かつて「陸の果て」を意味する「陸奥(みちのく)」と呼ばれた、東北地方。その最奥の地、青森県では、お山参詣、イタコ、十和田湖伝説・・・現代とは異なる価値観の中で育まれた信仰や伝説が、今でも大切に守られています。
その青森に、ひときわ異な光を放つ伝説が信じられている村があります。
東北有数の港町・八戸市から内陸に車を走らせて1時間。見えてきた「キリストの墓」「ピラミッド」などの不可解な道路標識。たどり着いた目的地「キリストの里公園」で行われた「キリスト祭」で、この村が「ロマンと神秘の村」と呼ばれる所以を目にしました。
目次
4年ぶり、十字架囲んで、ナニャドヤラ
到着したのは、人口2,000人ほどの農業と酪農の村、新郷村(しんごうむら)。6月4日、「キリストの里公園」で、59回目となる「キリスト祭(まつり)」が行われました。4年ぶりの有観客開催とあり、県外ナンバーの車も。
兄キリストと弟イスキリの墓とされる塚に建立された十字架を前に、祝詞奏上、玉串法てん、獅子舞の奉納などの神事が粛々と行われ、詰めかけた人たちが見守りました。
大祭長の櫻井雅洋村長は「伝説の真意の程は別としても、先人たちはキリストの霊を慰めることの重大さを知り、59回目を迎えた」「ロマン溢れるキリストの里の情景を満喫してほしい」と挨拶。感染対策が5類に移行する中、ミステリーやロマンが息づく村の振興に向け、思いを新たにしました。
祭りの最後には、村のご婦人方が十字架を囲んで旧南部領に伝わる盆踊り「ナニャドヤラ」を披露。お馴染みの「ナニャドヤラ・ナニャドナサレノ・ナニャドヤラ」という呪文のような歌声が繰り返される中、新郷村で106歳まで生きたという「ありし日」のキリストに想いを馳せながら、しなやかに舞いました。
伝説は、ある日突然、湧いて出た
・・・・と、淡々とレポートしたはいいものの、青森でキリスト?キリストなのに祝詞奏上に盆踊り?はてなマークがいっぱいの人も多いはず。
キリストの里公園の頂上に建つ「キリストの里伝承館」に、その答えがありました。
それは昭和10年ごろ、突然湧き出てきた話。伝承館の展示や資料などを参考に要約するとこんな感じです。
十字架にかけられ処刑されたはずのイエス・キリストは実は生き延び、海を渡って青森県八戸港から日本に入り、「十来(とらい)太郎大天空」「八戸太郎天空」などと名乗って戸来(へらい)村を人生最後の地に定め、ユミ子という女性と結婚して子どもを育て、106歳で天寿を全うした。
キリストが住んだという「戸来村」とは、十字架がある新郷村戸来地区。「戸来」は「ヘブライ」を意味するという説も。村ではこの言い伝えを「何もないところから突然湧いてきた伝説」を意味する「キリスト湧説(ようせつ)」と呼び、まちづくりを進めてきたようです。
2004年にはエルサレムの関係者が村を訪れ、友好の証「エルサレムストーン」の寄贈を受けるなど、輪が広がっています。
ナニャドヤラ、ナニャドナサレノ、ナニャドヤラ
青森県の南東部と岩手県北地方に伝わる盆踊り「ナニャドヤラ」。新郷村はその発祥の地と言われているとか。「南部弁」ネイティブスピーカーの私の耳にこの歌声は、「なにがどうやら なにがどうなさるのよ なにがどうやら」と聞こえるのですが、一説によればこれもヘブライ語で、「お前に聖名を褒め称えん」という意味の進軍歌なのだとか。
一方で、民俗学者の柳田国男は「なんなりとせよかし、どうなりとなさるがよい」だとし、若い女性が男性に呼びかける恋の歌だという話も。このほか、坂上田村麻呂説、南部光行説、念仏説など諸説ある模様。
いずれにしても、繰り返される「ナニャドヤラ」の歌声に謎は深まるばかり。まさに「なにがどうやら」です。「キリストの里伝承館」の入り口にはラジカセが。再生ボタンを押すと「ナニャドヤラ」を聞くことができます。館内ではCDも売っていますよ。(迷った挙句、買いました。替え歌版もありますよ。)
ピラミッド?長慶天皇?キリストっぷ?
そんな新郷村には、「ミステリースポット」がいっぱい。
キリストの里公園から車を走らせれば、ピラミッドの跡とされる「大石神ピラミッド」が。かつては雨乞いの祈祷をした霊場だったと伝わります。エジプトの人工的なピラミッドとは違って、自然の地形を生かして石などを積み上げて造られたと考えられるそう。
村内の山中にある集落、崩(くずれ)地区には、長慶天皇が訪れたという伝承地も。かつてこの地に逃げ延びた長慶天皇が崩御したことから「崩」という地名になったという話。
お土産を買うなら「キリストの里公園」の向かいにある土産店「キリストっぷ」がおすすめ。そのステキな名称からも、どんなものが買えるのか、想像がつくことでしょう。(つかない。)
旅の締めにズズっとすする、「聖なる珍グルメ」
新郷グルメといえば「特濃ソフトクリーム」「飲むヨーグルト」ですが、「らーめん亭えびす屋」の「キリストラーメン」もおすすめ。深まる謎とともにズズッとすする、聖なる珍グルメ。
「キリストは肉を食べなかった」という言い伝えに沿ってチャーシューの代わりに村産の長芋、梅干し、大葉、山菜をトッピングした、鶏がらスープのあっさりとした醤油ラーメン。食べたらきっと、幸せが舞い降りることでしょう。知らんけど。
この秋はUFO音頭が完成予定
そんな新郷村では今、「UFO」をテーマにした音頭の制作が進んでいて、9月に行われる「新郷村×ムー ミステリーキャンプ」でお披露目される予定。今後の展開に注目です。
はてさて、新郷村の謎は深まるばかり。新郷村へは、八戸市からレンタカーで行くのがおすすめ。尽きることのない新郷のミステリーの世界に、足を踏み入れてみては?