神奈川県川崎市で毎年4月に行われるかなまら祭。
このお祭りは、参加者の8割が外国人。近年ではLGBTQの方の参加も増えており、1日で5~6万人を動員するという人気のお祭りだ。
奇抜なピンク色の“男根”お神輿が練り歩き、神社周辺は男根を模した飴や食べ物の屋台で埋め尽くされる…県内外はもとよりも海外からも参加者が多く集まる、かなまら祭の昔と今、そしてこれからとは?
神職を務める中村さんに、インタビューに応じていただき、前編では、どのような経緯で現在の様な「性のお祭り」としての盛り上がりを見せるようになったかについて語っていただいた。
後編では、‟祭りの観光活用”について、金山神社の取り組みを掘り下げて紹介する。
この地域の氏神様として、地域の発展への想い
2019年のかなまら祭の様子
かなまら祭はその奇異さから、面白おかしく取り上げられることが多い。しかし根本には「誰もが差別なく楽しめるお祭りを」という願いが込められている。
そんな想いのこもったかなまら祭を行う金山神社は、「この地域の氏神様である」という想いから、“この地域の氏神様として、常に地域のこと、地域に暮らす人にとってどうあるべきか?”を常に考え、模索している。
地域振興について中村さんは、‟お祭りで地域が潤うことが一番。お祭り単体で盛り上がるのではなく、地域全体を巻き込んで行くことを常に考えている。そしてその一部が寄付や協賛金という形で神社にも返ってくることが理想”と、想いを語ってくれた。
ここで、“祭りの観光活用は、一方で神事としての側面を無くしてしまう懸念もあるのではないか??”と質問をぶつけてみた。中村さんは“切り分けも必要”と語る。
“金山神社としては年間を通して様々な神事・お祭りを行っているので、観光活用するお祭りと、神事として守るお祭りとを切り分けて考えても良いと思う”とのことだ。
そんな中村さんの想いが、形になった取り組みをいくつかご紹介したい。
金山神社の取り組み①地元飲食店とのコラボ
今でこそ、かなまら祭にちなんだメニューを提供する地域の飲食店は多いが、最初から協力的だったわけではないという。具体的に、実現可能なレベルで分かりやすく伝えないと、なかなか地域の方に理解・協力を得るのは難しいとのことだ。こちらのクリームソーダも、「このシロップを使えば、商品化はそんなに難しくないはずです。」と、金山神社側から材料を持ち込んでメニューを提案したのだという。
そんな地道な努力と想いが実を結び、近年ではお祭りにちなんだメニューを提供するお店が増えてきている。これも地域を活性化する取り組みの一つとなっている。
氏神様として、地域の発展に対する想いは欠かせないものかもしれないが、金山神社の想いはことさら熱い。ここまで具体的な提案を地域に対して行っている神社が他にあるだろうか…?
”ここ2~3年で、かなまらさんのお陰で(潤う様になった)”という地域の飲食店経営者たちからの感謝の声が聞けるようになってきたという。”地域が潤うことで、いずれ神社にも返って来ればいい”と中村さんは語る。
金山神社の取り組み②地域を回遊するお祭りへの発展
金山神社と地域の飲食店が協力して取り組んだ結果、現在は1日で5~6万人を動員するまでにかなまら祭は発展した。結果、「人が集まり過ぎる」という別の悩みが生じている。特に参加者の8割は外国人観光客だと言うから驚きだ。
増えた来場者の受け皿として、別会場で飴の販売を行うなどの取り組みを実施している。
また、本年(2019年)は企業との連携を行い、かなまら祭と連動した別会場でのイベントを実施。別会場へのアクセスとしてシャトルバスを運行しての誘客も行った。
世界が注目の川崎の奇祭「かなまら祭」と連動して「日本の食と酒」をテーマにした飲み歩きイベント『KAWASAKI BAR-HOPPING』を今週日曜日に開催!川崎駅東口エリアの飲食店を巡っていただくほか、日本文化を楽しめるコンテンツもいっぱいです!https://t.co/7iEqflHH7D #かなまら #川崎 #kanamara pic.twitter.com/s6VJAsOfbe
— ラ チッタデッラ (@la_cittadella) April 1, 2019
“もっと工夫を懲らして、外国人観光客はもちろん、お祭りに来た人が地域を回遊し、お金を落として行って貰えるような形にしていきたい。”と中村さん。
外国人観光客の受け入れにはもちろん課題もある。多言語対応を個人商店が単体で対応するのは難しい。間違った英語を使ってしまったことで誤解を招いてしまうこともあるとのこと。当然ではあるが、神社単体ではそこまでの対応をカバーするのは難しい。これには、”行政からの支援を期待したい”と中村さん。圧倒的熱量を持って取り組んだとしても、やはり行政のサポートは欠かせないものだ。行政は主催者に甘えるのではなく、共に地域を盛り上げていくことを期待したい。
金山神社の取り組み③費用をかけない運営と広報
これほど意欲的に取り組んでいるお祭り。さぞ広報やPRに力を入れている…と思いきや、中村さんからは意外な答えが返ってきた。
“かなまら祭には最低限の広告費しか掛けていないのですが、SNSやYouTubeで参加した人自らが情報を発信、拡散してくれるんですよね。それを見て「楽しそう」と思った人が実際にお祭りに足を運んでくれている。”と中村さん。
因みに、祭りの運営費のほとんどは、警備費として使われているとのこと。広告費は最低限、掲示するポスターのみ。祭り単体で見ると、毎年100万円ほどの赤字になっているが、日々の授与品の頒布やお祭りへのご奉納などで補填しているとのことだ。
ところで、‟かなまら祭にいつ頃から外国語人が来るようになったのか?”中村さんに質問してみた。そもそも外国人に注目されるようになったのは、30~40年程前。当時、日本に滞在していた知識人が、新聞記事に取り上げたことがきっかけだと言う。そして、現在は参加者の約8割を外国人が締めるまでになった。昔も今も口コミによる広報だというから驚きだ。
終わりに
お祭りに込められた想い。主催者の圧倒的熱量がお祭りの発展につながり、近年では「集まり過ぎた人をどうするかが課題」という嬉しい悲鳴をあげるほどまでに発展を遂げた。
存続が危ぶまれるお祭りが多い中で、かなまら祭の事例を参考に今後も「祭りで日本を盛り上げる」べく、日々取り組んでいきたい。