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五輪閉会式、盆踊りの出演者が語る「東京音頭」の意味とは?出演していた鳳蝶美成氏に伺う

2021/8/13
2024/3/7
五輪閉会式、盆踊りの出演者が語る「東京音頭」の意味とは?出演していた鳳蝶美成氏に伺う

世界的な新型コロナウィルスの感染拡大の末、史上初の1年延期で開催された東京五輪。17日間の日程を終え、8月8日に閉会式が執り行われました。閉会式の演出のなかでも印象的であった盆踊り「東京音頭」。同演出に携わった日本民踊鳳蝶流(にほんみんようあげはりゅう)の家元師範、鳳蝶美成(あげはびじょう)さんにお話を伺いました。

鳳蝶美成さんは、2019年には二日間で2万人を動員、昨年度の新型コロナウィルスの中でもコロナ対策を徹底し「新しい形のお祭り」として開催された「中野駅前大盆踊り大会」の実行委員長としても活躍されており、新しい形の文化継承や発信に積極的に取り組んでいらっしゃいます。

「三重の輪」で表現したこと

まずは、今回の閉会式、お疲れ様でした。
アイヌ古式踊り、エイサー、西馬音内盆踊り、郡上おどりの映像に続いての会場での「東京音頭」という流れには、オマツリジャパンの読者の多くが大変驚き、そして興奮したと思います。
早速お伺いしたいのですが、今回の閉会式の演出には、美成さんはどのように関わってこられたのでしょうか?

(美成さん)閉会式で「東京音頭」を踊るというお話を頂き、どのような見せ方にするのかというところから始まり、演出家の方々に提案しながら準備を進めてきました。
最終的に、盆踊りの輪を三重にし、一重目は見本になるようなもの、二重目は家族や一般的な参加者をイメージしたもの、三重目は多様性を意識し個性的な見え方となるようなものに構成しました。三つの輪を作ることで、多文化共生や、士農工商分け隔てのない多様性を表現できるような演出を提案いたしました。

今回、コロナ禍での開催ということでしたが、どのような想いでお話を引き受けられ、準備を進めてこられたのでしょうか?

(美成さん)そもそも開催されるかすら不安定な状況下でのオファーだったのですが、私自身は「東京音頭」という唄が今のこの状況にとても相応しいと感じていましたのでありがたく引き受けさせていただきました。

「東京音頭」は、第一次世界大戦後に起きた関東大震災や昭和恐慌により疲弊した東京や日本の人々に対して、気分を高め活力を与えていこうという背景で生まれたものなんです。それが今のコロナ禍の状況にシンクロするものを感じました。
また、個人的な話にはなりますが、私が初めてYouTubeに踊り方の動画をあげたのが「東京音頭」だったんです。私としても東京からを発信していこうという想い入れが一番大きい唄でした。東京音頭の普及活動をはじめてから18年が経ち、とうとう日本、東京を代表し「東京音頭」を踊るという話でしたのでとてもありがたかったです。全身全霊受け止め、準備を進めて参りました。

コロナ禍における「東京音頭」の意味

なるほど、時代背景に似たようなものを感じますね。この状況だからこそ「東京音頭」をやる意味があったということでしょうか?

(美成さん)はい、これを機に皆がまとまったり、能動的になったり、ポジティブになったりという「前を向くメッセージ」として伝えられたらという想いを込めて踊りました。
私はもちろん出演者ひとりひとり、それを踊りの振りからだけではなく、「空間」からも感じられるように意識をし、出演者自身は勿論のこと、会場にいる選手、関係者、テレビの前の見ている人達にもポジティブになってもらえるようにと心がけました。

美成さんが実行委員長を務める「中野駅前大盆踊り大会」

withコロナで開催した「中野駅前大盆踊り大会」

さて、コロナ禍での取り組みというところでは、美成さんは中野駅前大盆踊り大会の実行委員長をされていると伺っています。昨年もしっかりと感染症対策を行い開催されていましたが、実際にやられてみて感想をお聞かせいただけますか?

(美成さん)昨年は来場者を限定した現地開催と、動画配信を組み合わせたハイブリッド開催といたしました。マスク着用やソーシャルディスタンスの確保、消毒や館内の換気など、徹底した感染症対策を行う必要があったことが、今までになく大変でした。1ヶ月後2ヶ月後の状況を見極めながら準備を行わなければならないことも大変でしたが、オンライン開催であっても見る側が楽しめるような見せ方にしないといけないと思い、様々に模索や工面をした盆踊り大会となりました。

感染症対策&ソーシャルディスタンス のため2メートル間隔で椅子を並べ、その周りを踊るスタイルで開催

徹底的なコロナ対策ということもあり、例年よりもかなり準備も時間がかかったのではないでしょうか?

(美成さん)そうですね。来場者の限定と動画配信するところまでは事前に決まっていたのですが、同時に外で縁日を開催することになり、最初はテイクアウトのものであれば問題はないと考えていたのですが、開催3日前に中野区から「縁日も来場者を限定して欲しい」と。直前で状況が変わるなかでの準備がとても大変でした。

大変なご苦労があったことと思いますが、多くのお祭りが中止になる中での開催ということで、多くの参加者に喜んでもらえたのではないでしょうか?

(美成さん)はい、特に家族連れの方には大変喜ばれました。コロナでどこにも出かけられなかったり、浴衣も全然着られなかったので、夏の音色というかそういう風物詩があったことが良かったようです。
また、準備段階では、提灯屋さん等、コロナ禍で仕事がなくなっていたお祭りの裏方を支えてくださる業者さんにすごく喜んで頂けました。本当に大変な中で行ったお祭りですが結果としてすごく喜んでいただけたのはすごくありがたいことだと思います。

「中野駅前大盆踊り大会2020」レポート! みんなの想いを受け取める、多様性の舞台

変わりつつある「文化継承」の方法

美成さんは日本文化の継承に力を入れられているとのことですが、今回のコロナ渦で日本文化の継承に関して危機を感じることや、考え方に変化することなどありましたか?

(美成さん)はい、文化の継承については、これまでずっとアナログで、口伝で伝えきているという背景に大いにあると思うんです。「お祭り」も例外ではなく、アナログでやっていくことを楽しんだり喜んだりということがあったと思います。
それがこのコロナ禍においては、完全に停滞しストップしているところが多い。それを打破するために、今動ける僕たちが、お祭りを存続させていくにはこういうやり方もあるという提案等を行っていくことで、文化継承の裾野を広げていけると思っています。今までは、文化は一対一の伝え方だったり、その場でしか伝えられない物でしたが、インターネット技術が進化して行く中、継承の仕方も一対一ではなく、一対大勢に変わってきていますし、情報発信に至っては一対世界という伝え方もでてきています。

アナログの良さは勿論ありますし、だからこそ文化をよりよく伝えることができると思いますが、その一方でインターネット技術を活用し、より外向きに興味をもってもらえる、知ってもらえる環境が整ってきたことは新たな可能性と感じています。

美成さんによる「東京音頭」の踊り方解説動画(https://www.youtube.com/watch?v=aB9z9V2GghQ より)

なるほど、アナログとデジタルとの融合ですね。
最近はオンラインでのお祭り開催や盆踊りの動画も増えてきていますが、美成さんは緊急事態宣言が発令後にいち早く踊りの動画をYouTubeにあげたり、踊りのオンライン配信を行われていました。思いたってすぐ行動に移されたことが他の団体の刺激になったかもしれないですね。

(美成さん)そうですね、ひとつの「道しるべ」になれたかなと思います。踊りの業界自体、動画に対して比較的慎重であったりして、すぐに技術を採り入れるべきものではないという意見が多いのですが、こんな時期であっても文化を残すため、また健康のためにも発信するという「社会的な正義」の側面をもって取り組めたことで、良い波及効果が生まれたのではないかと思います。日本の文化とは魂の継承だと思います。単に動画を発信するのではなくて、形はどうであれ色々な地域に対しての想いをもって発信することがとても大事だと思います。

あくまで動画は発信手段。「外のグローバルさ」と「歴史のグローバルさ」の両面をきちんと満たせるような動画をどんどん発信していくべきと考えています。

新しい時代の「盆踊り大会」の先駆者に

この中野駅前大盆踊り大会の最大の魅力は、日本全国の盆踊りを生演奏で踊れるライブ感であったり、老若男女問わずみんなが楽しめるお祭りかと思いますが、今後の中野駅前大盆踊り大会の目指すべき姿や最終的な目標はありますか?

(美成さん)はい、中野駅前大盆踊り大会の最終的な目標は「地域の人が地域の為に本気で楽しめて参加できるお祭りを作ること」。
例えば、もっともっと生演奏が好きな人や次世代の人にもどんどん参加して頂き、老若男女が参加する深みのある盆踊りライブにしていきたいですし、毎年芸能人の方もパフォーマンスでいらっしゃっているのですが、より中野にゆかりのある方々が地域の為に特別に出演をしていただくというようにしていきたい。そういった形で中野がひとつになるお祭りを作り上げていきたいと思います。

また、他の地域に対して、こういったお祭りの形もありますよと提案をし、模倣していってもらいたい。中野駅前大盆踊り大会も良いお祭りになりますし、他の地域も元気になっていきます。盆踊り大会のリーダーや地域のリーダーでもあるようなお祭りを目指していきたいと思っています。

第六回 中野駅前大盆踊り大会でのライブ演奏

地域のためのお祭りということで、中野発祥の盆踊り「中野音頭」もこの大会で踊られていらっしゃいますよね?

(美成さん)そうですね、中野音頭をお祭りの一番初めと最後に踊っています。地域の故郷の唄として残したいなという想いで取り入れています。

コロナ禍以前の2019年に私も参加させて頂いたのですが、中野セントラルパークに入りきれないくらいたくさんの人がいらっしゃっていて、本当にすごいお祭りだなと思いました。今年の中野駅前大盆踊り大会も、色んな方々がそれぞれの想いで楽しんでもらえたらいいですよね。

美成先生にとって盆踊りについての最終的な目標を教えてください。

(美成さん)私の最終的な目標は単純に日本の民謡や踊りを一人でも多くの人に楽しんでもらいたいということです民踊民舞には千年以上の歴史がありますし、さらに言えば原始時代から歌詞はなくとも歌ったり踊ったりしていたと思うんです。

身近でシンプルな娯楽であり、想いや喜怒哀楽を伝えられる文化として大事にしていきたいですし、まずは一人でも多くの方に知っていただきたい、体験していただきたいと思っています。そして、いずれは世界中70億人の方々に知っていただきたいと思っています。

世界ではサンバ、フラメンコなどさまざまな民族舞踊の人気があります。日本の民族舞踊や盆踊りもブラッシュアップすることで、盆踊りの為に帰郷するという動きが作れるんじゃないかと考えています。そうして地域産業に貢献できたり、日本全体で見ると浴衣業界をはじめとした日本の職人産業の復興にもつなげていきたい。最近は、職人と呼ばれる方々の引退が増えており、大幅にマーケットが縮小しているという危機的状況です。

例えば浴衣を着る機会、身に着ける機会を増やすことで、浴衣産業を盛り上げることもできるんじゃないかなと。そういったことで、文化継承、日本経済の両面に貢献できる可能性があると思います。文化自体は限界のないビジネスだと思います。部品を加工する技術は日本の素晴らしいところですが、一方で「ソフト面」は今の日本はすごく弱い。そのひとつの部分を、自分たちが担えればと考えております。

一人でも多くこの文化を知って頂き、日本の伝統産業や文化を守っていくことが最終的な目標です。

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