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神々の前で夜通し舞いを捧げる神秘の芸能「花祭」 次なるバトンを受け取った若者たちの新たなる挑戦

2022/10/28
2024/2/29
神々の前で夜通し舞いを捧げる神秘の芸能「花祭」 次なるバトンを受け取った若者たちの新たなる挑戦

愛知県北設楽郡東栄町に伝わる「花祭」は、国の重要無形民俗文化財にも指定される伝統のお祭り。町内の11カ所の地区(布川地区は休止中)で、11月上旬から1月中旬にかけ、開催されます(本年度の開催は非公開となる地域もあります)。いずれの地区でも、一昼夜をかけて30〜40種類の儀式や舞が行われるという、集落を挙げての盛大なお祭りです。しかし近年は少子高齢化による担い手不足に輪をかけ、コロナ禍によって祭りが2年間休止となることで、継承への課題が山積みとなっています。

そんな中、2022年11月、花祭シーズンに先駆けて毎年開催されていた「東栄フェスティバル」が3年ぶりの復活を果たします。地域の中で観光まちづくり等の観点から花祭の継承にも取り組んでいる、東栄町観光まちづくり協会・伊藤拓真さんと、東栄町役場・山下康晴さんに、「東栄フェスティバル」にかける思いについてお話を伺いました。

伊藤拓真さん
1995年、愛知県北設楽郡東栄町生まれ。大学進学と同時に名古屋に出たものの、大学一年の冬に廃校となった地元の母校を訪れ危機感を抱いたことをきっかけに、町づくりに興味を持つ。石川県七尾市の町づくり企業でインターンを経験した後、立ち上げに関わった地元観光協会に縁あって就職。東栄町観光まちづくり協会の職員として働きながら、花祭の継承活動にも取り組む。

山下康晴さん
1982年、静岡県富士宮市生まれ。大学進学とともに上京。卒業後に静岡県にUターンし、伊豆の国市の観光協会職員として7年間勤務。離職後、夫婦で東栄町に移住する。仕事を探していた時に東栄町役場の求人を見つけ応募し、現在は東栄町役場の経済課商工観光係長として、東栄町の観光振興に取り組む。

地域の人に大切にされ、誇りを持って受け継がれてきたお祭り

――伊藤さんは東栄町生まれ東栄町育ち、山下さんは大人になってから東栄町に移住してきて花祭を知ったという対照的なお二人ですが、これまでどのように花祭に携わってきたのか、教えていただけますか。

左から伊藤拓真さん、山下康晴さん

伊藤さん:地元の足込地区では、住人全員が花祭保存会の会員なので、僕自身も3歳の頃から花祭に参加し、高校・大学までずっと舞い手として関わってきました。名古屋からUターンした現在も、衣装の着付けや囃し方(はやしかた、笛や太鼓を演奏する係)を担当したり、一部舞い手としても参加させてもらったりしています。

山下さん:僕は東栄町役場職員としての関わりのほか、かつては消防団員として会場でのフォローにあたるということもしていました。

実際の花祭の様子(下栗代地区)

実際の花祭の様子(御園地区)

実際の花祭の様子(東園目地区)実際の花祭の様子(東園目地区)

――伊藤さんにとっては、生まれた時から花祭は当たり前の存在だったんですね。山下さんは、初めて花祭を体験した時の印象を覚えていますか?

山下さん:僕が花祭に触れたのは、いまから5年前のことです。観光ポスターを作るという役場の仕事で、小林地区の方々に協力いただいて花祭の写真を撮影しました。地区の「舞庭(まいど、花祭の舞が行われる場所)」で、実際に釜に湯を沸かして、本物の鬼(花祭の演目の中に登場する花形ともいえる存在)にも登場してもらって……。撮影とはいえ、そのおごそかな雰囲気も相まって、見ているだけで圧倒されたのを覚えています。

伊藤さん:この地域では鬼は信仰の対象でもあり、地元の人は「鬼様」と呼んだりすることもあります。昔と比べると信仰心は若干薄まってしまっているかもしれませんが、それでも花祭の重要なシーンに現れる「榊鬼(さかきおに)」などは、いまだに地域の人からは畏れ敬われていますね。

現在休止となっている布川地区の榊鬼現在休止となっている布川地区の榊鬼

山下さん:そういった信仰心もすごいですし、東栄町の方々の花祭に対する思いの強さというのは、日頃からひしひしと伝わってきます。地元を離れていても、花祭の時期には絶対帰ってくるという人も多いですし、地域の人の家にお邪魔すると、玄関や客間など、家のいい場所に鬼の面が飾ってあって、本当に花祭が生活の中に密着しているお祭りなんだということを感じます。

また、自分の地区の花祭が一番だというプライドもあるので、役場の仕事で花祭に関わる時は、絶対に地域の人に失礼があってはならない、という意識で臨んでいます。新型コロナウイルスの感染拡大前は役場や観光協会で花祭のカレンダーを作っていたんですけど、11地区の鬼の面を並べたデザインを見て「なんで、この地区よりうちの地区の面が小さいんだ」とご指摘をいただいたこともありました(笑)

伊藤さん:花祭はそれぞれの集落ごとに行っているお祭りなので、その地域の特色というものが色濃く現れます。例えば、花祭は仏教や山岳信仰など、さまざまな宗教の影響を受けているお祭りなのですが、中設楽や河内など一部の地域は廃仏毀釈(はいぶつきしゃく)の影響で神道色が強くて、榊鬼を「猿田彦」と呼んだり、神話に関する舞があったり、独特なんです。そういった地域ごとの多様性というのも、花祭の大きな魅力ですね。

町の中と外、集落と集落、さまざまな垣根を超えた継承への取り組み

――地域の人が誇りを持って受け継いできた花祭ですが、お祭りの継承については現在どのような課題がありますか?

伊藤さん:祭りの担い手不足は何十年も前から続く課題ですね。地域に住む人が減ったので、昔と比べると一人の人が担う役割が圧倒的に増えています。そのため現在では外部に住んでいる人が祭りに関わる機会が増えたのですが、当日だけ手伝いに来る方が多いので、これまで集落で共同生活を送る中で、口伝えで受け継がれてきた祭りに関する知識や技術、例えば祭り衣装の着付けの仕方や、舞い手が履く草鞋(わらじ)の作り方などの継承が難しくなってきます。

また、コロナ禍で祭りが数年間休止となったことで、子どもたちへの継承も危ぶまれています。というのも花祭は、子どもの頃から、稚児の舞から青年の舞と、年次ごとにステップアップしながら祭りに関わっていくという流れがありまして、2年や3年間、空白期間ができてしまうと、十分な経験を積まないまま次のステップに進む年齢となってしまい、それ以降祭りに関わることが難しくなってしまう可能性があるのです。

御園地区の花の舞(稚児の舞)御園地区の花の舞(稚児の舞)

――そういった課題に対して、東栄町ではどういった取り組みが行われていますか?

伊藤さん:僕の地元の地区では、まず、地区外在住の人にも祭りに深く関わってもらおうという動きが出てきています。例えば以前は、地域外在住の出身者や関係者は、祭り当日だけの参加となることが多かったんですけど、地元を離れた人たちにも若くて意欲のある方は多いので、最近では、そういう人たちにも事前の準備や当日の笛や太鼓などの重要な役がつけられるようになっています。

そこで新たな課題となるのが、祭りの全体像を把握して、多様な担い手たちに適切に役割を振り分けることができるような人材が各地域で不足していることだと感じています。将来を見据えて、様々な形で地域に関わる方や出身者などの、多様な背景を持つ皆さんが協力できる体制づくりを進めていく、そんなことも重要になってきます。

また、技術継承の課題に関しては、東栄町の花祭好きが集まった「花祭部」という若手グループを作って継承活動を行っています。例えばタスキの巻き方一つとっても、地域によって全然やり方が違いますし、高い技術が求められるのですけど、実際にできる人は数限られています。これまでは普段わざわざ教わる機会もなく、祭りの本番に一緒にやりながら覚えるしかありませんでした。「花祭部」は、そういった技術を絶やさないよう地域の人に教わったり、勉強会を開いたり、地区の垣根を超えてノウハウをシェアしたりといった取り組みを行っています。

花祭部では例年、後ほど説明する「東栄フェスティバル」でブースを設け、着付け体験を行っていた花祭部では例年、後ほど説明する「東栄フェスティバル」でブースを設け、着付け体験を行っていた

「東栄フェスティバル」を地域や祭りと関わるきっかけにしてほしい

――花祭の本番に先駆けて、「東栄フェスティバル」が2022年11月3日、3年ぶりに開催されることになりました。まず東栄フェスティバルとはどういうイベントなのか、あらためて教えていただけますか。

山下さん:東栄町役場が主催の観光まつりです。昭和60年に花祭のPRと、花祭を通じて地区外から誘客するという目的で始まりました。例年、愛知や静岡をはじめ、大阪や東京といった遠方からも、多くのお客さんにお越しいただいています。

目玉はなんといっても花祭の実演。私たちは「花祭のダイジェスト版」と謳っているのですが、毎年いくつかの保存会さんに出演いただき、一晩中かけて行う数々の演目の中から選りすぐって、披露していただいています。異なる地域の花祭が一度に見られるので、集落ごとに演目や雰囲気が異なるという、花祭ならではの魅力を堪能いただくことができます。

東栄フェスティバルでの実演東栄フェスティバルでの実演

東栄フェスティバルでの実演東栄フェスティバルでの実演

また花祭だけでなく、物産市やスマートフォンを活用した町中を巡るデジタルスタンプラリーなどもあり、東栄町を丸ごと楽しめるイベントとなっています。

――今年度ならではの「テーマ」のようなものはありますか。

伊藤さん:山下の話にもありましたように、東栄フェスティバルは当初、花祭のPRや観光振興を目的として始まりました。しかしコロナ禍で祭りやイベントが中止になったことで、花祭だけでなく、東栄フェスティバルの位置付けも問い直されているように感じます。町の人や暮らしを知ってもらいながら、一歩踏みこんだ地域との関わり方を楽しんでもらえるイベントになれば、祭りの継承にもつながってくるんじゃないかと考えました。

例えば、これまで東栄フェスティバルでは、祭りの担い手の話を聞く機会というのがなかったのですが、今回は三遠南信地域に伝わる「湯立て神楽」のトークセッションがあり、僕も司会者として参加させていただく予定です。また、観光協会としても会場で「花祭部」のブースを持たせてもらって、「花祭よろず相談所」みたいなことをやりたいなと思っています。「花祭会場に駐車場はあるの?」とか「会場に行く時はスタットレスタイヤを履いた方がいいの?」という祭りに関する素朴な疑問に答えたり、地元の人と交流ができたり、そんなブースになればいいなと思っています。

――会場での感染対策はどのように行われますか?

山下さん:まず来ていただいた方に消毒・検温・受付票への記入の上で、リストバンドを装着してもらいます。イベント会場は東栄ドームという、屋根付きで四方に壁がないほぼ野外のような場所なので、換気性には優れています。また会場のレイアウトですが、これまではステージを取り囲むように出店エリアが配置されていたのですが、今回はステージと出店エリアを分けて、人が密にならないようにしています。出演者に関しても健康チェックはもちろんのこと、控室の換気など万全の体制で臨みます。

東栄フェスティバルの会場となる「東栄ドーム」

また、今回の感染対策の取り組みは、今後花祭を開催する上で、地域の人たちにも参考にしてもらえると嬉しいなと思っています。作成した感染対策マニュアルは各地域の保存会に提供する予定ですし、実際にお祭りの際も、役場から体温計や消毒キットなどの貸し出しを行うなど、できる限り後方支援をさせていただくつもりです。

――最後に、東栄フェスティバルに来るお客さんにメッセージをいただけますか。

伊藤さん:花祭は神事ですが、すごくウェットで人間くさいお祭りでもあります。現地で地域の人たちと交流するというのも大きな醍醐味。地域の人たちも、地域外の人たちが祭りに関わってくれることを楽しみにしていますので、東栄フェスティバルをきっかけに、ぜひ実際のお祭りにも足を運んでみていただきたいです(今年度の開催される各地区の花祭は、『非公開』での開催となる地区があります)。

山下さん:地域の方とはぜひ交流してもらいたいですね。僕も初めて花祭に参加した時は、全然知らない地域の人たちに対して、前から知り合いであるかのような距離の近さを感じて、その雰囲気がとにかく楽しかった記憶があります。今回の東栄フェスティバルでもぜひ、その感覚を少しでも体験していただければと思います。

花祭会館今回のインタビューの会場となった「花祭会館」は、花祭のお面、衣裳、祭具、古文書や映像資料などを用いて保存伝承する展示施設。ぜひイベントに参加された際は、こちらにも立ち寄っていただきたい。

花祭 特設ページはこちら

Photographer/高橋昂希

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