組みのとのこと。カードの存在は子供たちが隣町の獅子舞を見にいきたいという動機にも繋がっているようだ。
他にも高岡銅器で有名な彫刻師の方と高岡市の有礒正(ありそしょう)八幡宮のコラボレーションを行い、神社で頒布する「誓い獅子」という小さな獅子頭を製作しそれに協力したこともあったのだとか。これは受験を迎える人がその誓いを紙に書いて、邪気払いの意味で獅子に噛ませるという仕組みだ。これは受験に限らず、人生の様々なステージにおいて願いを叶えてくれる獅子にもなりそうだ。
獅子舞と地域に愛着を!呼び名を作り繋がる
インタビューも終盤に差し掛かり、獅子魂の活動のこれからに関するお話を伺った。
−−獅子魂の活動はどこを目指していますか?今後やっていきたいことも教えてください。
大島さん:熊本県のゆるキャラ「くまモン」を思い浮かべてください。くまモンはお菓子やらレストランやらイベントやら日常の様々なところに登場するとともに、熊本が今まで行ってきた取り組みや地域資源をうまく繋ぐような役目を担っていますよね。それと似たような発想で、富山県は獅子舞をキーワードに旅行とかグルメとか日用品など色々なものが結びついていければと思います。
例えば、最近発信しているのが「獅子めし」というものです。「あそこの獅子舞団体さんはいつも肉屋のコロッケを食べているから、あのコロッケは獅子めしでいいじゃないか」という風に獅子舞に関わる食事を「獅子めし」と呼んでいくのです。愛されている地域食が「獅子めし」として、さらに愛着のあるものや、ありがたいものになっていきます。
また、私は男の子のことを「獅子メン」、女の子のことを「獅子女(ジョ)」という風に呼んでいます。お祭りの日に法被を着ると、普段とのギャップが出ますよね。それで祭りの日はとても粋やいなせな感じに見える団員たちもいます。最近は女性もよく獅子舞に関わるようになってきました。女性が団体に入るとファッションを意識するようになり、法被が格好良くなったり可愛くなったりすることもあるんです(笑)。
今風の要素も取り入れながら、若い人でも獅子舞という伝統に興味を持ってもらえるような機会を作っていくのが大事だと思います。せっかく富山県は獅子舞が盛んな土地なので、ちょっと気づけば獅子舞って良いなあと思える、そういう感覚ができていけばと感じています。獅子舞は地域の小さい子どもからおじいちゃんおばあちゃんまでが交流する重要な機会なので、これを繋いでいきたいという想いがあります。
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獅子舞をただ祭りの日に留めるのではなく、日常の些細なところからその文化を盛り上げていくというお話など、非常に興味深いお話ばかりだった。富山県がなぜ獅子舞王国なのかという背景が徐々にわかってきた気がする。
文化を作るということ
インタビューを終えて、とても興味深いお話を振り返ってみた。確かに考えてもみれば、富山県には全域的に日常の中で様々なところに獅子舞が溢れている。
高岡市と射水市の新湊を結ぶ路面電車の万葉線は、2020年より獅子のデザインの「獅子舞トラム」の運転を開始した。カフェに行けば獅子舞がかたどられたモナカが売っているし、子供が作って遊べる段ボールの獅子舞「ダン獅子」を作って遊ぶ文化が根付いている地域もある。祭りの日だけでなく日常的な場にも獅子舞が溢れているのだ。
近年は人口減少などの影響で全国的に獅子舞の実施は減っている。ただ、富山県の取り組みを見ていると、全く獅子舞を知らなかった人でもその存在を日常の中で意識するような機会は増えているようにも感じる。一部の担い手が盛り上がることに留まらず、それを生活のささやかなところでじっくりと受け継いでいく意識を感じるのだ。
獅子魂はwebサイトでのシステム構築から実際に様々な獅子舞文化の繋がりを生み、その伝承と活性化に貢献している。webサイトも全部自分でやるのではなく「団体ごとにお好きにどうぞ」の精神で、団体も情報を編集できるようにしている点も注目すべきだ。無理なく長くゆるく続けていくことが、本当の意味での継承に繋がるのかもしれない。