2019年からスタートした、観光経済新聞のオマツリジャパンコラム記事連載!2022年も「お祭り」をフックに、旅に出たくなる記事の連載をして参ります!奇祭好き、ケンカ祭り好き、お神輿好き…等、様々なライターさんに記事を執筆いただく予定ですので、ぜひご覧ください♪(オマツリジャパン編集部)
笠に絆!声だけの道念音頭
有名な京都大原三千院のほど近くに広がる静かな里山風景。京都駅からたった1時間ほどの場所なのに神社の周りは畑や住宅地でとても静かだ。
そんな大原郷八ケ村にある総氏神の江文神社では、毎年9月1日に近い土曜に「大原八朔祭」が行われる。五穀豊穣の神・倉稲魂命(うかのみたまのみこと)に豊作祈願をする秋のお祭りだ。
鳥居の奥には苔むした階段。境内の一角では屋台が開かれ、子供たちによる盆踊りが始まる。提灯(ちょうちん)の明かりに彩られた境内では子供たちが追いかけっこをし、笑い声と太鼓の音だけが響きわたる。
しばらくすると足下の灯籠の光が消え、高張提灯の明かりだけに。すると走り回っていた子供たちも静かになり、暗闇の中に「ヤートコセ」の声が聞こえてくる。提灯を持った人々が階段をゆっくりとのぼると次は「しょんがいな」の曲が始まる。音頭取りの一番手がやぐらに入り、幻想的な雰囲気がただよい始めると、いよいよ京都市登録無形文化財「大原八朔踊」の真骨頂である「道念」踊りだ。
小提灯を持った男たちがやぐらを囲み、その周りでは楽器を使わず声だけで踊る「道念音頭」が披露される。歌われているのは大原ゆかりの「大原踊」「黒木踊」「小野霞の踊」、京都の川の名前を謡う「川川づくし」。
楽器はなく、声だけというのが、さすが「大原声明」で有名な地だ。僧侶たちが仏や神々を賛美する唄「声明」は民謡や演歌の元になったともいわれている。そんな声明をほうふつとさせる「道念音頭」に合わせ、菅笠(すげがさ)に藍染めの絣(かすり)の着物を着た男たちと、大原女姿の女性たちが踊る。
この懐かしい光景を見ていると、頭に薪(たきぎ)を載せて歩く大原女まつり時代行列や、切り紙の灯籠が美しい八瀬赦免地踊(やせしゃめんちおどり)を思い出す。大原にはそんな時が止まったような原風景の祭りがそっと残っている。