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【こうた凧揚げまつり】僕たちの祭りのカタチ。地域に愛される企業の祭りの関わり方

2020/3/6
2024/2/29
【こうた凧揚げまつり】僕たちの祭りのカタチ。地域に愛される企業の祭りの関わり方

日本には30万以上もの祭りがあると言われている。
世界でも類をみない祭りの国・日本。

しかし、少子高齢化による祭りの担い手不足、産業衰退や人間関係の希薄化による資金の不足、マンネリ化などを理由に、受継がれてきた祭りを維持できず途絶えてしまう祭りも多い。

僕たちは今まさにこれからの祭りのあり方について考えるべきときなのだろう。

祭りを共に盛り上げる、企業の存在

多くの祭りが課題を抱える現代にあって、課題に立ち向かうヒントを与えてくれる祭りを紹介していく本連載。

今回は、祭りと企業のこれからの関わり方について示唆を与えてくれる「株式会社デンソー」(以下、デンソー)×「こうた凧揚げまつり」の事例を紹介したい。

デンソーは、愛知県刈谷市に本社をおく、自動車部品製造を中心とする、言わずと知れた世界トップのモノづくり企業である。

その生産・開発拠点の中でも非常に興味深い取り組みを行っているのが、同県幸田町にあるデンソー幸田製作所だ。

※令和2年度こうた凧揚げまつり大凧の部で文部科学大臣賞を受賞したデンソー幸田凧の会令和2年度こうた凧揚げまつり大凧の部で文部科学大臣賞を受賞したデンソー幸田凧の会

まず、一般的な祭りと企業の関わりの歴史について、少しばかり触れておこう。

古くより祭りは神と人をつなぎ、そして時代とともに人と人を繋ぐ地域コミュニティの中心的な存在になっていく。
その地に根をおろす企業にとっても、祭りというのは特別な場であり機会であった。

例えば、東北三大祭りの一つに数えられる、仙台七夕まつり。

市中を埋め尽くす豪華絢爛な笹飾りがシンボルの華やかな七夕祭りだ。祭り期間中は延べ200万人もの人々が訪れる。

江戸時代より続く歴史ある祭りだが、仙台商人の粋に支えられ恐慌や戦争など幾多の試練を乗り越え現代に受け継がれている。

今でも地域で商売を行う仙台商人がお金を出して笹飾りを作り、地域の宝として七夕まつりを盛り上げ続けている。毎年夏になると「あのお店の笹飾りが綺麗だった」など人々の話題に企業の名が自然にあがるようになり、市民と企業の距離が身近に感じられる瞬間とも言える。

地域の人々が愛する「祭り」に協力しともに支えること、それはいわば企業の「信頼の証」であり、協賛金奉納や差し入れなどの現物協賛、人手出しなど様々な関わり方があるが、いずれも地域での事業を円滑にしていく上で大切な機会であった。

しかし、現代において、多くの地域で祭りと企業の関係が崩れつつある。これまで祭りと関わってきた企業が、祭りから離れていっているのだ。

理由はいくつか考えられるが、グローバリゼーションの深化そしてインターネットがビジネスを大きく変革していくうねりとともに、地縁に重きを置かない新興企業の台頭や、かつての地域密着型から方針転換を余儀なくされる企業も数多い。

企業も深く地域に入り込む直接的なメリットを享受しにくい環境の中で、祭りとの関わりが疎遠になってきているのだ。

そのような現代社会にありながら、祭りと関わりを深めるのがデンソー幸田製作所だ。

地域貢献活動の一環として企業での祭り参加そして支援

デンソー幸田製作所では、地域貢献活動として地域の緑化活動や清掃協力活動など様々な取組みを行っている。

その一環として、幸田町のシンボル的な祭りである「こうた凧揚げまつり」への参加、そして運営支援を行っているのだ。

駅からまつり会場を結ぶデンソー提供のシャトルバス駅からまつり会場を結ぶデンソー提供のシャトルバス

「こうた凧揚げまつり」は幸田町民の相互の親睦を深めることを目的として1998年から開催されている。その前身となる新春凧揚げ大会から数えると40年以上の歴史がある。

幸田町には凧という文化が根づいている。縦横180cm以上の大凧から小凧まであらゆる部門が設けられ、大人から子供まで皆が自作の凧を新春の空に揚げて凧の華麗さや造り、そして技を競い合う。

今年2020年は144基の凧が参加。花形ともいえる大凧は25基が出陣した。

競技飛行前の様子。風を読み高く上がるタイミングを伺う。競技飛行前の様子。風を読み高く上がるタイミングを伺う。

デンソー幸田製作所は、1995年に企業として初参加、2004年からは毎年祭りへの協賛のほか、社員有志が凧を制作し実際に参加している。

デンソー幸田製作所でチームの中心を担う岡田さんは、祭りを通じた地域貢献についてこう語る。

「地域に拠点を置く企業として、地域の中で理解を得ながら事業を行っていく必要があります。その為には、自分たちが町民の方々からどのようにみられているか認識することが重要ですし、その意味で、祭りは地域住民との交流機会が生まれる非常に有効な場です」

デンソー幸田製作所でチームの中心を担う岡田和浩さんデンソー幸田製作所でチームの中心を担う岡田和浩さん

そして近年、協賛・チームとしての参加だけでなく、来場者の足となる送迎バスの提供や、幸田町の凧の伝統・文化を後世に残していくために設立されたこうた凧保存会の運営支援など更に祭りへの関わりを深めているという。

特に興味深いのは、こうた凧保存会の運営支援だ。

岡田さんは、設立時から保存会のメンバーとして運営に携わっている。

祭りとの関わりを深める中で知った、凧職人の高齢化や後継者不足という課題。

岡田さんは、祭りを支えるためにモノづくりを行う企業人だからこそできることを考えた、という。

モノづくり企業の知見を活かし、暗黙知を形式知にするために、設計図や作業要領書などの作成、凧文化保存に必要な資料のビジュアル化に取り組んでいる。

企業だからできる祭りの支え方。

デンソー幸田製作所はそれをまさに実践し、祭りの関係者をはじめとして地域住民からの厚い信頼を得ているのである。

地域との関係構築のために必要なこと

「こうた凧揚げまつり」にとってパートナーとして欠かせない存在であるデンソー幸田製作所だが、祭りを通じて現在のような関係を地域と築いていくまでには相応の苦労があったという。

「デンソー幸田製作所として祭りへの関わりを深めていくにあたっては、地域の方々からどこまでやれるのかと当然ながら力量をはかられていたと思います」

岡田さんは続ける。

「しかし、本音ベースで正直にぶつかっていく中で認めてくれる人々や応援してくれる人々が多くなっていきました。正直にぶつかっていくことで、地域の方々が大事にする価値観や言葉を理解することができるようになった。そして、祭りを盛り上げるという意味では、目的を同じくする仲間としてコミュニケーションができるようになったことが大きかったと考えています」

地域の宝である祭り。祭りを営む人々は地域や祭りに誇りを持って取り組んでいる。

本気で地域の文化を守り発信していこうとする祭人たちと向き合うためには、こちらも自ら本気でぶつかっていくことが重要だ。だからこそ、その本気のぶつかり合いが相互の信頼関係を生み出していく。

こうた凧揚げまつり副実行委員長で、こうた凧保存会会長である杉浦忠幸さんは、岡田さんをはじめデンソー幸田製作所の取り組みについてこのように語っている。

「幸田の凧は観る者を魅了し感動と夢を与えてくれるもの。デンソー幸田製作所の皆さんはその祭りを一緒に作ってくれている。また、岡田くんは、こうた凧保存会でも強力な右腕的な存在としてサポートしてくれており、本当に貴重な存在です。」

写真右:こうた凧揚げまつり副実行委員長の杉浦忠幸さん (こうた凧保存会会長)写真右:こうた凧揚げまつり副実行委員長の杉浦忠幸さん (こうた凧保存会会長)

最後に…

最後に、岡田さんはこれからのこうた凧揚げまつりへの関わり方について話してくれた。

「日本に昔からある凧揚げの文化自体が少しずつ忘れ去られようとしています。だからこそ、子供たちに凧揚げの原体験を得てもらいたい。今年は実行委員会として子供用の凧の販売などにも注力していました。そして、幸田町の町民がこぞってまつりに来てくれたら嬉しい。そのためにも、企業、そして個人としてますます盛り上げていきたいです。」

祭りへの参加、協賛、そして運営支援と祭りに深く関わるデンソー幸田製作所の取組みは、祭りと企業の関係が崩れつつある現代においては珍しいのかもしれない。

しかし、このような地域貢献活動に本気で取り組むことが、デンソーが地域で愛される企業としてあり続けている所以なのだろう。

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