獅子舞と鬼には意外にも共通点が多いことをご存知だろうか?これは日本全国の獅子舞の取材を続ける中で、薄々感じていたことだ。最も着目すべきポイントは、悪者にもなれば正義の味方にもなる「善悪両義的な存在」ということだろう。
なぜこのような発想が生まれるのだろうか?それぞれの祖先に立ち返って考えてみたい。それに加え、映画や漫画で話題となっている『鬼滅の刃』と獅子舞の共通点を紹介する。
※本記事では中国に由来する鬼と獅子舞を特に取り扱うため、その他様々な伝来経路で伝わったものや日本が独自に作り上げたものなどについて触れられていない部分もあることをご了承ください。
共通の祖先「儺の儀礼」とは?
もともと、獅子舞と鬼はそれぞれ中国由来で日本に伝わったという伝来経路を持つ。獅子舞と鬼、それぞれの共通の祖先である「儺(な)の儀礼」という行事から見ていこう。
「儺の儀礼」とは疫病や災害をもたらす悪鬼を追い払うことが特徴で、黄金の顔で四つ目を持つ方相氏(ほうそうし)が登場し、のちの節分行事に発展する儀礼である。それにしても、顔が黄金で、目が四つというのは想像するだけでもホラーだ!この方相氏が熊の皮を纏い、神々やら子供やらを引き連れて鼓を叩き、鬼を追い払うというという内容である。
ただ、この方相氏が日本に伝わったのちに、節分行事において鬼として追われる側になったことは特筆すべきだ。その後、時代を経て現在は方相氏がいなくなったという説もある。ただ、少なくとも鬼は「悪者にも正義の味方にもなりうる存在」ということをここで強調しておきたい。
獅子舞の原型が登場!?
ところで、この儀礼が獅子舞にどう結びついたかについても見てみよう。この「儺の儀礼」と結びついたのが、仏の姿を拝む行事「行像」だ。中国の北魏(386-538)の頃に書かれた『洛陽伽藍記』によれば、「釈迦の尊像が六牙の白象に乗って練り歩き、刀を呑んだり火を吐いたり綱渡りをしたりと様々な芸人がこの行列に加わっていた」という。まるで大道芸人の世界だ!この行列を先導したのは獅子であり、この時にはすでに獅子が登場していたのだ。
この行像はのちにパレードと滑稽味を帯びた無言劇で構成される伎楽に組み込まれ、日本にも伝わった。朝鮮半島の百済の味摩之(みまし)という人物が中国の江南地方で習ったものを612年に日本の奈良に伝えたとされている。612年といえば、日本は聖徳太子の時代だ。しかし11世紀以降、伎楽の上演記録はほぼ見られなくなり、伎楽の一部である獅子が生き残って獅子舞の形で今に伝わっている。
鬼と獅子舞は似ている
ここまで見ると、歴史を辿れば鬼と獅子舞はある一部の文脈において、「儺の儀礼」から分化したと言うことができ、少なからず悪魔払いの文脈において共通点を見出すことができる。ちなみに中国に伝わるラマ教の仮面舞踏の1つである「打鬼(タークイ)」には、日本の獅子頭とよく似た面が登場するし、岩手県の鬼剣舞や佐渡の鬼太鼓なども獅子舞に近い役割として演じられる。また、主に和歌山県中部に見られる獅子舞には鬼面が登場するし、鬼と獅子舞が符合するポイントというのは数え切れないほどに存在する。
鬼滅の刃「禰豆子」は獅子舞と似ている
この流れを踏まえて、現在流行している鬼滅の刃という作品について考えてみよう。この物語に登場する竈門 禰豆子(かまど ねずこ)というキャラクターは、鬼に襲われた時に傷口に鬼の血が入り込み鬼に変貌してしまう。しかし、兄である炭治郎や他の人間を守るように動くことから、単に人間を襲う鬼とは似ても似つかない正反対の性質を持つ。
これは先ほど述べた儺の儀礼の方相氏が悪鬼を追い払う側だったが、払われる側に変化したという善悪両義的でどちらに傾くかわからない危うさを持った存在であるのと似ている。これは獅子舞においても同じで、例えば北陸地方によく見られる「獅子殺し」のような獅子が退治される演目がありながらも、獅子に頭を噛んでもらって邪気払いをしてもらうという一見矛盾した風習と同じような意味合いを持つ。この意味合いは、行像や伎楽に見られた行列の先導役(露払い)としての厄払いの獅子の役割から発展して、数々の民俗芸能や土地の風習などと結びつく中でその獅子の厄払いが多様化した結果とも言えるだろう。
獅子殺しの演目を持つ獅子舞(石川県加賀市湖城町)の記事はこちら
鬼滅の刃、今後の放送予定
さて、最後に『鬼滅の刃』がテレビ放映されるようなので、その予定をここで触れておきたい。2021年秋・冬の毎週日曜日から、「テレビアニメ『鬼滅の刃』遊郭編」がフジテレビ系にて、放送が決定したようだ。また同系列にて9月11日からは「竈門炭治郎(かまど・たんじろう) 立志編 特別編集版」ということで5日間に渡って放送が始まる。浅草では鬼滅の刃のコラボショップが2021年9月26日まで開店している。竈門 禰豆子というキャラクターの鬼なのか人間なのかよくわからない立ち位置、振る舞いに着目してみると、鬼や獅子舞に対する理解も深まるかもしれない。
参考文献
創文, 特集・中国音楽と芸能,戸倉英美『獅子の来た道』(2004年)
高橋祐一『獅子舞の定義と構造・分布』(1997年)
▼本記事の著者・いなむのYoutubeチャンネルでは、「獅子舞マニアが語る鬼滅の刃」ということで、鬼と獅子舞の共通点について語っています。ぜひご覧ください。