主な展示品は、毎年5月の「お旅まつり」に登場する曳山(ひきやま)が2基。展示だけ見るとこれで終わり?と感じる方もいるかもしれません。でもなぜか不思議と1時間も2時間も長居ができるといいます。その秘密を探るため、今回は石川県小松市にある「こまつ曳山交流館みよっさ」に伺いました。
目次
蔵をイメージした「こまつ曳山交流館みよっさ」へ
小松駅より徒歩5分。石川県小松市の中心市街地の一角にあるのが、このこまつ曳山交流館みよっさです。曳山の収納倉庫は、小松の蔵をイメージしているそう。では早速中に入ってみましょう!入場料は無料で入ることができます。受付のところからスタッフの方がついてくれて、中の展示を案内してくれます。
豪華な曳山と子供歌舞伎が見所!お旅まつりとは?
展示されている曳山のお話をうかがう前に、お旅まつりについて簡単に紹介しましょう。
お旅まつりは、毎年5月に開催される菟橋(うはし)神社と本折日吉神社の春季祭礼で、350年余りの歴史があります。
神輿が町内を練り歩く姿を「旅する」と言ったことが名前の由来で、各町で大切に保存されている絢爛豪華な曳山の曳揃えと、曳山の上で女の子たちが演じる子供歌舞伎が最大の見所です。小松市には、奥州平泉に落ちのびようとしていた源義経の一行が通ったとされる安宅(あたか)の関があり、ここが歌舞伎の「勧進帳」の舞台になったことから歌舞伎の町として知られています。
また、曳山がある町内には獅子舞もあり、男の子は子供獅子を演じて祭りを盛り上げます。ぜひ動画で、お祭りの様子をご覧ください。
では、曳山とお旅まつりの見所をご覧いただいたところで、こまつ曳山交流館みよっさの展示を見ていきましょう!
小松の曳山の特徴と凝らされた伝統工芸の技術
館内に入ると出迎えてくれるのは大きな2基の曳山!小松市内には8基の曳山があり、そのうち4基の曳山が代わる代わる展示されるようです。ピカピカと光っていて本当に美しいですね。こちらは大文字町の曳山です。
スタッフの方に「この曳山の特徴は何ですか?」と尋ねると、「小松の曳山の特徴は花道があることです」とおっしゃいます。この花道を活用しながらも奉納行事が行われるようです。花道は舞台の下に出し入れできるようになっているそうで、とても便利ですね。この可動式の仕組みは狭い道をスムーズに通れて、観客も近くで観て楽しめるようにするための知恵ということのようです。
金色に光る装飾や天井に描かれた絵などもとても豪華です!こちらの大文字町の曳山の後ろ姿には、獅子と牡丹の彫刻が彫られています。彫りの技術も十分に生かして作られているのですね。
「他の町の曳山はこんな感じだから、うちはこんな感じにしよう」という風に、それぞれの曳山には独自の魅力があるようです。伝統工芸の技術を生かし、舞台の天井に鳳凰が描かれているものもあれば、龍と虎が描かれているものもある。そのような曳山の違いが、それぞれの町の誇りにも繋がっているのでしょう。
ただ見るだけでなく、どこがその町のオリジナルなの?とスタッフの方に尋ねると、曳山の新しい視点が得られるかもしれません。
小松の各町に曳山が根付いたのはなぜ?
これだけ絢爛豪華な曳山が市内の各町で大切に保存されているわけですが、小松市ではなぜ曳山が盛んになったのかも尋ねてみました。
「小松市はもともと城下町で絹織物で財力をなしたという背景があり、漆や金箔、螺鈿(らでん)がふんだんに使われている曳山を持つことができました。わしが出す!わしが出す!とお金を地域のために使う、祭りに対して熱い想いを持った人々がいたということでしょう」
なるほど、経済の力と祭りに対する熱い想いが曳山の文化を下支えしていたのですね。
また「曳山の組立は年配の人が語りによってその技術を口伝していくので、プラモデルのような説明書がないんです」という話も聞かせてくださいました。
曳山は昔の古民家のように釘を使わず木材同士をはめ込んで作られています。そのような職人の技術に加えて、口伝で曳山が作られていたとはびっくりです。
曳山に置かれた獅子頭。小松の獅子舞の特徴は?
寺町の曳山の展示には、マスクをつけた獅子頭がちょこんと乗っています。
「コロナ禍が始まった時、コロナ収束を願って、町の人が獅子頭を持ってきてくれて嬉しかったんです」とのことで、それから獅子頭にマスクをつけて飾っているのだそうです。
小松市の中心街では伊勢から伝わってきた五十鈴流(いすずりゅう)の獅子舞が多いようで、獅子頭の形が伊勢の獅子に似ています。男の子が演じる子供獅子が多く、碁盤の目のごとく作られた街を縫うように門付けをして回っていくようです。また、お神輿についていくような獅子舞もいるようですね。
アニメの監督も感激!小松空港の作品制作のきっかけに
最後にスタッフの方が素晴らしいエピソードを聞かせてくださいました。
「今日、小松空港を利用する予定はありますか?実は、小松空港のエスカレーターを上がって、国際線の方に行くと、大きなステンドグラスが見えてきます。そこには小松市の曳山2基と真ん中に獅子が描かれています。このステンドグラスを制作されたのが、日本を代表するアニメーション映画監督の1人である米林宏昌監督です。
以前、この曳山交流館みよっさに立ち寄ってくださって、熱心にお話を聞いてくださいました。それが実は、このステンドグラスの発想につながったそうなのです。みよっさに伺ったのがきっかけでこの作品ができましたと何度も話してくれて、本当に感動しました」
やはり展示を見るだけでなく、対話を深めることで見えてくる祭りの魅力があるのでしょう。スタッフの方たち全員が豊富な知識をお持ちで、来館者1人1人に丁寧にお話をしてくださる場はなかなかありません。こまつ曳山交流館みよっさは祭りに関心がある人が説明をじっくり聞いて楽しめる場所ということがよくわかりました。主な展示が曳山2基だけでも1時間も2時間も長居できてしまうのは、「スタッフとお祭りの話で盛り上がれる」という魅力があるからなのですね。
こまつ曳山交流館みよっさにはこの他にも、和の伝統芸能のお稽古や発表の場として利用できる十八番(おはこ)舞台や、会議室やギャラリースペースなどもあり、場所を借りることもできます。また、歌舞伎などに関する書籍も充実しており、なかなか出会えない珍しい本にも出会えます。興味を持った方はぜひ現地を訪れてみてはいかがでしょうか?
■こまつ曳山交流館みよっさ
開館時間:10時~17時
入館料:無料
休館日:4月~11月 無休、12月~3月 毎週水曜日、年末年始(12月30日~1月1日)
曳山交流館みよっさのホームページはこちら。
■お旅まつり開催情報
2022年の「お旅まつり」は5月13~15日の日程で開催が決まりました(北陸中日新聞webの記事をご参照ください)。
子供歌舞伎は八日市町と寺町が当番町で、八日市町は「絵本太功記 十段目 尼ケ崎閑居の場」、寺町は「男の花道」を上演することに決まったようです。