Now Loading...

市民が主役のまつり改革、15年の軌跡 「支え合う祭り」へ──鳥取しゃんしゃん祭の進化論

yusuke.kojima
2025/5/27
2025/5/27
市民が主役のまつり改革、15年の軌跡 「支え合う祭り」へ──鳥取しゃんしゃん祭の進化論

全国の市民まつりが、担い手不足や資金難に直面するなか、鳥取市で1965年から続く「鳥取しゃんしゃん祭」は、近年、祭りのメインイベントである「傘踊り」に参加する団体が増え続けるなど、大いに盛り上がっている。その中心に立ち、15年にわたり数々の改革をリードしてきた鳥取しゃんしゃん祭振興会副会長の西垣豪さんに、その秘訣と原動力、そして地域の未来への展望をじっくり伺った。

取材・構成:小島雄輔(オマツリジャパン)

 

会議が会議になっていない!――最初に直面した課題

――鳥取しゃんしゃん祭が、市民の皆さんの熱意で大変盛況です。15年前、副会長としてしゃんしゃん祭に関わり始めた当初、祭りはどんな状況だったのでしょうか?

西垣:15年前の40歳のとき、振興会の副会長を充て職的に頼まれたんですよ。正直、当時はまだ祭りへの特別な思い入れがあったわけではありませんでした。ただ、「地域の代表的な祭り」と多くの人が言うわりに、現場の空気には少しギャップを感じたんです。最初に出た会議では、開催日をいつにするかで意見が割れていました。今は8月14日に固定していますが、当時は他所のお祭りが多いお盆を避けて、試験的に7月に実施していた時期でした。それをお盆に戻す、戻さない、といろいろな立場の方々の声が飛び交うなかで、なかなか結論が見えてこない。行政に対しても要望が多く、少し難しい雰囲気になっていたんですね。

もちろん、祭りを大事に思うからこそ出てくる意見ではあるのですが、当時はそれぞれが自分の考えを主張するばかりで、共通の方向性を見出すのが難しい印象でした。そうした中で、「誰かがこの場を整理していかなければ」と感じたのが、関与を深める最初のきっかけだったように思います。

――そこから関与を深めていくことになった思いとは?

西垣:うーん。血が騒いだのかな(笑)。皆、行政に文句を言うだけ言って、なんだかスッキリして帰っていくんですど、会議が機能していないのを目の当たりにして、これは放っておけないという思いが芽生えました。自分は元々、誰かのせいにする姿勢が苦手なんです。だったら、自分がその場に立って改善していくしかない。そう腹を括って、まずは個別に話をしながら団体としての責任ある発言を求め、意思決定のプロセスを整えるところから始めました。

ややこしい人こそ運営に巻き込む――本音と責任をつなぐ場づくり

2014年の50回では、1688人の踊り手が一斉に傘を振って踊り、「世界最大の傘踊り」としてギネスに挑戦した(©鳥取しゃんしゃん祭振興会)

――運営体制として、特に重視した改革ポイントは何でしたか?

西垣:一番大きかったのは、〝文句を言う人〟をあえて会議に巻き込んだことです。たとえば、傘踊りのあれこれを取り決める「踊り検討会議」という会議体があるのですが、当時はごく限られたメンバーだけの場でしたが、祭りに対して意見のある人たちを次々とその会議に招き入れました。5、6人の会議が20人近くになって大変ではありましたが、直接参加させることで「運営に対して意見を言う側」から「自分ごととして責任を持つ側」へと意識が変わっていくんです。

結果的に、多様な立場の人たちが一堂に会することで、意見のぶつかり合いも増えました。でも、それは健全な摩擦であり、合意形成の第一歩なんですよね。大きな声を出す人の意見が通りやすい場を、冷静に議論する場に変える努力を続けてきました。

――運営組織の構成が変わってきたことで空気感も変わってきたわけですね。

西垣:はい。だんだん祭りを応援しようという雰囲気に変わってきたと思います。今も新しい踊りの連(チーム)が入ってきますし、企業連にも入ってもらいます。地域、子ども、あらゆる立場の人たちが公平に関われるよう、意見のバランスには常に気を配っています。・・・以前は「自分たちは子どもたちのために活動している」と言いながら、実際には自分のチームが楽しめるだけの意見を言う人々もいました。そんな中で、純粋にがんばっている子どもチームの存在が、場の空気をピリッと引き締めてくれることもありましたね。

大切にしているのは「誰も置いていかない」こと。調子に乗らず、時に反対意見にも耳を傾けることで、組織は成熟していきます。

市民が主導し、行政が支える――信頼関係の再構築

鳥取しゃんしゃん祭が始まった頃の写真。鳥取城跡の鳥取公設運動場(現在の鳥取県立博物館)で開催されていた。(個人蔵、仁風閣提供)

――そうなると、行政と振興会との関係性も変わってきたのではないでしょうか。

西垣:ええ、先ほど言ったように、以前は何かあればすぐ行政のせいにするような雰囲気がありました。ですが、今は市民が自分たちで運営を担い、行政は「支える側」に回る形になっています。その結果、行政の要望も受け入れやすくなり、「国際交流を組み込んでほしい」「姉妹都市との連携を盛り込めないか」といった提案も市に対してスムーズに実現できるようになりました。

行政の裏方としての働きには本当に感謝しています。こうした関係性の改善は、地域の力を引き出す大きな要因です。

「傘踊り」を誰でも楽しめるものに――踊りと人材育成の両輪

学生はじめ若い人たちの「連」も増え、総踊りは活気にあふれている。(©鳥取しゃんしゃん祭振興会)

――踊りの面でも大胆な改革をされたとか?

西垣:そうですね。現在4曲あるうち、2曲は全員が同じ踊りを踊る「基本踊り」となります。その基本踊りの「質」についても参加者内で指摘があったんですよ・・・参加者にはある程度の技術水準を満たしてから出てほしい、ということです。そこで、振興会で技術向上と人材育成のために「階級検定制度」を導入しました。階級は2級から始まり、基本踊りを正しく全てを踊れる高いレベルをお持ちの方に向けた1級もあります。級保持者が所属する連は、祭前に開催する傘踊り講習会を参加免除とし、その代わり1級の方に1級のいない連の踊り講習会講師をしていただき、仕上がりをチェックしてもらったり、必要があればテコ入れしてもらうとか、全体の向上になる取り組みも行っています。現在、数百人が検定を受けて階級を取得しており、正しい傘踊りを次世代に繋ぐ数多くの〝先生〟がいる状態です。

この仕組みは、2015年から始めたものですが、参加チームの質を底上げしつつ、次世代の指導者を育てることに成功しています。結果的に、新しい連もたくさん生まれ、他の連をサポートする体制も整備され、祭りの盛り上がりに貢献していると思います。

――若い人、特に高校生の参加も増えてきたと聞きました。

西垣:最近では、高校生が自主的にチームを作ってくれるようになりました。これは本当に嬉しい変化ですね。地元の大学生の参加は以前からありましたが、高校生の熱意が加わったことで、次世代へのバトンが確実に渡り始めていると実感します。

高校生たちがマニュアルまで自作して、後輩たちに継承しようとしている姿には、胸を打たれました。

地元企業とともに、地域の力で祭りを育てる

――参加者という点では、地元企業からの参加も盛んだと聞きました。企業連との関係はどう築かれてきたのでしょうか?

西垣:企業連も踊りの場に参加し、検討会議などにも加わってくれています。単なるスポンサーではなく、実際に動いてくれる存在です。中には模範となる企業連もあり、そうした存在が他の企業にも良い影響を与えています。

――各地方都市では地域経済の縮小傾向から、地元企業からの協賛が減っている、という話も聞きます。地元企業が協賛面でも参加面でも前向きに向き合ってくれるのは素晴らしいですね。

西垣:前提として、鳥取しゃんしゃん祭は、鳥取市の中心市街地を活性化させる目的があって、そこに観光の振興も観点も含め、市の支援を受けています。祭りに対する金銭的な支援としては、現在、市からの支出は約3000万円。ここには振興会の職員の賃金も含みます。これに加えて、企業協賛が約300〜400万円、踊り連の参加費からの収入が約100〜150万円ほどです。

決して潤沢ではありませんが、私たちが大切にしているのは、多くの地元企業が少額ずつでも関わってくれることによって、「この祭りは地域全体で育てているんだ」という実感が生まれることです。地域外の大手企業のスポンサーシップも発信力やインパクトの面で否定するものではありませんが、まずは地域と共に歩む形で企業が多様な関わり方ができる形にするのが理想だと思っています。

この祭りが中心市街地の活性化や観光振興、市民の一体感を生む、つまり行政が税金を投入する価値があるものだということを示す形にしていくことが祭りにとっての持続可能性につながるのだと思っています。

――市民のための祭り、と関わる人が感じられることが重要なんですね。今後の資金確保のビジョンは?

西垣:現在、協賛企業を100社増やすことを目標に、経済団体などと連携してアプローチを始めています。また、クラウドファンディングについても行政が主導で実施していますが、今後はより効果的な運用を目指して見直していきたいと考えています。

参加費の引き上げについては、そろそろ議論を始めてもよい時期かもしれません。というのも、参加連が増えてきて、今年の総踊りは、開始時間を早めた2部制も検討しているほどなんですよ。うれしい悲鳴ですけども。

 

観光と地域のバランスをどうとるか

©鳥取しゃんしゃん祭振興会

――鳥取しゃんしゃん祭、総踊りでの傘踊りは壮観で、とても美しい祭りだと思います。観光資源としてのさらなる可能性も感じられますが、その点はどうお考えですか?

西垣:そうですね、ありがとうございます。私たちと振興会としては、例えば有料観覧や体験による観光からの直接収入を目指すよりも、地域の飲食店などが活気づくことを主眼にしています。というのも、先ほども話しましたが、行政の支援を受けている以上、受益者は地域である、というのが大前提だからです。すでに祭り当日の夜はまちなかが大いに賑わい、飲食店の窓から踊りが見える席などは高い価値を持っています。今後は、そうした民間主導の収益化の取り組みも後押ししていきたいですね。実際、地域にはアイデアや行動力を持った人たちがたくさんいます。飲食や観光、まちづくりなど、分野を超えたプレイヤーたちが、自由な発想で祭りを活かしたビジネスやサービスを展開してくれることを期待しています。私たち振興会は、そうした動きが盛り上がるよう、橋渡し役として関わっていければと思っています。

また、私は観光協会の役員も務めておりますので、観光視点でお話しすると、宿泊施設のキャパシティもあって、祭り当日に集中した観光客誘致は、慎重に進めなければいけないと考えています。ですから、祭り本番の8月14日だけではなく、年間を通して傘踊りを披露できるような場が増えるといいのではないかという考えは持っています。実際、検定1級保持者が指導しているチームなどは本番だけを目指して活動するのではなく、年間を通して踊りに磨きをかけています。こういうチームが通年で踊りを披露する基盤を整えることで、インバウンドはじめ県外からの観光客の受け皿としての展開が可能になるのではないでしょうか。

「次につなぐ覚悟」こそが、未来をひらく

©鳥取しゃんしゃん祭振興会

――西垣さんは、この15年、祭りとまちに多くの前向きな変化を実現させてきましたが、これからの振興会の役割についてどんな展望をお持ちですか?

西垣:そうですね。現場を支えるスタッフの働き方や待遇についても、今後しっかりと向き合っていきたいと考えています。振興会は市の外郭団体という立場で運営を担っているわけですが、ここで働く人たちは、限られたリソースのなかで相当な責任と熱意をもって取り組んでくれています。その一方で、処遇面では民間の水準とは乖離があるのが現実です。

市民のまつりを持続可能にするためには、そこで働く人の生活やキャリアも大切にしていかなければならない。そういう意味でも、行政や地域と連携しながら、よりよい組織体制や支援のあり方を模索していきたいと思っています。

――ちなみに、西垣さんは自身の企業を率いる経営者でもいらっしゃいます。どうして、そこまでこの祭りに情熱を注ぎ続けられるのでしょうか?

西垣:よく「なんで西垣さん、そこまでやられるんですか」と聞かれるんです。目の前に課題があって、誰も火中の栗を拾いたがらない状況のなかで、「これは自分がやるしかない」と思ってしまったんですよね。

それと、やっぱり仕事ではなかなか得られない刺激が面白かったのかもしれませんね。経営者には会社の利益とか守るものがあるんですけど、ここでは永久追放されてもいいというか(笑)、だから思い切ったこともできますね。この街を、この祭りを思う者同士の真剣なやり取りの中で、40歳から今に至るまでさまざまなことを学ばせてもらったなと思っています。

――稀有なリーダーシップだと思います。

西垣:いえいえ。そういう点では、ここまでまとめてきた一方で、次の世代にどう継いでいくかが課題です。祭りは裏方がいてこそ成り立つもの。裏で支える人材をいかに育てていくかも大事ですよね。踊り子さんたちは増えてきて頼もしい限りという状況ですが、やっぱり表に立って踊りたい人が多いですね。ですから本番の14日は踊っていてもいいけど、それまでは裏方を担ってもらう、というような引き入れ方も考えています。

――西垣さんをはじめ、鳥取しゃんしゃん祭りを支える皆様の取り組みに感服しました。ぜひ最後に、他地域の市民まつりの主催者に向けてメッセージをいただけますか。

西垣:運営においては、色々な意見の集約に悩むことは多いと思うんです。まずは「反対意見のある声の大きな人」とも向かい合ってください。反対意見を持つ人こそ運営に巻き込む。それが参加者意識を育てる一歩になります。そして、どんな人でも排除せず、「一緒に進む」こと。時間はかかりますが、その積み重ねが、地域に本当の力をつけてくれます。

私は、しゃんしゃん祭が“まちの縮図”だと思っています。町内会の人、企業の人、PTAの偉い人とか、普段は出会わない人が交わる場。祭りって、地域の人にとってそういう存在だと思うんです。最初に申しましたが、私は祭りが好きだ、ということではじめた関わりじゃないんですが、やっぱりまちをよくしたいとみんなが思っている中で、いがみあっているのではなく、一緒に前を向いていきたいから続けてきたのです。振興会副会長になって以降、観光協会の役員や商工会議所の役員も頼まれてやるようになりましたが、経済やイベント、地域の人々の活動含めて大きな力にしていきたいと思っています。これからも一人ひとりの声に耳を傾け、共に歩む祭りを続けていきたいです。

――本日はありがとうございました。

<プロフィール>

西垣豪(にしがき・たけし)氏

1969年生まれ。東洋交通施設株式会社社長。2010年より鳥取しゃんしゃん祭振興会副会長に就任。鳥取市観光コンベンション協会会長、鳥取商工会議所副会頭も務める。

タグ一覧