「ホーリャーイ!ホーリャーイ!」トコトントントン・・・
12月2日、秩父夜祭の宵宮の日。お祭りが開催される秩父の中心地に向かうにつれ、遠くから聞こえて来るお囃子の声と太鼓や笛の音。屋台はどこだ?と、まだ人の少ない市街地を歩きながら辺りを見渡す。お祭り好きの方でしたらこの時点でワクワクが始まっている事でしょう。
秩父夜祭は京都の祇園祭、そして飛騨の高山祭と並び、日本三大曳山祭りの一つに数えられる、長い歴史をもつ盛大なお祭りです。お祭りのクライマックスは本宮(12月3日)の夜、御旅所に華やかな屋台や笠鉾が並び、冬の大空に打ち上げられる花火とのコラボレーションが有名で、毎年多くの見物客で街が埋め尽くされます。有料の観覧席もありますが、申し込みが多く抽選で当たらないと手に入れる事が出来ない程の人気ぶりです。
「折角だからメインの日に・・」とか「宵宮では物足りないのでは?」と思われる方も多いかも知れませんが、そんなことはありません。華やかな屋台や迫力のギリ回しシーンを間近で見る事ができる宵宮の楽しみ方をご紹介したいと思います!
目次
お昼頃に神社へ屋台が集結!しかし、囃子手の様子がすでに・・・??
「夜祭」「宵宮」とは言えども、熱い祭りの一日は午前中から始まっています。早い町会では朝の9時頃に町の屋台収蔵庫を出発!
宵宮で登場する屋台は四基(本町、上町、中町、宮地の各町会)です。各町を出発した屋台は順番に正午前後に秩父神社へと向かいます。
先ずはこの時間に秩父神社へ行ってみるのがおススメです。メインとなる本宮の日(12月3日)は駐車場も混雑しますが、宵宮のこの時間でしたら無料駐車場もゆとりがあるようです。
「屋台」と聞くとお祭り等で並ぶ野外で食べ物を販売する出店をイメージするかと思いますが、ここ秩父ではいわゆる山車(だし)の事を「屋台」と呼びます。
各屋台の先頭には紅白の衣装を身に纏った「囃子手」と言われる4人の男性が乗っていますが、よく見るとやたらとご機嫌な人がいれば、目を真っ赤に腫らして泣いている人もいる。そう、酔っぱらっているのです。
筆者が初めてこの祭りを観に来た時、真っ先に目に付いたのがその光景でした。「お祭りの日とは言え初日の午前から酒を飲むなんて、浮かれるにも程がある!」と思う方も多いでしょう。
しかし、彼らは決して浮かれて酔っぱらっているのではありません。「囃子手」と呼ばれるこの4人の男性は毎年各町内で貢献をした人等が選ばれ、お祭りの二日間は神様の代役として屋台の先頭に昇るのです。彼らは二日間神様としての扱いを受けるわけで、好きなだけお酒を飲むことができ、しかもどれだけ酔っぱらって粗相をしても許されるという、特別な存在としてその重要な役割を担います。(酔い過ぎた囃子手が落下する等の事故が起こらないよう、近年ではやや自粛の傾向にあるようです)
そして、その「囃子手」に選ばれるのは一生に一度きりという決まりがあるそうで、囃子手は初日の朝を迎え、その名誉の晴れ舞台に感極まり、男泣きをする。この時間ならではの光景です。
それにしても大の大人が酔っぱらって大泣きする程の一大事なのだろうか?と初めは思ってしまいましたが・・・。
秩父神社にてお宮参り。神楽殿では奉納神楽も。
さて、神社へとやってきた各町会の屋台は、ここでお宮参りをします。
お宮参りの為に神門前に屋台をつける。
お宮参りで屋台の舞台に乗り込む日本舞踊の踊り子さん。ここでも踊りを披露します。
粛々と執り行われるお宮参り。
この時間に、境内の神楽殿では奉納神楽を観る事もできます。
そして、神社への参拝もお忘れなく!
秩父夜祭の必見ポイント、迫力の「ギリ回し」を宵宮で観る!
秩父夜祭を語る上で欠かせないのが方向転換時に行われる、「ギリ回し」の技です。
豪華な彫刻が施された巨大な屋台(及び笠鉾)は古いもので明治の時代に作成され、今でも現役で大事に扱われています。釘を一本も使わず、毎年お祭りの前に組み立てられ、終わると解体されるのだそうな。重いものでは約20トンにもなり、総勢およそ100人もの引手によって曳き回しされますが、そこまでの重さの屋台を扱うのは容易ではありません。
ギリ回しは神社の境内や街中での交差点、折り返し点等、方向転換時には至る場所で観る事ができます。
先ずは屋台後方に二本の「てこ棒」を咬ませて、一気に棒を引き下ろし、てこの原理を使って屋台後部を持ち上げます。(写真は宮地屋台)
宮地と中町の屋台ではこのように縄を使いますが・・・
比較的小型なのでしょうか?本町屋台では縄を使わずおもむろにてこ棒に飛びつき引っ張り下ろし・・・(写真は本町屋台)
押さえ込みます。(写真は中町屋台)
特に傾斜のある場所ではなかなか持ち上がらず、次々と人が飛び乗っていきます。見ている方は楽しいですが、実際にやっている本人たちは真剣そのもの!
持ち上げている間に、屋台の下にギリ棒を備え付けます。屋台の後輪がかなり浮いてますね!
後方が持ち上げられた状態の本町屋台。まるで社務所がある建物に向かってお辞儀をしているようです。
てこ棒を外すとギリ棒を中心に巨大な屋台が浮いた状態になり、ギリギリと音を立てながら慎重に方向転換をします。
「オーエス!オーエス!」廻す方向へ扇子を仰ぎながらの囃子手の掛け声は「押せ」の意味があるのだとか。
上町屋台のみ「キリン」と呼ばれる装置で屋台を持ち上げるため、方向転換時に「てこ棒」を使ったアクションは見れません。
午後の屋台巡行、見どころをチェック。
昼に宮参りを済ませた各町会の屋台は、巡行予定に沿って街中での曳き回しが行われます。見どころは道幅いっぱいに使った屋台すれ違いシーンや、屋台の舞台上での曳き踊りなど。進行をチェックしましょう。
大通りにある案内所ではお祭りのパンフレットを貰える他、巡行予定表が置かれています。予定表の一般客への配布は無いので、スマホ等で画像を撮らせて貰いましょう。これがあれば屋台のすれ違いやギリ回しの場所、曳踊りの時間もチェックできます!
秩父神社から街へと向かう上町屋台。大きく屋根が張り出していてかっこいいですね!そのぶん狭い場所や屋台すれ違い時には細心の注意が必要なのだとか・・・。
すれ違い地点が近づき歩道ぎりぎりまで屋台を寄せる中町屋台。
本町の町内では本町屋台のシンボルでもある達磨の看板が・・・さすが祭りの町ですね!
旧松竹秩父国際劇場の建物や・・・
現在「ほっとすぽっと秩父館」となっている建物は明治時代に建てられた古い建築。
そして昭和の香りを残した商店が並ぶ秩父の街並みも楽しみたい。
四方を山に囲まれた盆地に位置する秩父の街。天気は比較的変わりやすいです。急に雲が立ち込めてきたと思えば、雲間から射した太陽の光が素敵な演出をしてくれることも。また冷え込むと氷点下になることもありますので、十分な防寒対策も心掛けたいです。
長唄に合わせて屋台の舞台上で披露される本格的な日本舞踊。要所に屋台を止めて行われる「曳踊り」です。威勢の良い掛け声と打って変わってしばしの間優雅な時が流れます。彼女たちは午後の巡行が終わると屋台を降ります。
宵宮の午後はまだ人足も多くないので、地元の方々とふれあいながら、ゆっくりと過ごしたいですね。
各町会の午後の巡行は16時には終わり、夜に向けて休憩時間に入ります。いよいよ屋台の美しさの本領を発揮する夜の巡行へ、その続きは後編で!