2023年11月11日、福島県須賀川市で「松明あかし」が開催されます。
東北屈指の火祭りとして知られるこのお祭り。2023年は、コロナ禍で行われていなかった複数の催しや露店なども復活する予定です。松明も2022年より多い22本が立つそうです。
この記事では、2022年の現地レポートとともに、2023年の開催情報をお届けします。
鎮魂の炎が晩秋の夜空を焦がす!3年ぶり有観客開催!
430年余りの伝統を誇る、福島県須賀川市の火祭り「松明(たいまつ)あかし」が、同市翠ケ丘公園の五老山を会場に、3年ぶりに有観客で行われました。
松明あかしは今から約430年前、須賀川城に攻め入った伊達政宗勢と城を守る二階堂家の合戦で討ち死にした兵たちの霊を弔うために始まったとされています。コロナ禍で昨年と一昨年は松明1本を立てての無観客で行われましたが、今年は17本の松明が立てられ、須賀川の夜空を赤く染めました。3年ぶりに多くの観光客で賑わった松明あかしの様子をレポートします。
勇壮な松明太鼓が響く中、市民の手による17本の松明が燃え盛る!
JR須賀川駅でひろったタクシーの車中では、「ようやく3年ぶりの開催なので、私たち市民は本当に心待ちにしていたんです!」という運転手さんの弾んだ声が聞けました。早くも地元の人の熱気を感じながら会場である五老山へ着くと、すでに参加団体の手により松明が立てられ最終チェックが行われているところでした。
過去には30本以上が立てられたという松明ですが、コロナ禍による開催でもあり、今年は市内の学校や町内会、企業など17団体が参加。松明を囲む関係者の間でも時折笑い声が聞かれ、入念に点検をしながらも3年ぶりに松明を立てる喜びに満ち溢れているようです。
先日取材に訪れた際に、市内の中学高校の生徒さんたちも松明作りに参加するという話を聞きましたが、ふと見るとその中の生徒さん自ら命綱を付けて高さ約7mという松明に登っている姿が!ほんと、これにはびっくりです。
そして、準備も整ってひと段落したのか、楽しそうに松明の前で記念写真を撮っている一団が。
「松明をもりたてる会」のみなさん。声を掛けると初めは少し恥ずかしがられていましたが、カメラを向けるとしっかりポーズを取ってくれました(笑)
そして、松明をもりたてる会・会長の佐藤さん。今の心境をお聞きすると「おかげさまで何とか開催できそうです。せっかくなのでぜひ楽しんでください!」と安堵の表情を浮かべながらも気を引き締めているご様子でした。
日本有数の火祭りに数えられることもあるという豪快に燃える松明ですから、当然、火災予防も抜かりありません。市内の消防団9分団が常に待機し、協力しての火災予防や、松明あかし終了時の消火活動を行うそうです。
新型コロナウイルス感染対策としては、会場へ向かう遊歩道の入り口には消毒液を設置。また、過度の混雑を避けるために、会場となる五老山内は一方通行・立ち止まり禁止とされました。
そうこうするうち日も暮れてきたので、我々取材陣は松明に点火する御神火が奉受される二階堂神社へ向かいました。
二階堂神社は須賀川城主であった二階堂氏を祀る神社で、須賀川城跡に建てられています。毎年行われる松明あかしの御神火はこの二階堂神社で採火され、通常であれば御神火隊により市内を巡り会場の五老山に運ばれます。 (※今年は縮小開催のため参加者を代表し、「松明をもりたてる会」の手により車で運ばれました。)
橋本市長をはじめ関係者が集まり、厳粛な空気の中、神事が行われました。
あらかじめ許可を得ているとはいえ、御神火を賜る儀式ではカメラを向けるのがはばかられるほど。古来より火は神聖なものとして多くの祭事で焚き上げられますが、暗がりで行われるこの御神火奉受を見ていると、どこか心が洗われるようで不思議な気持ちになりますね。
先にも触れたように、今年はコロナ禍による縮小開催のため、例年行われる御神火の市内巡行はなく、そのまま車で会場に運ばれるとのこと。ここから会場まで徒歩で戻る我々はかなり焦りましたが、なんとか松明の点火に間に合いました。
そして日もとっぷりと暮れた18時30分、会場である五老山では御神火台から分火棒へ移され、松明をもりたてる会が製作した松明を皮切りに、次々と松明に火が灯されます。
火が灯された瞬間には拍手喝采…とはいかず、思いのほか粛々と点火していくので緊張感すら漂います。当然火を扱う危険な祭りであることもそうですが、やはり、そもそも鎮魂の火祭りであることがこの場の雰囲気を作っているのでしょう。
それでも、これほどまで派手に大きく燃え盛る炎を公然と見る機会もそうそうないので、不謹慎とは思いつつも心が躍ってしまいます。
気が付けば会場には多くの観光客や見物客が訪れ、ゆっくり歩きながら燃え盛る炎に見入ったり、カメラやスマートフォンを構えたりする姿も目に付きました。
ただ、感心したのはこれほど多くの人が集まっているにもかかわらず、特に目立った混乱が見られなかったということ。開催の数日前に韓国で痛ましい事故があったせいもあって、再三注意を呼び掛けるアナウンスがあったこともありますが、皆さん本当にマナーが良くて、多くの祭りやイベントを取材してきた中でもピカイチじゃないかと思ったほどです。
耳を傾けると、燃え盛る松明の裏手から迫力のある太鼓の音が聞こえてきます。少し松明の燃え方も落ち着いてきたところで、その音のする方へ足を運びました。
今回、例年行われる昼間の各イベントが見送りとなる中、やはりこれだけは欠かせないと「松明太鼓」の演奏が行われています。 松明太鼓は平成元年に松明あかしを盛り上げようと発足。打ち手は市民の有志で、郷土芸能の確立を目指して子ども達への指導も行っているそうです。
演目は「飛竜三段がえし」や「郷の火群」、「青嵐」などで、大人のチームに混じって子どもたちのチームもその凛々しい姿を見せつつ、松明あかしの終了まで勇壮な太鼓の腕を披露していました。
燃え盛る松明をバックに、迫力ある太鼓の演奏は、まるで炎に勢いを与えるよう。松明あかしとともに、ぜひ次の世代に伝え続けてほしい演奏でした。
そして、晩秋の空を赤く染めた松明もそろそろ終わりを迎えます。
須賀川市に実家があるという市外から親子でお越しの女性は「毎年見に来ますが、いつ見てもこの松明が燃える姿は心が躍りますね」と言い、友人グループでやってきた若い男性は「松明あかしイエーイ!」と盛り上がっていました。
今回松明作りに参加されたグループもそこかしこで一本締めや円陣を組み、それぞれの労をねぎらう姿も見られ、最後まで良い雰囲気の火祭りであったことをご報告いたします。
【あとがき】
3年ぶりの有観客開催とはいえ、昼間のイベントなどが見送られ、松明自体も例年の約30本に比べると少ない17本という縮小開催でした。ただ、それでも勇壮な松明太鼓が鳴る中で燃え盛る松明は十分な迫力がありましたし、それ以上に参加された市民団体の皆さんの、ようやく開催できた喜びや、松明あかしを見に来られた方々の楽しそうな雰囲気は十分伝わってきました。
他の多くの祭りと違って神輿や山車があるわけではなく、毎回自分たちで一から作ったものを燃やしてなくなってしまうという、ある意味刹那的な火祭りですが、だからこそ見る人々を魅了し、それに携わる人たちは後世に残していくことに情熱を傾ける。実は、モノとしての伝承ではなく、松明あかしの心を人々に伝承していく…そんな、熱いけど心が温まる人肌を感じるお祭りなんじゃないかなと感じました。関係者の皆さま、本当にお疲れさまでした!
2023年の開催情報!
日時:2023年11月11日(土)18:30点火予定
場所:五老山山頂(翠ヶ丘公園内)
主なスケジュール:
<11月10日(金)>前夜祭
18時00分~19時00分 慰霊会開催、かがり火設置、小松明行列(岩瀬八幡神社)
<11月11日(土曜日)>
11時00分~ 飲食コーナー(翠ヶ丘公園芝生広場)
13時00分~16時00分 小松明製作コーナー(tette) ※製作後、小松明行列に参加。
13時00分~16時00分 甲冑を着た武者との記念撮影、戦国鍋(豚汁)ふるまい※なくなり次第終了、農産物の販売、キッチンカー出店、松明あかし史跡・古戦場ウォーク集合場所(15時15分)(松明通り須賀川信用金庫本店(駐車場))
13時30分~14時10分 松明披露(松明通り吉田医院前)
14時00分 須賀川第一中学校製作松明出発(松明通り宮先町付近 )
15時00分 「松明をもりたてる会」製作松明出発(松明通り吉田医院前)
16時00分 芝生広場・宮の辻~翠ヶ丘公園の歩道にLEDライト等を設置(翠ヶ丘公園芝生広場等)
17時15分~17時30分 御神火奉受式(二階堂神社)
17時00分~(予定) 団体小松明行列出発(妙見児童公園)
17時30分~18時15分 一般小松明行列出発(見晴橋駐車場)
18時00分~19時45分 松明太鼓披露(2部構成)(五老山特設ステージ)
18時30分 順次、姫松明と約20本の本松明に点火(五老山)