みなさん、こんにちは。美しい舞が大好きなカメラマンの佐々木美佳です。
「女人舞楽 原笙会(はらしょうかい)」にお願いして4曲の舞楽を撮影し、その魅力を1曲ずつご紹介するこのシリーズ。第3回の今回は「萬歳楽(まんざいらく)」をお届けします。
今日4月29日は「昭和の日」ですが、昭和の時代には昭和天皇の「天皇誕生日」として祝日となっていました。「萬歳楽」は昭和天皇の即位の礼でも奏された祝賀の舞で、皇室とはとてもゆかりの深い演目の一つです。
日常で私たちが目にすることはなかなか難しい舞楽ですが、神秘のベールに包まれた魅力の一端を今回もご紹介しましょう。
賢王万歳!鳳凰の声と姿を模した左舞の代表曲
舞楽は伝わった系統によって大きく二つに分かれます。
日本から大陸に向かって左の方にある中国の系統は「左舞(さまい)」と呼ばれ、赤系統の装束を着ます。右の方にある朝鮮半島の系統は「右舞(うまい)」と呼ばれ、青(緑)系統の装束を着るのが通例です。
そして、左舞の代表曲の一つが今回ご紹介する「萬歳楽」です。
舞楽と雅楽の基礎知識については、下記の記事で解説していますのでぜひご参照ください。
では、この萬歳楽という舞にはどのような特徴があるのでしょうか?「原笙会」の生川先生にお話を伺いました。
佐々木:すり足からパン!と鳴らす足の運びが勇ましくかっこいいですね!生川先生、萬歳楽はどんな曲なのでしょうか。
生川先生:この曲は、隋の陽帝(ようだい)の作曲といわれ、即位の礼に舞われる有名な舞です。
一説では、中国では明君が世を治めるときに鳳凰が現れて「賢王万歳」とさえずるといわれているのだとか。この曲では、そのさえずる声を写し、舞は鳳凰の舞う姿をかたどって作ったといわれます。
舞い始めはゆるやかな手振りで頭上高く両手をかざし、開くさまは、あたかも鳥が翼を広げたような晴れやかさがあります。
佐々木:なるほど、手を広げるのは鳥のはばたきを表現しているのですね…!
生川先生に教えていただいた内容を元に萬歳楽について調べてみると、もとは六人の女性が舞っており、童舞(どうぶ)であったともいわれていると分かりました。
雅楽は一般的に男性が舞うことが多いけれど、女人舞楽 原笙会が舞うというのは、忠実な再現であるのかもしれません。
中国の皇帝か?日本の天皇か?実は作曲者は謎
「萬歳楽」は隋の煬帝の作だといわれ「煬帝萬歳楽」とも呼ばれますが、実は作者には諸説あります。
例えばその一つが、唐の時代に女帝・則天武后(そくてんぶこう)の飼っていた九官鳥が「聖王万歳(賢王万歳)」とさえずったため、その声が音楽、姿が舞となったという鳥歌萬歳説です。また、1233年に成立した雅楽書「教訓抄」によると、用明天皇の作ともいわれています。
いずれにしろ、皇帝や天皇が作ったとされ、鳳凰を表した曲とはなんとも優雅ですね。
古来より皇室では慶事に祝賀の舞として奏上され、昭和3年11月の昭和天皇の即位礼では大饗の宴で舞われました。そのほか令和に元号が改まった令和元年5月1日には、伊勢神宮神苑の特設舞台でも今上天皇の即位を祝して披露されていました。
また、萬歳楽を舞う様子の絵は、昭和天皇の御在位50年記念切手の図柄になっており、平成2年には上皇陛下の御即位記念として、平成10年には御在位10年の記念として、萬歳楽の装束に施される桐竹文様が記念切手の図柄になっています。
結婚式でおなじみの「高砂」にも登場
萬歳楽は、舞楽以外にも世阿弥元清作の謡曲「高砂(たかさご)」にも出てきます。高砂といえば結婚式でもよく聞く、「高砂や この浦舟に 帆を上げて」から始まる夫婦愛や長寿を祝うおめでたい曲です。
高砂では「千秋楽は民を撫で、萬歳楽は命を延ぶ」と謡われます。ちなみにこの「千秋楽」というのは、能、歌舞伎、相撲などでもおなじみの言葉。雅楽の曲の一つですが、その場の最後の一曲として演奏されることが多かったため、興行の最後の日のことを「千秋楽」と呼ぶようになったといいます。
「萬歳楽」が出てくる能の「高砂」のあらすじや謡曲は、こちらの動画で解説されています。萬歳楽が謡われる千秋楽の部分は、12分30秒くらいからをご覧ください。
他に、刀の脇差の名前にも「万歳楽」があります。「萬歳楽」ときいて「日本酒でしょ!」と答えたあなたは、きっとお酒好きですね。
萬歳楽の装束の特徴は?
現代とは違って貴重であった布をふんだんに使い、身体を大きく見せる雅楽。そこには神様への尊敬の念が感じられます。装束の名前は一般的には分かりづらい用語が多いため、簡単にまとめてみました。
まず萬歳楽では舞楽の中で一般的な襲(かさね)装束を着用します。よくこの形式の装束を着る演目が多いため、常(つね)装束とも呼ばれます。
頭には鳳凰をかたどった鳥甲(とりかぶと)をかぶり、体には赤地闕腋袍(けってきのほう)をまといます。右袖を脱ぐ片肩袒(かたぬぎ)にし、華やかに見えるように下襲(したがさね)の袖の紋様をだします。そして下は表袴や糸鞋(しかい)を履きます。
鳳凰が舞う雅な祝賀舞「萬歳楽」、いかがでしたでしょうか。
萬歳楽を見てみたい方にオススメなのは奈良県の春日大社で行われる「春日若宮おん祭」。長雨や飢饉、疫病の退散を願い、7月から12月まで行われるお祭りです。
中でも12月17日は夜中から一日中行事があり、正午からは平安時代から江戸時代までの雅な衣装をつけた伝統行列が街を練り歩きます。午後3時半から10時半頃までは神楽や田楽、猿楽など数々の芸能とともに、11曲もの舞楽が奉納されます。この壮大なお祭りを一度、感じてみてほしいです。
下記は「春日若宮おん祭」とは別の機会ですが、春日大社で「萬歳楽」が披露されたときの様子です。
萬歳楽の動画を見ていたら、自分でも舞ってみたくなったという方もいらっしゃるかもしれませんね。
通常、雅楽は楽器ができるようになってから舞を習います。しかし、今回お話をうかがった原笙会では若くて綺麗なうちに女性が舞えるようにと、舞に特化して勉強をしています。
装束の着付体験も可能ですので、気になった方はぜひ下記のホームページものぞいてみてください。
■女人舞楽 原笙会
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