夏も終盤を迎え、秋の入り口が見えてきたころ。毎年この時期に行われる行事のひとつにお彼岸があります。
しかしお彼岸といっても、お墓参りはお盆にしたばかりで何をすればいいのかわからない。年に2回あって違いがよくわからないし……。そもそもいったいなんの行事なの……??
今回はそんなお彼岸の疑問について、由来や内容、お盆との違い、春・秋との違いを解説していきます。
お彼岸ってどんな行事なの?
お彼岸とは、春と秋それぞれ春分の日・秋分の日を中心に年に二回存在する、日本伝統の行事習慣のこと。土用の丑の日などと同じ、雑節行事の一つでもあります。
春分の日・秋分の日を特別な日とし、前後3日ずつ計7日間、年に二回の期間に、先祖や自然に感謝の気持ち込めて祈りを捧げます。
国民の祝日に関する法律では、それぞれの祝日について
「春分の日」は、「自然をたたえ生物をいつくしむ」
「秋分の日」は、「祖先をうやまい亡くなった人々をしのぶ。」
と説明。お彼岸という行事の趣旨がうかがえます。
お彼岸のルーツにあるのは仏教。仏教では“西方浄土”という考えがあり、西方の場所に“極楽浄土”があるとされていました。そのため太陽が真東から登って真西に沈む春分の日・秋分の日に、極楽浄土への想いを馳せたのです。
日本では独自の解釈がなされ、煩悩のない悟りの境地を“三途の川”を挟んで向こう側と捉え“彼岸”(ひがん)、煩悩のあるこちら側の世界を“此岸”(しがん)と考えました。亡くなった方は、煩悩のある此岸から、悟りの境地・彼岸へ至り、極楽浄土へたどり着くと考えられていたのです。
そのため春分の日・秋分の日は、古来の人々にとって、此岸に存在していながらにして、極楽浄土・彼岸とかかわりの深くなる、貴重な機会。彼らはお彼岸の期間、自身が存在できている事実や存在する世界があることを祖先や自然に感謝し、自身も死後に、極楽浄土へたどり着けるよう修行を行いました。
2020年の秋彼岸は9月22日・秋分の日を中心とした9月15日~25日まで。2021年の春彼岸は3月20日を中心として、3月17日~3月23日までの期間です。
悟りへ至る修行 “波羅蜜”
お彼岸の期間には、大乗仏教として“波羅蜜多”や“波羅蜜”と呼ばれる、サンスクリット語“パーラミタ”を語源とした6つの修行(六波羅蜜)を行い、悟りを目指します。
六波羅蜜の修行とは具体的に
1・布施(ふせ)波羅蜜……見返りや褒美を求めず、他者のために善行を尽くすこと。現代の日常生活でいえば、「雨宿りしている人に傘を貸す」「お年寄りに席を譲る」などのシチュエーションが布施波羅蜜に当てはまります。このとき、自分も幸せな気持ちになれる行いであることも忘れてはいけません。
2・自戒(じかい)波羅蜜……教えを守り、つつましく人間らしく生きること。具体的には「脱いだ靴をそろえる」などがあげられます。鬼気迫った気持ちで行わずに、穏やかな心で実行することが大切です。
3・忍辱(にんにく)波羅蜜……つらい時も心を折らずに、耐え忍ぶこと。どんなことがあっても恨みや怒りを抱かずに、受けながすイメージです。
4・精進(しょうじん)波羅蜜……常に本来の意味での波羅蜜を行うよう心がけること。修行の努力を間違った方向にしないよう、常に本質を考えることが重要です。
5・禅定(ぜんじょう)波羅蜜……座禅を行い、身と心を調えること。穏やかな風のように凪いだ心を持つことで、物事や教えの本質を見出す修行。
6・智慧(ちえ)波羅蜜……悟りへの道を自分で見つけるべく、自らを律し、認め、励ます心のこと。他の5つの波羅蜜を成り立たせる重要や役割を担っています。仏教用語において“智慧”は、一般的な“知恵”とは区別され、“智慧”を意味するサンスクリット語のプラジュニャー( prajñā)の発音から、“般若”と訳されることも。この場合の“般若”は“智慧”と同義のため、悟りへと至る心を指し、そのため智慧波羅蜜も“般若波羅蜜”とよばれる場合があります。また有名な「般若心経」の正式名称は「般若波羅蜜心経(宗派によっては「摩訶般若波羅蜜多心経」)」。現在でも頻繁に書き写されていることをふまえると、智慧波羅蜜・般若波羅蜜は、六波羅蜜の中で私たちにとって一番身近な存在かもしれません。
これらの修行をおこない、何事とも共存していく“中道”の生き方をめざします。そして自身が死後、極楽浄土へたどり着けるように、と願いを込めました。
ちなみにパーラミタを日本語訳したものがお彼岸であり、6つの修行がお彼岸行事の中心だったことがわかります。
他には、お墓参りをし先祖に感謝の気持ちを伝えることや、仏壇をお掃除すること、そしてお供え物をすることがお彼岸の時期に行うこととして挙げられます。
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これら先祖への気持ちは“祖霊崇拝”・“祖霊信仰”などと呼ばれる日本独自の信仰心によるもの。日本では古来から葬儀のあと、年忌法要(〇回忌など)を重ねた最後“弔い上げ”という、個人の霊魂を一族の霊魂(祖霊)に変化させる習俗が行われてきました。現在でも行われるこの習俗は「自分のルーツは先祖にある」という捉え方が由来となっています。
“弔い上げ”で祖霊となった霊魂たちは、毎年決まった時期に子孫の家を訪問し、家を護る存在になると信じられていました。毎年決まった時期というのは、現在のお盆やお彼岸の頃のこと。先祖を大切に思う日本独自の気持ちが、やがて仏教の行事・お盆やお彼岸と合体し、ご先祖に感謝する機会となっていったのです。
知って納得。お彼岸豆知識
お盆とお彼岸の違い
日付が近く、どちらも「お墓参りをする」という共通点がある、秋のお彼岸はお盆。しかし、意味合いには大きな違いがあるのです。
まずはお盆。ご先祖様が現世、つまり此岸に帰って来られる期間であり、ナスとキュウリの精霊馬・盆提灯などでご先祖様を迎えます。お盆に行うお墓参りの意味は、ご先祖様をお迎えにあがること。お墓参りでご先祖さまを出迎え、お盆飾りで迷わないようご案内するイメージです。
一方のお彼岸は、此岸の私たちが彼岸のご先祖様に近づく行事。お墓参りをするのは、ご先祖様や、自然に感謝を伝えるという意味合いがあります。
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春・秋の違い
お供え物は、春の彼岸では“ぼた餅”、秋の彼岸では“おはぎ”をお供えします。春には牡丹、秋には萩が季節をむかえるため。また通常、ぼた餅にはこしあん、おはぎには粒あんを使用します。こちらは、あんこの原料である小豆は秋に収穫されることから新鮮な秋の時期は粒あん、時間がたち小豆が硬くなってしまう春はこしあんが使われるようになった、といわれています。
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それぞれのお彼岸を感じさせるお花にも、春は“彼岸桜”、秋は“彼岸花”という違いがあります。どちらも見ているだけですこし切ない気持ちになる、不思議なお花。彼岸桜は「精神美」、彼岸花には「また会う日を楽しみに」といった、お彼岸を思わせる花言葉を持っています。
まとめ
ご先祖や自然に感謝し、自分を見つめなおす期間である、お彼岸。行事のテーマについて理解した後は、6つの修行を実践してみるのはいかがでしょうか? もしかしたらお彼岸だけでなく日常生活にも役立つ、強い心が身につくかもしれませんよ。