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勅祭「石清水祭」深夜に出発する御鳳輦と500人の神人列

2023/9/30
2024/3/5
勅祭「石清水祭」深夜に出発する御鳳輦と500人の神人列

天皇の使者「勅使」が派遣されて行われる勅祭「石清水祭」

石清水八幡宮(いわしみずはちまんぐう)は地元の人たちから「やわたのはちまんさん」とも呼ばれています。その、はちまんさんのある京都府八幡市は、木津川、宇治川、桂川の3つの川が合流して大阪の淀川になる、京都と大阪の交通の要地です。

本殿の夜の姿

その石清水八幡宮で行われる「石清水祭」は旧儀による三大勅祭(ちょくさい:ほかは葵祭と春日祭)のひとつ。「勅祭」が斎行される神社は全国8万社ある神社の中でも16社のみです。石清水祭では神人(じにん:社家に仕えて神事をする神職など)500人による神幸行列、奉幣祭、放生行事が行われます。

近年はコロナ禍により令和元年からの3年間は山上にある本殿のみのお祭りでした。今回は4年ぶりに本来の形で行われる石清水祭を、京都在住カメラマンの佐々木美佳がレポートいたします。

夜中3時に出発する神幸行列。雨や台風でも天候にかかわらず必ず行われる。2018年撮影

山の上から山麓へ。500名の神人による神幸列

石清水祭の最初に行われるのは「神幸の儀」。この行事が行われるのはなんと真夜中の2時からです。この神幸の儀は神職による本殿での儀式で、御鳳輦(ごほうれん:鳳凰の飾りがついた御神輿)に御霊入れが行われます。
※神幸の儀は拝観できません

御鳳輦が出発する南総門は令和6年3月まで修理中。

3時になると御鳳輦発御(ごほうれんはつぎょ)といって、山の上の本殿から山麓の頓宮(とんぐう)へとお神輿が出発します。今回は行列が出発する南総門が工事中でちょっと残念でした。

この石灯籠と参道を通って神幸列は山を降りていく

真っ暗闇の中で石灯籠と提灯がやさしく光ります。懐中電灯で足元を照らすのはOKですが、フラッシュ撮影は禁止です。とても暗いため写真を撮るのは至難の業。ピントがなかなかあいません。

赤、紫、水色の冠をかぶった人が来たら低頭するように説明を受けましたが、暗くてまったく分かりませんでした。

神職や獅子舞、楽人と総勢500名の神人というお供の行列「神幸列」がゆっくりと参進していきます。その静かに進む様子は絵巻物のよう。「動く古典」というのも納得です。だからこそ人々は惹かれて、今もなお、お祭りが残っているのかなと感じます。

どなたか携帯の灯りで奇跡的に明るく撮れた一枚

行列の最後をしめくくるのは神輿の原型である3基の御鳳輦。八幡大神様を乗せてやってきます。神幸列が通り過ぎたあと、参拝者はケーブルカーに乗って下山し頓宮へ移動します。

絹屋殿に並んだ3基の御鳳輦

「私祭」から「官祭」へ。絹屋殿著御の儀と里神楽奉奏

山の上から徒歩で降りてきた神幸列が絹屋殿に到着すると、里神楽奉奏が行われます。

筆者は舞の撮影が大好き。以前、この真夜中(早朝ともいうのかも)、暗闇の中で行われる里神楽が見たい!とこの石清水祭にきた事があります。しかし雨が降り、絹屋殿著御の儀(きぬやでんちゃくぎょのぎ)は残念ながら省略されました。

そんな経験もあり、今回、やっと念願の里神楽を見る事ができ感涙。焚き火の灯りに照らされての素朴な舞です。あー、撮影出来て良かった!しかしやはり暗いため、撮影はとても難しかったです。

神職拝礼

里神楽のあとは神職拝礼と太平楽奉奏が行われ、勅使が御神霊をお迎えします。

この石清水祭は珍しいお祭りの形態をとっており、ここまでは「私祭」です。このあとからは「官祭」になり、夕方の奉送までは公の祭儀に変わります。

御鳳輦を絹屋殿から頓宮へ移動するところ

御祭文の奏上や神馬が斎場を巡る山麓での「頓宮神幸の儀」

舞台と頓宮殿

4:15からは頓宮神幸の儀がはじまります。
渡り鳥が飛ぶように整列した「雁列(がんれつ)」が斎庭に参進します。

雁列

そして頓宮に3基の御鳳輦が出入りしていきます。

「ごほうれん、ごほうれん」と掛け声をかけながら、御鳳輦を移動させていくのが印象的な儀式です。

5:30からは奉幣の儀(ほうべいのぎ)。

御幣物(ごへいもつ:天皇陛下の御奉納品)を納めた唐櫃(からひつ)が、2名の白丁(はくちょう)によって運ばれてきます。後には内蔵寮史生(くらりょうのししょう)が続きます。

搴簾(けんれん)では神職が御神前の御簾(みす)を巻き上げる御開扉の所作を行います。

供花神饌(きょうかしんせん)。他の神社ではあまりみられない特殊な神饌。

御簾をあげたあとは献饌(けんせん)。神饌を御神前にお供えします。
石清水八幡宮では大きく分けて3種類の特殊神饌があります。1つ目は「熟饌(じゅくせん)」という御飯(おんいい)・焼鳥・兎餅(ぶと)などの火を通したもの。2つ目は生饌(せいせん)という火を通さないもので、サケ・ブドウ・ナスなどの神饌。3つ目は供花(きょうか)です。供花は四季を表した和紙造りの伝統工芸品で、毎年新調されます。

供花神饌がずらりと12台並んだところは9時ごろから見る事ができる

熟饌や生饌にはそれぞれ切り方や盛り方にもルールがあります。そして珍しいのは鶏冠菜(とさかのり)・三島海苔(みしまのり)・海松(みる)・山葵(わさび)・河骨(こうぼね)・榧実(かやのみ)・金海鼠(きんこ)など、普段はみない神饌がたくさんあることです。

他では見たことがない珍しい神饌が多数ある

遠目ではぱっと見わかりませんが、写真を撮って拡大してみると確かに他ではあまり見る事のないものがたくさんあり、神饌の数自体がとても多いことにも驚きました。

宮司祝詞奏上

続いて宮司による祝詞奏上。優しい声が寝不足の体に染み入ります。

次の奉幣では天皇陛下からの贈り物の御幣物が御神前に献上されます。いったい何が入っているのかと興味がわきます。

上卿(勅使)による御祭文の奏上は黄色の紙が特徴

続いて上卿御祭文奏上(しょうけいごさいもんそうじょう)。
上卿(しょうけい:天皇の使いである勅使の役職名)とは、公卿(くぎょう)という公家の中でも朝廷での最高級官僚です。その上卿が、御祭文奏上の前後に起拝(きはい)という平安朝の殿上作法を行います。

そして特徴的な黄色の鳥子紙(とりのこがみ)を取り出し、天皇陛下の御祭文をとても小さな声で奏上します。内容は国家の繁栄・国民の安泰・世界平和祈願。御祭文は宮司により、御神前に納められます。

画面中央の黒い装束が勅使。参列席や報道席からでもなかなか見えない。

この御祭文奏上の様子はお祭りが好きな方だと葵祭での勅使の姿を思い浮かべる方もいるようです。葵祭では紅色の御祭文を勅使が奏上しています。他の神社の御祭文は古来、伊勢神宮は薄青の縹(はなだ)、春日大社は黄色と決まっています。

奉幣の儀 返祝詞をする宮司

御祭文をお納めした後、上卿と宮司が行う返祝詞(かえしのりと)は合拍手で行われます。宮司は階段に寄りかかるような感じにも見えますが、正式な作法です。

次は御馬牽廻(おんうまけんかい)。舞殿の周りを2頭の神馬が3周します。
昔、宮中の左右馬寮(めりょう)から各1頭ずつ毎年奉納された姿が再現されており、今回は淀競馬場の馬が神馬の役を務めました。

続く勅楽奉奏(ちょくがくほうそう)では、まず第112代霊元天皇が雅楽器を奉納された故事になぞらえ、鳳笙(ほうしょう)、篳篥(ひちりき)、龍笛(りゅうてき)の三管が楽人に授けられます。

その楽器を用いて「颯踏(さっとう)」、「賀殿急(かてんのきゅう)」、「蘭陵王(らんりょうおう)」、「長慶子(ちょうけいし)」の4曲を演奏します。

続いて神饌を下げる「撤饌(てっせん)」、御簾を下げる「垂簾(すいれん)」の神事の後、摂社高良社に朝御饌(あさみけ)奉献が行われます。

また、夕方の還幸の儀では夕御饌(ゆうみけ)が供えられます。

高良社で朝御饌奉献した神職たちの姿を見守る参拝者

無事、神事は終了し、頓宮内の参拝者はすぐ横に流れている放生川へと移動します。

生きとし生けるものの平安と幸福を祈願する放生行事

8時ごろから安居橋(あんごばし:通称・太鼓橋)で放生(ほうじょう)行事がはじまります。魚を放つ善行のご奉仕で、2023年はウナギや鮒の放生でした。

神社で放生行事をするのは、神仏習合だったころの名残を感じます。そのせいか大祓詞奉唱がお経のように聞こえました。

修祓(しゅばつ)という神職によるお祓いのあとは平安雅楽会による奉奏で「胡蝶の舞」を奉納。子供達による可愛らしい舞です。

雨が降った場合は頓宮内にて胡蝶の舞が奉納されます。

雨儀の際の様子。2018年撮影。

この放生行事が終わると10時から舞楽奉納が行われます。
そのあとは同じ儀式が逆の順番をたどり、高良社の夕御饌奉献や還幸の儀(かんこうのぎ)が行われます。

真夜中の神幸列の参進から朝の放生行事まで、動画にもまとめましたのでぜひご覧ください。

夜中に出発する神幸列から石清水祭を見る方法はこれ!

参拝者が行けるのは南門の前まで。一般の参拝者が石清水祭を最初から見る事が出来るのは3時からです。提灯と石灯籠の灯りの中で神幸列の召し立てが始まるのを待ちます。

それまではどうするかというと事前に予約をして奉賛金をお納めすることで、研修センターで2:20まで休憩ができます。ここからは他の参加者と一緒に行動することになります。3時から神幸列を見て、ケーブルカーで山麓へ。4時過ぎに行われる頓宮内の行事では席に座って行事の参観が可能です。

研修センターで休憩。2023年は80名ほどが参加した。

9月は台風や雨に見舞われる事も多い時期。雨が降った場合は神幸行列以外は夜間に拝見できるものはありません。
雨儀の場合、神幸行列のあとは頓宮内でほとんどの行事が行われ、屋根のある場所で椅子に座って拝観できます。電車が動く朝まで駅周辺に開いているお店などもないので、大変ありがたく満足感の高い参観です。

写真中央が頓宮の一般席。写真右側の黒い装束を着ているのは勅使。

また研修センターは勅使の斎館として、おこもりする場所だというのもお祭り好きには良い経験になるのではないかと感じます。

帰りには直会(なおらい:神様にお供えした御供物をいただくこと)があり、仕出しのお弁当、御神酒、記念品がついています。お弁当は美味しくてボリューム満点でした。

深夜からの撮影が終わり、ほっとひといき。
神職のみなさんは準備や後片付けもあり、どれだけお疲れのことかと思います。

あー、無事に終わった!と、筆者は門前名物「走井餅老舗」で休憩することに。
今回は地元八幡名産の梨を使ったかき氷を頂きました。梨の入ったかき氷ははじめて。9月中旬でも、ものすごい暑さだったため、梨とレモンのシロップはなんとも優しい味で一気に脱力。美味しい…。

この「走井餅老舗」の名物は2つあり、神の使いの鳩のモチーフが入った「鳩もなか」と刀の荒身を模している「走井餅」。石清水八幡宮の人気のおみやげです。
直会に加えて甘いお菓子もゲットし、大満足で帰宅しました。

以上、石清水祭のレポートでした。

舞楽奉納「蘭陵王」平安雅楽会

石清水祭スケジュール

毎年9月15日
2:00 神幸の儀
3:00 御鳳輦発御(ごほうれんはつぎょ)※雨天決行
3:40 絹屋殿著御の儀(きぬやでんちゃくぎょのぎ) ※雨儀の場合は省略
4:15 頓宮神幸の儀(とんぐうしんこうのぎ)
5:30 奉幣の儀(ほうべいのぎ)
上卿御祭文奏上
御馬牽廻(おんうまけんかい)
勅楽奉奏(ちょくがくほうそう)
高良社に朝御饌(あさみけ)奉献
8:00 放生(ほうじょう)行事
「胡蝶の舞」奉納 ※雨儀の場合は頓宮内で行ってから放生行事が始まります
10:00 舞楽奉納
13:00 演武奉納
16:30 高良社に夕御饌(ゆうみけ)奉献、修祓
17:30 還幸の儀(かんこうのぎ)
上卿以下著座
搴簾(けんれん)
献饌(けんせん)
宮司祝詞奏上
参列者代表拝礼
撤饌(てっせん)
上卿見参(げざん)
垂簾(すいれん)
神宝御剣(しんぽうぎょけん)授受
上卿以下列立(雁列)
18:30頃 御鳳輦発御(ごほうれんはつぎょ)
20:00頃 御鳳輦御本殿に著御(ちゃくぎょ)

※石清水八幡宮は男山の上にあり、京阪石清水八幡宮駅から歩くと30分ほど。9月15日だけは男山ケーブルが深夜も終日動いています(夜中の2時のみ運行無し)。

舞楽奉納「納曽利」平安雅楽会

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