はるか昔から現代まで、全国各地で行われている火を使った行事やお祭り。火を焚(た)くのは神様や故人の魂の送迎や、火によって身を清めるなどの意味があり、7~8月のお盆の頃や新年を迎える年末~ 2月頃に数多く行なわれています。
一方で毎年11月には、京都を中心に「火焚祭(ひたきさい)」「お火焚」と呼ばれる行事がいくつもの神社で執り行われています。社前に組まれた火床からは豪快な炎と煙が上がりますが、一体どんなお祭りなのでしょうか。この記事で詳しくご紹介します。
※火焚祭の内容は例年のものを参考にご紹介しています。新型コロナウイルスの感染拡大状況によっては規模や内容を縮小・変更、直前に中止の場合もあるため、詳しくは主催者からの情報を事前にご確認ください。
火焚祭の由来は?
現在、京都でよく行われている火焚祭は江戸時代から始まったといわれます。由来は、その年の収穫に感謝を捧げる宮中祭祀「新嘗祭(にいなめさい)」が、民間に広まったという説が有力です。
新嘗祭は、今は「勤労感謝の日」となっている11月23日に、皇居の神嘉殿で毎年行われています。儀式では、その年の新穀を天皇陛下が神々に供え、神前で食して霊威を身に受けることや、神楽の奉納などが行われますが、同日に伊勢神宮をはじめ、全国各地でも同様の収穫感謝の祭儀を行う神社があります。
新嘗祭と別に火焚祭を行っている場所もあり、由来には「火」を重視した説もあります。
明治時代に新暦が採用されるまで、火焚祭は旧暦の11月に行われていました。旧暦を新暦に当てはめると1か月くらい遅く12月頃になるので、ちょうど冬至の時期となります。1年で最も日が短くなる冬至に、弱まった太陽の力を強化し復活を祈願、同時に身を清めて厄除けとするため行われているというのがこの説です。
また、現在は神社のみで行われていますが、かつては各町内や民家の庭でも行われていました。特に、飲食店を営む商家や製茶業、風呂屋など火を用いる業種では、火や竈(かまど)の神様に感謝し、お供えをしてご利益を願う祭りでもあったようです。
現在では民間のお火焚は廃れてしまいましたが、唯一、鍛冶屋・鋳物師の「ふいご(鞴)祭」に名残があります。
ふいごとは燃料がよく燃えるよう空気を送り込む装置。毎年11月8日(新暦に当てはめて12月8日の場合も)には仕事を休んでふいごを清め、お供えをして安全を祈願します。その後、ゆかりのあるご祭神が祀られている稲荷神社や金山神社といった神社に参拝し、そこで火焚祭を行う場合もあるそうです。
火焚祭では何をする?名物の食べ物とは
実際に火を焚く前に、火焚祭の起源として有力視されている新嘗祭と同様に、新米やお酒、野菜など秋の実りを神に捧げて収穫に感謝し、祝詞の奏上、お祓いなどの神事が行われるのが一般的です。
また、巫女による舞、巫女神楽を奉納する神社もあります。
そして時には湯立神事が行われる場合も。湯立神事とは、神前に大きな釜を据えて湯を沸かし、巫女が笹や幣串(へいぐし)を浸した後に自身や参拝者に振りかける儀式です。
元々は神様の託宣をあおぐ占い的な意味がありましたが、現在は湯の力で身を清め、厄を祓って無病息災を祈願するものとして行われています。
火床は、参拝者の願いを書き入れた護摩木(火焚串)を円柱やふいごの形に組み上げたり、杉の木を井桁に組んで上にヒノキの葉を乗せたりして作ります。清浄な火で着火した後、木で組んだ火床には護摩木を投げ入れて焚き上げます。
ごうごうと燃え盛る炎と立ち昇る煙が下火になったところで、よく投げ入れられるのが「みかん」です。この火で焚かれたみかんを食べると「中風にならない」「1年間風邪をひかない」といわれ、参拝客に振る舞われます。
また、新米で作ったおかゆが振る舞われたり、京都ではお供えされていた「御火焚饅頭(おひたきまんじゅう)」や「おこし」というお菓子のお下がりがいただける場合も。
御火焚饅頭は、火焚祭の頃に京都の和菓子店に並ぶ紅白の小さなふかし饅頭です。紅には粒あん、白にはこしあんが入っていて、表面には炎が3つ連なった火炎宝珠の焼印が押されています。
おこしは、火を表す三角形をしていて、ほんのりと柚子の風味がする新米で作った米菓子です。京都の人々は収穫に感謝し、厄除けの思いを込めていただくそうです。
京都の火焚祭・現地レポート3選!
オマツリジャパンでは、これまでに京都の火焚祭を訪れ現地からレポートしてきました。その中から、3か所を厳選してご紹介するとともに、今年2022年の火焚祭の開催有無もお伝えします。
◎車折神社の火焚祭
右京区にある車折(くるまざき)神社の火焚祭は、毎年11月23日に開催。竈(かまど)の守護神である奥津彦(おきつひこ)・奥津姫(おきつひめ)の両神を迎え、「かまど祓」の神事が行われるのが特徴です。
例年は、楽人による雅楽と巫女の舞いが奉納され、数千本の火焚串を高さ4メートルのかまど型に組んだ火床が、四方の焚き口から点火され焚き上げられます。燃え盛る炎に五穀豊穣を感謝し、厄除けと心願成就を祈願するお祭りです。
2020年に行われた時の現地レポートはこちら!
2022年も、11月23日(水・祝)の13:00から行われる予定です。
詳しくは京都観光オフィシャルサイトの「2022年京都市内のお火焚き祭一覧」や車折神社公式サイトの火焚祭の案内ページなどでご確認ください。
◎城南宮の火焚祭
伏見区にある城南宮の火焚祭は、毎年11月20日に行われます。例年、奉納された1万本にも及ぶ火焚串を拝殿前で焚き上げ、参列者全員で「大祓の詞」を唱えて無病息災、家内安全を祈願します。
さらに、もう一つの見どころが巫女神楽の奉納。世の平安を祈念する優雅な「浦安の舞」を、境内を染める紅葉の風景とともに観賞できます。
2020年の現地レポートもぜひご覧ください。
2022年も、11月20日(日)の15:00から行われる予定です。
詳しくは京都観光オフィシャルサイトの「2022年京都市内のお火焚き祭一覧」や、城南宮公式サイトの10月~12月の祭礼案内ページなどでご確認ください。
◎新熊野神社の火焚祭
例年11月23日に行われている、東山区の新熊野(いまくまの)神社の火焚祭。新熊野神社は、自然神を信仰する神道と密教が一体化した「熊野信仰」が盛んだった平安後期、後白河上皇が平清盛に命じて造営させたといわれています。
そのため、社殿の屋根には熊野大神の使いである八咫烏(やたがらす)が。火焚祭でも火床に護摩木を投入されると、お経を唱えながらお焚き上げが行われます。
2020年の現地レポートはこちらです!
2022年も、11月23日(水・祝)11:00から行われる予定です。
詳しくは京都観光オフィシャルサイトの「2022年京都市内のお火焚き祭一覧」や、新熊野神社公式サイトの年間の行事の案内ページなどでご確認ください。
まだまだある!京都の有名な火焚祭
◎伏見稲荷大社の火焚祭
伏見区の伏見稲荷大社の火焚祭は、例年11月8日に行われます。伏見稲荷大社は鮮やかな朱色の鳥居がどこまでも続く千本鳥居で知られていますが、全国3万社の稲荷社の総本社としても有名です。
稲荷社では、2月の最初の午(うま)の日に「初午祭」を開いて稲荷大神を迎え、その年の豊作と五穀豊穣を祈願します。そして、11月の火焚祭で一年間の収穫に感謝し、神田で取れた稲わらを燃やして大神を山に送るのです。
その際、全国から寄せられた約10万本の願い事が書かれた火焚串を3基の火床で焚き、神楽女の神楽舞も行われます。伏見稲荷大社の火焚祭は全国一のスケールで、立ち上る炎の迫力も圧倒的です。
伏見稲荷大社の初午大祭は現地レポートがありますので、ぜひ併せてチェックを!
◎貴船神社の御火焚祭
左京区鞍馬にあり、両側に灯籠が連なる美しい石段が名所の貴船神社では、例年11月7日に火焚祭が行われています。
古代から伝わる「ロクロヒキリ」と呼ばれる道具で神聖な火をおこす「火鑚神事(ひきりしんじ)」が行われた後、約1万本の火焚串を円柱に組み上げた火床に火が点けられます。
水や火の恵みに感謝し、火の霊力で人々の罪穢れを取り除くお清めの神事であり、水の神様は火の神様から生まれたという、貴船神社の故事を今に伝える重要な神事です。
◎広隆寺の聖徳太子御火焚祭
右京区太秦にある広隆寺は、603年(推古天皇11年)に秦河勝が聖徳太子から賜った仏像を本尊として建立したという京都最古のお寺。火焚祭は聖徳太子の命日にあたる毎年11月22日に「聖徳太子御火焚祭」として行われています。
境内に斎竹(いみだけ)が立てられ、法要のあと、僧侶の列が山伏の先導で薬師堂前に設けられた護摩壇に向かいます。護摩壇に火が入り、聖徳太子を祖神と仰ぐ建築・建具・機織職などの信者や参拝者による数万の護摩木が焚かれ、荘厳な雰囲気の中、穢れや災いなどを祓い清めます。
今年2022年のお火焚は中止ですが、霊宝殿に安置されている秘仏・薬師如来像の公開は11月22日(火)に行われる予定です。
他にもある!京都以外の火焚祭
伏見稲荷大社と並び称される佐賀県の祐徳稲荷神社では、毎年12月8日(昔は旧暦11月8日)に秋季大祭として盛大に「お火たき」を開催、茨城県の笠間稲荷神社でも毎年冬至の日に「御火焚串炎上祭」が行われています。
大阪府の難波神社では、境内社の博労稲荷神社の神事として11月15日に火焚串を焚き上げ、餅まきを行っています。神奈川県の鶴岡八幡宮でも境内の丸山稲荷社において、毎年11月8日に火焚祭を斎行。火床の焚き上げはありませんが、五穀豊穣への感謝と無病息災を願い鎌倉神楽の奉納と湯立神事が行われます。
また、香川県では「おみかん焼き」の名で親しまれている火焚祭も。東かがわ市にある白鳥(しろとり)神社で例年12月8日に行われる火焚祭は、弘化年間から170年以上も続いている神事です。
古いお守りや神具類を焚き上げる神事が早朝から夜まで行われ、子どもたちが3~5個のみかんを長い串に刺して、火であぶります。そのみかんを食べると翌年は無病息災で過ごせるとされています。
まとめ
燃え盛る火が迫力ある火焚祭は、一年間の収穫に感謝したり、厄除け、心願成就などの願いを込めた年中行事であり、お祭りです。
京都のお近くの方はいくつかのお火焚きを訪れて違いを楽しんでみてはいかがでしょうか。また、他の地域でもお近くの稲荷神社などで11月~12月にかけて行われていないか、ぜひチェックしてみてください。