東日本大震災から11年が経過した。津波によって流され、未だに持ち主が見つかっていない漂流物はまだまだたくさんある。特に「名前が書かれていないもの」について、どのように持ち主を探していくのかというのはとても難しい問題だ。
北海道浦幌町では町内の海岸になんと「獅子頭」が漂着したらしい。Twitterの投稿を見て知ったのだが、持ち主がわからず浦幌町立博物館が保管しているという。日本全国の獅子舞の研究をしている私はとても興味をそそられて、この博物館を訪ねてみることにした。
浦幌町立博物館は、9月13日(月)まで臨時休館中です。休館中も博物館はさまざまな仕事をしています。このたび、芽室町在住の方から、2011年7月に昆布刈石海岸で拾った獅子頭をお預かりしました。東日本大震災による漂着物です。この獅子頭の持ち主を探そうと思います。 #博物館 #学芸員のおしごと pic.twitter.com/BY1Vw1X2Ig
— 浦幌町立博物館(非公式) (@urahoromuseum) September 4, 2021
獅子頭を求めて、浦幌町立博物館へ!
浦幌町は北海道南東部の十勝地方に位置し、畜産業や漁業が盛んな町だ。浦幌町立博物館はJR根室本線の浦幌駅から徒歩7分(役場庁舎北側)の場所にある。車だと国道38号線から浦幌町の市街地方面に走るとたどり着く。
この博物館では、自然や歴史、生活文化など様々な展示を扱っており、お祭り関連だと開拓者が持ち込んだ獅子舞の展示などが見られる。こちらについては後ほど紹介させていただく。それではまず、例の獅子頭の件について実際にお話を伺ってみた。
獅子頭の特徴は?どんな形?大きさは?
博物館に入ると早速、学芸員の方に漂着した獅子頭を見せていただいた。この獅子頭は実際に展示されているわけではない。白い布に包まれており、奥の倉庫に保管されているとのこと。こちらがその獅子頭だ!
見た感じでは漂着したとは思えないほどに美しい。実際に獅子舞に使うには顎の作りが簡素で、幕穴に糸をつけたような擦り傷がないことから、飾り用の獅子頭の可能性が高い。もしくは、子供の遊び道具か、祭礼で子供獅子として使われていたものだろう。塗りに関しては比較的良好な状態だ。
裏側には獅子頭が製作された年月日のようなものが記されており、判然としないが「H.18.4.24(平成18年4月24日)」に見えなくもない。寸法を測ったところ、高さは25cm、横幅と奥行きは各20cmほどであり、獅子頭としてはかなり小型だ。
獅子頭の形から読み取れるのは、金・黒・赤色を配したデザインで「名古屋型」という獅子頭の形態だろう。また、頭頂部のところが出っ張った形をしているので、「宇津型」で雄獅子であることが推測できる。この形態は日本全国各地に伝播した形態であり、趣味で作った獅子頭という可能性もあるため、地域を特定するのがなかなか難しい。
獅子頭はどのように発見されたのか?
2011年7月7日、浦幌町の海岸線を7km歩くウォーキングイベントが行われ、参加者である主婦2人が獅子頭が流れ着いているのを発見した。耳は根元から折れてしまっていて、エボシガイが数十個付着した状態で発見された。ひとまず、「祭りの日にあるべき場所に戻したい。」という思いから、主婦のうち一人が家に持ち帰ったという。
その数日後の7月13日には北海道新聞、7月14日には岩手日報にそれぞれ「獅子頭の持ち主を探しています。」という内容の記事が出されたものの、持ち主は現れなかった。それから10年経ち、持ち主が見つからなかったため、2021年秋に浦幌町立博物館に寄贈されたようだ。
獅子頭の持ち主はどこにいる?
この形態の獅子頭は日本全国に伝播しているということと、祭礼用ではなく飾り獅子や遊具の類である可能性も高いため、持ち主探しは非常に困難である。そもそも獅子頭の持ち主が津波で流されてしまったかもしれない。
それでも可能性があるとすれば、東日本大震災の津波の影響を受けた地域であることは確かだ。太平洋側に面した被災地といえば、青森県、岩手県、宮城県、福島県、茨城県、千葉県辺りだろうか。
ぜひこの獅子頭に心当たりのある方は浦幌町立博物館(015-576-2009)までご連絡いただきたい。今後は東北の博物館などで持ち主探しのために、この獅子頭の展示を実施するそうだ。もし、持ち主が見つかってくれるならばとても嬉しい。
浦幌では開拓獅子舞も見られる
この博物館では常設で、明治時代の開拓民が始めた獅子舞に関する展示が見られる。浦幌町には石川県・富山県から2つの獅子舞が持ち込まれたが、現在、実施されているのは富山県からのものだけだ。毎年9月20日の浦幌神社の秋季祭礼で披露される。開拓民が故郷を思う気持ちを込めて実施した獅子舞が今でも継承されているのだ。
開拓当時は箕(み)を活用して獅子頭を作り、カボチャをくりぬき耳を作ったというから驚きだ。今展示されている獅子頭は、その当時のものではないが、とてもおおらかな顔をしているのが印象的である。ぜひ、浦幌町を訪れた際は、お祭りや博物館の展示にもご注目いただきたい。
■浦幌町立博物館
開館時間:10時~18時(職員執務時間は9時30分から18時15分)
入館料:無料
休館日:月曜日(月曜日が祝日の場合は、その翌日)、国民の祝日の翌日(ただし、土曜日、日曜日及び国民の休日に当たるときを除く)、資料整理日(毎月最後の平日)年末年始(12月29日~1月3日)
連絡先:015-576-2009
浦幌町立博物館のホームページはこちら。