夏になると各地で開催される盆踊り。その中に徹夜踊りという踊りがあるのをご存知ですか?
これは江戸時代から続いていて、人々が一晩中踊り明かすというものです。夜通しですから、賑やかな音が町中に溢れることになります。
ここで、ふと真夜中に外で踊りまくっていて良いのだろうか?という疑問が湧いてきますね。というのも、近年都市部のクラブが風俗営業法の下に取り締まられている、というニュースをよく耳にするからです。
夜を踊り明かすという点では、徹夜の盆踊り、クラブの両者に大差はないように思えますが、実は同じ徹夜踊りでも、盆踊りは風営法の対象外でクラブは対象である、という線引きがあります。
この記事ではクラブを管轄する風営法や、二つの踊り文化について考えてみたいと思います。
◆風営法とは
そもそも風営法とは、正式には「風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律」という名称の法律で、これを略して「風営法」と呼んでいます。
風営法で規制されているビジネス
風営法で規制しているビジネスには以下のようなものがあります。
・風俗営業
料理店・社交飲食店、低照度飲食店、区画席飲食店、麻雀店、パチンコ店、その他遊技場、ゲームセンター等
・性風俗関連特殊営業
店舗型性風俗特殊営業、無店舗型性風俗特殊営業、映像送信型性風俗特殊営業
・特定遊興飲食店営業
クラブ(ディスコ)、ライブハウス、ショーパブ、スポーツバー等
・酒店、興行場、特定性風俗物品販売等営業、接客営業受託業務
類提供飲食店営業
バー、ガールズバー、ゲイバー、ダーツバー、スナック等
・その他
深夜飲食
風営法施行の目的
風営法の目的は、
・街の環境や青少年の健全な育成に大きな影響を与えること
・風俗営業の場所や営業時間などを規制して、健全な営業をすること
にあります。
風俗営業には、「深夜、酒、性」というトラブルを招きやすい要素が揃っています。こうしたトラブルを未然に防ぐために、風営法で細かく規制されているのです。
風俗営業の店の特徴は、接待行為(女性従業員が客に酒を提供したり、隣に座って話をしながら酌をしたりすること)ができる反面、原則深夜0時以降の営業ができない事です。
一方、深夜0時以降に営業するためには、深夜営業許可が必要になります。この許可を得ると0時以降の営業はできますが、接待行為はできなくなります。
◆盆踊りの徹夜踊りと風営法
現代の風営法では、深夜0時を過ぎると、飲酒や異性間の交流が規制されています。
夏の風物詩でもある盆踊りの徹夜踊りも、条件だけを見ると風営法の規制に触れそうです。この昔ながらの徹夜踊りは規制の対象にならないのでしょうか?
盆踊り今昔
江戸時代までさかのぼれば、盆踊りは地域の人々の交流や男女の出会いの場でした。当時は、男女が知り合う機会があまりなく、盆踊りは数少ない出会いの場でもあったのです。
今でいう、集団のお見合いパーティーか合コンといったところでしょうか?
盆踊りが開催される旧暦の7月15日は、満月でした。月の引力の影響で、男女の気分も高揚し、性的に乱れて問題を起こすほどだったとか。
森鴎外が書いた小説「ヰタ・セクスアリス」では、盆踊りが性的乱交の場であったと書かれています。男女は踊りの最中に好みの相手を見つけ、そのまま暗闇に身を隠して交わったようです。
特に盆踊りで踊り手が菅笠をかぶって顔を隠すのは、正体を隠したまま乱交するためであると言われています。そういえば、阿波踊りや、西馬音内盆踊り、越中おわら風の盆などでは、今でも、踊り手が菅笠をかぶったまま顔が見えないようにして踊るスタイルが残っていますね。
盆踊りをめぐる警察庁の見解
現在の風営法におけるダンスの考え方は、「享楽的雰囲気が過度に渡り、善良の風俗と清浄な風俗環境を害し、または少年の健全な育成に障害を及ぼすおそれがあるため必要な規制を実施」と警察庁は述べています。
実際に、警察庁における風営法の規制の中には、男女がペアになって踊ったり、そこに飲食が伴ったりと、享楽的雰囲気が過度にわたるおそれが大きい営業は、風営法の対象としてみなされます。
一方で、盆踊りのように、男女がペアになって踊ることが通常の形態となっていないダンスは、風営法の対象外とされています。
しかし、届け出が全く必要ないわけではありません。バーや居酒屋など主に酒類を提供する飲食店が、午前0時から翌朝日の出まで営業する場合には、都道府県公安委員会への届け出が必要です。
同様に、盆踊りの徹夜踊りも、開催のたびに都道府県公安委員会へ許可の申請を出しています。また、道路において祭礼行事を行う時は、道路使用許可を警察に届け出なければなりません。
盆踊りは、風営法の対象外ではあるものの、都道府県公安委員会への許可申請や道路使用許可といった事前の許可申請があって始めて成り立つのです。
◆クラブの徹夜踊りと風営法
それでは、盆踊りの徹夜踊りが公に認められるのに対して、クラブでの徹夜踊りの扱いはどのような現状になっているのでしょうか?
クラブは風営法の対象となる
すでにご紹介したように、クラブは特定遊興飲食店営業として風営法の対象となっています。
2016年以前のクラブは最長で25時までの営業
従来、クラブの営業は風営法で規定されているように、原則午前0時(最大午前1時)まででした。しかし、2016年に改正風俗営業法が施行されたことにより、条件付きで深夜営業ができるようになりました。
2016年以降のクラブは「条件を満たせば」朝までOK
2016年6月制定された改正風俗営業法は、ダンスの終夜営業を認めるものです。しかし、クラブがこの改正風俗営業法を満たすには、条件があります。その条件とは、都道府県公安委員会からの「特定遊興飲食店」としての許可です。
特定遊興飲食店の許可の壁
改正風俗営業法によって、従来の風俗営業からダンスが除外されるようになりました。
しかし、これに伴い、午前0時以降の深夜に客に遊興(ダンスを含む)をさせ、酒類の提供と伴う飲食をさせている場合は、店内の明るさの基準を満たし、「特定遊興飲食店営業」の許可を取ることが必要になりました。
ここで言う遊興とは、音楽ライブやお笑い、トークショーなども含まれています。
同じような営業を提供しているライブハウスなども、特定遊興飲食店営業の許可を取らなければなりません。
◆まとめ
ここまで見てきてわかるように、盆踊りの徹夜踊りが風営法から除外されているのは、男女が組んで踊ることがないから、という側面が大きいようです。
とはいえ、徹夜踊りの際も、都道府県公安委員会への届け出や、道路使用許可は必要になります。
どちらも、こうした法令があったうえで、踊りを楽しむ事ができるのですね。
深夜は、安全に、また周りに迷惑をかけることなく、思い切り踊り明かしたいですね。