富山県射水市戸破(ひばり)にある戸破加茂社は、拝殿の復興から100周年を迎えた。コロナ禍であっても、この記念すべき年に盛大なお祭りを開催できないだろうか?地域の方々が知恵を出し合い、今回の開催にこぎつけた。獅子舞、浦安の舞、日本舞踊、創作舞踊、餅まきなど様々な出し物が行われた。
僕自身は、この地域が獅子舞が盛んな土地だと以前から聞いていたため、なぜ盛んなのかという背景やその裏側にある工夫のようなものを知ることができたらという思いで取材に伺った。2021年11月3日に実施された戸破加茂社の100周年慶賀祭・秋季例祭の様子とともに振り返る。
目次
慶賀祭・秋季例祭とは?
この戸破という地域は元々、京都の上賀茂と下賀茂の両神社の荘園があった場所。周辺には数々の「加茂社」が存在する中、戸破という名が付くのはこの神社のみである。この神社は今から100年前、大正3年に火災にあって拝殿を失い、その6年後、大正9年に立派な拝殿が再建された。今回はその100周年ということで、毎年行われる秋季例祭を少し規模を大きくして執り行った形である。秋季例祭は例年、11月1日が前夜祭で2日が本番となっているが、今回は文化の日に合わせて2日が前夜祭、3日が本番という形で開催された。
高穂町・獅子舞、魂を入れてから奉納の舞い
祭りの当日は午前9時から境内にて、戸破地区内の高穂町の獅子舞が披露された。本来であれば、春祭りの4月第2日曜日に行う獅子舞が慶賀祭ということで特別に実施されたようだ。
まず、獅子頭を拝殿の賽銭箱の上(例年であれば拝殿の中で今年は例外)に置き、祈りを捧げるとともに、その獅子に魂を入れるところから始まった。その後、獅子舞の演舞が行われ、獅子とシャガ(髪)がついた天狗の掛け合いは素晴らしく、躍動感のある演技に感動した。高穂町の獅子舞には12種類の演目があり、その中でも結婚などのお祝い事でしか舞わないような演目まで披露された。戸破加茂社前での奉納の獅子舞の後は高穂町公民館前でも獅子舞が披露され、お昼前には全行程が終了した。
高穂町の獅子舞の特色① 獅子を殺さない
この高穂町の獅子舞を拝見し、まず驚いたのはシャガを被った天狗が登場するということ。これを見たのは初めてだったが、射水市の多くの地域では当たり前のように見られる特徴のようだ。
天狗はあくまでも神社の神様の使いのような位置付けで、獅子と対峙してこれ以上悪疫を立ち入らせまいとする役割を担う。石川県の加賀獅子に見られる「獅子殺し」のように、獅子を退治するところまではいかない。天狗が獅子をここから先には通さないという意味で、刀を地面に突き立てるような場面もある。
高穂町の獅子舞の特色② 演目の数が多い
また、この地域の獅子舞は演目の数が多いということも興味深かった。12種類の演目があり、フタツ、ムッツ、カヅキ…という風に演目にはそれぞれ名前がつけられている。町内を回るとき、各家から頂くご祝儀の額によって舞い方を変えたり、神社での奉納の時だけ舞うものがあったりと場面ごとに披露される演目が定められている。
射水市内ではあまり珍しくはないかもしれないが、他の地域で獅子舞の取材をしていると演目は1~2つのみという場合も多いので、12種類の演目があるというのは特筆すべきだ。
高穂町の獅子舞の特徴③ 担い手の数が多い
この地域の獅子舞は「獅子方」という組織が運営する。青年団や壮年団などとは違い、年齢性別にかかわりなく運営に参加できることが特徴だ。この獅子方に所属しているのは約30人ほどで、10代から50代まで年齢は様々。男性だけでなく女性も横笛を吹く等の役割で関わっている。
天狗、獅子、太鼓、笛などの役割があり、獅子の蚊帳の中も5人必要なので担い手もそれだけ必要になる。年齢や性別に関わらず、獅子舞に関わる担い手が多いという印象だ。獅子舞といえば、若い男性が担うという地域も多く、その意味では、高穂町の獅子舞は門戸が広く開かれているとも言えるだろう。
他にも出し物が盛りだくさん
今回、お祭りの当日は、毎年行われる浦安の舞に加えて、日本舞踊、創作舞踊なども実施された。また、餅まきなども行われ、いつも以上に出し物が多い秋季例祭となったようだ。
新型コロナウイルスの影響で、衣装の発注や告知など3ヶ月かかる子供達の大規模な稚児行列の実現は難しかったようだが、それでも様々な出し物が実現できたのは、お祭りに対する思いが強い地域の方々の話し合いの結果だろう。獅子舞以外の出し物の様子も少し、写真でご覧いただきたい。
富山県射水市はお祭りが盛んな土地
今回はコロナ禍であっても十分話し合った上で、大きな祭りを実現するという祭り好きの方々の熱い思いを感じることができた。やはり、射水は祭りが盛んな土地だった。その祭りがあるからこそ、地域全体に活気が生まれるのだ。立派な拝殿とそこに至るまでの参道の立派な石造物の数々や、出し物を見守る数多くの地域の方々の眼差しも印象的だった。
また、獅子舞に関しても、数多くの演目を年齢・性別の垣根を超えて担い手が継承しているということを知ることができた。そこには、天狗など地域ならではの獅子舞の形があり、それをきちんと伝えていこうという思いも感じた。富山県は日本全国から見て獅子舞の実施数が非常に多く、段ボールの獅子頭作りが盛んだったり、獅子舞デザインの電車が走っていたりする地域もあるほどで、暮らしの中に当たり前のように獅子舞が根付いている。富山県射水市含め富山県のお祭りや獅子舞文化の一端に触れられた貴重な機会だった。