飲料メーカーによる日本の祭り支援の取り組みに携わり、全国160余りの祭りを見てきた加藤正明氏による新刊『祭りのウエルネス からだと心を癒やす「祝祭の旅」をはじめよう』。「祭り」と「ウエルネス(健康・幸福)」という、ありそうでなかった組み合わせはどのようにして生まれたのか。著者の加藤氏に詳しくお話を伺った。
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広告クリエイターから、全国160余りの祭りを巡る旅へ
ーーまず、加藤さんがこれまでどのような関心を持って活動されてきたのか、お聞かせいただけますか。
加藤: 現在の活動の基点となっているのは、大手広告会社での仕事です。コピーライターとして様々な広告制作を手がけたほか、自治体を得意先とする公共業務にも長く携わり、地域の価値向上に関わったことで観光学に興味を持ちました。40代後半でMBAを取得し、その修士論文をもとに出版した『成功する地域ブランド戦略』(PHP研究所)がご縁で、ある飲料メーカーの社会貢献活動(全国の祭りをテレビ番組として取り上げ支援する活動)の運営チームに加わることになりました。
実はそれまで祭りとの接点はほとんどなかったのですが、番組制作にあわせて9年間で160余りの祭りを実際に見て歩きました。各地の祭りを訪ね、地域の方々とお話しする中で、祭り研究には社会学や文化経済学などさまざまなアプローチがあることに気づき、自分なりの解釈と分析をまとめたのが前著『祭りのイノベーション 祭りを「資本の風車」と考えてみる』(2021年)です。広告会社で培った「価値を凝縮してわかりやすく伝える技術」と、祭りのフィールドワークなどの経験が、現在の私の強みになっていると思います。
「祭り眼福 天寿も延ばす」観に行く側の価値を言語化したい
太宰府天満宮神幸式大祭/しずしずと行く夜の渡御 加藤正明氏撮影
ーー今回、『祭りのウエルネス』を書こうと思われたきっかけは何だったのでしょうか。
加藤: 前著『祭りのイノベーション』では「祭りをする側」にとっての価値や課題を整理しましたが、その一方で、祭りにあふれる幸福感を理解する「ウエルネス」「ウエルビーイング」というキーワードにたどり着きました。
祭り取材を始めた2016年秋、福岡県の「太宰府天満宮神幸式大祭」を訪れた際、夜の田舎道を行く渡御の幻想的な光景に感銘を受け、「祭り眼福 天寿も延ばす」とノートに書きとめたのが最初のきっかけです。祭りをする側からの意義を説いた本はたくさんありますが、見に行く側にとっての価値を掘り下げた本はこれまでなかったのではないでしょうか。
「ウエルネスツーリズム」という観光産業からの視点を借りれば、ひろく「祭りを観に行く側」にとっての価値を言語化できると気づき、出版を念頭に「滋賀大学ウエルネスツーリズムプロデューサー養成講座」に通いました。そこで基礎を身につけ、「祭りウエルネスツーリズム」というコンセプトを世に打ち出したのが本作です。前著と対になるよう、タイトルは最初から『祭りのウエルネス』と決めていました。
祭りでつくる「地域・ひと・健康」
サングヮチャー/豊漁祈願の魚神輿を担いで浅瀬を渡る(C)芳賀ライブラリー
ーー本を書かれる中で、改めて感じた“祭りの力”や、これからの社会における祭りの価値について教えてください。
加藤: まず、祭り自体がウエルビーイングな存在であり、それを五感で感じることで観る人も幸福感に包まれるということです。寺社にお参りする、山車について歩く、近くの温泉に行く、郷土料理を楽しむといった経験まで含めると、祭りを軸としたウエルネスツーリズムが成立します。
これからの社会においては、祭りが果たす役割として「地域・ひと・健康」をつくることが重要です。 祭りには、「歩く・身体を動かす」「人と交流する」「地域とのつながりを感じる」「生きがいを持つ」「五感を刺激する」「非日常によって心理的回復を得る」といった要素があります。これは近年の健康寿命研究で重視される「身体」「心理」「社会参加」の三領域と非常に相性が良いのです。
全国にある祭りとウエルネスの関係が広く理解されるようになれば、国民的課題である平均寿命と健康寿命の差の短縮にもつながります。「最後まで人間らしく、地域とつながって生きる」という方向へ社会の関心が移る中で、祭りは大きな可能性を秘めています。
著者が体感した「これぞウエルネス!」な祭り体験
お山参詣/岩木山への感謝と畏敬(C)芳賀ライブラリー
ーー加藤さんご自身が「これはまさにウエルネスだ」と感じた印象的な祭り体験はありますか?
加藤:ある年、山形県の海辺のまちでの春祭りを訪れたときのことです。満開の桜並木のもと、神輿が川に入って清められるという、本当に幸せな光景が広がっていました。
その様子に見入っていた私に、傍らの年配女性が独り言のように「つぐづく、命の洗濯だべなあ」とつぶやいたんです。お話を伺うと、その方は生命に関わる大病を経験し、いまも身体に気を配りながらご主人と会社を経営されているとのことでした。だからこそ、こうして祭りを見ているだけで、「ああ、生きているって幸せなことだなあ」と心底思うのだそうです。ただそこにある祭りを観るだけで、観る人に幸福感をもたらし、生を肯定する力がある。これこそが「祭りのウエルネス」の象徴的な姿だと感じました。
本の中で実践例として紹介している、「サングヮチャー」(沖縄県)、「お山参詣」(青森県)、「高尾の夜祭」(山梨県)・・・、他には「唐戸山神事相撲」(石川県)なども、命が洗われるような素晴らしい時間でした。
高尾の夜祭/古道ちょうちん行列ツアー(ナイトハイク)到着後の様子(C)芳賀ライブラリー
観光、自治体、そして「健康経営」を目指す企業の方へ
唐戸山神事相撲/かがり火の下の神秘的な光景(C)芳賀ライブラリー
ーーそれでは、この本をどのような方に読んでほしいと思われますか。
加藤: まずは、地方自治体や観光協会、そして観光事業者の方々です。祭り前後の時間や空間を活用し、「祭り見物+温泉+郷土食」といったウエルネスな旅をプログラム化してPRしていただきたいですね。素朴な村祭りにも心を癒やす魅力があることが伝われば嬉しいです。
そして、企業の経営層や「健康経営」を扱う部署の方、医療・福祉関係の方々にもぜひ読んでいただきたいです。従業員の健康保持・増進は企業にとっても大きな課題であり、そのための費用はコストでなく投資と考えるべきとされています。私自身、企業の健康経営の中でも祭りに注目してほしくて、基礎を学ぶために「健康経営アドバイザー」の資格も取得しました。会社が費用を援助して、社員がウォーキングや温泉などを織り込んだ祭りへの親睦旅行に行くなど、大いに役立てていただきたいですね。
ーー最後に、『祭りのウエルネス』の購入方法と、読者へのメッセージをお願いします。
加藤: 『祭りのウエルネス からだと心をいやす「祝祭の旅」をはじめよう』、および前著『祭りのイノベーション 祭りを「資本の風車」と考えてみる』は、インターネット通販のAmazonにて、紙の書籍と電子書籍の両方で好評発売中です。
もともと大学授業のテキストとして書いたものなので少し理屈っぽいかもしれませんが、「祭りウエルネスツーリズム」という見立てと、「資本の風車」というフレームワークを用いることで、祭りと地域の関係をシンプルに理解できる仕掛けになっています。従来になかった新しい視座ですので、読み込んでいただければきっと腹落ちし、血肉にしていただけると思います。
著者である私も、日本の祭りのエバンジェリスト(伝道者)として、地域課題の解決や健康増進のお役に立てればと考えています。ぜひ皆さま、ご一読いただけましたら幸いです。
ーー本日は貴重なお話をありがとうございました。
(インタビュアーは小社・加藤優子が務めました)


『祭りのウエルネス からだと心を癒やす「祝祭の旅」をはじめよう』(2026年刊)
Amazon(書籍・電子書籍)にて発売中(※書名全体『祭りのウエルネス からだと心を癒やす「祝祭の旅」をはじめよう』と入力してください)