日本には30万以上もの祭りがあると言われている。世界でも類をみない祭りの国・日本。
しかし、少子高齢化による祭りの担い手不足を引き金に、産業衰退や人間関係の希薄化による資金の不足、マンネリ化などを理由に、受継がれてきた祭りを維持できず途絶えてしまう祭りも多い。
僕たちは今まさにこれからの祭りのあり方について考えるべきときなのだろう。
1.祭りの共通の課題・後継者の育成
多くの祭りが課題を抱える現代にあって、課題に立ち向かうヒントを与えてくれる祭りを紹介していく本連載。
今回は、熊本県八代市で開催される「八代妙見祭」の事例を紹介したい。
八代妙見祭では、「後継者の育成」に関して先進的な取組みを行っている。
祭りの後継者(担い手)の育成。これは現代社会において難しい課題の一つであり、多くの祭りで共通して抱える課題だ。
はじめに、現代社会において祭りの後継者の育成がどれだけ難しいのか確認しておきたい。
これまで地縁的なつながりで地域住民が祭りを担ってくることが日本では通例であった。
お祭りを営む地域に生まれれば、気づいた時には祭りに参加しており、大人になれば青年部に所属し次第に運営中心メンバーになっていく。
ひと昔前の日本であればどこにでもあったこと。
しかし、日本の産業構造が大きく変わっていく中で地方圏から大都市圏への若者流出・偏重が問題視されるようになった。
※三大都市圏及び地方圏の転出入超過数の累計(2000年~2016年)
この人口動態の変化が、祭りに対しても確実に負の影響を与えている。
祭りを担っていくはずの若者が地域から離れていく。
そのうちに地縁を持つ若者自体が減っていく。そんな負のスパイラルがどの地域でも進行しているのだ。
教育環境をはじめとするインフラ整備や雇用創出が対策として重要であることは言うまでもないが、祭りを担う現代世代の我々も問題に向き合い、祭り観点で策を講じていかねばならない。
2.日本の誇る無形文化財の伝統を紡ぐのは「ちびっこたち」
八代妙見祭は、九州三大祭のひとつに数え上げられ、2016年ユネスコ無形文化遺産にも登録された日本を代表する祭りだ。
獅子を筆頭に、笠鉾、神馬、神輿など、40の出し物による豪華絢爛な神幸行列を目の当たりにすると、歴史絵巻の中に入り込んだような感覚を覚える。
380年もの伝統を持つ妙見祭が本気で取組む後継者の育成。
その最たる例が、「ちびっこ妙見祭」の開催だろう。
妙見祭の本祭り2週間ほど前に開催されるこのお祭りは非常に奥が深い。
大人が妙見祭で披露する演舞さながら、子供たちが獅子や亀蛇(きだ)の演舞、笠鉾の行列などを披露する。
何より注目すべきは、名の通り、主役は子供たちなのだ。
子供たちへスポットライトを当てた祭りが本祭り2週間前の時期に地域市民や団体を巻き込んで大々的に行われている。
子供たちによる企画が本祭の中で行われたり、祭りの一部に子供が登場することはどこの地域でも行われていることではある。
しかし、子供たちが主役になれる機会をここまで提供している祭りはあまり類をみない。
ちびっこ妙見祭を筆頭に、子供たちが祭りに触れるきっかけとなる「妙見祭出し物体験教室」の開催や、祭りに親しみをもってもらうためにと作られた妙見祭テーマソング製作・ダンスプロジェクト(「がめさんダンスプロジェクト」)などが実施されている。
このような取組みを通じて、「祭りに触れ、親しみを持ち、楽しんで参加し、参加する喜びを味わう」という一連の祭り体験を、地域に住む子供たちへ提供している。
2019年で10回目をむかえるちびっこ妙見祭だが、開催のきっかけはやはり「祭りの担い手の減少」だという。
その危機感から、妙見祭を地域の宝としてこれから先も伝統を継承していくためにこれらの取り組みが行われている。
「祭りは、人が基盤。伝統を次の世代につないでいくための体制を広く地域で整えていく。良い流れをこれからも作っていきたい」
祭りの保護団体である八代妙見祭保存振興会の濵大八郎会長はこのように取り組みについて語っている。
3.良質な原体験を如何に提供するかがカギ
後継者育成で考えるべきは、祭りを担っていく若者が祭りと関わり続けたいと思えるか。
そう思えるためのカギは、「祭りに触れ、親しみを持ち、楽しんで参加し、参加する喜びを味わう」という一連の祭り体験を適切な順序とタイミングで提供していくことなのかもしれない。
その点で、八代妙見祭の事例は、非常に良い示唆を我々に与えてくれている。
ワークショップ等のイベントを通じて祭りに触れ親しみを持ち、ちびっこ妙見祭で参加する大きな喜びを味わう。
そのように良質な原体験を得られた若者たちにとって「祭り」は自らのアイデンティティの一部になっていくだろう。
八代妙見祭では、過去ちびっこ妙見祭に参加していた子供たちが成長し、祭りの担い手として参加する若者も増えてきているという。
祭りはもはや、子供たちが自ら学んで継承してくれるものではない。
現代世代の我々が大きく歩み寄り、真剣に伝統継承のための体制を組んでいかなければならない。