世界の祭りを撮影した写真集『MINAMI Carnival』を刊行した南しずかさんと、日本の祭り文化を広める活動を続けるオマツリジャパン代表取締役・加藤優子。それぞれの視点から「祭り」に向き合う二人が、祭りの魅力と未来について語り合います。
祭りの熱が伝わる写真撮影の裏側
加藤:「南さんの写真集『MINAMI Carnival』、すごく素敵でした!本当にその場にいるような臨場感があって、祭りの活気や情熱が伝わってきますね。」
南:「ありがとうございます!」
加藤:「素人目線で恐縮ですが、祭りって写真に撮ろうと思っても結構難しいですよね!一枚の作品が出来上がるまでにどのような準備を?」
南:「だいたい半年前までに航空券を予約して、2、3日前に現地に入ってロケハン。その間、地元の方々とお話して情報を集めて、撮りたい場所を探します。それから撮影の時間にどちらから陽が当たるかも考慮して、本番に挑む・・・。」
加藤:「いやー本当に大変。でもその熱意が写真に現れています。撮影の際、現地の方々は協力的ですか?」
南:「はい、協力してくれることが多いです。地元のバーなどでお祭りのことを聞くと、多くの場合はウェルカムな感じで色々と教えてくれます。」
聞くと行くとは大違い!海外の祭りを撮影して
加藤:「撮影で訪れた中で、印象に残っているお祭りはありますか?」
南:「下調べの情報と違って驚いたのは、スペインの奇祭『エルス・エンファリナッツ』ですね。」
加藤:「どんなお祭りなんでしょうか?」
南:「『小麦粉まみれの人々』という名前のお祭りと聞いて行ってみたのですが、小麦粉だけじゃなくて爆竹も投げるのです。なんなら3分の2くらいは爆竹なんじゃないでしょうか。小麦粉まみれになる覚悟ではいましたが、服が焦げるとは思いませんでした。」
加藤:「聞くと行くでは大違い。激しい祭りですね(笑)そういう意味では、いろいろな海外の祭りに行ってみたいけど、少し怖い気持ちもありますね。」
南:「私は幸い危険な目に遭うことはなかったのですが、何度か盗難にあっています。ある国で長距離バスに乗ったら、着いて降りる時にはバックパックが盗まれてしまっていて。パスポートと財布、小さいカメラだけは手元に残ったのですが、ビーチサンダルで荒道をトボトボ歩く羽目になってしまいました。保険に入っていたのが不幸中の幸いでしたが・・・。みなさん、海外旅行の際はしっかり保険に入っておきましょう(笑)」
加藤:「地域によってはトラブルもありますよね。保険は大事です!」
南:「一方、安心して参加できるのは、ニューヨークのハロウィーンパレードですね。参加費なども必要なく、仮装して現地に集まれば参加できます。もちろん電車で行けますし、お手洗いなどにも困りません。」
加藤:「それは、参加してみたいですね。」
南:「加藤さんも、海外の祭りに行かれたことがあると伺いましたが、どちらへ?」
加藤:「私が行ったのは、アメリカ、ニューメキシコ州のアルバカーキで行われる『International Balloon Fiesta」です。この仕事を始めた頃、調査の仕事で海外の祭りを視察に行ったのですが、日本とはスケールの違う巨大な土地で行われているのが印象的でしたね。その広大な土地に、何百もの気球が空に舞う光景は壮観でした。運営の工夫も興味深かったですね。」
南:「運営では具体的にどんな工夫があったんでしょう?」
加藤:「この大規模な祭り、運営を誰が支えているのかと聞いたところ、地元の大学生やボランティアが運営を支えているそうなんですね。ボランティアの休憩スペースには食事が用意されていて、食べ放題。とてもシンプルなんですが、モチベーションを高める工夫がされていました。」
南:「それは素晴らしいですね。若い人は嬉しいかも」
加藤:「そして面白いなと思ったのは、予約サイトでプレミアムな観覧プランを提供していたんです。例えば、特別な場所から見ることができるとか。祭りプラスアルファみたいなものがあって、それでちゃんとお金とかも賄っているという話を聞いて、大変ためになりましたね。」
日本と海外、祭りとその楽しみ方
南:「私は日本のお祭りにあまり行ったことがないのですが、加藤さんおすすめのお祭りってありますか?」
加藤:「そうですね、会社の立ち上げのきっかけは、青森のねぶた祭だったので、ぜひ一度は見ていただきたいと思いますが、そのほかにもたくさんあって一つに絞るのは難しいですね。南さんが写真を撮られていた郡上おどりもいいですね。そして、こちらも写真集に収録されていましたが、阿波おどりもとてもいいですよね。エネルギーに溢れています。」
南:「お祭り愛がありすぎて一つに決められないのですね(笑)それでは、初心者でも行きやすいお祭りとしては?」
加藤:「なるほど。そういう観点だと、例えば海外の祭りなら、そこでしか見えない景色があると思うんですけど、日本人が日本の祭りに行く場合って、祭りだけじゃなくて、地元の食を楽しみたいとか、温泉などその土地を楽しみたいという気分になると思うんです。」
南:「確かにそうかもしれませんね。」
加藤:「だから、その三つが抑えられていると、満足感が高い。そういう観点でいうと川越まつりは良いのではないでしょうか。埼玉県の川越市で行われる大規模な秋祭りです。何がいいかというと、まず、アクセスが良い。東京にお住まいならもちろん、地方からの旅行プランにも組み込みやすいですね。あと、川越は小江戸と呼ばれていて、風情ある古い町並みが残ってたり、観光地として楽しいし、お土産も豊富で、さらに大きなお祭りも見られるわけです。」
南:「気になります。ぜひ今度伺ってみます。ところで、祭りの楽しみ方にも色々あると思うんですが、加藤さんはどんな祭りの楽しみ方をされるんですか?参加型?それとも観覧派ですか?」
加藤:「私は盆踊りを踊るのが好きなんです。あとは東北のお祭りとか、あの独特の雰囲気がたまらないですね。それと、お酒を飲みながら家族とゆっくり観覧するのも好きです。」
南:「確かに、祭りの雰囲気をゆっくり楽しむのもいいですね。ではお祭りに合うお酒とは?」
加藤:「定番ですけど、やっぱりビールですね。暑い時期だと特に(笑)お祭りご当地のお酒を楽しむのも醍醐味ですが、ただ、実際には屋台で地酒を見かけることって意外と少ない気がしますね。そんな時は、提灯や協賛看板で地元の酒造が協賛していたりするので、それをヒントに地元グルメを探索するのも楽しいですよ。食で言えば、海外の話も聞きたいです。例えば、トマト祭りが開催される街ではどんな美味しいものが楽しめるのでしょう?」
南:「トマト祭りは、バレンシア州のブニョールという街で開催されます。そこの食文化も魅力的です。バレンシアオレンジやパエリア、タパスなんかも有名ですよ。」
加藤:「いいですね。スペインのタパス、食べながらワインを楽しむのが最高です。スペインワインもおいしいですよね。」
南:「確かに!でもトマト祭りでは日本の屋台みたいにバラエティ豊かではないみたいです。私は屋台に注意を払ってなかったので、何が売られていたか記憶にないです。」
加藤:「そうなんですか!」
南:「このお祭り、以前は参加無料だったのですが、少し前から町が参加者抑制のために事前予約のチケット制を取るようになっています。」
加藤:「人気の祭りでは、参加者の人数を抑える必要もありますし、安全のための経費もたくさんかかりますしね。そうやって入場料を取って、清掃費などに回すとか、継続のための仕組みが必要だと思います。」
南:「そうですね。その友人によると、トマト祭りでも入場料にTシャツがついてきたり、アフターパーティ付きのチケットがあったり、観光客が満足してお金を払ってもらえるようなプランもあるそうです。」
加藤:「そのTシャツ付きのアイデア、良いですね。お土産もついてくるとお得感がありますし。アフターパーティなんかも楽しそう!」
南:「日本の祭りでも、観光客が参加しやすい仕組みを取り入れるとさらに盛り上がりそうです。」
加藤:「日本でも、観覧席を有料にするお祭りや花火大会も増えてきましたね。当社が「プレミアム観覧席」事業で関わっている青森ねぶた祭は、地域全体で作り上げる大きなイベントで、1回の開催で県のGDPの1%を生み出すとも言われていて、県の経済にも非常に重要な存在です。もちろん、祭りは地域の伝統や神事が根底にあるものですが、持続可能なものにするためには、地元経済を潤すことも大切です。それによって地域の人々を巻き込み、祭りが多くの人に関わってもらえるものになると思います。」
多民族の歴史が生んだ「受け入れる文化」
南:「観光客をはじめ、外部の人間の迎え入れ方に感銘を受けたという点では、私が祭りを撮るきっかけになったカリブ海に浮かぶトリニダード・トバゴ共和国(以下、トリニ)のカーニバルがあります。この島国は日本の千葉県ほどの小さな国ですが、コロンブスが『新大陸』と名付けて訪れた場所で、もともと先住民が暮らしていた土地でもありました。」
加藤:「そうですよね。」
南:「ええ。そしてその後、アフリカ人が奴隷として強制的に送られて、さらにインドからも人々が移住してきたという、予期せずして多民族が交錯する歴史を持ってしまった国です。興味深いのは、こうした複雑な歴史を経て、出来上がった文化の象徴がトリニのカーニバルになります。」
加藤:「切ない歴史をも前向きに捉えているというのは、本当に素晴らしいことですよね。どういった部分がカーニバルに表れているのですか?」
南:「国籍も関係なく、誰でも『ようこそ!』と歓迎してくれるところです。例えば、リオのカーニバルはチーム制で1年がかりで準備するため、飛び入り参加は難しいのですが、トリニでは、衣装を購入すれば好きなチームに参加できるんです。もちろん、リオのカーニバルの方々が祭りに懸ける情熱も素晴らしく、比べることはできませんが、トリニのようなカーニバルもあることを知ってほしいですね。」
加藤:「なるほど。参加者が飛び入りで祭りの一員に慣れるのは嬉しいですね!」
南:「日本の阿波おどりも、その点で面白いですよね。誰でも気軽に踊れる部分もあれば、本格的に練習を重ねたチームが見せる、一糸乱れぬ美しい演舞もあります。」
加藤:「確かにそうですね。郡上おどりも、一体感が魅力的という印象です。全国から踊り好きが集まる『聖地』のような雰囲気で、徹夜おどりといって朝まで踊り続ける人もいるそうです。振り付けにもいろいろな種類があって、初心者でもすぐに覚えられる踊りもあるのが魅力ですね。」
南:「そういう『自分も参加できる』感じがいいですよね。」
加藤:「最近では、一部の祭りでは観光客向けの踊り体験コーナーが充実しています。ホールで練習をした後、実際に祭りに参加できるワークショップや、お囃子の楽器に触れられるコーナーもあります。こうした取り組みは外国人観光客にも大人気です。」
南:「それは素晴らしいですね!やっぱり、祭りに参加するというのは外国人にとって特別な体験でしょうし、日本ならではの浴衣や法被(はっぴ)を着てみたいと思う人も多いでしょう。」
加藤:「はい、そのとおりです。オマツリジャパンでは東京高円寺阿波おどりで外国人向けの体験&観覧ツアーを実施しています。法被や鉢巻きを提供し、祭りの雰囲気を余すことなく楽しんでもらうんです。観光客が嬉しそうに自撮り写真を撮る姿を見ると、こちらまで嬉しくなりますよね。」
南:「そういうSNSでのシェアは重要ですね。『あの人が楽しそうだから自分も行ってみたい』という流れが生まれます。」
祭りの未来を考える――担い手不足と過疎化の課題
加藤:「ええ。個人個人の楽しい、面白いという感動が、次の参加者を生み出していくことを願っています。というのも、日本の祭りは、人口減少や少子高齢化、そして地方からの人口流出が進む中で、担い手不足にどう取り組むかが課題になっています。大昔のように、祭りが唯一のエンタメという時代ではなく、ほかにたくさんの選択肢がある中で、意識的にお祭りに関わってみようという考える人が少なくなっているわけですよね。実際にお祭りに行ったことがない若い人もいるようです。こうした問題をどう克服するかが、祭りの未来を考えるうえで大きなテーマだと感じています。」
南:「確かに難しいテーマですね。これまで海外の祭りをいくつか訪れて感じたのは、現代社会が効率を重視する一方で、お祭りはその真逆にあるということです。祭りやフェスティバルの現場では、『なぜこんなことを一生懸命やっているんだろう?』と思う瞬間もありますが、それでもみんなが心から楽しそうなんですよね。」
加藤:「そうなんですよ!やっぱり、お祭りって特別なんだと思います。歴史や文化的な意味ももちろんありますが、何よりもシンプルに人をワクワクさせる力があるんです。それは理屈ではなく、人間の本能に近いものなのかもしれませんね。」
南:「みんなで一緒になって笑ったり騒いだりする時間があるからこそ、次の日からまた頑張れる気がしますよね。」
加藤:「まさにその通りです!お祭りに興味がないという人でも、音楽ライブや学園祭で一体感を感じたり、友人や職場の飲み会など人と集うことで得られる幸福感は体験しているはずです。お祭りは、非日常の空間で見ず知らずの人々が集い、絆を深めることができるんです。そんな誰にでも開かれた幸福な空間を、未来の社会に残していきたいと考えています。」
南:「これからもお祭りを守り続ける活動を応援しています!」
加藤:「ありがとうございます!南さんの写真を通じて、お祭りに興味を持つ方もたくさんいらっしゃると思います。これからも、作品を通して多くの方に笑顔を届けていただきたいです。本日はありがとうございました。」
南:「こちらこそ、ありがとうございました。」
(了)
南さんの写真集『MINAMI Carnival』のご紹介です。
『MINAMI Carnival』(葉々社BOOKS&PUBLISHING)
2024年刊行 7,150円(定価6,500円+税)
<販売はこちらにて>
・葉々社(東京都大田区大森西6-14-8-103)
営業時間:10:00〜20:00 定休日:月曜日、火曜日
※WEBショップもあります。
・KAIDO books&coffee(東京都品川区北品川2丁目3−7 丸屋ビル 103)
営業時間:9:00〜18:00営業(月・火曜日定休)
<プロフィール>
南 しずか(みなみ・しずか)
1979年東京都生まれ。東海大学工学部航空宇宙学科卒。米女子ゴルフツアー、大リーグ、東京五輪のゴルフ競技など、主にプロスポーツを撮影するフォトグラファー。ライフワークとして、10年以上、カーニバル、祭り、変わったスポーツを撮り続けている。総合スポーツ雑誌「Sports Graphic Number」、ゴルフ雑誌「ワッグル」「週刊ゴルフダイジェスト」などで活躍。
加藤 優子(かとう・ゆうこ)
1987年生まれ。練馬区出身。武蔵野美術⼤学油絵科卒業後、(株)ピックルスコーポレーションに⼊社。 商品開発とデザインを担当。震災直後の⻘森ねぶた祭に⾏った際、地元の⼈が⼼の底から楽しんでいる様⼦を⾒て、お祭りの持つ⼒に気付く。同時に多くのお祭りが課題を抱えていることを知り、 2014年に全国のお祭りを多面的にサポートする団体「オマツリジャパン」を創業。2児の母。